琉璃の魚篭 −魚探索記 2005年


9月10日 見納めの夏空、房総丘陵の川
 夏が過ぎるのは早いもので、もうすっかり白露の季節になりました。しかし野草に露が宿るというのが実感に乏しいくらい残暑は厳しくて、まだあと一度くらいは水遊びが出来そうな雰囲気です。そこで今回は、この夏の間に訪れることが出来なかった房総丘陵の初めての川へ探索に行きました。
 ・・・実は今回の探索は、この川の上流にある古来の河川土木技術を見に行くのが最終目的でした。しかしいざ現地に着いて魚を観察しながら上流を目指すうち、群泳するその魚の多さについ心が奪われてしまい、気付いたら目的の場所まで行く時間が無くなってしまいました。結局、本来の目的を果たすことは出来なかったのですが、しかしのその間、この川に棲む魚たちを中心に河床の様子などを織り交ぜていろいろと撮ることができました。なお撮影は水陸問わず全てハウジングを装着した状態で行ったので、陸上の写真はハウジングに付いた水滴の影響で滲んでしまっています。

房総の山奥

 午前9:00頃、初めて訪れる川に到着しました。車1台しか通れないような細い道を登って辿り着いただけあって、この辺りは民家も無くひっそりとしています。川に落ちているゴミもほとんど見られず、川の流れから漂ってくる人の生活臭みたいなものもほとんど感じられないような清流です。






川の雰囲気

 滑りやすい河床に気をつけながら上流の方へ歩いて行きます。水深は全般に膝下程度のところが多いので浅いのですが、中には1m以上の深さの淵があります。所々で上の写真のような開けた場所があるものの、殆どの場所が右の写真のような鬱蒼と生い茂った河畔林に囲まれていてます。薄暗い川を歩いていると双翅目系の虫がブーンと大きな音を立てて耳元を通過するのが少々気味悪かったのですが、所々にある木漏れ日が河床を鮮やかに照らしていて癒されます。



ウグイ

 川を覗いて最初に目に飛び込んできたのはウグイの群れです。平瀬から淵までたくさん群れています。この川からそう遠くない別水系の同じような雰囲気の川にいるウグイは散発的に遭遇する程度なのですが、この川に棲むウグイの数はそことは比べ物になりません。最初に川に降り立った場所から向かった上流の方まで、ウグイの群れがずっと私にお付き合いしてくれました。写真のウグイは薄暗い岸際のところを泳いでいた群れです。水深約50cm。



シマドジョウ

 底を探すとシマドジョウがいくらでも出てきます。最初に撮った薄暗い岸際のウグイとは対象的に、このシマドジョウは川の中央辺りの日が差している平瀬で撮りました。シマドジョウの背鰭を良く見ると、光の影響で青色に輝いています。直射日光に当たる機会に恵まれない水族館や家庭の水槽ではなかなか御目にかかれない姿です。水深約20cm。





ホトケドジョウ

 直径10〜30cm前後の礫が積み重なっている平瀬の場所にホトケドジョウがいました。今まで用水路や流幅2m程度の細流などでは多く見ているのですが、川の本流ではあまり見たことがありません。ここでもさすがに散発的に見られる程度でしたが、まさかホトケドジョウの水中写真が撮れるとは思ってもいませんでした。水深約20cm。





ホトケドジョウを横から

 同じドジョウでもシマドジョウは動かないのでかなり撮りやすいのですが、ホトケドジョウは人の気配を感じるとあまりじっとせずにスルスルと逃げてしまうので撮るのに苦労します。根気良く待って、石の下に隠れたところを撮ってみました。水深約20cm。






ポットホール

 川底の至るところにポットホールがあります。川底の岩盤にある窪みが水流によって運ばれてきた礫によって渦状に侵食されて出来た円形の穴です。直径・深さ10cm程度のものから直径1m以上のものまであり様々です。ポットホールの底には礫や落ち葉が堆積していてシマドジョウやウグイの若魚が隠れていたり、深いポットホールにはサワガニも潜んでいました。写真のポットホールは流路に沿って4つが並んで形成されています。




階段状にむき出しになった河床

 地質のことは良く知りませんが、房総丘陵上流域の河床は非常にもろくて侵食を受けやすく、所々で平板状の岩盤が小さな段差で階段状にむき出しになっている箇所が多く見られます。このような河床は平滑岩盤河床と呼ぶそうです。






自然の造形

 まるで人が切り取ったような形をした段差です。この造形も平滑岩盤河床だからできる自然のシワザなのでしょう。これも川のあちこちで見られます。








ギバチ

 上の写真の段差の底にも礫や落ち葉が溜まっています。覗いてみると岸際の薄暗い場所にギバチの成魚が潜んでいました。近寄った際に少しびっくりさせてしまった後の様子なので、体に少し砂を被っています。この後すぐに逃げてしまい、結局撮れたのはこの1枚だけでした。水深約20cm。





川に迫り出す枯木

 枯木が川に迫り出しています。深い場所を避けて岸際の浅い場所を歩いている時に、こんな枯木があると結構邪魔だったりするのですが、木漏れ日がこの枯木と水面を照らしていて、薄暗い川の中にあってちょっと良い雰囲気です。実はこの枯木の枝、一部が水中に沈んでいて、その周りにたくさんの魚が群れています。





水中に沈んだ枯枝の周りに・・・

 群れている魚を確かめようと枯木の下をそっと覗いてみると、水中に沈んだ枯枝の周りに集まっているのはウグイの群れでした。どうやらウグイには絶好の棲み家になっているようで、物凄い数で群泳しています。木漏れ日がユラユラとウグイたちを照らしていています。






ウグイに接近

 少し離れた場所がらそっと水に潜ってジワジワと近づいて、この枯枝に集まるウグイを撮ってみました。一体、何尾いるのでしょう。いろいろとアングルを変えて撮ってみたのですが、これだけ集まっているとウグイって意外と逃げないんですね。今までこんなに撮りやすい魚とは思いませんでした。水深約50cm。





奥へ奥へ

 ここまでで4種の魚に出会えたのですが、ハゼ類にはまだ出会ってません。トウヨシノボリであれば割と簡単に見つかりそうな気もするのですが、ここからは敢えて他の1種のヨシノボリ類に的をしぼって、膝以上の深い平瀬に堆積している大きめの礫の下をひとつひとつ覗いて目的のヨシノボリを探しながら上流を目指してみました。今思うとこれが途方も無い作業でしたが・・・。




シマヨシノボリ

 苦労した甲斐あって何尾か出会うことができ、そのうちの1尾だけ撮影することができました。全長10cm近くの大型のシマヨシノボリです。水中で見たときは体色がもっと緑色をしていた印象があるですが、写真で見るとそれほどでもありません。それでも頬の辺りから背中にかけて、ほんのり緑色が乗っています。丘陵地以南の海から近い河川ではシマヨシノボリを良く散見するのですが、海から離れた房総丘陵の奥地では今まで数えるほどでしか出会ったことがなかったので、正直嬉しいです。水深約60cm。



見納めの夏空

 古来の河川土木技術を見に行くのが目的だったのが、いつのまにか魚ばかり追っていました。気付くと時刻は14:00近くになっています。本来の目的の場所はまだまだ上流の方にあるようで、帰宅する時間を考えるとこれ以上は川を登る訳にはゆきません。目的を果たすのは次回までお預けにすることにし、一息ついてふと空を見上げると、木々の間から見える青い空と白い雲。今年で見納めの最後の夏空のようでした。




参考文献
・池田宏(2001)「地形を見る目」古今書院.

※この川への探索にあたり、里山散策記のyoshiさんには多くのことを教えていただきました。ここに記して深く御礼申し上げます。