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舞姫はじめました

――恋も奇跡も氷の上――
ポラリス

*ここまでの粗筋*

スケートが趣味の真理(まさみち:♂)は、金髪に金の瞳という派手な美少女顔が原因で、何かと苦労満載な人生を歩んできた。
それで高校こそは平凡で地味な生活を送りたいと、同級生も知人もいない田舎の高校に地味な眼鏡少年として入学することに。
ところが、近所の<呪われたスケートリンク>で、超絶美少年顔の勇(ゆう:♀)と、さらには喋る白狐・風野(かざの)と出逢ったことにより、そのささやかな野望に陰りが生じる。
取り壊しが決まった<呪われたスケートリンク>こと<カザハヤアイスリンク>を守り、
リンクの従業員でかつて天才スケーターの名をほしいままにした風早輝を救う。
そのためには、かのスケートリンクで風早家の屋敷神・辰狐王への奉納舞を踊り、
神を招く必要があると風野に言われ、
真理は勇から奉納舞のパートナーになって欲しいと言われてしまったのだ……!








「勇とアイスダンスをやってもいい。でも、女装はしないからね! 絶対に、やらないからね!」
 これが精一杯の譲歩だ。
 せっかくの通年リンクをなくすのは、惜しかったし、痛かった。
 もし〈カザハヤアイスリンク〉が閉鎖となったら、片道一時間以上の都内か横浜のリンクまで行かなければならなくなる。
 となれば、時間的に毎日リンクに通うのは難しくなる。
 しかし、それよりも何よりも。
 仏頂面のくせして、しゅんとしているのが見て取れるような器用な表情をした勇に、根負けしたと言うか、なんと言うかなんと言うかなんと言うか!
 ――あんな顔をされたら、断れないよね、じーちゃん?
 だが、それにしたってアイスダンスである。
 本来的な意味は置いて、真理は現在世間で言われている〈フィギュアスケート〉の経験が、見事なくらいゼロだ。
 ――しかも女役だし。
 その上、男役のほうはなぜか女の子で、これまたフィギュアスケート経験皆無の勇。
 半年以内に神様が思わず降臨するような最上の奉納舞を、こんな二人で踊らないといけない。
 ――な、なんて、無理ゲー……。
「……勇達が」
 風野は神社に帰ったので、帰り道は勇と二人だけだ。
 商店街のほとんどが閉まった通りを無言で歩いていると、勇が唐突に言った。
「勇達が、アイスダンスの練習を始めたら、アキラももう一回、踊ろうと思ってくれるかな?」
 独り言のような、祈りのような、それは、綺麗で切ない願いだ。
 ――そっか。僕達が頑張ることで、輝さんを引っ張り出せるかもしれないんだ。
 真理達では最上の奉納舞を舞うことができなかったとしても、風早輝を氷上に引っ張り出すことができれば、あるいは。
 ――そもそも、そっちが、勇の願いだよね……。
「……勇は、その、……風早輝さんの大ファン、なんだ?」
「うん! 大ファン!」
 ほとんど表情が変わらないのが常の勇の口元が、柔らかく綻んだ。
「!」
 仏頂面でも見惚れるほど整った顔だが、その顔が笑ったとなると、ちょっと心臓が止まりそうなほどの衝撃がある。
「……へ……へぇ、そ、そーなんだ……」
 全力疾走したわけでもないのに、真理の心拍数は急上昇している。
「それに、輝は、勇の……勇や勇司、真理子の命の恩人、だし」
「い、命の、恩人? 輝さんとは、今日、初めて逢ったんじゃなかったの?」
「うん。初めて。でも、さっき史郎が見せてくれた、アメリカでの 五輪オリンピック 。あの時、勇と勇司達、一番前の観覧席に、居た」
「あの演技を、生で観たっっ!? 本当にっっ!?  しかも、一番前の席!? ……あっ」
「勇もあれ、勇が生で観てなくて、真理が観てたと言ったら、同じこと、叫んだと思う」
 自分の過剰な反応が照れくさくて慌てていると、いつもの仏頂面が嘘みたいな満面の笑みが返ってきて、真理の心臓は止まりそうになる。
 ――び、びびび、吃驚するほど可愛いんですけど?
 完璧にパーツ配置を計算されて描かれたゲームキャラのように冷たく整った勇の顔は、しかし、笑み崩れたところは小さな子供みたいに可愛い。
 羨ましいくらい背が高くてクールでカッコイイ系の外見なのにスケートは真理に負けないくらい熱く好きみたいだし、侍キャラみたいな名前のくせに幽霊や妖怪は苦手だったりするし。
 ――それでいて、笑うとこんなに可愛かったりとか、反則だよね、じーちゃん!?
「ええっと、あ、あの、それで、どうして、輝さんが、勇達の命を救ったことになるの?」
 とりあえず跳ねる心臓を押さえながら、疑問点を尋ねてみると、途端、勇は黙り込んだ。
「勇……?」
「……十年前、勇司と真理子、生きるのが嫌になったんだって。二人に、とても……、うー……? ハード? なこと、遭って」
 勇は言葉を選びに選んだ挙げ句、英語のほうを使った。
 多分その〈ハード〉とやらの詳細は、赤の他人の真理は尋ねないほうがいいものだろう。
 聞いて楽しい話ではないことは、賭けてもいいほど確実だ。
「だから、勇司達は、勇と三人で、死ぬこと、決めた。それで、最後の思い出に、 五輪オリンピック、観に行った」
 つまり十年前の武士沢家は、ハードな出来事を受けて、一家心中寸前だったらしい。
「……けど、輝さんの演技で、それ、中止になったの?」
「うん。あんなに凄い演技、やって。 審判ジャッジに認めて貰えなくて。メダル、貰えなくて」


 そんな風に酷い目に遭ったのに、輝は笑っていたから。


「前を向いて。次は、もっと優雅に、もっとアイスダンスらしい演技を、お見せしますって、輝が笑っていたから、勇司も真理子も、恥ずかしくなったって。たった十五歳の輝が、頑張ってるのにって」
「……へぇ……」
「それから、輝達が頑張っているの、ニュースやネットで見る度、勇も勇司達も、勇気、出てきた。どんな時も頑張ろうって思えた。勇も勇司達も、ちゃんと頑張ったし。だから輝は…… 競技会コンペに出なくなった今でも、輝が戦ってきた軌跡は、勇達に勇気をくれるポラリスだった」
「ぽらりす?」
 首を傾げた真理に、勇は無言で空を指さした。
 北の空で一際明るく輝く 北極星ポラリスを。
「だから、もし、輝が困っているなら、今度は、勇が助ける番だと思った」
 そう言い切る勇のほうが、今の真理には輝く星のように見える。
「……〈カザハヤアイスリンク〉には、ゴーストやモンスターがたくさん居るのに?」
 途端、真理は少し意地の悪い気分になって、気がついたらそんなことを言っていた。
「え……!」
「あ、い、いや、あの、えっと、僕は……」
 慌てて真理はフォローの言葉を探したが、相手が口を開くほうが先だった。
「……真理は、ゴーストもモンスターも、平気?」
「あ、えっと……まあ、平気だけど」
「じゃあ、勇も大丈夫。真理が一緒だから」
 そうぎゅっと手を握られて。
 その瞬間、真理は〈平凡で地味な高校生活〉という野望と言うか悲願が、成就しそうにない状況にあることを、とうとう認めざるをえなくなった。
 武士沢勇なんて見かけも中身も変わった凄い女の子に恋をして――しかも、盛大な片思いだ! ――、平凡で地味な高校生活など、過ごせるわけがない。





ウィングス文庫「舞姫はじめました〜恋も奇跡も氷の上〜」p89〜p94より

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