吸血マントの誘惑

「うっわー…」
学園祭を間近に控えた、我らが演劇部部室。
部室としてはちょっと広すぎる空き教室は、けれど今日ばかりは、
ドレスやらタキシードやらの豪華な衣装で埋め尽されて、手狭になっていた。
「これ、全部鳳凰院さんの私物?」
部長である木下美里先輩が、呆然としたように訊いた。
「いえ、処分を考えていた衣装がお家にあれば持ってきなさい、と伝えたのですけど、
 ご迷惑でした?」
驚く様子もなくおっとりと答えたのは、この状況を作り出した張本人、1年生部員の鳳凰院絵里花さん。
細面の美人で、お家が大会社の社長一族。加えて父親はこの学園の理事長でもある。
どうしてこんな万年金欠部に入ったのかわからない、超お嬢様だ。
今度の学園祭での舞台に衣装が足りないという話題が出て、彼女が携帯をかけて一言二言。
それからわずか1時間でこの有様だ。
きっと彼女の携帯には、ランプの魔神を呼び出す仕掛けでもあるに違いない。
「と、とりあえずこれだけあれば、必要な衣装はそろうんじゃないかな?」
私、東雲有紀が声をかける。
なぜなら、校庭に入ってこようとするトラックの列が目に入ったからだ。
どうやら鳳凰院さんの『処分を考えていた衣装』は学校を埋め尽くすほどあるらしい。
「そうですか…では、幹島に引き上げさせましょう」
ちょっと残念な顔を見せて、再び携帯をかける鳳凰院さん。
相手は幹島さんという、彼女付きのランプの魔神、もとい執事さんだ。
実は私は彼女と知り合うまで、執事などという職業がこの現代に実在していることを知らなかった。
しかも、幹島さんはおそろしく優秀な、マンガでしか見られないような、執事の中の執事みたいな生き物で…
っとと、そんなことを考えてる場合じゃない!!
鳳凰院さんが携帯の向こう側の相手と話しているその隙に、私は美里先輩に耳打ちした。
「これ、どうしましょう? こんどの舞台だって、出るのは私たちたった3人ですよ!?」
そう、私たちはたった3人の寂しい部活なのである。
このままいけば廃部確実、理事長の娘である鳳凰院さんが望んで演劇部にいるおかげで生き残っている、
といっても過言ではない。
だからというわけでもないが、私も先輩も、鳳凰院さんには甘いというか、言いなりというか、そんなところがある。
けれど、時々、ほんの時々、その浮世離れのひどさに、どうしたもんかと思わないでもない。
たとえば今のように…
「とにかく、使えそうな衣装もありそうだから、どうにでもなるわよ、きっと…」
先輩がささやき返す。
ああそうですよね、脳天気な先輩のことだからそう言うと思ってました。
「でも、鳳凰院さんのことだから、一着でもものすっごく高いんじゃないかと思うんですが」
「仕方ないじゃない。処分するつもりだったんだから、汚したからって弁償しろとは言われないでしょ」
こんな会話をしている小市民二人をよそに、鳳凰院さんは話をつけてしまったらしい。
携帯を優雅に畳むと、にこりとこちらに笑いかける。
「とりあえず、こちらにある分で十分だと伝えましたわ」
「そ、そう…よかった」
先輩がぎこちない笑みを返す。
「じゃあ、今度の舞台に使えそうな衣装を選びましょうか」
文字通り山のような衣装を目の前に、私は心を奮い立たせるつもりで言った。
さあ、がんばるぞ!!


と、張り切ったのはいいのだが。
「あら、それはフランスの職人のオートクチュールで、ここにダイヤモンドをちりばめて…」
「これはニューヨークのデザイナーに作らせた一品もので、レース飾りは職人が1年がかりで…」
「このドレスはイングランドの王室関係の方から贈られたのですけど、どうにも着る機会が…」
…鳳凰院さんの『処分する予定』の衣装は、すばらしく高価、もしくは格調高い代物だった。
小市民の私と先輩が、思わず尻込みしてしまうくらいに。
そんな中で、なんとか学園祭で私たちが着ても大丈夫、くらいのものを見つけていくのは、目に毒というか、
とにかく庶民の精神には酷な作業だった。
そんな作業をどれくらい続けただろう。
いつものおっとりした調子で衣装を取り出した鳳凰院さんが、あら、と声を上げた。
「これは…見たことがありませんわね」
彼女が取り出したのは、なんというか、映画で吸血鬼が着ているようなマント。
舞台っぽいといえなくもないそれは、表が黒、裏地が真っ赤なシルク製で、普通に着るようなものには見えない。
「わあ、何か映画に出てきそう…」
あんまりなドラキュラ加減に、思わず私は声をあげた。
「よろしかったら、有紀先輩、試してみては?」
「え? うーんと…」
それが似合うのも何かイヤだ。
助けを求めて美里先輩の方を見ると、先輩は先輩で、アラビアの踊り子のような衣装と格闘していた。
あれはアラブの大富豪からの贈り物、だったっけか。
仕方がない。たかがマントだ。
「じゃあ、ちょっとだけ」
心を決めて、マントを受け取る。
羽織ってみると、丈もちょうど私にぴったりとして、何よりシルクのスベスベした感じがとても肌になじむ。
「あら、すごくお似合いですわよ」
「そ、そう?」
鳳凰院さんに言われても、予想していたほど悪い気はしない。
調子に乗って、マントを吸血鬼風に翻してみたり、裾をつまんで広げたりしてみせる。
「まあ、有紀先輩、お上手です」
鳳凰院さんもなんだかよくわからないけど誉めてくれてる。
と、そんな私の頭に、コツン、とぶつかる感触がした。
「こら、何を遊んでるの」
振り返ると、そこには腰に手を当てて片眉を吊り上げた先輩の姿。
「衣装選び、だいたい終わらせたわよ。あなたたちが遊んでるうちに」
あ、先輩、怒ってる。
「すみません、つい…」
頭を下げて謝る。こういうときは素直に謝るが吉、だ。
先輩本気で怒ると怖いし。
「まあ、いいわ。必要な衣装は見つかったし、体育館が使えるのは明日だし、今日はもう帰ろうか?」
先輩がやれやれ、というように言った。
言外に、この衣装の山を片付けるのは明日にしましょう、という意味が透けて見える。
「そう、ですね…」
私もそれには同意だった。いつの間にか日は暮れてしまったし、今からこれを片付けるのは大変だ。
「じゃあ、その辺だけ片付けて、部室閉めるよ」
先輩の言葉に、私たちは後始末を始めるのだった。
それから、遅くなった私たちを送るという鳳凰院さんの申し出をなんとか断り(住宅街をリムジンに乗って帰ると、
色々と噂になったりしてあんまりおもしろくない、ということを、私たちはずいぶん昔に学んでいた)
家に帰り着いたのは完全に夜になってからのことだった。




そして、晩ご飯も、お風呂も済ませた後のこと。
宿題なんかはなかったけれど、明日の準備のつもりでバッグを開けたとき、私はそれを発見した。
「あれ、これ…」
バッグの中に入っていたのは、例の吸血鬼マントだった。
自分で入れた覚えはないんだけれど…
「片付けのときに入れちゃったかな? まあいいや、明日持って行って返しておこうっと」
それにしても…
私はそのマントを広げて、しげしげと眺める。
「完全にドラキュラマントって感じだよね、コレ…」
鳳凰院さんの家では、ハロウィンパーティーでもやるのだろうか?
そんな間抜けな考えが浮かんだけれど、あながち間違いでもないような気もする。
マントは相当に上等なものらしく、部室で試着したときにも感じたことだけど、シルクの肌触りがとても心地いい。
「はぁ…」
思わず、うっとりとした声が出てしまう。
特に裏地の真っ赤な部分、ずうっと触れていたい…ううん、これに、体中を包まれたい…
スルスルッ
私は自然に、パジャマの上から、マントを羽織っていた。
首筋や手を滑らかに包む感触が気持ちいい。
それと同時に、なんだかイケナイことをしているような気持ちになる。
ぎゅうっとマントごと、自分の体を抱きしめるようにして、ベッドに倒れ込む。
やだ、私、エッチな気分になってる…
鳳凰院さんに返すときのことを考えると、汚したりはできない。
そう思いながらも、もう一方では、ある欲望が頭をもたげてくる。
−−裸になって、このマントの感触を全身で味わいたい。
「…ちょっとだけ、だから…」
誰に言い訳するでもなくつぶやき、するり、とマントを体から外す。
とたんに、体に物足りなさが広がる。
このままだと、このマントのフェチになっちゃうかも…
そんなことを頭の片隅で考えながら、でも心の大部分はもう、
全身をマントに包まれることへの期待感でいっぱいになってる。
いそいそとパジャマを脱ぎ捨て、ちょっと躊躇したものの、下着も脱いでしまう。
そうしながらも、焦りが募ってしまう。
早く、早くマントに…
生まれたままの姿になった私は、ベッドに飛び込むようにして、広げられたマントに身を包む。
「はうぅん!!」
思わず、大きな声をあげてしまう。
全身を包まれた感触は、あまりに気持ちよかった。
体中がスベスベとした感触に包まれ、マントがゆったりと体中をなで回しているようにすら感じる。
はぁ、はぁ、と発情した獣のような荒い息が漏れる。
体にマントを擦りつけるように、マント越しに体を撫で回し、しかも徐々に敏感な場所へ…
乳首、さらに恥ずかしい場所へと手が伸びる。
シュルシュルシュル…
激しさを増していく擦れ合う音すら、私の興奮を高めていく。
『ああ、私…このまま、イっちゃうかも…』
ぼんやりとそんなことすら考えた、そのとき。
チクリ!!


「痛ッ!!」
針のような何かが、首筋を刺したような気がして、私は手を首にあてた。
痛みの中心に触れると、わずかに腫れたようになっている。
そして、指先には血の感触。
「あ、血が、マントについちゃう…」
つぶやきながら、私は何故か、血のついた指をぼんやりと見つめていた。
そして、何も考えずに、その指をゆっくりと口に近づける。
「はむ、んちゅ…」
私、本当の吸血鬼みたいに、血を舐めてる…
そのことに、背徳感がこみ上げる。
背筋をぞくぞくさせながら、ちゅぱ、ちゅぅ、と指をしゃぶり、血の味を楽しむ。
そう、私はその味を楽しんでいた。
気づくと、さっきの痛みの部分が、じくじくと疼いている。
そこにマントが触れるたび、まるでクリトリスに触れた時のような快感が走る。
「ふあ、はぁん!!」
声を上げ、空いている方の手で、マントをその傷へ押しつける。
「ひゃあぁあん!!」
マントに、血がにじむのが感じられる。
汚してしまった、という罪悪感は、すぐに体を襲う快楽に押し流されて消えた。
何度も、何度も、マントを押しつける。
そのたびに、小さな絶頂が体を襲う。
「吸って、私の血、吸ってぇ」
何故か私は、そんな言葉を繰り返していた。
「これ、気持ちイイよぉ、もっとしてぇ」
そして、気づいた。
マントが自ら蠢き、私の体に快感をもたらしてくれている。
そう、それは当然だ。このマントは生きている。
私の血で、息を吹き返したのだ。
知りようのないはずの知識が、傷口を通して流れ込んでくる。
遠い西洋の地で吸血鬼によって作られ、主を失った『彼女』は、
私を魅了し、その血を吸うことで力を取り戻した。
そして、『彼女』が次に行おうとするのは、私へのお礼。
私を、吸血鬼へと変えてくれるのだ。
全てを理解し、私は心を開いて『彼女』を受け入れる。
こんなに気持ちのいいことを、拒否するつもりは欠片もなかった。
「はふぅん、そう、そのまま、全部吸い出してぇ…」
私を人間たらしめていたモノ、その最後の一片までが吸い出される。
けれど、私が感じているのはただ陶酔だけ。
マントが私の頭を覆うように動き、全身を包む。
私は体を丸め、全身をゆるゆると蠢くシルクの感触に身を任せる。
今の私は、マントの中のさなぎ。
首筋の傷から、侵入してくるなにかが、私を変えていく…



そうして、どれくらいの時がたっただろう。
スルリ。
マントが開かれ、私の体が外気にさらされる。
「ふふ…吸血鬼になるのって、気持ちイイ…」
私は思わず、笑みをもらしてしまう。
マントが柔らかく私を包み、あらたな主人を得た喜びを伝えてくる。
「ありがとう、こんな素敵な体にしてくれて♪」
私もそれに答え、顔をマントにすり寄せる。
「さて、最初の獲物は、誰にしようかなぁ?」
そうつぶやいてみる。
でも、それにふさわしい相手はもう頭の中に浮かんでいた。
「やっぱり、美里先輩に決まりだよね」
言いながら、窓を開け放つ。
素裸に夜の冷気が気持ちいい。
吸血鬼になった体は、冷たさを不快には感じない。
マントが、風に揺れる。
「じゃあ、行こうか?」
私は窓に手をかけると、ふうっ、と身を投げ出す。
私の体はそのまま、ふわりと宙に浮かび、マントが蝙蝠の翼のように広げられる。
「このままだとさすがに恥ずかしいかな…んっ!」
念じると、体に冷気がまとわりつき、それが形をなす。
吸血鬼らしく、黒のイブニングドレスに身を包んだ私。
「待っててね、先輩♪」
満月の輝く夜空を、私は駆けてゆく。
先輩の家までは、あっという間だ。


高い空から見下ろすと、先輩の部屋は、まだ明かりを灯していた。
きっと勉強してるのだろう。
フフ、すぐに、そんなことしなくてもイイ存在に変えてあげるからね♪
そう思いながら、先輩の部屋の窓の外に降り立つ。
思った通り、先輩は机に向かっていた。
コツ、コツ。
窓をたたくと、先輩が驚いたようにこちらを振り向く。
にやりと笑って、私は目を光らせ、先輩に魅了の眼力を送り込む。
その効果は、すぐに現れた。
先輩の表情が、驚きから、夢うつつのような、ぼんやりとしたものに変わる。
「ふふ、せんぱぁい…」
ガラス越しに呼びかけると、先輩がとろんとした視線を向けてくれる。
「入れて、もらえます?」
「うん、いい、よ…」
ふらふらしながら、先輩が窓の鍵を外す。
「よいしょ、と…ありがとうございます、先輩♪」
招き入れてもらわないと、他人のお家に入れないなんて、不便な体だ。
でも、先輩の家はこれから他人の家じゃなくなるんだけどね♪
そんなことを考えて舌なめずりする私をよそに、先輩はじっと立ったまま。
何も言わず、ただ私の「お願い」を待っている先輩を見ていると、
なんだか吸血鬼の本能みたいなモノが疼いてきてしまう。
−−先輩を、苛めたい。
その思いのままに、ぼんやりとしたままの先輩の耳をぺろりと嘗めあげる。
ぴくん、と先輩が体を縮めた。
フフ、先輩、かわいい♪


「先輩はまだ処女なんですか?」
「うん…」
だと思った。だってさっきから、とってもおいしそうな香りが漂ってきてたから。
「じゃあ、処女の先輩を、永遠に汚してあげます」
「けが、す…?」
「そう…魂のいちばん奥底に私の奴隷だってことを刻んで、私の奴隷として生まれ変わって、
 私のお願いには悦んで従うようになっちゃうんです。
 そういうの、嫌いですか?」
「わかんない…」
「そうですか、でもすぐにわかりますよ♪」
先輩の首に顔を近づける。
年頃の女の子の香りとともに、吸血鬼になった私にだけわかる、男を知らない女の香りが鼻をくすぐる。
「じゃあ、いただきます♪」
口を開くと、待ちかねたように私の犬歯が鋭く伸び、食事の支度を終える。
つぷり。
ほんの少しの抵抗。そして、先輩の若々しい肌を、私の牙が貫く感触。
続いて、口の中に、生暖かい液体が流れ込んでくる。
先輩の血、とってもおいしい…
思わず顔がほころんでしまう。
先輩も、ぶるっと震えたかと思うと、口を半開きにしてる。
気持ちイイんだね、知ってるよ…
もちろん、味わうのは血の味だけじゃない。
先輩の魂の味、今までの経験、感情、先輩の「生」そのものが、彼女の血を通じて流れ込んでくる。
その代わり、牙の先から流れ込むのは、私の体を変えたのと同じ、ある種の液体。
普通の人間にとっては、毒といってもいいかもしれない。
なぜならそれは、ヒトをヒトでなくしてしまうものだから。
「んちゅ、じゅる、んちゅぅう」
先輩の血をすすり上げる音が、激しくなっていく。
ダメだ、だんだん抑えが効かなくなって、どんどん血を吸い上げちゃう。
ごくり、ごくりと私の喉が鳴るそのたびに、先輩の体が快感に震えるのがわかる。
もう少し、吸い過ぎてはダメ、でももう少しだけ…
私の頭の中で、先輩の生命を最後の一滴まで味わいたいという本能と、先輩を奴隷にして楽しみたいという
昏い欲望が火花を散らす。
勝ったのは、欲望の方だった。
「んちゅ、ちゅぱっ」
先輩の喉から、唇を引きはがすようにして離れる。
支えを失った先輩が倒れそうになるのを、慌てて支える。
うわ、先輩の体、だいぶ冷たくなっちゃってる…
「だ、大丈夫ですか、先輩?」
思わずそんなことを訊いてしまう。
けれど心配は無用だった。
先輩の目に浮かんでいるのは、恍惚だけ。
はふぅ、と、快楽を滲ませた息をつき、彼女はうっとりとした表情で口を開く。
「はい、わたしの愛しいご主人さまぁ…」
「ああ…」
安堵のため息が口から漏れたのに、ちょっと自分でも驚いてしまう。
でもそれもほんのわずかな間。
私はわざとらしく顔をしかめ、言った。
「私を心配させて、悪い子ですね、先輩は」
その言葉に、先輩がびくりと震える。
「ごめんなさいご主人さま、どうか許して、お願いです。わたし、いい子にしますから、どうか…」
捨て猫のような、切なさを浮かべた先輩の姿は、とっても加虐心をそそる。
でもまあ、今日は許してあげよう♪
「フフ、許してあげるから、私のお願い、いっぱい聞いて下さいね」
「はい、ご主人さまのご命令には、なんでも従います」
うーん、先輩ったらすっかり子犬系のかわいらしさを身につけちゃって、可愛いんだから。
思わず頭を撫で撫ですると、気持ちよさそうに目を細めて体をゆだねてくる。
「これから二人で、いっぱい気持ちいいことしようね♪」
「はい、ご主人さまぁ♪」
そうして私たちは、今度は恋人のように、唇を重ねるのだった。



翌日の朝、始業前。
私と美里先輩は、演劇部の部室にいた。
夜のうちに窓に貼り付けた紫外線カットのフィルムのおかげで、差し込んでくる太陽も私を滅ぼすには至らない。
両親には昨日のうちに催眠術をかけて、しばらく休みと学校に連絡済み。
今は日中動き回れる下僕は先輩だけだけれど、もう少し人数を増やして、
学校中の窓にフィルムを貼ってしまえば、ここは完璧な私のテリトリーになる。
そのためにも、そして後々のことを考えると、演劇部のもう一人の部員にも早めに下僕になってもらわないと。
「鳳凰院さんがここに来るのは放課後…それまで、ここでじっとしてるしかないかな」
私の口調に、残念そうな響きを感じとったのだろう。
「わたしが、休み時間に呼び出しましょうか?」
すっかり従順な下僕となった美里先輩が提案してくるけれど、私は首を振った。
「昨日は遊びすぎたから、ちょっと休もうかなって思うの」
「そうですか…」
残念そうな先輩。
先輩もあれから色々と私のオモチャになっていたはずなのに疲れを見せないのは、
下僕としての使命感みたいなものでもあるんだろうか。
「鳳凰院さんを下僕にしたら、私にぴったりの棺桶でも買ってもらおうかな」
そんなことを口にしながら、鳳凰院さんが血を吸われながら悶える姿を想像し、舌なめずりをする私。
「ご主人さま、わたしも、わたしも可愛がってもらいたいですぅ」
そんな私に、切なげな目でささやきかけてくる先輩。
くうぅーっ、可愛いなぁ、もう!!
「もちろんですよ。鳳凰院さんと一緒に、いっぱい遊んであげますからね♪」
「あ、ありがとうございます、ご主人さまぁ♪」
「じゃあ、放課後までおとなしくしててね、先輩?」
頭を撫でると、先輩はまるで子犬のように、くぅん、と声を漏らした。
そんな先輩に思わず笑みを漏らしながら、私はまた、鳳凰院さんを味わう時のことを思い描いて、
唇を嘗めるのだった。





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