織姫覚醒

>>542です
結局ジルオールは別スレに該当に近い作品があるということで、
ブリーチネタで書いてみることにしました。

状況としては、原作27巻あたり。
織姫が虚圏に拉致され、藍染と対面する場面。
本来の流れであれば、織姫の力を示すためにグリムジョーの左腕を回復させる、という流れになるのですが、
もっと藍染が織姫の能力に興味を示していたら…というifです

注意点
・エロ無し
・ヤンデレ化

NGワード:織姫覚醒

黒崎一護らが織姫救出のため、虚圏(ウェコムンド)へと旅立ったその頃。
彼らが追い求める少女は、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に反旗を翻し、
虚圏の支配者となった男の前にいた。
その男は、彼女を見下ろす高い玉座に座り、彼女を興味津々といった様子で見下ろしている。
そしてその前には、最強の破面(アランカル)である十刃(エスパーダ)が並び、
彼女に不審そうな視線を向けていた。
「ようこそ、虚夜宮(ラス・ノーチェス)へ」
男が、口を開いた。
紳士的なようで、その実、圧倒的な威圧感を放つその男は、破面たちの首領であり、
かつての護廷十三隊隊長、藍染惣右介。
そして、彼女をこの虚圏へ招いたのも彼である。
「井上織姫、と言ったね…」
「はい…」
一護の仇敵とも言える存在を前にして、素直に答える織姫。
彼らに従っているのは、その圧倒的な力を自分の大切な仲間たちに向けさせないため。
だから命令通り、誰にも決意を告げぬまま、自分の意志でここへ来たのだ。
『黒崎くん…』
気がつかれぬように別れの挨拶をしてきた、一護のことが頭をよぎる。
そんな織姫を、仰ぎ見るほど高い玉座の上から見下ろす藍染には、楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「さっそくで悪いが、織姫、君の力を見せてくれるかい…?」
見上げる織姫の目に、白刃の輝きが映った。
「砕けろ『鏡花水月』」
「!!」
−−鏡花水月。
始解状態において、それを目にした相手を完全催眠状態に置くことができる、藍染独自の技だ。
対する織姫の前には、条件反射的に張ったのだろう、
『三天結盾』−−半透明の、逆三角形の盾−−が出現していた。
「ほう…それが君の能力の一端か」
目を細める藍染。
「思った通りだ…君の能力が本来あるべき姿となっていたら、鏡花水月も、
 効果がなかったかもしれない」
その言葉にも、織姫は三天結盾を張ったままの姿勢で、微動だにしない。
そしてその目は、虚ろに見開かれたまま。
彼女は今や、鏡花水月による完全催眠の術中にあった。
藍染の技は、目にしたものを催眠状態に置くもの。
その本質を知らない織姫の三天結盾では、いつものように攻撃を『拒絶する』ことができなかったのだ。
「さて…君の能力、<事象の拒絶>…私がその力を引き出してあげよう」
パチリ!
藍染が指を鳴らすと同時に、織姫の身体が、糸が切れた人形のように倒れる。
同時に、彼女の張った三天結盾も消滅する。
しかしその状態にあっても、彼女の目は虚ろなままだ。
「楽しみだよ、君が戻ってくるとき、どんな存在になっているのか」
くっく、と喉の奥で笑い、藍染は楽しげに言うのだった。



「あ、れ…ここは…?」
気がつくと、織姫はほの暗い空間に浮かんでいた。
どこまでも広がる空間の中に、一人きりだ。
「あたし…藍染、さん、に会って…そして、あの人がなにか、した、までは、覚えてるんだけど…」
「教えてあげましょうか?」
「わあっ!」
いきなり横から聞こえた声に、仰天する織姫。
「もう、そんなに驚かなくてもいいじゃない」
声の方向に、顔を向ける。そこには、自分と同じような胡桃色のロングヘア、自分と同じような背格好、
自分と同じ制服姿…つまるところ、織姫の鏡で写し取ったかのような少女が立っていた。
ただし、その顔には、縁日で売っているような女児向けキャラクターのお面があてられている。
「あなたは…?」
「アタシは、あなたの中の、もう一人の井上織姫…あなたのことは、何でも知ってるの」
ふふ、と仮面の奥から笑い声が聞こえる。
その嘲るような口調のせいだろうか。
声音も同じなのに、織姫にとって、目の前の彼女は、自分とは違う全くの別人のように感じられた。
それでも、姿形が自分そのものであることは否定のしようがない。
「もう一人の? それっていったい…?」
「ここはあなたの精神世界よ。死神たちも同じような世界を心の中に持ってるわ。
 あなたみたいな特別な子が持っていても、別におかしくはないわね」
仮面の織姫が言い、また、含み笑いが聞こえる。
「でも、なぜあたしはこんなところに?」
織姫の問いに、仮面の織姫は肩をすくめた。
「あなたが望んだことよ。ここへ来て、力を得たいって」
「力?」
鸚鵡返しにつぶやいた織姫の疑問を無視するかのように、仮面の織姫が言う。
「あなた、黒崎一護のことが好きなのよね」
「えっ!?」
秘めてきた思い、彼を護るために、置き去りにした想いを一言で看過され、
織姫の心の中がざわめきたつ。
「でも、彼は朽木ルキアのことが気になるみたい」
「そ、それは…」
彼女を助けに尸魂界へ行ったときから、漠然と感じてはいた。
ルキアは一護にとって特別な、彼の世界を変えた人物。
そして一護もまた、ルキアにとって特別な人物なのだと、織姫は知っていた。
すべては、彼らの命を救うため、この虚圏へ来たときに置き去りにしたはずの想い。
「『アタシがいなくなれば、黒崎君と朽木さんは…』」
織姫そのものの声で、仮面の織姫が詠うように言う。
「やめて!!」
そう叫び、織姫は仮面を付けた自分を突き飛ばす。
「そうよ、私は黒崎君のことが好き、大好き!
 何回生まれ変わっても、どんな人生を送っても、それでも絶対好きになる、それくらい好き!!」
叫びは、徐々に弱くなり、勢いを失っていく。
「だから、だから幸せになってほしいの…だから…」
だから、すべてを諦めた。
その一言は、口から出てきてはくれない。代わりに、視界がにじんでいく。
「あらあら、泣いちゃった?」
「うるさいっ!!」
普段の織姫からは考えられない言葉を放ち、まとわりつく仮面の織姫を引きはがそうとする。
「朽木さんも、あなたにとって大事な人だものね。あの二人が幸せになるなら、それでいいのよね?」
「そう、そうよ!! だからあたしはここに来たの!! だから全部、置いて…」
しゃくり上げながら、崩れるようにうずくまる織姫。
その頭に、そっと、仮面の織姫の手が当てられる。
「ずうっとその思いを閉じこめてきたのね…自分の幸せを拒絶して…可哀想に…」
「ううっ、グス、う、う…」
とめどなく涙を流す織姫をあやすように、もう一人の織姫が囁きかける。
「大丈夫」
耳元に口を寄せ、彼女は言う。
「あなたも黒崎君も朽木さんも、みんな幸せにできる方法があるの」

「すべ、て?」
泣きじゃくっていた織姫が、顔を上げる。
「彼らを、彼らに降りかかる不幸を、すべて<拒絶する>…あなたには、それができる」
「不幸を、拒絶…?」
「そう、だけどそのためには、あなたがアタシを受け入れること…
 自分の力をすべて、自分のものにすることが必要なの」
その言葉に、織姫は顔を上げた。涙の跡は生々しいが、もう溢れ出してはいない。
「教えて…どうしたらあなたを受け入れられるの?」
「そのためには、崩玉の力…藍染様の力が必要よ…」
「藍染? そ、それは…」
「あの人が、あなたの中のチカラを引き出してくれる。藍染様だけがあなたを救うことができる。
 藍染様だけがあなたの頼り。藍染様はあなたの希望」
仮面の中の織姫の瞳が、またたく。
二人の織姫の視線が交差し、瞳に互いの姿が映る。
一人は面を付け、一人は涙の跡を残した、同じ姿の二人が見つめ合う。
「あいぜん、さま…きぼう…」
言ったのは、どちらだったろう。
もう一人の自分に、自分が吸い込まれていくような感覚が、織姫を包む。
自分が仮面をつけているのか、それとも目の前にいるのが仮面を付けた自分なのか、それすらもわからない。
すべてが溶け合うように混沌としている
それでも織姫は、目の前の自分に向かって手を伸ばした。
「それでいいのよ…アタシを受け入れなさい…そして、藍染様に仕えるの…」
鏡に映った虚像のように、もう一人の織姫が同じ動きをする。
そして、二人の手が、ためらうように、ふれあった瞬間、爆発的な光が二人の織姫を、そして世界を包む。
『これ、は…』
心の内からわき上がる感覚。
そう、これは力だ。自分が求めていたチカラ。
今まで使っていた力−−拒絶する力−−の本質が、手に取るようにわかる。
その力の強大さ、そしてそれを御する方法まで、全てを自然なものとして感じ、行使することができる。

これなら、みんなを護れる。みんなを、幸せにしてあげられる。
そうだ、これでみんな、自分と一緒にいられる。
だから。

−−だから、みんなが、欲しい

その想いが、どろり、と溢れ出す。溢れ出し、際限なく強くなっていく。
「欲しい…」
言葉が、口をつく。
けれど、その言葉はまだ不十分だ、満足の行くものではない、と囁く声が、頭の片隅で響く。
だから織姫はその言葉を、自分の望みを完璧に表す言葉を探す。
愛した人を、護ろうと決めた人を、そばにいる人を、そばにいてくれる人を、自分はどうしたい?
心臓が早鐘のように鳴るのを感じる。
未だ言葉にならないその思いをなんとか紡ごうと、震える唇を開く。
そして、じわりと、滲むように。
その言葉は、心の一番奥深い部分からわき上がってきた。

−−食べて、しまいたい。

黒崎君も朽木さんもたつきちゃんも石田君も茶渡君もみんなミンナ食ベテシマイタイ。
「そうだ…あたし…みんなを…食べちゃいたいんだ…」
口にすると、幸福感が心に満ちる。
これが、一番正しい言葉。自分の運命を正しく指し示す言葉。そう、心が理解する。
同時に、自分の意識が、急速に浮上していくのがわかる。
自分の体、チカラを受け入れ、変容していく身体を意識する。
それを感じると、彼女の中に歓喜が駆けめぐる。
そして、この歓喜を与えてくれた人物、藍染の存在が心の中で大きくなっていく。
「すてき…」
彼女は恍惚のなかで、そうつぶやいた。



「始まったようだね」
虚夜宮の玉座の間。
先刻から織姫の様子を見守っていた藍染が、つぶやいた。
その見下ろす先では、倒れたままの姿勢だった織姫の身体が、わずかに震えだしている。
まるで、眠りから目を覚まそうとするかのように。
「始まった、とは?」
藍染のつぶやきに耳ざとく答えたのは、第3十刃であるハリベルだ。
「彼女の虚(ホロウ)化だよ。少し、崩玉の力を流し込んであげたんだ」
「この娘を、虚とするのですか? しかし…」
「彼女は生きた人間であり、そして今、その身体は霊子化されている。彼女の能力の発現には媒介が必要であり、
 それはまるで死神と斬魄刀の関係のようだ。
 つまり、彼女は人間と死神との中間点にいると言えるんだよ」
生徒に物事を説く教師のように、藍染は続ける。
「しかも、彼女の力はおそらく空前にして絶後の能力、<事象の拒絶>だ。
 そして、私はいま、そこに虚の能力を加えた…どうなるか見物じゃないか」
楽しげに解説する藍染に、ハリベルの表情が憂いを帯びる。
「しかし、万が一、彼女が藍染様に危害を加えるようなことがあっては…」
「彼女には、鏡花水月による教育を受けてもらった。虚化を受け入れることが、私への忠誠と同義となるように。
 彼女が私の言葉に背くことはない」
自信たっぷりに、藍染は断言した。
そうして二人が言葉を交わす間にも、織姫の身体がぎこちなく動き、その手が倒れた身体を支える。
やがて、ゆっくりと身体を起こしながら、彼女がつぶやいた。
「すてき…」
その瞬間、はだけた制服からのぞく胸元に、虚特有の孔が開く。
同時に、彼女の髪留めが形を変え、まるで鳥の頭蓋のようなものへと変わった。
そして、虚ろだった瞳が、徐々に光を取り戻す。
見守る藍染たちの前で、膝をついた織姫は、尊敬のまなざしで、主となった男を見上げた。
「藍染、さま…」
織姫が、恍惚とした表情でつぶやく。
「やはり、破面以上、か…どうかな、虚の力を手にした感想は」
「すばらしいです…この力があれば、みんなを食べてしまえる…そうしてみんな、幸せになるの…」
うっとりとした表情で語る織姫。
その様子に、満足げにうなずくと、藍染は言った。
「さて、この中に、君にとって大事な人を、私の命令に背いて傷つけようとした人物がいる。
 そうだね、グリムジョー・ジャガージャック」
織姫のさらに後ろに控えていた、元十刃であるグリムジョーは、ひくり、と不機嫌そうに眉を動かした。
「彼を、君の好きにするがいい」
さらりと藍染が言うと、織姫の表情が惚けたものからいつもの、にこやかなものに変わる。
「ありがとうございますっ、藍染様」
そして、すうっ、と目を細め、振り返る。
織姫の纏う霊圧は、もはやそれまでの彼女とは比較にならないほど強力なそれだった。
そして、グリムジョーと織姫が、目を合わせる。
互いを敵と見なした視線が、交錯する。
そして、織姫がゆっくりと口を開いた。

「あなた、いらない」

ただ、そう言っただけ。それだけだった。
彼女の言葉とほぼ同時、グリムジョーは織姫からの攻撃を予想したように、彼女に飛びかかり−−
そして、その身体は彼女に届く前に、跡形もなく消えた。


「今のは、一体…」
「<拒絶>だよ」
ざわめく十刃たちに対して、藍染は、全て予期された通りといった表情で、告げた。
「グリムジョーは彼女に存在を拒絶されたんだ。だから、消えた。ただそれだけのことだよ」
「では…」
「織姫の機嫌を損ねるのは、君たちのうちの誰にとっても危険なことだよ。
 彼女に危害を加えるなどと考えることすら、やめた方がいい」
そう言うと、もはや十刃の存在など忘れたかのように、瞬時に織姫の目の前に降り立ち、微笑む。
「すばらしい能力だ、織姫。君には私の下にしばらくいてもらいたいと思うが、問題ないかね?」
「ええ、藍染様、でもあんまり長くは…」
織姫の顔が曇る。
彼女は望みを果たしたくてたまらないのだ。想い人を喰らいたいという、その願望を。
「わかっているよ、織姫。ただ君に贈り物をするだけだ。そうしたら、あとは君の好きにするがいい」
「わあ、ありがとうございます、藍染様♪」
藍染に抱きつく織姫。
その無邪気な振る舞いは、かつての織姫と同じようにも思える。
けれど、その場にいる誰もが感じている、彼女の霊圧の膨大さ、そして暗黒を思わせるその霊質は、
井上織姫という存在が、今までとは全く異なるものへ変質したことを、なによりも雄弁に物語っていた。
そんな彼女を抱き返しながら、藍染は会心の笑みを浮かべる。
彼の目論見通り、織姫は神へ至る道を指し示す、道標となったのだ。


「存外、様になってるじゃないか」
「あら、いつからそこに?」
突然かけられた声に、織姫はさして驚く様子もなく答えた。
「今だ」
彼女に声をかけた張本人−−第4十刃であり、虚夜宮での織姫の世話役であるウルキオラは、
答えを返しながら、彼女の新たな装束を、興味深そうに眺めた。
今、織姫が身につけているのは、藍染の贈り物、彼女のためにあつらえられた服だ。
十刃の衣装を基本としながらも、胸の部分は中央部分が鳩尾近くまで開いていて、
こぼれそうな巨乳の内側と、虚の証である胸の孔を露わにしている。
そしてその色は、死神と同じく黒で染め抜かれ、他の十刃の衣装とは一線を画していた。
それは藍染が、彼女が唯一無二の存在であることを示すために用意した衣装であり、
彼女のための死覇装とも言える。
「報せだ」
ウルキオラが告げた。
「お前の仲間がこの虚圏に侵入した」
その言葉に、織姫の目が、妖しい輝きを帯びる。
「お前を助けるためだ。だが…」
最早お前には、それは意味を持たぬ筈だ。
そう言おうとしたウルキオラは、しかし言葉を続けられなかった。
黒崎一護が来る。自分を救うために、この虚夜宮へ。
それを聞いた織姫の目に浮かぶ狂気と、彼女の全身から溢れ出した圧倒的な霊圧。
それがウルキオラに、言葉を失わせていた。
『この女は、間違いなく我らとは次元の違う存在−−藍染様に最も近い存在だ』
じり、と後ずさりながら、それでも藍染への忠誠心から、織姫を御するための言葉を口にする。
「言ってもらおうか。貴様のその心と体は、一体何の為にある?」
ウルキオラの問いに、織姫は狂喜に満ちた凄惨な笑みを返しながら、答えた。
「藍染様と、その御心のために」
そして、愛しいあの人のために。あの人を、ひとかけらも残さず喰らうために。
織姫は、自身の切望した時が近いのを感じ、絶頂にも似た歓喜に身体を震わせるのだった。




保管庫へ戻る