闇に呑まれる月

流れを切ってしまうのですが、合同誌の主役ハブられ救済SSを
作ってみたので投下します。
エロ無し注意

とりあえず背景説明
舞台はTV版87話「愛と未来を信じて!うさぎの決心」
現代に出現した巨大邪黒水晶に突入するセーラー戦士たちだったが、セーラームーンは
プリンスデマンドによって仲間と分断され、邪眼による洗脳を受ける
本編では仲間への信頼でそれを跳ね返すことができ、逆にデマンドを説得して対ワイズマンで共闘する
けれど、もしワイズマンが現れるのが早かったら…というifストーリーです


NGワード:闇に呑まれる月


「あたしは…みんなを信じてる…」
セーラー戦士と分断され、邪眼の力を受けてなお抵抗するセーラームーンに、デマンドは手を
こまねいていた。
「ここまで仲間を、そしてあの男を信頼する心が強いとはな…」

「お困りのようね、デマンド」
黒いオーラとともに現れたのは、かつてのうさぎ=スモールレディ=セレニティ。
今では邪黒水晶の力により妖艶な女性へと姿を変え、ブラックレディと名乗っている。
そしてその背後には、影のようにワイズマンが控えていた。

「私に意見するつもりか、ラビット」
その呼び方に、ブラックレディが眉をつり上げた。
「今のあたしは暗黒の女王、ブラックレディよ…攫った女の子ひとり好きにできない役立たずとは違うの」
「なんだと!!」
激昂するデマンドが、暗黒のオーラを放つ。が、ブラックレディはたじろぎもしなかった。
「私の力が効かない!?」

「正直、あなたはもう用なしなのよね…消えてもらおうかしら、ねえ、ワイズマン?」
「よかろう…我が必要とするのは力あるものだけだ」
「裏切るのか、ワイズマン!!」
「残念だったわね、恋が実らなかった哀れな坊や…」

パチリ!
ブラックレディが指を鳴らす。と、デマンドの体が黒い炎に包まれた。
「きさま!! こ、こんなことが、ブラックムーンの支配者であるこの私がぁ!!」
叫び声もむなしく、デマンドの体は消し炭となって消えていった。



「さて、邪魔者もいなくなったことだし、ちょっとお話しましょうか?」
「ちびうさ…こんなことをして…」
体の自由が利かないまま、今の一部始終を目の当たりにしたセーラームーンが、震える声で呟く。
「そう、あたしは悪い子になってしまったの。とっても悪い子に、ね」
言いながら、ブラックレディがうさぎの瞳を覗きこむ。額のブラックムーンの証が、闇のオーラを放つ。
「それは誰のせいかしら?」
「あなたは操られているのよ!! あのワイズマンという男に…」
「いいえ、彼はこう言ったの『あたしを必要としてる』って。そして私はその手をとって、望んでいた力を手に入れた。
全て自分の意思よ」

「そんなのおかしいよ!! こんなことをしても、みんなが不幸になるだけじゃない!!」
「もう一度聞くわ。そうさせたのは、そこまであたしを追い込んだのは、一体誰だと思う?」
「え…?」
ブラックレディの赤い瞳に、憎しみの光が浮かぶ。

「あたしはあなたにクリスタル・トーキョーの王女となるべく育てられた。愛を受けず、ただ王国に相応しい
娘であることを求められたの。愛のない人生…私の意志は無視され、ただあなたの娘であるだけの人生…
それがどんなに辛いことか、あなたにはわからないわ」
「だからといって、この世界を滅ぼすなんて…」

ブラックレディは唇を歪め、言った。
「では、それはあなたのやってきたことと何が違うの? ネオ・クイーン・セレニティ」
「え…?」
「あなたはかつて、自分の愛のためにシルバー・ミレニアムを破滅に導いた。なのに私が愛を求めてこの世界を
滅ぼすのを、止めるの?」
「それは…」
うつむくうさぎ。



「クイン・ベリルを倒したときもそう。銀水晶の奇跡がなければ、あなたは自分の愛の始末をつける
ためだけに、セーラー戦士たちを犠牲にするところだった」
「そんなことはない! みんな…あたしのことを信じて…」
「信じて、死んだのね」
うっ、と言葉を詰まらせ、うつむくうさぎ。その目が意思の光を失っていく。
今の彼女には、ワイズマンが手にした水晶から立ち上る闇のオーラも、それが彼女を包み込んでいること
ももはや目に入っていない。
「あなたの愛は、人を傷つけ、滅ぼすの」
「違うっ!!」
「みんな、あなたのせいで不幸になるの。かつてのエンディミオンもそうだった。セーラー戦士達も、シルバー・ミレニアムの
人々も。これからも、あなたは傷つけていく。あたしにそうしたように」
「違う、違う違う! ちがう、もん…」
うつむく彼女の目から、涙がこぼれ落ちた。

「でも、今ならまだやり直せるわ」
その言葉に、宙に浮かんだまま、ぐったりとしていたうさぎの体が、ぴくり、と反応した。
「自分の愛は捨てて、私たちが与えてあげる愛を受け入れるの」
「あなたたち、の…?」
「そう、与える愛では、滅びを呼んでしまう。支配する愛こそが、人々を幸せにするの」
「しはいする、あい…?」
「そう、あなたがワイズマンの支配を受け入れ、さらにあなたが人々を支配する。それが、破滅を防ぐ最後の方法」
うさぎの体をとりまくオーラが、その闇を深めていく。
長い沈黙の後、うさぎの首が、ほんのわずかに、こくり、と頷いた。

「ふふ、良い子ね、ママ…さあ、あなたも邪黒水晶の下僕として生まれ変わるのよ!!」
ブラックレディがワイズマンにうなずきかける。
それに応えるかのように、ワイズマンの持つ邪黒水晶が暗黒の光を放った。
「準備は整った…ネオ・クイーン・セレニティよ、邪黒水晶の力を受け入れるがいい!!」
ワイズマンが叫び、水晶に力を込めると、うさぎの体の周囲を取り巻いていた黒いオーラが
彼女の体にまとわりつく。その様子は、ちびうさがブラックレディへと成長を遂げたのと
まったく同じだ。
そして、黒いオーラが新たな衣装を作り上げていく。



クイーンセレニティとしてのドレスを基本としながら、全体が黒と赤で彩られ、背中の蝶のような飾りは
蝙蝠の翼のように変化している。
その胸には、銀水晶のブローチが、邪黒水晶と同じ闇をたたえ、額には、月の王家の紋章を逆にした、
ブラックムーンの証。
だがブラックレディの憎しみに満ちた瞳と違い、その目に浮かぶのはただ虚ろな光だけだった。


「生まれ変わったママの姿、素敵よ…」
「ありがとう、ブラックレディ…」
ぼんやりと、機械的に応えるブラックセレニティ。
「あたしのこと、愛してる?」
「ええ、とっても愛してる」

「あたしが何をしてもしからない?」
「そんなことしないわ…あなたの意思は、ワイズマンの意思だもの…」
その答えに、ブラックレディが満足そうに微笑む。
「さあ、我らブラックムーンが、時空を超え全てを支配するときがきた」
ワイズマンの言葉に、ブラックセレニティ、ブラックレディはひざまずく。
「「我ら銀水晶の所持者はあなたの言葉に従います、ワイズマン」」
二人の誓いの言葉が、暗黒の宮殿に木霊した。




それから数ヶ月の後。、
セーラー戦士達は二人の暗黒の女王の前に屈し、彼女たちもまた邪黒水晶の下僕として生まれ変わった。
ワイズマンの尖兵として、ドロイドたちを率いる彼女たちの前に、世界は混沌とした地獄のような有様へと変わっている。
そして、その地獄と化した世界の中心こそ、巨大な邪黒水晶に設けられた二つの玉座。
そこに座するのは、二人の暗黒の女王だ。
今しがたも、彼女たちに、ドロイドからセーラー戦士達の戦果が伝えられたところであった。
世界は順調に、ブラックムーンの支配下に下っているという。

「ねえママ、今の報告を聞いていたら、あたしもなんだか心が疼いて来ちゃった。少し、楽しんできてもいいかしら?」
楽しみ、とはもちろん反逆する愚か者達を血祭りにあげることに他ならない。
けれどその言葉に、虚ろな目をした黒い衣の女王はにっこりと微笑み、うなずいた。
「好きなようになさい、かわいい私の娘」
その言葉に嬉しそうな笑顔を見せ、母に抱きつくブラックレディ。
「ありがとう、ママ、大好きよ!」


愛を求めた娘は、それを手に入れた。
それが歪められたものであること、そして偽りに満ちたものであることを知るのは、今やたったひとり。
玉座の影に控えるワイズマンは、全てが自らの目論見通りとなったことに、ひとりほくそ笑むのだった。




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