狗と壺

絶海に浮かぶ孤島 『鬼牙島』の鬼共の本拠地、
そこで私 『伯(ハク)』は鬼の策略にはまり、現在鬼に捕まっています。

(不覚です……)



話は一ヶ月前にさかのぼります。

私は生まれつき狗の血を持つ故に、髪と同じ白色の犬の耳と尻尾が生えていて、それが原因で人間に迫害され、私は人里離れた場所での暮らしを余儀なくされていました。
そんなある日、私は人間の『彼女』と出会いました。
その時は敵意をむき出しにしたのですが、怪我をしていたため倒れてしまいました。
しかし、彼女は馬鹿にするわけでもなく、
それどころか私の住処を聞くと、住処まで私を抱えて怪我の看病をしてくれました。
しばらく彼女は私を看病してくれました。
看病をした後、私は「あなたの名前を教えてほしい」と言いました。


すると彼女は答えてくれました。 彼女の名は『小桃』というそうです。

彼女は悪事を行う鬼の本拠地『鬼牙島』へ乗り込むために、家来を探していたそうです。

私は怪我の看病のご恩で彼女の仲間になることに決めました。
人間は大嫌いだけど、彼女…いや、小桃様のためなら頑張れるから…  多分それは彼女のことが好きになったからでしょう。

そして私は小桃様の家来となりました。
そして彼女は名もなき私に『伯』という名前を与えてくれました。

それから、私は小桃様と家来探しの旅が始まりました。
そして、私達は猿の尻尾がある『猿飛(エンヒ)』さん(忍者らしい)、背中に黒い翼を持った緑の髪をした『空(クウ)』さん(クーデレ)と出会っていきました。


そして私達は鬼牙島に着いたのですが、鬼たちの罠にはまってバラバラにされてしまいました。
そう、孤立してしまったのです。



そして現在至るというわけです。
ちなみに私は今腕に縄をかけられ、自由が聞かない状態です。


「邪魔だと言うなら早く殺せばいいじゃないですか!」
私はこの島のボスに向かって叫びました。
しかし、そのボスはいまだに余裕の表情です。
「生憎だが、この俺、王鬼様は貴様らを殺すつまりはない、安心しろ」

そのボスの名は『王鬼』と呼ぶようです。

「オイ! お前達、アレをもってこい!」 「はっ!!」
王鬼は部下の鬼に何かを持ってくるように命令しています。

「一体何を持ってくるつもりですか!?」
「ふふふ…、お前を…いや、お前達を同胞にするための物だ」
その言葉を聞いて、私は不安になりました。

そして、しばらくして来たものは大きなつぼのようなもの。 というか壺です。本当にありがとうございました(でもデカイ)
壺をもって来た鬼の数は出て行く前は2人でしたが今は10人になっていました。 よほど重かったのでしょう。

「よし、この酒壺にこの娘を入れろ」 「はっ!」
すると鬼達は私の衣服と私を縛っていた縄を引き千切ってきたのです。
「い、いやっ!」 私は戦慄しながらも抵抗しましたが、鬼の力はあまりにも強すぎたため無力でした。

そして私は抵抗空しく衣服を脱がされ、酒壺に放り込まれました。



く、苦しい… このままじゃ死んじゃう……
小桃様…た…すけ…てぇ……

…う、嘘… 苦しくない…… 何で…ここには空気なんてないのに…
でも空気ができる…しかも……なんだかちょっとふしぎなきぶん………


(伯が入っている坂壺を眺めながら王鬼はにやりと笑う)
「ふふふ、この坂壺に入っている酒はな、『鬼変酒(おにへんしゅ)』といってな、
 人間を鬼にする成分が入ってるんだよ。」
(また、肺の中に満たすことにより直接の酸素呼吸が可能である。)




ふあぁ…なんだかからだがほてってきた……
きもちいいよぉ……なんだかすっごくからだをさわりたいきぶん…

あ、さわるときもちいいなあ…… ついでにあそこもさわっちゃえ…

んふぁ…、すごいぃ……もっとさわりたいよぉ………



「気持ちがいいだろう? その酒はな、飲んだ人間の体を気持ちよくさせる媚薬と同じ効果もあるんだ」




はっ、ああっ…ここさわるときもちいい、きもちよすぎてきちゃうぅぅ………

んんっ、あああっ!! イ、イクウウウウウウウウッ!!

はぁ…はぁ……なんだか体がムズムズする………

あ、なんだかふしぎなかんじ……まるでちからがわいてくる…
からだがあおにかわってく…………
それに、けんしがのびてく………

おでこからなんだかごつごつしたのがはえてくる……
………ああ、これがつのなんだぁ……………

あはははは……おにってこんなにきもちいいんだぁ……




「そろそろいいだろう、おまえらアイツを出してやれ」 「はっ」

ん、眩しい……



それから私は彼の部下によってロープで助けられ(?)、私は鬼となった姿を見せた。

「いい姿だ、さすがは鬼変酒だ」

私は頭がグルグルしているので、彼の言葉が良く解からない。
でも、それは一瞬だけ………。
頭の中の酔いはどんどん引いていく…
そして私の思考もどんどん変わっていく……



そんな時、一人の小柄な少女が現れた。
「お前は小桃!?」 「見つけたよ! 大鬼!」
ああ、あの姿は…

「まさかここが気づかれるとは思ってなかったが、それよりもお前の家来を見てみろ!」 「!?」
「青い髪と体、灰色の二本の角、以前にあった耳と尻尾はまだ残っているが、その姿はまさに鬼だろう!」 「そ、そんな……」
その人は私を見て、ショックを受けている。

「あなた!伯ちゃんに何をしたの!?」 「ふん、そんなこと、貴様が知るつもりはない!」
なんだか頭がクルクルする…。

「さあ、できたての我がしもべよ! その娘を主である俺の眷属にするのだ!!」

そのコトバを聞いた私は『完全に』目覚めた。






マルチエンド分岐

鬼エンド を読む
欲望エンド を読む




狗と壺 【鬼エンド】

主? ああ、そうだ……私はこの人の傀儡、つまり下僕なんだっけ…

「はい、御主人様…仰せのままに……」 私は彼にそう答えた。

私は御主人様の言うとおりに、目の前の少女を捕まえるために近づいた。

「伯ちゃん! やめて!!」




そして、少してこずってしまったけど、ようやくこの子を捕まえた。
剣で攻撃してきたものの、その剣撃自体が生ぬるかったので払うのは割と簡単だった。

「良くやった我がしもべよ! 眷属にする前に、まず手始めにそいつの衣服を破ってしまえ!」
「はい、仰せのままに」 私は彼女の綺麗な衣服を破り捨てた。
「あ!ああっ!!」 彼女は頬に涙を流していた。

何で泣くんだろ? たかだか服なのに……

「おい、女! 貴様のために酒壺に縄梯子を付けてやった!
 これで貴様は放り込まれる心配はない! さあ、安心して鬼となれ!!」
「イヤ! 鬼にだけはなりたくない!」 彼女は御主人様の前でみっともなく抵抗する、そんな彼女を私は哀れに思った。


「ふん、まあいい… どうせ貴様は鬼となる運命、かつての家来によって鬼となるがいい!!
 しもべよ! その人間の女と共に酒壺に入れ!!」

私はその命に感動した。 哀れな人間の少女が鬼になるところを直で見ることができるのだから。

「光栄です! この命、私が成します!」 私の心は歓喜している。 こんなに嬉しいことはない…
「伯ちゃん…」 でも、彼女は涙を流している。
だから言ってあげる 「大丈夫…私があなたを変えてあげる…」 と……

そして私は彼女を背負って、酒壺に入っていった……。



それからは簡単なこと……
彼女を抱きしめて、口付けを交わして、可愛い体を愛撫して、彼女を悦ばせる……。
最初は嫌がっていた彼女の顔もしだいに恍惚の表情を帯びていく。


そして彼女の股から潮が噴出したとき、変化が訪れた。
彼女の長い髪は、黒から桃色に変わっていった。 私はその髪を愛おしく撫でた。
彼女の人の耳は、次第に尖り始め、ヒトならざる形へと変わっていった。 私は後ろに回って、その長い耳を甘く噛んだ。
彼女の可愛らしい四肢の色は、肌色から苺のような赤へと変色した。 私はその四肢を青い手で撫でた。
幸せそうに開く彼女の口にある四つの犬歯は、次第に伸びていき、無力で愚かなな者共に力を示す牙となった。 私はその牙を舌で舐めた。

そして、彼女の額からは一本の角が音を立ててゆっくりと伸びていった。 その角の色は、灰色の私と違う黄色。

彼女の顔からは鬼となった喜びの表情が浮かんでいる。
それは私も同じ、私も鬼に生まれ変わったことを喜んでいる。
そして、私と彼女は祝福の深い口付けを交し合った。



そして、私達は壺から上がった。
「お待たせいたしました御主人様、彼女を我らの同胞にして参りました」 「ふむ、ご苦労 さて、桃色の鬼とやら気分はどうだ?」
すると彼女は快楽を兼ねた悦びの表情で答えた。
「はい、私は今、鬼となってとても幸せです!」
御主人様は微笑んだ。
「そうか、そうであれば俺は嬉しいぞ
 では、お前達に命令する! 残りの侵入者二名を鬼に変えるため、捕まえてくるのだ!」
そんな……残りの二人も鬼にできるなんて
「「ハイ! 仰せのままに!!」」
私達はその命を喜んで受けた。



例の二人を捕らえるべく、私達は行動を開始した。 その途中、
「ねえ、ちょっとだけいいかな?」
彼女は何かをねだる様に話しかけた。
「何です?」
「さっきの続きがしたいけど、いい?」
ああ、そんなこと……
「口付けのことですか、いいですよ でも、他のところも触ってくださいね」 「うん」
そして、私達は少しだけ体を交わり合わせることにした。

だって、まだ時間はあるのだから……











狗と壺【欲望エンド】
私は自分の事を主と呼ぶ男の方へ顔を向けた。 そして、
「何をやっている? 捕まえるのはあの娘…」
その後の言葉は続かなかった。
何故なら、私がその男の喉笛を自慢の鋭く尖った爪で突き刺したのだから。

「ブフェッ…ゲハァ……」 そして男は息絶えた。 それが王鬼(オウキ)という男のあっけない最後だった。

そして、私は既に亡骸となった男の言う『娘』の周りにいる鬼共を犬の速さと鬼の腕力で蹴散らした。
鬼達は私を殺そうと集まってきたが、一瞬でにらみつけたらすぐに黙った。 鬼とて命がほしいのだろう、私も無駄な殺生など「必要としていない」

「伯ちゃん……」 喜びの涙を流す彼女。 いや、『小桃様』
きっと彼女は私が鬼となっても、かつての心を持っていたことへの喜びだろう。

しかし、私は鬼共に声高く宣言した。

「聞け! 鬼達よ!!
 私は確かに王鬼を殺した! しかし、それはこの島を崩壊させるために殺したのではない!」
突然の事に驚く鬼と御主人様 そして、王鬼の死体から金色の一本角を一気に引っ張って肉体から抜き取った。
「あのような男がこの鬼牙島を統べる者であること自体が愚かだからだ!
 だからこそ私はこの方こそが島を統べるに相応しいと思ったからだ!!」
言い終えた時には既に私の人差し指は御主人様へと向けられていた。



「え… 私?」 彼女が戸惑うのも無理はないと思うが、それでも私は続ける
「王鬼を殺した責任として、私が彼女を二代目王鬼とする!
 貴様ら、依存はないな!?」 すると鬼達から反対の雰囲気が消えうせた。 そして御主人様はショックを受けた。

「伯ちゃん…な、なんで……
 なんでそんなこというの!?」
なぜ? まあ、突然だから解からないのだろう……
「私を助けるために王鬼と鬼をやっつけて、私を助けたんでしょ!?」
彼女は何もわかっていない……
「確かに私は王鬼を殺しましたが、それ以外の鬼は殺していません
 更に言うと、私はあなたを助けたわけじゃありません」

「ウソ! 伯ちゃんは私を助け……」 涙目で私の言葉を否定しようとする彼女はハッとした。
そう、彼女を縛っていた縄は外していなかった。

さらに、「……グッ…何なんだよぉ…一体…」 私が蹴散らした鬼達は次々と目を覚ましていく。
そう、確かに鬼は『蹴散らした』が、『殺して』はいなかった。

そう、私は元からかつての心など無かったのだ。

「ここからは私一人で十分、私と二代目候補以外はこの部屋を出よ!!」
そして、鬼達は一人残らず部屋を出て行き、私と小桃様だけが残った。
私は、彼女を縛っていた縄を引き裂く、そしてその縄は、縛るものも、力をも失い落ちていった。



「やっと、二人きりでお話ができますね」 私は以前のように微笑む。
しかし、彼女は落ち込んでばかり。
「鬼に…されるんだね……私………」 「小桃様…」
自分の運命に悲しむ彼女に私は、私と同じ大きさの体を抱きしめ、そして小さな唇を重ね合わせた。
「ん…んんっ!……」「ふ、むぅ……くちゅっ…」
キスは深い深いディープキスへと堕ちていく…
無論、彼女は抵抗した。 しかし、私が与える快楽に堕ちていった。

そして、唇と唇、舌と舌が離れ、そこから糸が引かれた。 
でも、口を離しても、抱擁は未だにつづく

「泣かないで下さい…私はただ、あなたが欲しいだけだから…」
その言葉には嘘も偽りも無かった。
「伯ちゃん……」


「私はあなたと出会うまで、人間に迫害されて生きていきました
 その中で私は全ての人間を憎みました
 でも、あなたと出会って私はあなただけを信じることにしたんです
 だけど、あなたの目的の『鬼退治』が終われば私とあなたは離れ離れになる」
語れば語るほど私の胸は苦しくなって、悲しくなって涙を流す。
「だったら、私と一緒になりたいなら私と一緒にいようよ
 いちゃいけないなんていわないよ」
いつも…いや、島に向かう前はムードメーカーだった優しい彼女も今は彼女と一緒にいたいという願いでいっぱいだろう
その証拠に涙を流している。
でも彼女は故郷に帰れば沢山の優しい仲間たちがいるだろう。
でも、私にとっては彼女だけだ。
「私が欲しいのは、あなただけです……
 あなたには私だけ見て欲しい!私だけを愛して欲しい!
 私は欲しい、あなたの全てを全部!」 「伯ちゃん…」



あの時、彼女と初めて出会った時、恨んでいた耳と尻尾を「優しくて可愛い」と言ってくれた小桃様、
その後に名も無き私に『伯(ハク)』という名を与えた小桃様、
数え切れないほどに、うわべだけの敬語しか言えない荒んだ私にない暖かな優しさをくれる小桃様
あの優しさのために私は彼女を助けた。 そこから私は誇りを持つことができた。
でも、猿飛(エンヒ)さんや空(クウ)さんが家来に加わった時から不安になってきた。
私はいつかは彼女と分かれてしまうのではないか?
またあの時に戻ってしまうのではないのか?…と

それから私はあせり始めた。 
それが原因だろう… あの時罠にはまったのは…きっと…



気がつけば私は、自分の胸の内を彼女に、愛しの小桃様に曝け出していた。
「違うよ…」 彼女は泣いている
「違う…よ…
 伯ちゃんはなんにも…悪くな…い…よぉ……」 泣かせてしまった そんなつもりは無かったのに…
こんなことをしても彼女は許してくれる。 こんな私でも一緒に暮らしたいと願っている。
でも、私は鬼となってしまった。 ただでさえ犬の耳と尻尾を持つ私が鬼となれば、余計に迫害されるのは目に見えている。

そして、私が完全に目覚めた時点で彼女への欲望はもはや自分でも止められなくなっていたのだ。
もはや私は思考も心も何もかもが、もうめちゃくちゃになってしまった。


私は、王鬼の角を手に小桃様を抱え、歩く。 その方向はあの鬼変酒が入った酒壺。 その壺には縄梯子が吊るされていた。
「ごめんなさい…小桃様
 私にはこの道しか残ってないのです!」
そして、そのまま縄梯子を上り、
私は愛する主と共に落ちていった。




小桃様の肺はしばらくして、酒で満ちていった。
だけど彼女の顔はさっきの事を思い出しているのか、ひどく暗い。
壺の中に刺す光は少ない、でも私は鬼、鬼の目は暗い場所でもものを見ることができる。
そんな彼女を私は、ただ抱きしめる。

そして私は、手にしていた金色の角の根の部分を彼女の額に突き刺すように当てた。
「(ひっ! イタイ!いたいよぉ!)」 角は彼女の額に引っ付いていく。
額から生じる激痛に苦しむ彼女を、私はぎゅっと強く抱きしめる、
彼女を苦しめる罪悪感よりも、彼女が鬼に変わる恍惚感が支配していく。


それからの私はただ、「鬼になって欲しい、私と同じになって欲しい、鬼になったら私を使っていいから…」と考えるようになっていった。
鬼のような欲望は心のありとあらゆる部分を蝕んでいった。
私は欲望に忠実になっていった。 いや、欲望は更に強くなっていった。
その私の欲望は、小桃様を更に強く抱きしめる。


そして、私の願いは遂に叶うことになる、

彼女に付いている角の神経と彼女の額の神経が完全に一つになった時、彼女 小桃様の変化は始まった。
美しく、そして長い黒髪は、鮮血を浴びたかのような真紅に染まる。
程よく揃った爪は、攻撃的に鋭く伸びていく。
突然大きく開いた口は、犬歯が伸びて牙となるところを堂々と魅せる。
少しだけ発達している小さな胸は、ムクムクと大きくなって、着ていた衣服を突き破っていく。
耳は突き刺すように鋭く、一直線に広がるように長く伸びていく。
そして、皮膚の色は、真紅の髪と比べると少し薄い感じの赤色へと変色していく。

真紅の髪、攻撃的な爪、鋭く尖った牙、人外であることを示すように尖っている長い耳、赤い肌、
そして、額には最強を謳うかのような大きさを誇る、金色の一本の角
その姿はまさに鬼、いや、『大いなる鬼の王』だった。



私は、生まれ変わった彼女を抱えて壺から抜けて、そして、彼女を横にする。
今、彼女…いや、御主人様は生まれ変わるために相当な体力を使ったのだから。

しかし、御主人様は目を覚ました。
「は…く……ちゃ…ん……」 鬼となった私に、鬼となった彼女はかつての名前で呼びかける
「御主人様…」 御主人様は疲れきっているというのに、私を呼んでいる
「いっしょ…に……いて…」 御主人様の手が、私の手を求めている。 そんなことは一瞬で解かってしまった。
「はい、仰せのままに」 私は御主人様の心を安らげるために微笑み、手を重ねた。
きっと…いや、この笑顔は絶対に御主人様以外には向けないだろう……。

「ひとつだけ…いい?……」 「なんですか…」
「いまからは…わたしのこと……なまえでよんで…」 「名前で…」
「うん、はくちゃん…」 「わかりました、こもも…」

私にとって、それは約束された祝福。






そして、その後の鬼牙島、
「吉備村へはどうするつもりで…」 下っ端の鬼が、玉座に座っている二代目王鬼 小桃の前で質問をする。
小桃は不機嫌な表情をしている。この男が邪魔で仕方がないのであろう…。 玉座の隣にいるからそれがすぐ分かる。
というより、私もこの男が邪魔に思えるからだ。
「ふう、いつもの通り、飯や酒などの使えるものを根こそぎとった後に村を焼くのよ! 解かったらさっさと出て行きなさい!鬱陶しいから!!」
「は、はいっ!」 下っ端の鬼は慌てて部屋を出て行った。

「小桃、疲れたでしょう」 私はピリピリしている小桃に柔らかく話しかけた。
「まったくだよ… あの下っ端、いつまでも私と伯ちゃんの部屋にいつまでも座って、質問ばっか」
紅い長髪を指で掻き毟りながら小桃は愚痴をこぼす。
「たはは…」 私はつい、苦笑いを浮かべた。

あれから彼女は私以外の者に名を呼ばれる事が嫌いになっていた。
私も、小桃以外に『伯』という名前を呼ばれるのが大嫌いだ。

「あ、ごめんね…」 別にいいのに小桃は謝る。
「いいんですよ、私はそれを含めてあなたのことが大好きなんですから」 私の大好きと言う言葉と微笑みに小桃は頬を赤くする。
「私も好きだよ、伯ちゃん」 小桃も、私に負けじと微笑んだ。
「そうだ、伯ちゃんがいじめられた村、猿飛ちゃんと空ちゃんを使って滅ぼしたよ
 これから全ての人間は一人残らず皆殺しにするから待っててね」
小桃は嬉しそうに告げる。
「ありがとう、小桃…」 と私は感謝の意を示した。


私は幸福だ。 何故なら、小桃の笑顔も、心も、体も、全て私のものになったのだから…。
それだけで満たされるのに、彼女は私のためにいろんな事をしてくれる。
そして彼女もまた、私が彼女を求めているように、私を求めている。


「伯ちゃん、今夜も一緒にアレしよう!」 小桃はねだる。
鬼になって始めて私と交わりあった彼女は、夜が好きになっていた。
それは私も同じ事、愛おしい小桃の事をたくさん求めれるのだから………
だから私は答える、「そうですね、今夜は一緒に求め合いましょう」と。
「やったあ!」 わぁいと喜ぶ彼女の姿を見ると私も嬉しくなっていく。


私は願う、この幸せがずっと続きますように、と。
小桃が鬼となり、私の心が彼女で満たされるまで願い事なんてしなかった私の、小さな願い……。

【終】