無題

「ったく…なんだってのよこの森は…」

右を向いても左を向いても木ばかりで、ちっとも先が見えてこない。
「な〜にが初心者用ダンジョンみたいなもん、よ」

嘘つき。

近くの街でかつてハンターだったと言うオジサンの言葉を鵜呑みにしたばかりに、かれこれ3時間、この森で迷っている。


ガサッ
物音に振り返ると、剣をこちらに向けた女が立っていた。
「…何者?」
鋭い眼光と言葉を私に向ける。
「あなたと同じよ。ホラ」
首から銀の十字架のネックレスを見せる。
「……すまない」
すぐさま女は刀を下ろす。
銀の十字架は対吸血鬼ハンターにしか装着の許されないもの。
女の首にはそれが見えたのだ。

「いいのよ、気にしないで。…それよりあなた、出口知らない?」
「私も探してるが…もう何日歩き回っているか…」

まだ二十前ほどにしか見えない女の服には少し汚れがついていた。
おおかた私と同じように騙されて来たのだろう。

「ねぇ、よかったら一緒に出口、探さない?」
「…そうだな…」
三人よればなんとやら、まぁ一人足りないが迷いまくっていた私にとっては百人力にも等しかった。
「私はセレス。よろしくね!」
「……私はマリア。よろしく」


マリアの後についていくように歩く。
若そうなのにしっかりしてるわ…。


とはいえやはりそう簡単に出口は見つからない。
日も暮れかけ、空にはハッキリと月が現れる。
「…嫌な色…」
マリアの言葉に空を見る。
まるで血のような紅。

「なんだか怖いわね…」
「……あぁ。…もうしばらく歩いてみるか」

それからしばらく経ち、私たちは遠くにおぼろながら松明がチラチラ燃えているのを見つけた。

「街かしら?」
「…行こう」

行き着いた先は一軒の家だった。
石造りの質素な家。
中には明かりが灯っておりおいしそうな匂いが漂ってくる。

「…すまない」
マリアがドアを叩くと、ゆっくりと開く。
「…誰でしょう?」
大人しそうな少女がおずおずと尋ねた。
首には銀の十字架、どうやら同業者らしい。

旅のいきさつを話すと、中に迎え入れてくれた。
「急いでスープを作りますね」
少女の名はクレアと言うらしい。
父親がこの近くで狼狩りを行うため嫌々吸血鬼ハンターにならされたそうだ。

「どうぞ」

赤く血のようなスープを出される。
「街で買ったばかりのトマトを煮たんです。お口に合いますか?」

ごくん。
空きっ腹にスープが入る。
こんなおいしいスープ飲んだことがない。

「すっごい美味しい!」ガツガツと食べ終わると、温かさのせいか急に眠くなった。



「…んんっ…あっ……」
マリアの…声?

「…します…から……してぇ」

何…言ってるの?

ぼんやりと目を開けた刹那、頭が警鐘を叩き鳴らす。

「お願いしますぅ…もっと吸ってぇ!!」

マリアが惚けた顔で地べたに座りビクビクと体を震わせていた。
体に優しく手を回し、首元に舌を這わせていたのは………クレア!

「はっ……ぁぁぁあいやぁっ!!…ダメぇっ」

体がガクンガクンとのけぞる。
今まで感じたことのない気持ちよさ。
マリアからの愛撫もだけど、
クレアからはどんな人間にも与えることのできない快感を受ける。

「あひぃっ…いやぁ!!こわれちゃうぅぅ!」

「私に永遠の隷属を誓いなさい、セレス」
「だ…誰……が」


最後の一欠片の理性が反発する。


「隷属を誓いなさい」
甘美な声の響き。

……私は……
……私は…

……吸血鬼になっちゃうの…
何も考えたくない……
クレア様が幸せをくださる……


「なりますぅっ!!クレア様のものになりますっ!!」

体の隅までクレア様のモノになり、
私は果てた。



次に目が覚めたら…
私は永遠にクレア様のモノ…


end