闘え!聖界戦隊サイヘンジャー

とくめー注:2007年11月 ただいま自民党及び民主党迷走中

『闘え!聖界戦隊サイヘンジャー』

=これまでのあらすじ=

平和な地球に突如魔の手を伸ばし始めた異世界からの侵略集団ミンジュー。
ミンジューは手始めに、地球の裏の世界である聖界を侵略し尽くして世異界(せいかい)とし、そこから
数多の世異怪人(せいかいじん)を送り込んで地球もその手で絶望に染め、支配しようと目論んでいた。
だが、聖界が支配される寸前に逃げ出した一人の少女、リリアムの手によりもたらされたたった一つの希望の証
『サイヘンシンボル』
このサイヘンシンボルを託された福田康代、小泉ジュン、麻生多美の三人はサイヘンジャーへと変身し、
日々悪の世異怪人と戦っているのだ!
そして、普段は世異怪人の指揮をとり侵略活動の一翼を担うミンジュー4大幹部の一人、コワッシ将軍
を激闘の末に打ち破り、捕縛することに成功した。
しかし、コワッシ将軍のマスクを外したとき、三人の顔は驚愕に包まれた。
なぜならコワッシ将軍の素顔は、数ヶ月前三人の前から忽然と姿を消したクラスメート、小沢いちごだったからだ…

=ここまでがあらすじ=


「くそぅ、いつまでこのような辱めを!いっそのこと殺しなさい!」
縄で両手両足を縛られたコワッシ将軍=いちごを前に、康代、ジュン、多美の三人はただ呆然としていた。
「なんで…、あの優しいいちごがこんなことになっちまったてんでぇ!」
気風のいい姐御肌といった風体の多美が、いかにも江戸っ子といった口調で悔しさを滲ませながら壁をどんどん叩いている。
「リリアム、これもミンジューのしわざなのでしょうか?」
いつもおっとりとしていて優美さを崩さない康代が、聖界の生き残りであり三人のアドバイス役でもある
リリアムに尋ねかけた。
リリアムは30cmに満たない体に背中に羽が生えている、まるで妖精のような姿をしているが、その
知識量は非常に豊富で、三人が困ったときに何かしらいい助言を与えてくれている。
康代もそれ故に尋ねかけたのだが、リリアムは厳しい表情を崩さずいちごを見続けている。
「リリアム?」
再度康代に声をかけられ、リリアムははっと我に帰ったのか康代の方へ向き直り、その口を開いた。
「多分…、この人はミンジューによって捕らえられ、ミンジューの意識を刷り込まれたんだと思います。
私たちの聖界が襲われたときも、ミンジューは聖界の人々を捕らえては自分たちの手駒にし、侵略を進めてきましたから」
リリアムの言葉に、三人とも顔の色を失った。
「じ、じゃあミンジューは、侵略する世界の人間を使って、征服活動をするというんですか!」
普段から甲高い声のジュンが更に高い声を上げてリリアムに声をかけてきた。
「断定は……、できませんが……」
リリアムもミンジューの全てを知るわけではない。今はこう答えるのが精一杯なのであろう。
「こんなこと、許せません!断固として、私たちはミンジューに対し、毅然とした行動をとらなければなりません!」
「てやんでぇ!ミンジューの奴らぁ、ぜってぇに許せねえぜ!」
「…………」
ジュン、多美の二人が息巻く中、康代だけはあまり表情を崩していなかった。
「リリアム……、いちごさんを元に戻すことはできないのでしょうか?」


「元に……戻す?」
「はい。ミンジューがいちごさんの意識を作り変えたならば、私たちの手で元のいちごさんの意識を
呼び戻すことも、できるのではないかと……」
「おおっ!そいつはいい考えだぜぇ!」
康代の言葉を聞いて、ぱっと顔を輝かせた多美が腕をぶんぶんと振り回しながらいちごに近づいていった。
その物々しい雰囲気にコワッシも顔を強張らせる。
「貴様!何をするつもりだ…」
「記憶を取り戻すには、昔からこの手しかねえだろうが!」

ボカン!!

多美の右手から振りぬかれたチョッピングライトがコワッシの頬に見事命中し、哀れコワッシは三メートル先の
壁まで吹き飛ばされてしまった。
壁に大きなひびがびしりと入り、そのままコワッシはその場に崩れ落ちた。
「よっしゃ、これだけ力いっぱいぶん殴ればもとのいちごに戻るだろうよ」
得意満面にガッツポーズをする多美に、ジュンが半ば呆れながら呟いた。
「多美さん、それは記憶喪失の人間を、元に戻す方法ではないのですか?」
「ああ、別にかわりゃしねえだろ?目的は記憶を取り戻すことなんだから」
確かに目的は同じだが、根本的に何かが間違っている。
リリアムが恐る恐るコワッシのもとに飛んでいき安否を確かめる。もちろんコワッシはぴくりとも動かない。
「多美さん…。コワッシ将軍、記憶を取り戻すどころか気絶しちゃいましたけれど……」
「ありゃいけねえ、ちょっと力強くぶん殴りすぎちまったかぁ」
すまなさそうに頭を掻く多美に、他の三人は一様にあきれた表情を浮かべた。

「なんて野蛮な連中なの?!何も言わずいきなり殴るなんて!!」
数分後、コワッシは意識を取り戻したがもちろんいちごには戻っておらず、いきなりぶん殴った多美に
対し、つらつらと悪態を叩いていた。
「そもそも、殴るくらいで記憶が戻るんだったら苦労はしませんよ」
「!」
冷ややかに自分を見るジュンにカチンときた多美は、元々昇りやすい血がたちまち沸点まで立ち上り、
顔を真っ赤にしてジュンに食って掛かった。
「んだとぉ!じゃあジュン、手前いちごを元に戻す方法がわかるってのかよ!」
「そんな事、私に聞かれてもわかるはずが無いじゃないですか!!」
「じゃあいつまでもグチグチ×2つまんねえ口叩いているんじゃねえ!」
今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな二人を無視し、康代は優しげな表情を浮かべたままコワッシの元へ近づいていった。
「いちごさん………」
「さっきからいちごいちごって…。私はミンジューの誇り高き将軍コワッシだ。いちごなんて名前ではない!」
コワッシの言葉に、康代はひどく悲しげな顔を浮かべながらも、なおもコワッシへと歩を進めた。
「やめろ、くるな!」
「ねえ、いちごさん。本当に、忘れてしまったんですか?私たちは学校で、いつも仲良くしてきたじゃありませんか。
思い出してください。私たちのことを、この地球のことを…」
「や、やめろぉ…」
コワッシは動揺していた。
今まで敵としてしか認識していなかったサイヘンジャー。その正体を知ったのはつい最近のこと。もちろん
面識などあるはずも無い。しかし、
(私は………、この顔を知っている?!)
知っているはずがない。ないのだが、その面差しを見るにつれ自分の心の中の引き出しのどこかにしまわれているような
感覚が全身を貫いてくる。
「お願いです。思い出してください。昔の、優しいいちごさんに戻ってください………」
康代が涙目でコワッシの瞳を覗き込む。目の前に佇むその瞳を見ていると、コワッシの心を占めている
憎悪の炎が次第に勢いを失っていくのが実感できる。


「う…、うぁ………」
コワッシの心は今混乱の極みにあった。敵に対して涙を見せる。こんな相手にはあったことも無かった。
それに対して、自分はどういった反応をとればいいのか。どうすればいいのか。全く分からなかった。
「お願いです……。お願いです!」
康代はとうとうコワッシを両手でガバッと抱きしめ、ぎゅっと包み込んだ。はらはらと流れる涙が頬越しに
コワッシへと伝わっていく。それはまるで、コワッシが涙を流しているみたいだった。
「な、なんでなの…、なんで、私に……」
いや、コワッシはいつの間にかその双眸から熱い涙を流していた。何故かは自分にも理解できない。ただ
康代が自分に対して向けている想いが、コワッシの胸を一杯に埋め、自分でも理解できない涙を生んでいた。
その涙が頬を伝い、顎へ溜まり、流れ落ちてゆく。
そして、その涙が康代の胸に止めてある、何かに触れた。

その時、二人の胸の間が突然神々しく輝き始めた。
「きゃっ!」
「な、なんだこの光は!」
よくみると、光は康代の胸に止めてあるサイヘンシンボルから放たれていた。希望の証であるサイヘンシンボル
が、康代の希望を捨てない心に反応し、コワッシ=いちごの涙を受けて康代の希望を呼び覚まそうとしていた。
「あ、あががああぁぁぁ………」
コワッシは光に炙られて体をガクガクと揺すらせ、必死に光から逃げようとしている。しかし、康代に
がっしりと体をつかまれているのでどうすることもできない。
やがて、コワッシの体からどす黒い靄のようなものが涌き昇り、光に当てられてジュッという音と共に消え去った。
靄が完全に出きった後、コワッシは全身から力を失いガクッと康代の腕の中で意識を失った。


「ん………」
ほんの数分の間だったろうか。コワッシは康代に抱かれたまま気を取り戻した。
が、その雰囲気は気絶する前とは全然異なっていた。
見るものを気負する鋭い目つきは柔和なものにとってかわり、顔に浮き出ていたシャドウのような模様は
一切合財消え失せている。
「あれ………、康代ちゃん……?!」
コワッシが知らないはずの康代に『康代ちゃん』と声をかけた。
そこにいるのはもはや侵略組織ミンジューの将軍コワッシではなく、三人の知り合いである小沢いちごその人だった。
「…!い、いちごさん!!」
自分の名前がいちごから発せられたことに康代は顔を輝かせ、先ほどまで流していた涙を再び溢れさせ
いちごを力いっぱい抱きしめた。
「いちごさん、いちごさん!いちごさん!!」
「い、痛いよ、康代ちゃん……!」
まだ事態をよくつかめていないのか、いちごはわんわんとなく康代に目を白黒させている。
その光景に、今の今までつかみ合いの喧嘩をしていた多美とジュンもその手を止め、二人に駆け寄ってきた。
「すげえじゃねえか康代!おめえのこと、ちったぁ見直したぜ!」
「実に素晴らしい、感動しました!」
多美もジュンも、その目には涙を浮かべている。
世界を救う希望の証であるサイヘンシンボル。どんな小さなものであれ、『希望』を捨てないものには
力を貸し、その願いをかなえる。
康代、ジュン、多美のいちごへの想いが、ミンジューによって囚われたいちごの心をサイヘンシンボルを
通して取り戻すことが出来た。
決して絶望に捕らわれず希望を捨てない心が、この奇跡を起こしたのだ。

お待たせしました。聖界戦隊サイヘンジャーの後編です。


『闘え!聖界戦隊サイヘンジャー』

=これまでのあらすじ=

平和な地球に突如魔の手を伸ばし始めた異世界からの侵略集団ミンジュー。
ミンジューは手始めに、地球の裏の世界である聖界を侵略し尽くして世異界(せいかい)とし、そこから
数多の世異怪人(せいかいじん)を送り込んで地球もその手で絶望に染め、支配しようと目論んでいた。
だが、聖界が支配される寸前に逃げ出した一人の少女、リリアムの手によりもたらされたたった一つの希望の証
『サイヘンシンボル』
このサイヘンシンボルを託された福田康代、小泉ジュン、麻生多美の三人は

『天空舞う清廉なる白翼』サイピジョン
『地を駆ける雄々しき金獣』サイライオン
『海に咲く麗しき赤輪』サイローゼン

サイヘンジャーへと変身し、日々悪の世異怪人と戦っているのだ!
激闘の末に捕らえたミンジューの4大幹部、コワッシ将軍は、なんと三人のクラスメートであり行方不明
となった小沢いちごだった。
コワッシは、三人の必死の説得とサイヘンシンボルの持つ希望の力で、ミンジューよって与えられた邪悪な
息吹を浄化され、小沢いちごへと戻ることが出来た。
そして…

=ここまでがあらすじ=


「それでは、ミンジューのことは何も覚えていないというのですか…」
「ごめんなさい……。
あの時、突然目の前に真っ黒な壁が出来て、そこから出てきた手に引きずり込まれて………
その後のことは、何も…」
小沢いちごをミンジューの呪縛から解き放った福田康代は、いちごの言葉に肩を落とした。
これまで自分たちはミンジューと戦ってきたが、実を言えば自分たちはミンジューのことを何も知らない。
リリアムも敵としてのミンジューは知っていても、その内部がどうなっているかまでは流石に知る由も無かった。
しかし、目の前のいちごは今までミンジューに捕らわれ利用されてきた存在である。彼女からミンジュー
の概要が少しなりとも聞き出すことが出来たら、今後どれほど役立つことか。
が、いちごは何も覚えていないという。
「多分、元の人格に完全に別人格が上書きされていたんでしょうね。コワッシという人格がサイヘンシンボルで
浄化されてしまったから、ミンジューにいた時の記憶も一緒に消えてしまったのよ」
リリアムが仕方が無いといった感じで三人に話し掛けてきた。
「ま、ここはいちごが元に戻ってきたことでよしとしようぜ。ぐだぐだ考えても始まらねえじゃねえか」
「その通りです。過去に起こったことをいつまでも悔いるより、私たちは未来に向って進まねばなりません!」
「………、そうですね。いちごさんをミンジューから救い出した。それこそがなにより幸いなことなのですから」
多美とジュンの励ましに、康代も気を取り直した。
もしかしたら、まだミンジューにはいちごのように捕らわれ手駒にされている人たちがいるかもしれない。
その人たちを救い、一刻も早くミンジューを倒さなければならない。
リリアムのように自分の世界を絶望に覆わされ、奴らに奪われてはならない。
康代たち三人は、自分たちの使命を今ひとたび思い出して、そのことをグッと心に誓った。


いちごが元に戻って数日が過ぎた。
最初のころは自分がミンジューによって捕らえられ、ミンジューの幹部コワッシとして悪事を振るっていたことに
対してショックを受けていたいちごだったが、康代たちの心のケアと周りの雰囲気に徐々に本来の明るい
心を取り戻していった。
そして、いつもの学校生活を取り戻しつつあった時、それは起こった。

いちごが部活動を終え、夕日が差す道路を一人家路につこうとしていたとき、突然目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
歪曲した空間は中心の一点から徐々に外へと広がっていく。視界内に広がる景色が無理やり引っ張られ、
替わりに現れるのは、果てしない闇。
「?!」
突然の出来事に当惑するいちごだが、すぐにある恐ろしいことを思い出した。
「こ、これって……、私がさらわれたときと、同じ………」
果たせるかな、いちごの前に広がった『闇の壁』から巨大な手が『ぬっ』と伸び、いちごの体を鷲掴みにする。
「きゃあぁっ!!康代ちゃ………」
悲鳴を上げる間もなく、いちごは闇の空間へと引っ張り込まれていった。
そして、いちごが消えた直後に闇の壁もふっと消え去った。
そこには、つい一瞬前まで小沢いちごがいたという痕跡は全く残っていなかった。


私たちが住む世界とは反対側にある世界『世異界』に存在する侵略組織ミンジューの拠点、伏魔殿。
元は聖界の中心にあった美しい神殿だったが、ミンジューの侵攻で真っ先に陥落してしまい、その外観を
おどろおどろしく変貌させ、中にいた人間は例外なく世異怪人に変貌させられている。
そして、ここを中心としてミンジューは聖界全体をその手に収めることに成功していた。
余談ではあるが、世異界から逃げ出す前にリリアムはこの神殿で働いていたりする。

その伏魔殿の奥の奥、衆欺の間に捕らえられた小沢いちごと沢山の蠢く影があった。
だだ広い衆欺の間の一番奥、周りより一段高いところにいるのは侵略組織ミンジューを束ねる『大勲位ヤース』。
その姿は妙齢の麗しき女性に見えるが、5mを越す巨躯と厳しい顔立ち、そして全身から漂う邪悪な気配が
ある種の威厳となって場の空気を支配している。
そして、その下に虎の威を借る狐のように寄りそっているのが、腹心である『神官長ナベッツ』。
実は以前はは聖界の高位の神官だったのだが、元々持っていた独善的な性格に加え、ヤースの美しさと強さに
完全にほれ込み、聖界を裏切ってヤースの元に付き聖界侵略の一翼を担っていった。ある意味、聖界が
ミンジューに苦もなく征服された一番の元凶ともいえる。
そして、いちごを捕らえている三人の女将軍、『オヘンロー将軍』『ポッポ将軍』『ジャスコ将軍』。
いずれも一騎当千として知られる猛者で、いちごがコワッシとなっていた時、上記の三人と合わせて
4大幹部を形成し、地球侵略の尖兵となっていた。
「いやあぁ!離して!ここから出してぇ!!」
いちごは恐怖のあまり、大声で泣きじゃくって必死で抵抗を試みる。が、オヘンローに後ろでに捕まれた腕は
びくともせず、その場で空しく体をくねらせるだけで終わっている。
「なんということ。コワッシがいつまでたっても帰ってこないからと探りを入れたら、まさか人間に戻っていようとは」
ヤースが信じられないといった感じでいちごを見る。
「他の世異怪人と違い、お前達4大幹部は私自らが世異怪人へと生まれ変わらせたもの。まさか、
私の力を上回る力をもつものが、向こうには存在するというのか」
そう、オヘンローもポッポもジャスコもいちごと同じく元はごく普通の地球人だったのだが、ナベッツの
手によって世異界へと拉致され、身も心も世異怪人にされてしまっていたのだ。
「…おそらく、サイヘンシンボルの力でしょうな」
ナベッツが苦々しい顔をして呟く。
「かつて、この神殿の象徴であり聖界の『希望』の証だったサイヘンシンボル。その秘められた力が解放されれば
いかなる奇跡を起こすか、私にも想像がつきませぬ」
ナベッツの言葉に、ヤースは元もと険しい顔を更に醜く歪ませた。


「おのれ!またもサイヘンジャーか!あの忌々しい連中め!あやつらさえいなければ、あの世界もとうに
我らミンジューのものとなっているはずなのに!」
ヤースの体が怒りでわなわなと震え、その髪の毛が逆立つ。
「オヘンロー!ポッポ!ジャスコ!
貴様らも不甲斐ないとは思わぬのか!いかにサイヘンシンボルを持っているとは言え、たかが人間を
撃ち滅ぼせないとはどういう道理か!」
ナベッツがいかにも自分はヤースの言葉を代弁しているかのような言い方で三将軍を糾弾する。が、
はっきり言って三将軍は世異怪人でもないナベッツに忠誠心などこれっぽっちも持っていない。

(たかが人間、ですって)
(あんただって、そのたかが人間じゃないの)
(私たちは大勲位様の手で洗隷異(せんれい)を施して貰ったのよ。本来あんたなんかとは格が違うのよ)

三将軍が自分に向ける冷たい視線をあえて無視し、ナベッツは誰に向けているでもない不満を爆発させている。
「大体貴様も貴様だコワッシ!せっかくヤース様のお力で世異怪人に生まれ変わりながら、おめおめと
人間に戻ってしまうとは!」
あまりにも理不尽な怒りをぶつけられ、泣き叫んでいたいちごもさすがにカチンと来てしまった。
「だ、だれがあなたたちの仲間にしてくれって言ったのよ!無理やりさらって勝手に手先にして!
あなたたちのせいで、私は康代ちゃんと戦ったりしちゃったのよ!」
「ヤスヨ……?、誰じゃそれは?」
さらりといちごはとても重要なことを口走ってしまったが、興奮しているいちごはそれに気づくよしもない。
「あなたたちなんか、康代ちゃんたちがぱっぱと倒しちゃうんだからぁ!!」
最早むきになっていちごは周りを囲むミンジューの幹部連に喚き散らしている。
その後も自分も回りも何を言っているのか理解できないほどの早口と怒声で捲し立て、最後はゼェゼェと
息を切らせて独演会を終了した。
「コワッシよ、長々とした演説ご苦労」
ヤースがあきれた口調でいちごに対し労をねぎらった。もちろんいちごにとっては余計なお世話である。
「私はコワッシじゃない。私は小沢いちごよ!」
先ほどまでの高揚した気分が抜けていないのか、いちごは力の限りヤースを睨みつけ声を張り上げた。
が、ヤースは意にも介さない風にとってかえしてくる。
「お前がどんな名前かなど、別にたいした問題ではない。
お前はまた、我らの下へと戻るのだからな」
「え…………」
ヤースの言葉に、いちごの顔は一瞬にして真っ青になった。
「この伏魔殿に連れて来られた以上、まさかそのままもとの世界に戻れると思ってはいまい。
お前は今一度世異怪人となり、地球侵略の尖兵となるのだ」
ヤースが下した宣告に、いちごは全身をがくがく震わせ、全身の力をくたっと抜いてしまった。オヘンローに
支えられていなければ、そのまま床にへたり込んでしまっていたことだろう。
「い、いや………。もう、もう自分が自分でなくなるなんていや………いやぁ!」
自分でも知らないうちに別の人格にされ、康代たちと刃を交わしていた。自分でその時の記憶はなくとも、
それを行っていた現実は変わらない。
また自分の人格が塗りつぶされ、敵の言いように利用されてしまう。そのことは堪え難い屈辱だった。
が、
「安心せい。今度はお前の記憶を奪ったりはせぬ」
ヤースの言葉はいちごにとっては意外なものだった。
「え…?!」
ヤースの真意がわからず当惑するいちご。が、次のヤースの言葉を聞いていちごは目の前が真っ暗になった。
「お前の人格を以前のように上書きしてしまっては、『ヤスヨ』とやらが誰だかわからなくなるかな…」
「!!」
この時、いちごは自分の迂闊さを心底呪った。


康代たちがミンジューのことを殆ど知らないのと同様、ミンジューもサイセンジャー=康代たちのことを
詳しくは知らないはずなのだ。
が、ここで自分が康代たちのことを話してしまってはミンジューの攻撃の矛先が普段から康代たちに
集中されることは火を見るよりも明らかなのだから。
「さあ、再びお前に洗隷異を施してやろう………。こちらにくるのだ」
ヤースが手招きをしていちごを促す。オヘンローに掴まれていた腕を解かれ、ドン!と背中を押されて
前に突き出されたが、当然いちごは前へ進もうとはしない。
「いや…いや!助けて、康代ちゃん!」
逃げようとしても前には三将軍、後ろにはヤース。どこにも逃げ場は無い。
「諦めなさい、コワッシ」
「もう、あなたはこちら側に来るしかないのよ」
「また一緒に、侵略する悦びを味わいましょうよ」
三将軍の言葉がいちごの心にずぶずぶと染み渡ってくる。わずかばかりの希望も絶望という名の暗黒によって塗りつぶされてゆく。
「あ……うぁ……」
いちごは逃れようの無い現実を認識しつつも、なおそれを受け入れることをできず、ただ頭を抱えて膝をつき
丸くなって震えていた。
「分かる…分かるぞ。お前の心が黒く染め上げられていくのが。それでこそ、我らの仲間に相応しいものよ」
伏魔殿に漂う瘴気がヤースの手によって凝集され、一本の綱のようになっていちごの周りを覆ってゆき、
両耳からずるずるっといちごの中に入っていった。
「ああああぁっ!!」
体の中に入ってくるどす黒く、冷たい瘴気の感覚にいちごは魂も引き裂かんばかりの悲鳴を上げた。
自分の体の中が瘴気に陵辱され、真っ白だった腹の中がじくじくと黒く染められてゆく。
「あああ…あぁ…ぁ………」
最初の頃こそ侵食される恐怖に慄いたが、心の中が染められてゆくにつれ恐れる心も塗りつぶされ、
やがては全ての感情が黒一色に塗りつぶされてゆく。
それにつれいちごの顔から表情が消え、目の光が失われていった。
「……………」
やがて、いちごの周りにあった瘴気の綱は全ていちごの中に収まって消え去った。
「さあ、こちらに来るがよい」
ヤースの言葉に反応したいちごはゆらりと立ち上がり、ヤースのほうへと振り返った。
その表情には意思の気配が感じられず、ただヤースに命じられたままに階段を昇っていっていった。
「さあ、いちごよ。私の胎内でまた再び異世怪人として生まれ変わるがいい…」
いちごの前に佇んでいるヤースの腹が粘液を滴らせながら4つに裂け、真っ黒な臓物と触手を覗かせている。
そこから複数の触手がいちごに向って放たれ、たちまちいちごは触手にがんじがらめにされてしまった。
普通ならおぞましさのあまり発狂してもおかしくないところだが、感情を塗りつぶされているいちごは
何の抵抗もすることなくすんなりとこの状況を受け止めている。
いちごを拘束した触手は再び収縮し、ヤースの体内へと戻りつつあった。ヤースの臓物の一つがぐぱぁと
開き、触手ごといちごを飲み込もうとしている。
「この中でお前に以前より更に素晴らしい体と力を与えてやろう。光栄に思うがいいぞ」
もはや半ばまで自身の胎内に埋没したいちごの表情をヤースは見ることは出来ない。が、ヤースの言葉を
聞いたいちごは、僅かながらその表情を笑みで歪めた。が、同時にその瞳は涙で濡れていたようにも見えた。
だが、それをよく確かめる間もなくいちごの体はヤースの胎内へずぶずぶと消えていった。


おかしい。
康代は、今日登校してきたいちごに妙な違和感を感じていた。
級友が話し掛けてもあまり反応せず、常に俯いてニヤニヤしている。なにかぶつぶつと細かいことを
話しているが、声が小さいので聞き取ることが出来ない。
休み時間にふっと教室の外に出ていったかと思うと、授業の半ばで戻ってきて先生にしこたま怒られていたりする。
が、そんなことを意にも介さないのか平然と自分の机に戻ると、また俯いてニヤニヤしている。
(どうみても、いつものいちごさんじゃない…。なにがあったのかしら……)
いちごを救い出して以来ミンジューの侵略は控えめになっており、康代たちも普通の学園生活を送ることが出来るようになってきている。
ようやっと一息つけたと思っていたら、突然沸いてきたいちごへの違和感。
本人に直接問いただしてみたいが、そのきっかけもつかめずやきもきしていた康代に、放課後いちごの
ほうから康代に近づいてきた。
「康代ちゃん……」
「あっ……、どうしたんですかいちごさん。今日のあなた、どことなくおかしい……」
「そのことで…、ちょっと相談したいことがあるんです。お時間、いただけます?」
いちごの表情には、さっきまでのどこか呆けた感じはなく切羽詰った表情をしている。
(やっぱり…、何かがあったんだわ!)
いちごの表情からただ事でないことを感じ取った康代は、がたりと席を立った。
「ええ、構いませんよ。それで、どういう相談を…」
「ここでは話しづらいことなんで、ちょっと……」
いちごは済まなさそうに康代を見ると、自分についてくるように促した。


いちごの後を追いかけていき、辿り着いたのは体育館の脇にある花壇だった。
(そう言えばいちごさんは園芸部に所属していましたね。ここなら落ち着いて物事を話すことも出来るのでしょう)
「それでいちごさん、相談とは?」
康代の言葉に、いちごは反応しない。康代に背中を見せたままぼーっと突っ立っている。
「いちごさん?」
康代が再度呼びかけても、いちごはこっちを振り向かない。
「ねえ、いったいどうし………」
さすがにおかしいと思った康代がいちごに近づき、その肩にぽんと手を置いたとき、
いちごは突然がばっと振り返り、康代の唇に自分の唇を重ねてきた。
「?!〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
あまりの不意打ちに康代は反応することが出来ず、易々と唇を奪われてしまった。
自分が何をされているのか理解する間もなく、いちごは康代の頭をがっしと捕らえ康代の唇の中へ侵入を試みる。
いちごの舌が無理やり康代の唇をこじ開け、口腔内を侵しはじめた。
「ンゥッ!ンググゥ………」
いちごから、同性からキスを受けている。そう康代の頭が理解したとき、もう状況は後戻りできないところまできていた。
「ンッ、ンンッ……」
いちごの舌が康代の舌と絡まる。頬の裏を舐め回される。上顎を擽られる。
口の中を征服され感覚。当然今までこんな体験をしたことなどなく、どう受け入れればいいのか分からず
康代の頭は軽いパニック状態になっていた。
(こ、これどういうことなんですか?いちごさんが、い、いきなり私にキスを………)
だが、やがて康代の中に滲入しているのが舌だけではないことが分かり始めた。
いちごの舌を通して、なにか甘いものがとろとろと流れ込んできている。
(なにこれ………、甘い?!)
濃厚な甘味にわずかばかりの酸味。苺ジャムのそれに似ているが濃度ははるかに上回る。
頭を抑えられ口を奪われている現在、康代はその滲入を防ぐことは出来ず、喉にドロドロと流れるそれを
無理やり嚥下させられていく。
「ングッ、ングッ………」
康代の喉がごくり、ごくりと蠢くのを見てから、いちごはようやっと満足そうに唇を離した。
「ぷはぁ………」


長い長いディープキスから解放された康代は、心ここにあらずといった表情でいちごを見ている。瞳は
軽くとろんと垂れ下がり、開けっ放しの唇からは荒い息を吐いている。
「うふふ、どうでした?私のキス…」
「い、いちごさん……、どうして……」
康代は未だに信じられないといった感じでいちごに問い掛けた。眼前にあるいちごの表情は今日ずっと
見せていた呆けたような…いや、それよりももっと蕩けていた。
「康代ちゃん……。この前私を、助けてくれたじゃないですか……。その、お・れ・い、です」
「お、お礼って……」
お礼がキスだというのだろうか?
「康代ちゃん、私、とぉっても感謝しているんですよ。ミンジューから助けてくれた康代ちゃんのこと
とってもとっても感謝して、嬉しくて、愛しくて………、大好きで………
だから、お礼のキスなんですよぉ」
いちごは康代のほうへ体重を預け、どさりと康代を押し倒した。下の芝生がクッションになってそれほどの衝撃は感じない。
康代に馬乗りになるいちごがぺろりと自分の唇をいやらしく嘗め回した。その顔はどう見ても自分を
助けてくれた人間への感謝をこめたものではなく、獲物を前にした猛獣のそれである。
(ああ……、お礼なんですか。でしたら、納得できますね……)
しかし、康代はいちごの言葉をすんなりと受け入れてしまった。なぜかはわからない。ただ、いちごから
口移しに飲まされた甘いもの。あれを体内に入れてからどうも頭がぼーっとして、思考することを億劫に感じている。
「ですから……、好きな人にこうするのは当然なんですよ」
そういうと、いちごは再び康代に唇を重ねてきた。甘く熱い唇の感触が康代の全身を駆け抜ける。
そして再び、康代の口の中に甘い液体が流し込まれてきた。それも、先ほどまでのとろとろとした量ではなく
ごぼごぼと咽るほどの量が絶え間なく。
(あ、甘い!喉が……焼けそうです!
でも、美味しい!もっと、もっと飲みたいです!)
「んぐ……んぐぅ………」
絶え間なく流し込まれるそれを、康代は息が続く限り飲み続けた。それでも口に収まりきらないそれが
唇から溢れ、地面へと滴り落ちていく。
地面へと落ちていくそれは……、真っ黒な色をしていた。
やがて、黒い糸を引いていちごの唇が離れたとき、康代は霞がかかった瞳を不満げに曇らせた。
「あ………、いちごさん、もっと……」
「うふふ。私の特製の苺エキス、すっかり気に入ったみたいですね」
いちごは今までの表情とは打って変わって、康代を見下すかのように睥睨している。
「これでもう康代ちゃんは私のエキスなしではいられない体になってしまったんです。
これで、もうサイヘンジャーになる必要もなくなったんですよ」
「サイヘンジャーに、なる必要が、ない………?」
体内で火照る熱がどんどん昂ぶっていく中、『サイヘンジャー』という言葉を聞いて康代は僅かに正気を取り戻した。
「そうです。これから康代ちゃんは私の仲間になって、地上を世異界に変える手伝いをして貰うんですから……」
もういちごは邪悪な力を隠すことなく、康代の前に立っている。周りの空気がビリビリと張り詰め、
人ならざる気配があたりに広まっていく。
「い、いちごさん………、あなたは………」
「あら康代ちゃん、まだ正気を保っているの?さすがはサイヘンシンボルに選ばれた人間だけはあるのね。
まあ、そのほうが楽しめるけれど」
その時、いちごの制服がパン!と内側からはじけた。その下からはいちごの裸体が…
現れなかった。
いちごの体は無数の苺の蔓で被われていた。二の腕と太腿から先は葉が変化したような手袋&ブーツ状の
葉脈で被われ、ところどころから色とりどりの苺が成っている。蔓はまるでそれ単体に意思があるかのようにざわざわと蠢いている。
「いちご?私はもう『小沢いちご』なんて名前は捨てたの。
今の私はミンジューの世異怪人『ブラックベリー』!この地上を世異界に作り変えるため遣わされた者!」
「!!」
誇らしく自己紹介をするいちごを、康代は愕然とした面持ちで見ていた。


「そ、そんな………。いちごさん、あなた、また………」
「そう、あなたたちの力で私は一回人間に戻されてしまった。けれど、偉大なる大勲位様は再び私を
世異界にお導きくださり、私に新しい体と力をくださったの。
どう?この体、素晴らしいでしょう?」
いちごはうっとりとした表情で自らの体をさわさわ撫で上げた。いちごの感情を読み取ったのか、覆って
いる蔓も悦んでいるかのようにうぞうぞと蠢いている。
「な、なんてことを……」
やはり少し警戒するべきだったのだ。いちごの様子がおかしいのは最初からわかりきっていたことなのに
何も考えずのこのこ付いてきて、こんな事態を招いてしまった。
「いちごさん………、少し我慢してください……。また、元に戻してあげますから………」
燃えるように熱い体を何とか動かして康代はその場から立ち上がった。震える足を必死に押さえ、胸の
サイヘンシンボルに手をかざそうとする。
「おっと。変身なんてさせないわよ!」
康代の変身を阻止せんといちごの手から伸びた蔓が、康代がサイヘンシンボルに触れるより前にそれを
胸から弾き飛ばした。
弾けとんだサイヘンシンボルはころころと転がり、横の苺の花壇へと消えていった。
「あっ!」
転がっていくところを目で追った康代は、一刻も早く取り戻そうと倒れこむように花壇の方へと脚を向けた。
そして、捕ろうと手を伸ばしたとき、
目の前の苺花壇が、ぬっと立ち上がった。
「!!」
そのとき康代は思い出した。この学校の花壇に、苺の花壇などなかったということに。
「こ、これは?!」
「ア、アァ、アアァァ………」
目の前に立ちはだかる苺花壇。それはよく見るとこの学校の生徒だった。苺の蔓の切れ目切れ目に学生服や
人間の皮膚が目に入ってくる。ただ、その目は完全に光を失っており意思を感じることは出来ない。
康代は伸ばした手を苺人間にがっしりと掴まれてしまった。振りほどこうとしても蔓がざわざわと腕を
昇ってきて拘束してしまい、逃げようにも逃げられない。
しかも、苺人間はこの一人ではなかった。ところどころでむくり、むくりと起き上がり康代を包囲せんと近づいてくる。
「うふふ、こいつらは休み時間に誘い出して私の実を食べさせてあげたの。ほら、もうこんなに大きくなって
実までつけるようになったのよ」
確かに苺人間には無数の花と実が付いている。花の甘い香りと実の鮮烈な香りが辺りに充満し、頭がくらくらとしてくる。
「この実を人間が食べれば、また増殖して苺人間になるの。それを繰り返して、この国全体を苺の国に
するのよ。どう、とっても素晴らしいことだと思わない?」
『苺の国』。この字面だけを見ればとてもメルヘンな世界に聞こえることだろう。だが、現実は苺に
支配された人間が跳梁する魔境である。
「そ、そんな世界、間違っています。いちごさん、お願いですから、正気に………」
「あ、康代ちゃんはもちろんこんな苺人間にはしませんよ。私の、大事な人ですから………」
いちごが前にかざした手の先にある蔓から、ぽんと大きな花が咲き、急速に中心が膨らんで巨大な果実を形成してゆく。
ころんとできた苺は闇よりも濃い黒色をしていた。
「これを食べれば、康代ちゃんも私と同じ体になれます。私と一緒にたっくさん苺を作って、苺の国を
作り、世異界への礎にしましょうね」
いちごは出来た黒苺をぷちんと採り、手につまんで康代へと近づいてくる。康代は必死にそれを拒もうとするが
四肢を拘束しているので適わない。
いや、ふだんならそれでも逃げることは不可能ではないのだろうが、先ほどからいちごに飲まされたエキス
が原因で体に力が全く入らない。
「さあ………」
「んーっ!んーーっ!!」
目の前に突き出された苺を、康代は口を閉じて顔を反らし懸命に抵抗する。
「………しぶといですね。さっさと食べてください!」
業を煮やしたいちごが康代の顎を掴み、強引に口を開かせる。かぱっと空いた口にゆっくりと黒苺が迫ってくる。
「あ、あ、あ………」
康代は、その瞬間を絶望の眼差しで見続けていた……




分岐

−トゥルーエンドへ−
−バッドエンドへ−







『闘え!聖界戦隊サイヘンジャー・トゥルーエンド』
「ちぇえぇすとぉーーーっ!!」

その時、威勢のいい掛け声と共に上空から蹴りが降ってきた。それをもろに喰らった苺人間が後方へと
ふっとび地響きを上げて倒れる。
「な、なにがおこったの?!」
突然の出来事に驚くいちごの前に、妙な見得を切った女戦士が突っ立っていた。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!
『海に咲く麗しき赤輪』サイローゼン、お呼びでなくとも即参上!」
なにか爆発のエフェクトがあった気がした。
「た、多美さん!」
康代が地獄で仏に出会ったような笑みを浮かべた。
「へっ、裏庭の方から世異怪人の気配がびんびんするから来てみたら案の定、って寸法よぉ。
さあ世異怪人!大人しく俺にぶっ飛ばされ………、ななななな!!」
勇ましく啖呵を切って世異怪人…いちごに向ってふりむいたサイローゼン=麻生多美だったが、目の前に
対峙する世異怪人がどうみても小沢いちごなので、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「なんだぁ………?!お前、いちごか………?何でまたそんな格好………」
「麻生さん………、私と康代ちゃんの邪魔をするなら、容赦しませんよぉ!」
突然の闖入者に顔を憎悪で真っ赤に染めたいちごは、ローゼンへ向けて無数の蔓を伸ばしてきた。
「くっ、これは!」
たちまちローゼンは無数の蔓に縛り上げられてしまう。
「そこで康代ちゃんが私の手に堕ちるさまをゆっくりと見ているがいいわ。そして、あなたは康代ちゃんの手で
苺人間にしてあげるから………」
「甘い、甘い甘い!!『とよのか』より甘いぞいちご!!」
不敵に笑ったローゼンは、『フン!』と一発気合をいれる。すると、ローゼンを覆っていた蔓はたちまち
ぶちりと裂け、下にバラバラと落ちていく。
「な、なんで?!苺人間のならともかく、私の蔓をいとも簡単に?!」
「バッカヤロォ!ローゼンの名を冠する俺が、『苺』なんかに負けてたまるか!」
よくはわからないが、そういう理屈らしい。
「くっ、でも数はまだこちらの方が上!苺人間、こいつを捕まえ………」
いちごが下僕の苺人間を呼ぼうとしたが、周りにいるはずの苺人間が全然反応しない。
よくみたら、いつの間にか全ての苺人間が地面に突っ伏している。
「こ、これは………なんで?!」
「私も、おります」
いちごの後ろで、突然切れのいい声がした。ぎょっとしたいちごが振り向くと、そこにはサイローゼンに
よく似た格好をした金髪の戦士が立っていた。
「『地を駆ける雄々しき金獣』、サイライオン。人知れずここに見参です。失礼とは思いましたが、
周りの苺は全て、刈り取らせていただきました」
確かに、苺人間の蔓は全て刈り取られ、元の人間に戻っている。
「うそ……、これだけの数をたった一人で………」
「みなさん、結構苦しんでいましたが、まあ変革には痛みが伴うものですから」
サイライオンはすたすたといちごの前を横切り、康代にあるものを手渡した。
「これは…、サイヘンシンボル?!」
「そうです。今拾っておきました。さあ、康代さん」
康代はサイヘンシンボルを手にとる。今まで心を覆っていた絶望が霧消し、希望の光が差し込んでくる。
「有難うございます、ジュンさん!
サイヘン・ポゼッション!」
康代の掛け声と共にサイヘンシンボルから希望の光が湧きあがり、康代の体を優しく包み込んでいく。
光が康代の体に張り付いてコスチュームに変化し、希望の戦士へと変貌させてゆく。
康代の体の中に巣食う悪魔の因子が、暖かみのある光によって浄化されてゆく。


「『天空舞う清廉なる白翼』サイピジョン、世異界の浄化に即見参!」
いちご=世異怪人ブラックベリーの眼前に、地上を守る戦士、聖界戦隊サイヘンジャーが揃って現れた。
「さあいちごさん!今度こそ完全に、あなたを世異界の呪縛から解き放ってあげます!」
凛々しく、雄々しく立つサイピジョン=康代に、いちごは悔しそうに臍をかんだ。
「こ、こうなってはこちらが不利のようね………。ここは一旦出直させてもらうわ!」
いちごが後ろ手をかざすと、いちごの後方に『闇の壁』が競り上がり、世異界への道を形作った。
「ま、まっていちごさ……」
「でも康代ちゃん、私はあなたを諦めない!絶対に康代ちゃんを、私のものにしてみせるから!」
そういい残していちごは闇の壁に消え、いちごが消えた後闇の壁もふっと消滅した。
それを見届けた後、康代はガクッと膝を地に付けた。
「おい康代、大丈夫か!」
「う、うん……、なんとか、大丈夫よ………」
今の自分の苦しみなど、いちごの境遇を考えたらなんと他愛のないことか。
「絶対………、絶対救い出してみせるかね。いちごさん………」
康代はいちごを助け出す想いを、改めて心に刻んだ。


彼女達の行く手には、まだまだ大きな困難、挫折、苦悩が待ち構えていることだろう。
だが、彼女達は立ち止まるわけには行かない。世異界との戦いはまだまだ序盤を迎えたばかりだ。
この地上に平和を取り戻すため、聖界を解放するその日まで
闘え!聖界戦隊サイヘンジャー!










『闘え!聖界戦隊サイヘンジャー・バッドエンド』

ちゅ、と康代の唇にひやりとした感触が伝わってきた。いちごの持った黒苺が、とうとう康代の口に辿り着いたのだ。
鼻腔に咽返るほどの甘い香りが漂ってくる。それは黒苺から漂ってくるものだったが、先ほどいちごが
康代に飲ませていた苺エキスと全く同じ香りだった。
「ほらぁ、もっとあーんして」
いちごが残忍な笑みを浮かべて康代の顎を持つ手にぐいっ!と力を込める。その力で康代の顎は下へ引っ張られ
よりおおきくその口をあけてしまう。
「ひゃ、ひゃめ……」
「えいっ」
いちごは指でちょんと黒苺を押し、黒苺をころん、と康代の口の中へ転がり落とした。
康代の舌に、圧倒的な質量の黒苺が感じられる。
「さあ、早くかみかみして食べてください。とぉってもおいしいですよ」
「んんぅ、んんん!」
あまりの大きさに口を閉じることが出来ず、康代は口を半開きにしたままなんとしても飲み込むまいとし
なんとかして口の外に出そうと舌を使い、黒苺を押し出そうと必死にもがいた。
その時、康代の舌の圧力により黒苺の皮がほんの少し破れ、中から果汁がじわりと染み出し康代の舌にちょろっと滴り落ちた。
「んぐっ?!」
その瞬間、康代の味蕾にこれまでに味わったことが無いほどの甘美な甘さが感じられた。
「ん、んんんふぅ………」
それまで必死な顔をしていた康代の表情はたちまち糸が解けたように緩み、全身の力がぐたっと抜けた。
黒苺を押し出そうともがいていた舌は、染み出す果汁を一刻も早く舐めとろうとせわしなく動き、黒苺の表面を舐り散らす。
吐き出そうと懸命に開いていた歯は、黒苺の表面を傷つけより多くの果汁を出そうとぐじゅっ、ぐじゅっと刺し込んでいる。
本当は一思いに噛みたいのだが、黒苺があまりも大きすぎるので噛み千切れず、歯を立てるので精一杯なのだ。
それでも、ひと噛みするごとに黒苺は形を崩し細かく分解されていっている。それに伴い果肉、果汁が
康代の口腔いっぱいを満たし、魔性の甘味を康代に提供し続けている。
「んん…、んもぉ…、んぐぅ…」
(ああ…、ダメぇ…。この甘さ、我慢できないぃ……。おいしい、おいしすぎます………)
口いっぱいに黒苺をほおばる康代は、これ以上ないくらいの幸せな表情を浮かべていた。口腔内で果汁と唾液が混じり
もむもむとせわしなく動かす唇の隙間からつぅー、と零れ落ちてくる。
これを食べると自分はいちごの手に堕ちてしまう。人ならざるものへと変貌し、ミンジューの尖兵として
人に、地上に徒なす者と化してしまう。
そのことは頭では分かっている。分かってはいるが……
(でも、もう止められません!こんなおいしいものを食べないなんて、そんなことできません!)
やがて、完全に咀嚼され唾液と混ざりあった黒苺を、康代は名残り惜しむかのようにごくり、ごくりと少しづつ
嚥下させていった。食道から胃の中へ落ちる際、鼻へ抜けていく黒苺の鮮烈な香りがまた康代へ魔の悦楽を与えてくる。
「んぐっ……んぐっ……ぅ……、ぱぁぁ………」
そして、最後の一欠けを飲み込んだあと、酷使した顎と舌がようやく解放された悦びから康代は軽く息を吐いた。
「うふふ。康代ちゃん、どうだった?『私の』苺の味は……」
にやにやと笑ういちごに、康代は焦点の合わない瞳を向け、うっとりと笑みを浮かべた。
「………、とっても、とってもおいしかったです…。私、今までこんなおいしいもの、食べたことないです…」
「くすくす、そうでしょうね。口のまわりべっとべとにしながら夢中で食べているんですもの」
「え……?!」
言われてみて、自分の口周りが妙にすーすーすることに気が付いた。康代の口周りは自らの唾液と溢れた果汁で
しとどに濡れそぼっていた。
「あ……」
それに対して康代が感じたのは羞恥。ではなかった。
(まだ、あの甘味が残っていました!)
康代が思ったのはただ一つ。自分を蕩かしたあの甘味を、まだ味わうことが出来るという歓喜だった。
康代は自由になる舌をぺろぺろと出して、口元の果汁を必死に舐めとろうと動かした。舌に甘味を感じるたびに
康代の目はどろりと濁り、頬が赤く染まってくる。
「ああっ、おいしい!おいひいのぉ………
もっと、もっと食べたいの、もっとちょうだい!!」
康代の目には次第に狂気の炎が孕んでくる。
苺を口にしたい。苺を味わいたい!苺を飲み込みたい!!

「そんなに苺が食べたいんですか?康代ちゃんは」
「は、はいぃ!食べたい。食べたいんです!もっと、もっと苺、苺を!!」
康代の反応に満足そうに微笑んだいちごは、康代の下を指差した。
「ほら、そこに苺があるじゃありませんか。それを食べたらどうですか?」
いちごの指差す先を康代は目にする。すると、そこには蔓から生えているかわいい苺があった。
それは苺人間から生えている苺だが、今の康代にはそんなことは関係ない。
「ああっ!苺、いちごぉ………」
康代を拘束している苺人間の蔓がするするとはなれていく。康代は自分の手が自由になると、息つく間もなく
苺を手でつまみ、口の中に含んだ。
歯でぷちっと潰すと、さくっとした感触と共にじゅんと果汁が溢れてきた。それは量こそ少ないが、あの黒苺と同じ味わいだった。
「あふぅ………」
口いっぱいに広がる甘味に、思わず康代は大きく息を吐いた。
「まだまだたっくさん苺はありますよ。どんどん食べてくださいね」
なるほど。よく見ると、康代の周りには色とりどりの苺が溢れている。そのどれもが甘い芳香を放ち、康代を誘惑している。
「ああんっ!」
康代は嬉々として苺をつまみ、どんどん口の中へ放り込んでいく。とってもとっても苺はなくならず
絶えず康代の周りに群生している。
「んぐ、もむ、あむあむぅ………」
口いっぱいに苺をほおばり、夢中で食べている康代をいちごはさも愉しそうに眺めていた。
「うふふ、そろそろ黒苺が康代ちゃんの体を染め上げるころね」
「ああっ、もっと、もっと………、うあっ!」
それまで、一心不乱に苺をつまんでいた康代が、突然体をビクッと揺すらせその動きを止めた。
「か、体が……、体が、あつぅぃ!!」
突然、康代の体内に燃え上がるような熱さが襲い掛かった。まるで、内に溜まりに溜まったマグマが
吐き出す場所を得ようともがいているかのような感触。
先ほど食べた黒苺が、胃の中でどろどろと形を崩して溶け、内臓表面へ染みこんでいってる。黒苺が染みこんだところは
黒く変色し、周りの細胞を呑み込んで拡大し、どんどん広がりを見せている。
内臓を染め尽くした黒苺はさらにその範囲を伸ばし、筋肉、神経、脊髄、あらゆるところを黒く染めてゆく。
その過程が、康代に燃え上がるような熱さを与えているのだ。
「熱い、熱い!あつうぅぁああっ!」
あまりの熱さに耐え切れず、康代は制服の襟を両手で掴むと、どこにそんな力があったのかびりびりと真っ二つに引き裂いた。
白のブラにショーツという康代らしい下着が露わになるが、康代にそんなことを顧みる余裕はなく、
ただ自らの内の燃え狂う感触に翻弄されている。
「ふふふ、康代ちゃん。それがミンジューの洗隷異(せんれい)なの。その熱さが康代ちゃんの『人間』を燃やし尽くし、
その後に『世異怪人』としての康代ちゃんを生み出すのよ。もうちょっとだから、我慢してね」
いちごの言葉も、康代には届かない。今の康代に何が起こっているかというのを知ることはたいした問題ではない。
今の康代が感じているものは、ただただ自らを炙る熱の熱さだけだった。
「あ、あつぅ………!あ、あひゃあああぁっ!!」
康代の悲鳴の声色が変わった。それまでは行き場を求め体内を荒れ狂っていた熱が、出て行く場所を
見つけたのか、康代の体の数点に狙いを絞り、そこだけが異常に熱さを増していっている。
「あ、あ、あ!な、なにか、なにか込み上げてきますぅ!こ、こんな、こんな!ひゃいいいいうぅっ!」

ざわざわざわッ!

康代が熱さのあまり手で抑えていた右胸、その指の間から漏れ出でてきたもの。それは間違いなく苺の蔓だった。
いや、それは右胸だけではない。腰、腕、首、股下、あらゆるところから無作為に苺の蔓がわさわさと
飛び出し、康代の肌を覆っていく。
また、腕先と脛からは苺の葉がにょきにょきと生え肌にピッタリと密着していく。遠目から見たそれは、
緑色のロンググローブとブーツにしか見えない。
「あああああああぁぁぁっ!!」
自らの体が変化する。その悦びに康代の心は包まれていた。燃えるような熱さは湧き上がる快感へと
変貌し、熱さに顰めていた顔は至福の笑みへと変わっている。
(ああ…、これが世異怪人になるということなんですか?!なんて素晴らしいの!こんなに気持ちいいなんて!)
黒苺によって歪められた康代の体と心は、世異怪人に変化していく自分を何の疑問もなく受け入れていた。
やがて、残っていた人間の心も洗隷異の炎によって焼き尽くされ、塵となって掻き消えていく。
だが、それさえも今の康代には快感だった。


長い間肩を震わせ身悶えしていた康代が、ふっとその動きを止めるとすぅっと立ち上がった。
その体は所々から苺の蔓が生え延びて、体のあちこちに絡まりついている。腕先と脛下には葉が変化して出来た
グローブとブーツを身につけ、髪の毛の色も緑へと変貌していた。
その姿は、近寄ってくるいちごと酷似したものだった。
「康代ちゃん………、どう?世異怪人に生まれ変わった感想は?」
にやにやと笑いながら話し掛けてくるいちごに、康代も口元をニタリと歪めながら答えた。
「………、素晴らしいです。以前の自分がなんとちっぽけな存在だったか、この体になって初めて理解できました。
本当に………、素晴らしいです。『ブラックベリー様』………」
康代はいちごのことをブラックベリーと呼んだ。これは、康代が完全にミンジュー側の方へ傾いたことを意味していた。
「うふふ。そうね、私はブラックベリー。あなたの親であり主人。絶対の忠誠を尽くす相手。
そして、親なら子供に名前を付けなくてはいけないわね。いつまでも人間の名前のままじゃいけないし…」
ブラックベリーは少し頭を捻ってから、何かを思いついたかのように手をぽんと叩いた。
「そうね、康代ちゃんは白のイメージが強かったからホワイトベリーにしましょう。
いい?これからあなたの名前はホワイトベリー。世異怪人ホワイトベリーよ」
思ったより捻りのない名前だが、康代=ホワイトベリーはこっくり頷いた。
「はい。私の名前は世異怪人ホワイトベリー。この国を苺で覆い尽くすことが使命………あっ」
急にずくん!とした感触が胸に起こりホワイトベリーはぶるっと体を震わせた。胸をよく見ると、小さな
赤い苺が顔を覗かせている。
「あはっ、もう苺が生まれてきたのね。んん〜〜、とっても美味しそう!」
ブラックベリーはちょんとホワイトベリーの苺をつまむと、ぽいと口の中に放り込んだ。
濃厚な甘味とさわやかな酸味が、ブラックベリーの口いっぱいに広がっていく。
「うふふっ、とっても美味しい。あ魔い味が口いっぱいに広がって、文句の付け所の無い苺よ。
これを人間が食べたら、たちまちのうちに苺人間になってしまうわね」
「あはぁぁ…、とっても、嬉しいです……」
ブラックベリーの感想に、ホワイトベリーは歓喜に打ち震えていた。その心が苺に伝播したのか、
あちこちの蔓から苺がぽんぽんと成ってきている。
「ああぁっ!苺が、苺が止まらない!どんどん生まれてきま、きちゃいますのぉ!」
「もっと、もっと増やすの。この学園全体に行き渡るくらい、どんどん苺を増やすのよ。ほら…」
ブラックベリーがホワイトベリーに口付けを交わす。ブラックベリーの体内で熟成された体液〜苺エキスが
ホワイトベリーの体内へ注ぎ込まれてゆく。それに伴いホワイトベリーから生み出される苺も爆発的に増えていった。
「もっと、もっと、もっと生むのよ。もっと………」


上空から何かが振ってくる音が聞こえる。地響きを立てて花壇の中へ降り立ったもの。それはサイヘンスーツ
に身を包んだサイローゼン=麻生多美であった。
「おうおうおう!世異怪人め!このサイローゼンの目の黒いうちはこの学園で悪事なんて……、あり?」
学校裏で世異怪人の気配がする。そう思った多美はサイローゼンへと変身し、花壇へ一直線にすっとんできた。
が、そこには世異怪人の姿はなく、驚いた顔をして立っている福田康代と小沢いちごがいるだけだった。
「た、多美さん?!あなた、なにをしているんですか?」
「え、いや………、世異怪人の気配がしたからやってきたんだけど………おかしいなぁ………」
何か場違いな空気が周りを支配しているのを感じ取り、多美はおろおろと周りを見渡している。
「ここには、さっきから私と康代ちゃんしかいませんよ。あ〜あ、せっかくの苺のお花を踏み潰しちゃって」
いちごが犯罪者を見るような目つきで多美を睨みつける。その目に多美はざざっと後退し、救いを求めるような目で康代を見た。
「康代ぉ〜〜〜」
が、康代も多美に冷たい視線を投げかけてくる。弁論する気はさらさらないらしい。
「これは全面的に多美さんが悪いです。ほら、早く変身を解いてください」
「お、おう」
どうやら自分勘違いだったと確信したらしく、多美は変身を解いて麻生多美の姿に戻った。
「ちっ、俺の勘も鈍っちまったかな………。で、お前らはここで何をしてるんだ?」


「いちごさんが作った苺が収穫期を迎えたんで、二人して摘み取っていたんですよ。ほら見てくださいこの量」
康代が指差した先、そこには篭一杯に山と詰まれた苺が置いてあった。
「うひゃあ!こりゃすげえや。大豊作だな」
苺の山に多美は目を輝かせた。これだけあれば少しぐらい相伴にあやかれるかも…。そんな邪な想いが心をよぎる。
「な、なあいちご……、少しだけあの苺……」
ぼそっといちごに声をかける多美。それを聞いていちごは快く頷いた。
「構いませんよ。あれだけの量がありますから」
「本当か!やっほぅ!」
喜びに沸き返る多美に、康代が一つまみ苺を掴んで多美に渡してきた。
「どうぞ。『私の』苺でよろしければ………」
「ああ、ああ。サンキューサンキュー!」
多美は康代の手から苺を一つ採ると、ピンと手で弾いて口の中に放り込んだ。
その様子を眼鏡越しに見ている康代の瞳は、嫌らしく歪んでいた。
多美は暫く口の中をもごもごと動かし、ごくりと苺を飲み込んだ。
「うめえ!こりゃいい苺だ!いちご、これなんて名前の苺なんだ?」
多美の質問に、いちごはにこにこと微笑みながら答えた。
「さっき、康代ちゃんが言っていたじゃないですか。その苺の名前」
「え?おい康代、お前そんなこと言ったか?」
そんなことを聞いた覚えはない。そんな語彙を言葉に込めて多美は康代に問い掛けた。
「ええ。言いましたよ、多美さん。それは『私の苺』だって」
多美に話し掛ける康代の表情は、先ほど見せてたものとは打って変わって、嫌らしく淫らに変貌している。
「へ?私の苺ぉ?なんだそりゃ」
「その苺はですね、私の体から生えた苺なんですよ………ふふふ」
無気味に笑う康代の袖から、襟から、スカートから苺の蔓がざわざわと伸び出てくる。
その先には色とりどりの鮮やかな苺の実が付いており、周囲に甘い香りを放っている。
「お、おい………康代、お前、それって……………!?がはぁっ!」
突如眼前に発生した異常事態に背筋が寒くなり、無意識に後ずさりする多美の胸に突然激痛が走った。
激痛は胸を中心にどんどん全身に伝播し、胃の中で膨らみきったなにかが喉の奥からごぼごぼと込み上げてくる感触に襲われる。
「なん、なんだよこれ……お、俺の体がぁ………あぐ!うぶぁぁっ!」
その瞬間、物凄い勢いで多美の口から、鼻から、耳から。
いや尻、乳腺、股座、毛穴、ありとあらゆる穴から苺の蔓が飛び出してきた。多美の胃で発芽した苺は
急激に成長して全身に根と蔓を伸ばし、内臓、神経、筋肉、骨に絡みつき、脳さえも一瞬のうちに犯し抜いた。
「あ、あぉォ………ァァゥ……」
麻生多美という人間は、瞬く間に魔性の苺に呑み尽くされ、一体の苺人間として再生されてしまった。
「うふふ、凄い効き目……。やっぱりホワイトベリーの苺は最高ね。サイヘンシンボルの使い手の麻生さんも
一瞬のうちに苺人間にすることができるんですもの」
「あはぁぁ……、多美さぁん……。今の姿、とっても美しいですわよ。人間のときより、よっぽど綺麗…」
「アゥ……、…ゥァ…」
苺人間と化し、全身を蔓に覆われた多美は康代の言葉に、ただゆらゆらと全身から生える蔓を揺らめかせていただけだった。
「これで忌々しいサイヘンジャーは残り一人。倒すなんて造作も無いこと…。さあ、残りの苺人間も立ち上がるのよ」
ブラックベリーの掛け声と共に、花壇に偽装していた苺人間がむくり、むくりと立ち上がる。
「お前達、どんどん人間を捕らえ苺を食べさせるのよ。まずはこの学園全体を私たちの支配下に置くわ。
そして、ここで苺を繁殖させ、この日本全てを苺で覆い尽くすのよ。さあ、行きなさい!」
苺人間はわさわさと蔓を揺らめかせて方々へと散っていった。さっそくあちこちから絹を裂くような悲鳴が上がっている。
「ほら、多美さんも早く行きましょう。行って、学校の皆さんに美味しい苺をたっぷりと食べさせてきてください」
「オ、オゥ………」
苺人間化した多美はぎこちなく頷くと、ふらふらと苺が成り出した体を動かして校舎内へと消えていった。
「さ、ホワイトベリー。私たちも行きましょう。この地上を、苺の世界にするために」
「はい。ブラックベリー様。ああ…、一刻も早くジュンさんにも私の苺を食べさせて苺人間にしないと…、うふふふ…」

この日、永田町学園はその全体を異様な苺の蔓で覆い隠してしまった。
そして、こここそが侵略組織ミンジューがこの地上を支配するための最初の拠点となったのである。
日本が苺によって覆いつくされる日、その日は決して遠いことではないだろう。

BAD END