四年前の約束



「ぐおおおおあああああっ!」

キャリーの掌から放たれた光弾が、苦痛に顔をゆがめるドラキュラの胸板を深々と貫いた。
ドラキュラの全身からシュウシュウと煙が上がり、その肉体がぼろり、ぼろりと崩れ始めている。
どう見ても、致命傷を与えたのは明白だ。
「貴方は…、これで終わりよ」
キャリーは崩れゆくドラキュラに冷たく言い放った。が、ドラキュラは苦しみながらもその顔に笑みを浮かべ
キャリーに向って答えかけてきた。
「愚かな…。これで私を倒したと思っているのか……? これで世界は救われたと思っておるのか!
欲望に歪み、罪に汚れた人間の手で世界を覆う闇の侵食を止められるはずがない!」
どす黒い血を吐きながらも、半身が灰になりつつもなおドラキュラはその口を止めない。
「やがてすべてが闇に呑まれるのだ! その時に、己の無力さを嘆くがいぃ……
な、なぜなら、なぜならわたしはぁ………」

ボシュゥ!

その先の言葉を言うよりも早く、魔王ドラキュラ伯爵は爆音と共にその全身を塵に帰した。その衝撃は悪魔城全体を
大きく震わせ、歪ませるほどだった。
いや、実際その衝撃で悪魔城は崩壊し始めていた。頑丈な石壁に大きな亀裂が走り、天井がガラガラと
音を立てて崩れ始めている。
「いけない!」
キャリーはドラキュラの灰を封印しようとしていたが、それよりも早く城の崩壊が始まってしまったために
やむを得ず灰をそのままに天守閣の広間を後にした。


悪魔城を見上げる小高い丘。
その先にある城が轟音と共に崩れ去っていった。後には山のような瓦礫と舞い上がった埃があるのみで
往時の物々しい城郭は面影すらない。
その様を、丘からキャリーは感慨深げに眺めていた。
「ヴェルナンデスの戦士さん、お母さん、見ていてくれましたか……」
灰を封印できなかったのは気がかりだったが、ここまで派手に崩壊したら自力で復活するのはまず不可能だろう。
よしんば灰を掻き集めて復活させようとする輩がいたとしても、想像を絶する苦労を伴うはずだ。
何はともあれ、彼女は魔王ドラキュラの倒滅を果たしたのだ。
「お姉ちゃん…」
突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。ビックリしたキャリーが振り向いた先には、どこから現れたのか
悪魔城に囚われ、脱出させた少年マルスがいた。
「ねえ、ドラキュラは死んだの?」
自身の体験を思い出したのか、マルスは少しオドオドした口調でキャリーに問い掛けてきた。
「ええ……」
「ドラキュラは、もう二度と復活することはないの?」
この質問にキャリーはグッと言葉が詰まった。
最早ドラキュラは自分で復活することは出来ない。しかし、それを望む人間が苦労も厭わず復活させる可能性が無い。とは言えない。
「………」
少し考え込んだ後、キャリーはマルスに語りかけた。
「それはきっと、人間次第なのかもね……」

まだ夜の帳が明けない中、キャリーとマルスは馬車にの荷台に乗り、マルスの村へと向っていった。
「ねえ……」
がたがたと揺れる馬車の中で、キャリーの横にいるマルスがぼそりと口を開いた。
「ん?どうしたの?」
何事かとキャリーがマルスを見る。マルスは俯き加減に顔を伏せ、その頬は真っ赤に染まっていた。
「あ、あの……、あのね……」
なにかぼそぼそと口ごもっているが、あまりに小声なので聞き取れない。
「どうしたのよ、マルス」
事態がよくわからず問い掛けたキャリーの声に、マルスは意を決したかのように顔をあげ、キャリーの
瞳をじっと見据えながら口を開いた。
「その、村に帰ったら……僕のお嫁さんに……なってほしいんだ!」

「ああそう……………え!?」

キャリーは最初、マルスが何を言ったのか理解できなかった。
血と殺戮に染められてきた今までの人生において、告白などされたことは当然無い。というより12歳の
キャリーに告白されるという概念そのものがまだ構成されていなかった。
「お願いだよ、キャリー!うんと言ってよ!」
「だってそんな、き、急に言われても……」
普通に考えれば、恋のいろはも知らない子供が憧れた年上の女性に戯れに放った言葉だと思うだろう。
が、マルスの目は本気だった。本気ゆえに、キャリーもどう対処していいのか分からなかった。
「必ず幸せにするから!約束するから!」
「でも、私たち、私たち、まだ若いじゃない? 結婚はまだ早いわよ」
そう。いくらなんでも12歳のキャリーに結婚がどういうものか、頭では分かっていても具体的にどう
なるのかまでは想像に及ぶものが無かった。
もちろんそれはマルスに関しても同じ筈なのだが、マルスの言葉にはそれを感じさせない妙な説得力があった。
「じゃあ、約束して!大人になったら僕のお嫁さんになるって」
「うーん……じゃあマルスは私を守ってくれるような紳士になってくれる?」
「うん!どんなことがあっても必ず守るよ!」
キャリーの言葉に、マルスはこれ以上ない真剣な顔で返した。
なんだかんだ言ってもまだ歳相応の子供の雰囲気をかもしだすその表情にキャリーは少し微笑ましくなった。
「そうね、じゃあ、考えておくわね」
「ダメだよ!いま返事してよ!大きくなったら僕のお嫁さんになるって!」
軽く受け流したつもりだったのだが、マルスはあくまでキャリーに結婚の確約を取るつもりらしい。
「はいはい。わかったわ」
その駄々っ子のような態度にキャリーは笑い出したくなりそうな自分を必死に抑え、マルスの耳元でぽそりと呟いた。

「じゃあ大人になったら、私はマルスのお嫁さんになります」

「これでいい? うふふ……っ!」
その時、不意にマルスがキャリーの首筋にキスをしてきた。想像以上に冷たい唇の感触がキャリーの背筋を震わせる。
「マ、マルス?!」
「うん、これで充分だよ。今ので契約は成立したから………」
「契約………?」
首筋にキス、そして契約…。まるで吸血鬼のそれを想像させる振る舞いに、キャリーの鼓動がドクドクと高鳴る。
「そう、契約。
これでキャリーは絶対に僕のお嫁さんになってもらう。ってね」
青ざめるキャリーの前で、マルスは舌をぺろっと出して微笑んだ。
「…………、やっぱマルスのお嫁さんになるのやめた」
自分がからかわれた。そう直感したキャリーはぷうと顔を膨らませ、マルスから視線を外した。
「ええ〜〜!そんな!!契約は?!」
「そんなもの、しらない!」
情けない顔をして寄りすがってくるマルスに、キャリーは拳骨を一発くれてやった。
間もなく、日が昇ろうとしていた。


「…………」
キャリーはぱちりと目を開いた。目の先には部屋の天井が広がっている。まだ夜は明けておらず、月明かりが
窓から中に入ってきている。
どうやら、4年前の事を夢に見ていたようだ。実際、あのときのことは今でも昨日の様な気がするほど
鮮明に記憶の中に写し込まれている。
あの後キャリーはマルスを村の生き残り人に預け、再び魔物を狩る人生に戻った。ドラキュラのような
大物はあれ以降当たったことは無いが、中小様々な魔物はそれこそ掃いて捨てるほどいる。
ドラキュラを倒せるほどの腕を持ったキャリーなら、そこそこの魔物など相手にならず、おかげで喰うことに
困ることは無かった。
昔は野宿が殆どだったが、今はこうして屋根付きの宿屋の2階で眠ることも出来る。
「マルス…、元気にしているかな」
夢に見たからか、キャリーは村で別れた少年のことを久々に思い出した。
そのうちマルスのいる村に寄ってみよう、寄ってみようと思いながら時間が空くことはなく、とうとう
この4年間あの村に立ち寄ることが出来なかった。
「もう…、あのときの約束なんて覚えてないんだろうな」
自分に向けてきた真剣な瞳。あの顔を思い出すだけでキャリーはちょっと胸が暖かくなった。
あれ以降、自分にあれほど真剣な目を向けた人間にはあったことが無かった。ハンターという職業上、
相手に畏怖や好奇を与えることはあっても、恋慕などとは無縁だったからだ。
今度の仕事が終わったら、今度こそあの村に行ってみよう。そして、大きくなったマルスにあのときのことを
せいぜい冷やかしてやろう。
キャリーはその時マルスが浮かべるであろう狼狽する態度を想像して顔を綻ばせ、再び眠りに付こうとした。

その時、窓をこんこんと叩く音がした。
最初は枝でもぶつかっているのだろうと無視していたが、こんこん、こんこん、と音は鳴り止むことはなく続いている。
「………なんなのよ、もう!」
さすがにいらついたキャリーが布団を跳ね除けて起き上がり窓のほうを見ると、そこには月明かりに浮かぶ一体の人影があった。
そして、その顔はキャリーがとても見覚えのあるものだった。

「お姉ちゃん……」

「マ、マルス?!」
その姿にキャリーは仰天した。
なぜこんなところにマルスがいるのか、なぜこんな時間にマルスがいるのか、そんなことは些末な問題だった。
キャリーの目の前にいるマルス。その姿はキャリーとマルスが解れた4年前と、全く変わらないものだったからだ。
「マルス?!こ、これってどういう………」
「お姉ちゃん、4年前の契約を果たしに来たよ……。さあ、早くこの窓を開けてよ」
「え、ええ…」
事態がよく飲み込めず、キャリーはマルスの言うがままに窓の格子をあけた。
これによりマルスはキャリーの『部屋』に『招かれる』ことになった。
ガラス窓が"きい"と軋み、マルスは部屋の中にふわりと入ってきた。その姿はやはり4年前にあったときと全く変わっていない。
ただ、その身に纏う雰囲気は以前とまるで違う。全身から超然とした気が漂い、周りの空気まで凍りつきそうだ。
これほどの気配に、キャリーは今まで相対したことが無かった。あのドラキュラを前にしたときも、これほど緊張はしなかったろう。
この時、キャリーは今いる部屋が宿屋の『二階』というのを思い出した。
「マルス……、あなた、どうやってここに………。いえ、それよりもどうして、その姿は………」
「お姉ちゃん………、4年前の約束、覚えているよね」
キャリーの言葉を意にも解さず、マルスはキャリーに問い掛けてくる。
「約束………。マルスが私をお嫁さんにしてくれる。ってこと………?」
「そう。もうキャリーは大人になったよね。もう僕と結婚できるよね?」
確かにキャリーは現在16歳。結婚できるといえば出来る年齢かもしれない。


が、それを言う相手が10歳ぐらいのお子様では滑稽なギャグにしかならない。ましてや、4年経っても
全く姿が変わらない相手では洒落にもならない。
マルスがキャリーをじっとみつめている。その瞳は、まるで血のような紅い色をしていた。
なにかとても恐ろしいことが起ころうとしている。キャリーの神経は全身に警戒の信号を送ろうとしていた。
が、マルスの紅い瞳にじっと射すくめられたキャリーは、そのすべての警戒心を凍りつかせられていた。
いつのまにか、キャリーは少年の姿のままのマルスに疑問を抱かなくなっていた。
「そ、それは結婚できるかもしれない。けど、けど………」
キャリーはその先を言い出すことが出来なかった。何故かは分からない。が、その先を言うと、もう二度と引き返せない気がしていた。
「けど………、あ、あなたはどうなの?マルスは、私を守れるような、紳士になってくれたの?!」
キャリーがたどたどしく繰り出した言葉に、マルスはにっこりと微笑んだ。
「もちろんだよ。あの時キャリーが見逃してくれたから、僕は完全に力を取り戻すことが出来たから…」
見逃してくれた?力を取り戻す?
「そ、それって、どういうこ………」
その時、マルスが内に纏っていた気配が急速に外に広がっていった。マルスの周りを黒い奔流が渦巻き
マルスの体を覆い尽くしていく。
「あ、ああ………」
渦巻く力場の中、中心にいるマルスのシルエットがぐんぐんと膨らんでいくのが分かる。キャリーより小さかった
体はたちまちキャリーを追い越し、あどけない少年だった姿は凛々しい青年へと変じていく。
やがて纏わり付いていた力場が拡散しその中から出てきたものは、見るものを陶然とさせるような美青年だった。
「マ、マルス……、あなた一体………」
その容姿に視線が釘付けになりながらも、キャリーは至極当たり前の問いかけをマルスに行った。
目の前にいた少年がいきなり青年になる。これはもう真っ当な存在では断じてない。
「驚かせて済まなかったかな。我が真の名はドラキュラ・ヴラド・ツェペシュ。マルスと言う存在は
我が100年の刻をわたり転生するための仮の器に過ぎないもの」
「ド、ドラキュラですって?!」
その名前にキャリーは驚愕した。
「そんな馬鹿な!ドラキュラなら私が、四年前に滅ぼしたはずよ!」
「キャリー、君が四年前に滅ぼしたもの。あれはドラキュラではない。あれは私が完全なる復活を果たすまで
私の影として存在させた下僕に過ぎない。
吸血鬼の中の吸血鬼、真祖ドラキュラがあれ如きで滅ぼせると思ったのかね?」
マルス=ドラキュラはあくまで慇懃にキャリーに向って語りかけてくる。それはもう、キャリーでは
自分の相手にはならないことを誇示しているかのように。
「正直、あのときの私はまだ完全に力を取り戻しておらず、君の力でも充分に滅ぼされる可能性はあった。
でも、君が私の正体を見切ることが出来なかったから、こうして私は完全に力を取り戻すことができた。というわけだよ」
「そ、そんな………」
じゃあ自分は、本当のドラキュラが目の前にいたにもかかわらず、それに気づかずに見逃し、あまつさえ
完全な復活を許してしまったというのか!
キャリーは自分の迂闊さを呪い、そして、次にやるべきことを瞬時に悟った。
「だったら………、今度こそ、今度こそ完全に滅ぼしてあげるわ!」
キャリーはドラキュラとの間合いを瞬時に開け、掌にエネルギーボールを生成しようと力を込めた。
が、キャリーの意に反してエネルギーボールは発生するそぶりすら見せなかった。
「えっ?な、なんで?!」
不可思議な事態に驚くキャリーに、ドラキュラはやれやれと首をすくめた。
「キャリー、君は何をしようとしているんだい?私がここに来たのは、君と戦うためではないのは知っているだろう」
「ど、どういうことよ!」
「さっき言わなかったかい?私が今日ここに来たのは、4年前の契約を果たすため…
つまり、君を花嫁として迎え入れるためなんだよ」


「は、花嫁ですって?!」
確かにそうだ。ドラキュラ=マルスは自分を嫁にする。そう言っていた。はずだ。
「我が下僕ジルドレを倒した君の力に、私はあの時感服したんだ。そして、その時思ったのだ。
復活した私の花嫁に相応しいのはキャリー、君しかいない、とね。
だからあの時契約をした。君が将来、私の花嫁になるという、ね」
「な!!」
「失礼ながらあの時、君の血を少々拝借させて貰った。そして僅かだが、私の血も君の中に入れさせて貰ったよ」
「え………、それって、まさか………」
あの時マルスはキャリーの首筋に不意にキスをしてきた。あの時、すでに吸血されていたということか。
「これにより契約は成立した。私は将来花嫁にする君を絶対に守り通すし、君も花婿になる私を絶対に
害することは出来ない。
まあ、契約があったからこそ君の気配がどこにいても把握できたし、君を守ることも出来たんだ」
「え?!」
君を、守ることも出来た?
いつどこで、私がドラキュラに守って貰ったというのだろうか。
「君は気づいてなかったかもしれないが、君は過去においてかなり危険な目にあったことが幾度となく
あったのだよ。その都度、私が力を貸して危機を脱してあげたがね。正直、君の戦い方は危なっかしくて
見ていられないときが多かったよ」
ドラキュラの言葉からすると、別れたあの瞬間からドラキュラはずっとキャリーの動向を見続けていたようだ。
「なんで、そんなことを………」
「さっきも言ったろう。私は、君を花嫁に迎える、と。そのためならいかなることでもしてみせる」
キャリーを見つめるドラキュラの瞳は、4年前のマルスが見せた瞳と同じ真剣なものだった。
呆然と佇むキャリーに、ドラキュラはじり、じりと近づいてくる。
「さあキャリー、私を受け入れてくれ。君が望むなら、私はこの世のありとあらゆるものを分け与えよう」
血の通わぬ青い肌、脳髄を焦がす真っ赤な視線、口元に零れる牙。
今のキャリーの視界には、ドラキュラの顔しか入っていなかった。
キャリーの心の中が、次第にドラキュラで占められていく。そのことを恍惚と思う反面、根源的な恐怖も湧き上がっていた。
「い、いや………」
「怖がることはない。君は黙って、今から起こることを受け入れればいいんだ。
悪いようにはしない。君は私が4年間、ずっと恋焦がれ続けていた、大事な花嫁なんだから」
ドラキュラの両手がキャリーの小さい肩をそっと掴む。その顔がキャリーの喉元に近づいていくのが
下目伝いで感じられる。
「キャリー………、愛しているよ」
肌に当たった二本の牙が、ずぶずぶとキャリーの胎内に沈められていく。
「あ、あっ、ああっ!!」
冷たい氷を挿されたような感触に、キャリーの口から思わず喘ぎ声が漏れる。ドラキュラが口を動かすたびに
血が吸い取られていく感触に心が戦慄く。
商売柄、吸血鬼に噛まれたことは一度や二度ではない。しかし、それらの多くは彼らの本能に支配されたもの
であり、正直痛みや倦怠感しかもたらすものは無かった。
が、ドラキュラはゆっくり、ゆったり、時間を惜しむかのようにキャリーの首筋から血を搾取していった。
決して乱暴に、欲望の赴くままにせず、キャリーの体を労るかのように。
(ああ………、この人は、本当に私を慈しんでくれているんだ……)
牙越しに、いや、血を通してキャリーはドラキュラの本心を垣間見た気がした。ドラキュラは本気で
自分を愛し、愛でているのだと。
その時、キャリーは抵抗を止めた。ただ、ドラキュラの思うがままにその身を完全に預けた。
そして、次第にキャリーの心臓を鼓つ音は小さくなっていき、やがて、その音は完全に途切れた。
が、血の気を無くし、力なくうなだれたキャリーの表情は幸せに満ちていた。


いつまで牙を埋めていたのだろうか。完全に動かなくなっていたキャリーの体がピクッと反応した。
ドラキュラが口を離しキャリーの顔を覗き込む。
そこには、瞳を朱に染め、至福の笑みを浮かべた吸血鬼の姿があった。
「キャリー………、私を受け入れて、くれるね」
「もちろんよ。愛しい人」
キャリーは口元から牙を零れさせてにっこりと微笑んだ。
「では、早速我らの城へ戻ろう。祝言の準備ももう済ませてある。
新しい夜の眷属よ。月の光は君を歓迎することだろう!」
ドラキュラはこれ以上ないほど嬉しそうに顔をほころばせ、キャリーを抱きかかえると開け放しの窓へ歩を進めた。
「あっ、待って」
しかし、キャリーはそれに待ったをかけてきた。
「どうしたんだい?キャリー」
怪訝そうに顔をゆがめるドラキュラに、キャリーは少し恥ずかしそうに俯き、ぼそっと呟いた。
「あの……、私、こうなったばっかりで言うのもあれなんだけれど………
喉が渇いて仕方が無いの。だから、ちょっと狩りにでたいな。なんて………、いいかしら?」
花嫁のちょっとした我侭に、ドラキュラは一瞬きょとんとし、すぐに可笑しそうに笑みを浮かべた。
「いいともいいとも。今夜は記念すべき日だ。キャリー、君の好きなようにしたまえ。
なんだったらこの村全て、呑み尽くしても構わないのだからね」
「うれしいっ!じゃあ早速いってくるわね!」
ドラキュラの手からぴょんと降りたキャリーは、ドラキュラを振り返りもせずに窓から外へと飛び出ていった。
それを見ながらドラキュラは苦笑し、キャリーの後を追うかのように飛び出した。


とある村が一夜のうちに全滅したこと。そして、崩れ去ったはずの悪魔城が忽然と姿を表したことを
伝える噂は、たちまちのうちに国中に伝播した。
名声を得んと数多くのハンターが悪魔城の中に入っていったが、誰一人として出てくるものはいなかった。
そして、今日も一人………
「ふん、結構ななりしているくせにちっとも強くないじゃない。血だって全然美味しくないし」
キャリーの足元には、吸い尽くされ干からびたハンターの死体が転がっている。
「ねえドラキュラ、そっちの女の子のハンター、私に頂戴よ。こいつ全然まずくって、かえってお腹がすいてきちゃった」
「ああ、いいだろう」
不満たらたらにグチを付くキャリーに、ドラキュラは催眠で意志を飛ばしたハンターを遣わせた。
自分にここまであけっぴろげに口を叩いてくる下僕を、ドラキュラは今まで這わせたことは無かった。
もちろん意志を奪わなかったからということもあるのだろうが、そのことをドラキュラは後悔してはいなかった。
永遠に近い時を生きているなか、これほど新鮮な気持ちでいたことは滅多に無い。
彼女と一緒なら、退屈しない時を過ごせそうだ。
ドラキュラは女ハンターに牙を埋めるキャリーを見て、つい顔を綻ばせた。