DQ3SS


○現パーティー構成

勇者『ユウ』   性格『がんばりや』
獣戦士『トウカ』 性格『まもの』
魔神官『プリス』 性格『まもの』
悪魔『マホ』   性格『まもの』

4『ユウ:エビルヘルム』

「………」
ユウは横たわっているベッドの中で、じっと虹のしずくを握り締めていた。
これがあれば、あの荒れ狂う海峡を越えてゾーマの魔城へと行くことが出来る。この世界を闇に包み
人を滅ぼそうとするゾーマはなんとしても止めなければならない。
「でも……、相手は大魔王……」
そう。自分たちが相手にするものは神を封じ込めることが出来、あのバラモスすら配下に置くほどの
強大な相手だ。勝てる保障などどこにもなく、命を落とす可能性も非常に高い。
正直、ユウは怖かった。自分たちはもしかしたら、神と等しき存在と闘わなくてならないのかもしれない。
人の身で神と闘って勝てるのか?正直難しいといわざるを得ない。
「でも……、私たちが勝たないとこの世界は永久に闇に閉ざされたままになる…。そして……」
そして、この世界を掌中に治めたゾーマは、必ず再び地上にその魔の手を伸ばそうとするだろう。今
度はバラモスよりも強力な…、あるいはゾーマ自らがやってくるかもしれない。その時、自分たちが
いない地上はアレフガルドと同じ運命、すなわち決して日の昇らぬ永久の闇に封じ込まれ、魔物により
人は蹂躙され、滅ぼし尽くされてしまうだろう。
「そんなことは……、絶対にさせない!」
自分は勇者の血を引いている。それだけの理由でバラモスを倒す旅に出ることになった。最初の頃こそ
自分の運命を呪ったりしたが、ならただじっとしていて滅びの時を待ったほうが良かったのか?
そう考えたとき、ユウは自分の運命を受け入れた。自分が何もしないと全てが滅びるのがこの世の定め。
自分にその定めを変える運命があるなら、それを甘んじて受け入れよう。と。
この旅で、かけがえのない仲間も手に入れることが出来た。彼女達の助勢あってこそ、魔王と言われた
バラモスも倒すことが出来た。自分たちの力をあわせれば、例え滅びの運命が立ちはだかったとしていても
必ずそれを跳ね除けることが出来る。
「全ては明日……。トウカさん、プリスさん、マホさん、私に勇気を貸してください………」
やるべきことは全てやったという達成感と共に、ユウは深い眠りに付いた。
彼女が頼みとする仲間……、それがすでに『仲間』ではなくなっていることを知らずに。


………て
…………きて…

…なんだろう、凄く頭が痛い…

「起きて、ユウ!!大変よ!」
耳元で響く大声に、ユウはぱちりと目を開けた。振り向くと、マホが血相を変えた顔で立っている。
「あ、マホさん………、どうしたの?」
「どうしたじゃないわよ!魔物が、魔物が町になだれ込んできたのよ!」
「ええっ?!」
マホの言葉に、ユウの眠気は一瞬で覚めた。
慌てて窓から外を見ると、すでに所々で火が上がり煌々と夜空を照らしている。
「もうトウカとプリスは外に出たわ!貴方も早く!!」
「う、うん。わかった!」
慌ててユウは手元においてあった王者の剣、光の鎧、勇者の盾に手をかけた。
「じゃあ私は先に行くから、貴方も用意でき次第急いでね!!」
「分かりました。マホさんも気をつけて!!」
ローブを引きずってユウの部屋から飛び出すマホは、廊下を走っている最中ボソッと呟いた。
「どうやら、呪文は効いているみたいね………。クク」

どうにか重い装備一式を身に付け階段を駆け下りると、宿屋の入り口にいきなり三匹のグールがたむろしていた。
「なんで町の中に………、ここはお前達がいていいところじゃ、ない!!」
ユウが横薙ぎに王者の剣を一撫ですると、三匹のグールの胴は綺麗に両断され、派手に血飛沫を上げ
どう、と倒れた。嫌な臭いの返り血が降りかかってきたが、気にせずユウは宿屋の玄関から外に出た。
「……………っ!」
表ではそこかしこに魔物が徘徊し、逃げ惑う人々に襲い掛かり、ありとあらゆるものを破壊する惨状が展開されていた。
「なんで…、こんなことに………」
ユウはあまりのことに呆然としていた。明日、明日だったのだ。明日ゾーマを倒せばこの世界に光が戻り
人々は安心して日々を暮らすことが出来ようになったのだ。
ユウの手が怒りでわなわなと震えた。
どうして一日待ってくれなかったのだ。そうすればリムルダールの人たちはこんな目にあわなくてもすんだのに。
さっきから続く頭痛が、じくじくと頭に響く。
「…………、まえたち………」
気が付くとユウは泣いていた。怒りで真っ赤にした顔に、涙がスッと流れていた。
町の人を救えなかった悔し涙が、火灯に照らされていた。
「お前達………、絶対に許さない!!」
普段の朗らかな彼女からは想像も出来ない、怒りで羅刹と化したユウは剣を大上段に構えて魔物の中に突進していった。
目の前に、大熊ダースリカントが太い腕を振り上げている。
ユウはその腕を薙ぎ切った後、その頭部を刺し貫いた。
続けて後ろから迫るキメラの胴を袈裟懸けに叩き切り、キメラは甲高い悲鳴を上げて絶命した。
「お前達が、お前達が、お前達がぁ!!」
夥しい返り血も、相変わらず続く頭痛もものともせず、ユウは斬って斬って斬りまくった。
不思議なことに、どれほど魔物を切っても王者の剣は血糊で切れ味が落ちる事はなく、むしろますます
その鋭さを増していっていた。
光の鎧も勇者の盾も、大量の返り血を浴びたにも拘わらずその蒼い輝きを失うことなく、むしろ前より
強く光り輝いている。
(なんでだろう………、魔物を斬るたびに体から力が涌いてくるみたい………)
身につけている剣、鎧、盾の加護なのか、魔物を殺せば殺すほど剣の切れ味は冴え、鎧は重さを感じな
くなり、盾は硬さを増していく。
いつしかユウは、魔物を斬ることに快感を覚え始めていた。
(あはは!!どんどん力が涌いてくる!楽しい!どんなに斬っても疲れない!)
その目は、歓喜…いや、狂気に満ち満ちていた。
それからもユウは、目に入った魔物を手当たり次第に斬って捨てていった。ユウが通った後には夥しい
数の魔物の死骸が横たわり、血飛沫と肉片を散乱させていた。
が、それにもかかわらず王者の剣、光の鎧、勇者の盾には返り血が一滴もついていなかった。
まるで、装備が血を吸い取っているかのように………


「どこ………、どこにいるの………」
ユウは血走った目で辺りを見回している。その手にはギラリと光る剣を持ち、幽鬼のように脚をふらつかせている。
「もっと……、もっと斬りたい……。もっとぉ………」
その時、家の影を小走りに駆け抜けるグールの姿が見えた。
「あは♪」
口元に歪んだ笑みを浮かべたユウは、すぐさまグールに飛び掛かり頭部から真っ二つに切り裂いた。
「あは。あは。あはは。あはあは♪」
それでも満足できないユウは、剣を逆手に構え地面に転がるグールの死骸にザクザクと剣を突き刺しまくった。
一突きするごとに発せられる肉を貫く感触に、ユウの心は悦びで打ち震えていた。
「あはは♪あはは♪あはは………、はぁ、はぁ……くっ…」
下に転がるグールの肉塊がミンチより酷い状態になったころ、今まで自分を苛んでいた頭痛が次第に
引いていくのを感じた。
それと同時に、疲れ知らずで魔物を切り裂いていた体が少し悲鳴を上げはじめてきた。
「……喉が、かわいたな………」
昂ぶった心と燃え盛る火に炙られていたからか、なんだか酷く喉が渇く。どこかに飲み物はないか。
まだ少し頭痛が響く頭を抱え、ユウはよろよろと歩き出した。
少し歩くと、水路の町リムルダールらしく煉瓦で整備された用水路があった。
「み、みず………」
が、その時同時に目に飛び込んできたもの。それは一匹のミニデーモンらしきものだった。
「…………?」
そう、なぜかユウの目に目の前のミニデーモンは酷くあやふやなものに見えた。輪郭がはっきりせず
ぼやけて見える。頭の痛みが次第に引いていっている。
そして、頭痛が完全に治まったとき、その姿が次第にはっきりと見えるようになり………、
ミニデーモンと思っていた目の前のものは、酷く怯えた表情をしている少女に変わった。
「…………?!」
最初、ユウは目の前で起こったことがよくわからなかった。何で魔物が人間に変わったんだろう。
が、次の瞬間、ユウの心に涌き上がったものは全く意外なものだった。
(………、水よりもっと美味しいものがあるじゃない!)
なぜそう思ったのかは分からない。しかしユウの目には、目の前の少女がひどく美味しいものに感じられた。
ニヤリと笑ったユウはゆっくりと剣を振り上げ、恐怖に震える少女の首をあっさりと跳ね飛ばした。
その感触は、先程から散々味わってる肉を切り裂く感触と全く同じ物だった。
頭が消失した少女の体から、真っ赤な血が轟々と噴き出る。ユウはその切断面に顔を伸ばし、溢れる血潮を
ゴクゴクと口に含んだ。
零れる血を一滴も残すまいと首元に口を密着し、貪欲に血を啜る。それでも溢れ出る血が辺りに飛び散り
光の鎧にも降りかかってきた。
その瞬間、光の鎧が付着した血をズズッと吸い取ったように見えた。

噴き出す血を散々味わい尽くした後…ユウは少女の死体をぽい、と用水路の中へ投げ捨てた。
「うふふ、ごちそうさま」
口に付いた血をぺろりと舐め採ると、ユウはあたりをふい、と見回した。

そこは、惨劇だった。
至る所で人が切り殺され、焼き殺され、突き殺されていた。水路は夥しい血で赤く染まり、地面すら
赤くなっている。
家は崩れ、木は焼け落ち、犬猫すら物言わぬ死体と化している。
驚くべきことに、さっきまであれほど殺しまわっていた魔物の死体は一匹もない。ただの、一匹も。
が、今のユウにはそんなことは関係なかった。
目の前に広がる光景。それがとても心地よいものに見えていたからだ。
「………、凄い……。なんて、綺麗なの………」
燃え盛る火が心を揺さぶる。瓦礫と化した家屋が心に響く。横たわる人間の死体が心を潤す。
その時、火炎荒れ狂う道を逃げる一人の男がユウの目に入ってきた。
「……、まだ生きている人間がいたんだ…」


その姿を見て、ユウは酷く胸がむかついた。
(あんなに殺したのに、何でまだ生きているの?鬱陶しい人間め!!)
この手に構える剣が人間の血を求めている。この身に纏う鎧が人間の肉を欲している。この手に持つ
盾が人間の悲鳴を聞きたがっている。
この私が、それら全てを味わいたがっている!!
「ーーーーーーーーっ!!」
声にならない声をあげ、ユウは男に飛び掛った。その瞳は魔に彩られ、口元から鋭い牙が零れる。

「ひゃ」

一瞬の悲鳴をあげ、男は二枚に斬り下ろされた。
「ふふふ、血、血ぃぃ……」
ユウはどさりと倒れる死骸を掴み上げると、頭の上に高々と持ち上げた。
上からポタポタと降り落ちてくる血に、ユウの顔が恍惚に染まる。
「あぁ……、素敵ぃ……」
炎の灯に照らされるユウの姿。それはつい先程までと全く異なっていた。

青い輝きに煌いていた王者の剣は、歪な意匠が施された片刃の剣になっている。
聖なる光を放っていた光の鎧は、赤黒く所々に鋭い突起が飛び出した鎧になっている。
優美な形をしていた勇者の盾は、おどろおどろしい彫刻が浮かび上がった無気味な盾になっている。
それらはまるで時折生きているかのようにビクッ、ビクッと蠢き、降りかかった血を吸い込んでいた。

そして、それらを身につけたユウは…
目は魔族特有の切れ長の瞳孔を持ち、虹彩は真っ赤に染まっている。耳はエルフを凶悪にしたかの
ように先が鋭く尖り、口元からは収まりきらない牙が覗いている。
傍目から見たその姿は、女魔族の剣士にしか見えないものだった。



「うふふ、ユウさん。すっかり魔に染まりましたね」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ったユウの先にいたもの。それはすでに人間の擬態を
解き魔神官の姿になったプリスだった。
「これで、ユウも私たちの仲間アル」
続いて現れたのは、豹の様な耳と尻尾を生やし四肢に黒く鋭い爪を生やしたトウカだった。
「貴方にそのアイテムを装備させるのには、知恵を使ったわよ」
最後に現れたのは、人を惑わす悪魔そのものの風体をしたマホだった。
「みんな…」
ユウにとっては始めてみるプリス達の魔族の姿。が、ユウはその姿が至極当たり前のものに見えた。

「ユウさんが身につけているのは、私たちがアークマージ様から頂いた魔界に伝わる武器と防具である
デモンズソード、イビルアーマー、デビルシールド。
これらは普通に身につけてもただの呪いアイテムなんですけれど……、面白い効果があるんです」

「これらは人間の血を吸収することで、魔素に還元して装着しているものに送り続け…、最後には
『魔』そのものにしてしまうアルよ」

「だから、まずこれらにモシャスをかけてユウの装備とすり替え…、貴方にはメダパニをかけて人間と
魔物の認識を混乱させてあげたわ」

そうか、だからマホに起こされたとき酷く頭痛がしていたのね。
そして、メダパニが解けると同時に頭痛も切れ…、認識ももとに戻ったのね……


「じゃあ………、さっきから私が殺していた魔物は、全部人間………」
「そうアル。アークマージ様は、私たちでこのリムルダールの人間を皆殺しにしろと仰ったアル。
そして、それを利用してユウを魔族に変える使命を仰せつかったアル」
なるほど、私が起きたときに町で起こっていた火災…、あれはプリスとトウカが起こしていたのか…
「ユウさん…、騙していたみたいでごめんなさいね。でも………」
そこまで言ってから、プリスはニヤリと笑った。
「なってしまったらいいものですよね………。魔族って」
プリスの言葉に、ユウは満面の…邪悪な笑みで答えた。
「………うん。
この体……、いいよ。例えメダパニで混乱していたからって、あの肉を切る感触は間違えることはないよ。
あの人間を切り刻む感触………、最高だよぉ………。魔族、最高ぉ………」
思い出したのか、ユウはうっとりと虚空を眺める。手が震え、デモンズソードがカチャカチャと音を立てている。
「マホさん……、マホさんは確かに私を騙したけれど……、そうしてくれたからこそ、私は魔族に
なることができた………。マホさん、ありがとう……」
ユウがマホに微笑みかけると、マホもニコリと微笑返した。
「そう言ってくれると私も嬉しいわ。
さ、生き残りの人間を探しに行きましょ。町の外に出る橋はもう壊してあるから、人間はこの町から
逃れることは出来ないわ。さて、燃やしてやろうかしら、凍りつかせてやろうかしら…」
マホが尻尾をゆらゆらと蠢かせる。
「じっくり、たっぷりと追い込んで………、ザクザクと切り刻んでやるアル」
トウカが爪をせわしなく鳴らしている。
「もっともっと人間を叩き斬って、鎧に、盾に血を吸わせてやる…」
ユウがデモンズソードをギラリと煌かせる。
「人間の苦しむ様、悶える様、まだまだ見足りないですからね」
プリスが艶かしく舌を唇に這わせる。
四人の魔族は獲物を求め、燃え盛る町を彷徨い始めた。


ユウの目の前で男がズタズタに切り裂かれて息絶えている。
「………、こいつで最後アルか?」
両手についた血を舐めとりながらトウカがマホに尋ねる。
「そうね。町の中は倉庫の隅から水路の中まで探し尽くしたわ。もうこのリムルダールに、人間は一
匹も残っていないわ」
四人の背後には全てのものが火炎に呑まれ、包まれ、嘗め尽くされて滅び行くリムルダールの町並みが見える。
「これは、人間の滅びの行く先を指し示す篝火ですね」
プリスが目の前に広がる荘厳な風景に素直な感想を漏らした。

「その通りだ」

その時、火炎に炙られつつある大木から伸びる色濃い影から声が響き、例によってアークマージがそ
の姿を現した。
「この灰に還り行くリムルダールこそ、大魔王ゾーマ様が求める人間の未来。お前達はその先鞭を担う
という使命を、見事に果たしてくれた。私としても、非常に心嬉しく思う」
アークマージの言葉に、四人の顔がパッと綻んだ。
「ありがとうございます。非常に勿体無いお言葉です」
プリスが恭しく頭を垂れる。
「この身がゾーマ様のお役に立てて、とっても光栄に思いますアル」
トウカが両掌を重ねて最敬礼する。
「この偉大な任務を我らに任せてくれたこと、一生の誇りに致したくあります」
マホが優雅に会釈をする。
「この素晴らしい宴に私も加えていただき、誠に有難うございます」
ユウが剣を収め、深々と頭を下げる。
「うむ。此度のお前達の働き、偉大なる大魔王ゾーマ様も魔城にて拝見なさっておられた。そして、
その目覚しい活躍に非常に満足しておられた」
アークマージから発せられた『満足』という言葉に、四人が驚きの顔を上げた。
「だ、大魔王様が、私たちを……」
「な、なんという栄誉アルか!」
「もう言葉ではこの感動を表せられないわ!」
「嬉しい…、すごく嬉しい!」
感動に顔を潤ませる四人の前でアークマージは言葉を続ける。
「よって、特別に今より大魔王様がそのお姿をここに顕現させられることと相成った。
一同、神妙に面を上げるがいい」

「「「「えっ?!」」」」

その時、リムルダールを燃やす火炎が一段と高く舞い上がり、自然の燃え方ではありえぬ形を形成していく。
やがて纏まったその形は…、大魔王の姿など見たこともない四人ですら一目で分かる存在感を持つ…
闇を統べる大魔王、ゾーマの上半身を形成していた。

−我はゾーマ。人の滅びこそ我が悦び。人の絶望こそ我が糧。我は全てを統べる者−

四人の前にゾーマの声が響き渡る。自分達が崇拝し、隷属し、服従する大魔王の降臨に圧倒され、誰も
が顔を上げるどころか指一本動かせないでいた。
「こ、この方が……、大魔王、ゾーマ様………」
ユウの体がかくかくと震える。実体ではないのにその威圧的な波動が体にビリビリと響いてくる。
(人の身の時の浅知恵とはいえ…これほどのお方を倒そうとしていた打なんて………)
ユウは自分の間抜けさに腹が立ってきた。この方は、人の身で倒せる存在ではない。
この方は、神だ。人は神には勝てない。
自分はなんと幸せ者なのだろうか。神に逆らうという愚を退けることが出来、神に従う栄誉をこの身に
担うことが出来たのだから。
自然と、ユウはその場に畏まっていた。いや、ユウだけではない。他の三人も顔に至福の笑みを浮かべ服従の礼を取っていた。

−ユウ、トウカ、プリス、マホ。我を倒すべくこの地まできた者達よ。
 汝らが志を違え、我が配下となったのみならず、我が尖兵として人間の町を一つ滅ぼし尽くしたこと
 非常に嬉しく思う−


「あ、あぁ………」
「なんて、畏れ多いお言葉でしょう………」
ゾーマの言葉に、四人は嬉しさのあまり感動の涙を流した。
自分を殺しにきた不届き者を許すばかりか、祝福までしてくれるとは夢にも思わなかったからだ。

−勇者の血を引く者、ユウよ−

「は、はいっ!」
名指しで呼ばれたユウは、驚きのあまりその場でぴょこんと立ち上がってしまった。
「な、なんでございましょうか………」

−汝、我が授けし三つの武具にて魔に転生す。然れども、その身、まだ完全な魔になり難し…−

「えっ?!」
ゾーマの言葉にユウは愕然とした。自分がまだ、完全な魔族になっていないとゾーマは言っているのだ。
「そ、そんなことはありません!私は魔族。人の世に禍をもたらし、滅びをもたらす存在です!」

−ならば汝、この者を我に捧げ、忠誠の証とせよ−

むきになって反論するユウの前に一陣の炎が上がり、その中から一人の男が現れた。
両手両足を縛られ、全身を麻痺させられているのか微動だにしないその男。その顔に、ユウは微かながら覚えがあった。
「ま、まさか………、父、さん………?」
少しながら自分に似た面差し。母に繰り返し語られた特徴…。間違いなく今ユウの前にいる者は、彼女の
父であった勇者、オルテガだった。

−さあ、その者の命を我に捧げよ−

大魔王の言葉に、ユウはカタカタと剣を抜き、オルテガに向けて構える。
(何を躊躇っているの!この男はもう父親でもなんでもない!私は魔族。人間の敵!)
ユウは必死に自分に言い聞かせ、剣を振り下ろそうとする。が、どうしても後一歩が踏み出せない。
「く、くうぅ………」
苦悩で脂汗が噴き出てくる。斬りたい、斬りたくない。自分の意志が制御できず、進むことも引くことも出来ない。

−それが汝が持つ魔となり難し部分。汝が魔となるためには、それを取り除かねばならぬ−

微動だにできないユウの前に闇が競りあがり、一個の形をなしていく。
それは、ユウが身につけるイビルアーマー、デビルシールドと同じ意匠がなされている、醜悪な兜だった。
「これは………?」
ユウの疑問に、アークマージが答えた。
「その名はエビルヘルム。人の身で身につければたちまち悶死するほどの強烈な呪いを持つ武具だ。
それゆえ、最初の段階でお前にこれを渡すことが出来なかった。
本来、デモンズソード、イビルアーマー、デビルシールド、エビルヘルムは4つで対をなすもの。
これを身につけて初めて、お前は完全な魔族となることができる」
「これを……、身につければ………、完全な、魔族に………」
ユウは、ごくりと喉を鳴らした。


自分は完全な魔族だと思っていた。が、目の前に現れた者が自分の心を揺さぶってくる。
このざわめきを消すのは簡単だ。目の前の男を殺してしまえばいい。が、その一歩が踏み出せない。
これが自分の力でどうしても消せないならば、この兜を被ってしまえばいい。
(私は……、完全な魔族に、なる!)
一瞬の躊躇もなく、ユウはエビルヘルムに手を伸ばし、頭へと被った。
「……………っ!」
その瞬間、ユウの目に僅かに残っていた人間の光が、完全に消え失せた。


ユウの目の前に男がいる。
(この男のせいで………、私は運命に縛られることになった)
勝手に魔王を滅ぼす存在として育てられ、16歳の誕生日のときに無理やり故郷を追い出された。
長く苦しい旅路の果て、ようやっとの思いで魔王バラモスを倒したら、更に上の大魔王が出てきて
それも倒せと旅を続けさせられる羽目になった。
自分の人生は、この男のせいでメチャクチャになった!!

「お前が、お前のせいで私はっ!!」

ユウはデモンズソードを振り上げ、かつて父だったものを真っ二つに切り裂いた。溢れる鮮血がエビル
ヘルムに降りかかり、エビルヘルムは美味そうにその血を飲み込んでいった。
「大魔王ゾーマ様、この者の血と命、確かに貴方様に捧げました!」

−見事であった。これで汝も完全な魔族。汝らその力、今後とも我の役に立てよ−

その言葉を残し、ゾーマの炎は形を失せ、ただの炎となった。
「さあ、我らの魔城に来るがよい。これからは魔城がお前達の、終の住処となるのだからな」
アークマージが目の前に暗黒の回廊を作り出す。これを通れば、何の苦もなく魔城へと向うことができる。
回廊へと向おうとしたユウの足元に何かが落ちた。チラリと目にしたそれに映ったのは、先ほどまで
大切に持っていた虹のしずくだった。
「……………」
バカバカしい。苦労して手に入れたそんなものを使わなくても、もう私たちは自由自在に魔城へと行くことが出来る。
ユウは足元にある虹のしずくをぐしゃりと踏み潰した。虹のしずくは僅かなきらめきを放った後、地面へと吸い込まれていった。


そして、夜は明けなかった。
永劫の暗闇がアレフガルドを支配し、人間は恐怖と絶望の元、滅びへの道を歩むだろう。
魔剣士、ユウ
獣戦士、トウカ
魔神官、プリス
悪魔、マホ
かつて勇者と呼ばれた四人の魔族がアレフガルド全土を戦慄に慄かせるのは、また別の話である。

ユウ
E:デモンズソード
E:イビルアーマー
E:デビルシールド
E:エビルヘルム

せいかく
『がんばりや』→『まもの』