胎動


「アオイ…」
「テ、テラス様…、その、お姿は…」
アオイは目の前に広がる光景を受け入れることが出来なかった。神羅連和国を統べるべき存在で
ある皇帝であるテラスが自分の前に立っている。一市井であるアオイにとっては比べるべくも無
い名誉であるはずなのだが、アオイの心は恐怖に彩られていた。
自分の前に佇んでいるテラス、その肌は青色に、角は漆黒に染まり、瞳は邪悪な金色の輝きを放ち
人には決して無い羽と尻尾が生え揃っている。
「ウフフ…、どう?アオイ………。この姿、素敵でしょ………」
それは三年前に地上を訪れた皇魔族、ベリアールとアスタロットと見まがうばかりの容姿。
最初はそのおどろおどろしい姿に恐怖を覚えはしたが、本人達と面と向かい合うと意外と気さく
であり、人は決して容姿では判断できないと思ったものだ。
が、テラスから立ち上る気配は邪悪そのもの。まさに、悪魔といった雰囲気がある。
「ごめんなさいねぇ、アオイ。私、みんなにずぅっと隠していたことがあったの…」
「か、隠していたこと、ですか………?」
「ええ。三年前、オウキ達が魔界でマステリオン様を倒して凱旋してきたとき、私、あるものを
拾ったのよ…」
ゆっくりと思い出すかのように、テラスは気だるそうにアオイに語りかけた。
「オウキ達が私に報告を済ませて立ち去った後、床にキラキラと光っているものがあったから、
私、それを拾い上げてみたのよ。翡翠色をした宝石のようなものだったわ。それはもう、あまり
にも綺麗なものだったから、私、つい懐に入れて部屋に持ち帰ってしまったの」
「そうしたらその夜、私の夢の中で声が聞こえてきたのよ。
『我に身を捧げよ。我に身を捧げよ』ってね。その声に目を覚まして周りを見たら、拾った石が
青白く光っているのよ。それをみたら、私………」
つらづらと喋っているテラスの顔が青く熱を帯びてきている。瞳が潤み始め、熱い吐息を途切れ
途切れに吐き始めた。
「身体がボゥッと熱くなってきて、ついその石に手をかけたの。そうしたら………」

『我に身を捧げよ。我に力を捧げよ。我に心を捧げよ。我に全てを捧げよ』

「って声が心に響いてきたのよ。私、もうその声を聞いた瞬間気が付いたわ。このお方こそ、私
が全てを捧げるべき尊きお方だって」
「た、尊きお方って、ま、まさか………」
絶望的な思考にアオイは行き付いた。それを察したのかテラスはニヤリと微笑む。
「そう、私が拾った石。それこそマステリオン様のお体の一部だったの。もっとも、マステリオ
ン様の本体と魂はオウキ達が消滅させたから、そこにあったのはちっぽけな残留思念でしかなか
ったんだけれど、私の心を虜にするには充分すぎるほどの力だったわ。
だから私は、マステリオン様がお力を取り戻すために私を捧げたの。私の大事なところにマステ
リオン様を受け入れて、大事に、大事にお守りしたの」
話しながらテラスの左手はその胸をもみしだき、右手はドレスの下の下腹部に添えられている。
右腕が動くたびに淫らな水音が響き、床に水滴が滴り落ちてきている。
「マステリオン様を受け入れて三年間、マステリオン様は私の力を取り込んで着実に力を取り戻し
代わりに私にマステリオン様の魔力を賜ってくださったの。そのおかげで私は、こうしてマステ
リオン様に仕えるに相応しい身体を手に入れることが出来たし、人では手に入れられない魔力も手
に入れることが出来たわ。でもね………」
ここまで話した後、テラスはアオイをじろりと睨みつけた。
「もう、私の力だけじゃ足りないの。マステリオン様がどんどん欲してくるのよ。力を捧げよって
語りかけてくるのよ。だから、ね………、アオイ………」
全身を汗まみれにしたテラスがドレスをたくし上げた。アオイの瞳に濡れそぼったテラスの下腹部
が入り込んでくる。
と、テラスの股の付け根から粘液がボタボタと滴り落ちてきた。糸を引くほどの粘度を持ったそれ
と共に顔を出したもの。それは幾重にも枝分かれした、漆黒の触手だった。
「マステリオン様が、あなたを欲しがっているの……。私の身体の中で欲しいって暴れまわるのよ。
アオイ、有難く思いなさい。マステリオン様に力を捧げるなんて、この上ない栄誉なんだから…」
「ああ………、い、嫌あぁーッ!!」
顔を引きつらせ絶叫するアオイの周囲を漆黒の触手が幾重にも覆い重なっていった。