抵抗



「うう……」
赤光に被われた魔導王メビウスの掌がテラスの額にゆっくりと覆い被さってくる。全身をメビウス
から伸びた蛇尾に絡め取られ身動きの出来ないテラスは、迫り来る絶望になお抗うかのように力
一杯メビウスを睨みつけていた。
「さあ、テラス殿下。これで貴方も我の物となって頂きましょうか。その威厳に満ちた眼差し、
麗しき肢体、気高き心、その全てが、この我の物」
「ざ…、戯言を申すでない!誰が、お主の様な輩の物になどなるものか!この痴者めが!」
もはやどうしようもない状況にもかかわらず抵抗を止めないテラスに、メビウスは感嘆と賞賛の
交じり合ったような表情を向け、声を高らかにして大笑いを上げた。
「フハハハハッ!流石だ、見事だ!!
それでこそ総てを統べる皇帝!!王者の在るべき姿よ!そして、だからこそ我の傍に侍るに相応しき存在!
皇帝テラス、お前の全て、この魔導王メビウスが為に捧げるがよいぞ!!」
伸ばしたメビウスの掌がテラスにピッタリと密着する。その瞬間、テラスの全身が赤光に覆い包まれた。

「キャアアアァッ!!」

「ハハハハハッ!さあ、我が手に堕ちよテラス………、ヌッ?!」
「黙れぇ………。貴様の手などに、堕ちる……ものかぁ………」
テラスの脳髄に直接流し込まれてくるメビウスの力。魂を屈服させ身も心もメビウスへ従属させ
ようと襲い来る力の流入に全身を引き裂くかのような衝撃に包まれながらも、なおテラスは抵抗
の意思を捨てずメビウスをキッと睨み続けていた。
「例えこの身が貴様の手に内に堕ちようとも…、わらわの心までは貴様のものには、ならぬ!」
「…………、素晴らしいぞ!これほど我の力を浴びてもなお失わぬその意志。素直に賞賛の念を送ろう!
だが、そこまでだ。コア・キューブの力を得、人を超えた我の力、抵抗しきれるものではない!」
メビウスの眼がギラリと光り、掌から奔出される赤光がさらに輝きを増してきた。それまで辛う
じて抗してきたテラスの心の壁を、それは圧倒的な奔流で覆い包み、容易く決壊まで導いてしまう。
「あ………、あああああぁっ!!」
体内に怒涛の如く流れ込んでくるメビウスの力に、テラスは心の限りの絶叫を上げた。声を張り
上げること。それこそが最後の抵抗と言わんばかりに。
「ああ…わらわは、わらわはぁ………まけ、ぬ、ぅ…」
大きく見開いた瞳から、一筋の涙が流れ落ちていく。それは、いつまでもテラスの頬から滴り落
ちず、小さな涙滴となって留まっていた。
それはまるで、メビウスによって追い出されたテラスの意志が、なお諦めず体の中に戻ろうとし
ているかのようにも見えた。


メビウスから放たれていた赤光は、やがてテラスの中に全て取り込まれていった。テラスの額に
付けられていた掌をゆっくりと引き離し、メビウスはテラスに向けて問い掛けた。
「さて、問おうか。テラスよ。お前は何だ?」
「わ、わらわは……、わらわは…」
声を震わせ、テラスは言葉を絞り出そうとしている。なにやら額に明滅しているものが見える。
「わらわは…」
テラスの額に翼をもった蛇を連想させる黒々とした紋章が浮かんできた。その形がはっきりする
につれ、テラスの瞳から光が失せ、虹彩が翡翠から赤へと変化していった。
「わらわは………、偉大なる魔導王、メビウス様の忠実なる下僕、です…」
テラスから紡ぎだされた言葉。それは身も心も完全にメビウスの元に屈服した宣言だった。
「ああ…、なんて素晴らしい…。わらわはこの世に生を受け、初めて全てを捧げるべき方に会い
見えることが出来ました…。わらわの全ては、世を統べるべき王、メビウス様のもの…」
光無い瞳を歓喜に潤ませ、テラスはメビウスにしなだれかかってきた。分厚い胸板に手を回して
身体を擦り付け、曝け出している大胸筋に舌を這わせ、清めるかのようにピチャピチャと音を立てて舐め上げた。
「フフフ…、ならばテラスよ、お前が我の物だという証を、この場で立ててみよ」
「ハイ。わかりました、メビウス様…」
主の命令に蕩けた笑みを浮かべたテラスは、ゆっくりとドレスをたくし上げ、自らの下腹部を曝け出した。
「どうぞ、メビウス様………、ゆっくりと、わらわを御賞味くださいませ…」