ジェダイ少女悪堕ち

 それはまだ、ジェダイ騎士団が隆盛を誇っていた頃の物語。
 若きパダワン(見習いジェダイ)の少女アルテナは、彼女の師であるジェダイマスター・サイファーとともに、
 惑星バトペゼルにおける紛争の調停にやってきていた。
「マスター! 外は戦闘ドロイドでいっぱいです! きっと反政府軍は初めから調停に応じるつもりはなかった
です」
 しかし、反政府軍は調停に応じず、ジェダイ抹殺の為にドロイド軍団を送り込んできた。
「恐れるな、そして憎むな。恐れも憎しみもフォースの暗黒面に繋がるのだ」
 サイファーは落ち着きはらって、アルテナを宥める。
「‥‥ごめんなさい、マスター」
「そうだ。心は常に平静を保つのだ。さすれば、フォースの加護がある」
 サイファーは素直に答えるアルテナの頭をやさしく撫でる。
「はい、マスター! がんばります!」
 アルテナはこの師の癖が嫌いではなかった。子供扱いされているようでもあったが、この頼りがいのあるマス
ターの温もりを感じることに、アルテナはいつしか幸せを感じるようになっていた。
「よし、では脱出しよう。この建物の北側に細い谷がある。狭い谷間なら敵の数の優位は減少する。谷の入り口
までは強行突破だ。敵に構わず道を塞ぐ物だけを斬り伏せていくんだぞ、出来るな?」
「はいっ、マスター!」
「いい返事だ」
 サイファーはもう一度アルテナの頭を撫でた。アルテナは嬉しくて、もう恐怖も憎しみを忘れていた。彼女が
心に抱いていたのは、淡い恋心‥‥。

 アルテナとサイファーは南側の窓からフォースの力で家具類を放り出す。
 ガラスの割れる音、家具類の落ちる音に戦闘ドロイド達が南側に集まってくる。
「遅れるなよっ!」
 北側の戦闘ドロイドの数が薄くなったところで、二人はライトセイバーを振りかざして北側の谷へと疾走する。
 二人に気付いたドロイド達がブラスターを撃ってくる。二人はライトセイバーでレーザーを防ぎ、時に弾き返
して走る速度を緩めない。
「てやぁっ!」
 アルテナは進路上に立つドロイドは一刀のもとに斬り伏せていく。
 だが、やがて南側が陽動であったに気付いたドロイド達が急いで追撃してくる。
「アルテナ、振り返らずまっすぐに進め! 後ろは私に任せるんだ!」
「はい、マスター! たぁっ!」
 答えながらアルテナはまたドロイドを斬り伏せる。
 サイファーはアルテナの背後につき、後方からのレーザーを弾き飛ばす。走りながら、後方に注意を向けるの
は熟達したジェダイマスターだからこそ出来る技である。
 二人はそのまま、谷へと駆け込んだ。
「このまま谷を抜けていけば、政府軍の勢力圏に入れるはずだ。急ぐぞ」
 敵の攻撃は狭い谷に入ったことで受けづらくなった。しかし、追撃がやんだわけではない。
 サイファーは変わらず後方からの攻撃を弾いている。
 しかし、前方に待ち構えていた敵は少なかった為に、アルテナに油断が生じた。
「マスター、大丈夫ですか? きゃあっ!」
 背後のサイファーに気を取られた瞬間、待ち伏せていたドロイドがアルテナを狙い撃った。
「くっ‥‥てやっ!」
 左目の辺りに激痛が走ったが、アルテナは冷静にドロイドを斬り伏せる。
「アルテナ、大丈夫か?」
「左目をかすりましたが、大丈夫です!」
 サイファーの問いに、懸命に答えるアルテナ。実際、どれほどの傷かは分からなかったが、今は前に進まなく
てはならない。
 アルテナは痛みに耐えながら、無我夢中で走り続けた。

 その後、アルテナ達は反政府軍の追撃を振り切って政府軍勢力圏に帰還した。
 直後にアルテナは気を失って倒れた。多量の出血を伴う大怪我をしていたのであるから、政府軍勢力圏まで辿
り着けたほうが奇跡と言っていいだろう。アルテナはジェダイだからこその精神力だけで死地を切り抜けたので
ある。
「アルテナ、頑張ったな」
 サイファーは気を失ったアルテナを抱き上げ、医療ドロイドの元まで運んだのであった。

 アルテナは集中治療室で目を醒ました。
「‥‥ここは‥‥?」
「アルテナ、目を醒ましたか」
「ます、たー?」
 目が醒めた時、最初に見えたのはサイファーの顔であった。それだけでアルテナは幸せな気持ちになれた。
「まだ、しばらく安静にしているといい。調停については新たにジェダイが派遣されてきた」
「‥‥ごめんなさい、マスター。私が怪我をしてしまったばかりに‥‥」
「いいんだ、アルテナ。むしろ、私はお前を誇りに思うよ。これだけの怪我を負いながら、あの死地を脱したお
前の精神力はすばらしいものだ」
 サイファーはそう言って、アルテナの頭を撫でてやる。
「あれで私は確信した。お前はもう十分に一人前だ。そこで、ジェダイ評議会にお前をジェダイナイトに昇格す
るよう具申した」
「私が‥‥ジェダイ・ナイトに?」
 アルテナの頭を撫で続けながら、サイファーは笑顔で頷いた。
「ありがとう‥‥ございます、マスター」
(「でも、マスターと一緒にいられなくなっちゃうのは‥‥ちょっと‥‥寂しいかな‥‥」)
 アルテナはジェダイ・ナイトへの昇進を喜びながらも、ちらりと一抹の寂しさを感じていた。
「私は応援のジェダイに任務の引継ぎをしなくてはいけない。アルテナは傷が癒えるまで、ゆっくりと休むとい
い。傷が癒える頃には晴れてジェダイナイトだ」
 そう言ってサイファーは席を立った。
「はい、マスター‥‥」
 アルテナはサイファーへの想いを胸に抱きながら、眠りについたのであった。


「ん‥‥うん?」
 人の気配を感じてアルテナは目を醒ました。
「おや、起こしてしまったようじゃな」
 老人のしゃがれた声であった。目を開けると見覚えのある老人である。
「‥‥ネル卿‥‥どうして?」
「おぬしとサイファーの尻拭いに来たのじゃ。ほっほっほ」
 アルテナは嫌な顔をした。もともと、「老醜」という言葉が気味悪いほどに似合っているジェダイ・マスター
にいい気持ちを抱いていない。
「ほっほっほ、わしを醜いと思うか?」
「っ! ‥‥いえ、そんなことは‥‥」
 心を見透かされたような一言に、アルテナは己を恥じて視線をそらす。
「じゃがな、今のお前さんも似たようなものじゃろうに、ほっほっほ」
 ネルが愉快そうに声をあげる。
「私が‥‥?」
 アルテナはネルの言葉に思わず振り向く。
「そうじゃ。ふむ、まだ自分では知らなかったようじゃな。鏡でも見てみるがよい」
 ネルは治療室の壁にかかっている鏡を指差した。
「その左目に撒かれた包帯の下をな、ほっほっほ」
 アルテナはベッドから起き上がる。五体は異常はなく、鏡のところに行くのに何の障りもない。
「‥‥嘘、嘘です‥‥ただの‥‥かすり傷だもの」
 鏡に映る包帯に巻かれた自分の左目。ジェダイであっても、年頃の少女である。自分の顔に消えないほどの大
きな傷が出来たなど信じたくない。
 心臓が高鳴り、指が震えた。心が恐怖に染まっていく。
「ただのかすり傷で、そんなに仰々しく包帯を巻くものじゃろうか?」
 ネルの残酷な言葉が心を抉る。振るえる指で少しずつ包帯をはがしていく。
 そして、アルテナが見たものは――
「いや‥‥いやああぁぁっ!!」
 ブラスターのレーザーに焼かれて醜く潰れた左目であった。
「ほっほっほ、かわいい顔が一転して醜くなったものよのう」
 アルテナは膝をついて、その場に蹲ってしまう。
「これでは、サイファーのヤツがおぬしを捨てたのも当然じゃなぁ」
 ネルがアルテナに覆いかぶさるように顔を寄せて、その耳元に囁いた。
「マスターが‥‥私を‥‥捨てた?」
 アルテナは混乱しており、その意味を図りかねた。

「そうじゃ。ジェダイ・ナイトへの昇進など体のいい厄介払いじゃ。どんな男でもおぬしのような醜い娘を傍に
置いておきたくはあるまい。サイファーのヤツはもう次の若くてかわいいパダワンを見繕っておるわい、ほっ
ほっほ」
 ネルが下卑た笑いを浮かべながら、アルテナに囁き続ける。
「‥‥マスターは‥‥マスターは立派なジェダイです! そんなこと‥‥」
「ふん、己の顔を残された右目で見ても、そう言い切れるのか?」
 ネルはアルテナの髪を乱暴に掴んで鏡の高さまで引っ張りあげる。
「‥‥いや、いやぁっ!」
 アルテナは涙を流して、それを拒絶する。
「認めたくない気持ちはわかる‥‥お前の絶望する気持ちもわかる‥‥だが、嘆いているだけでは何も変わらん
ぞ」
 ネルのささやきが急に優しげなものに変わった。
「‥‥ネル‥‥卿?」
「わしはな‥‥おぬしの顔を元に戻す方法を知っておるのじゃ。それを使えば、おぬしの人生もやり直すことが
できようぞ」
「っ! ‥‥本当ですか?」
 絶望に撃ち震えていたアルテナの瞳に初めて希望の光が宿った。
「ああ、他のジェダイには絶対に真似出来ない方法をな。あのヨーダでさえもじゃ。それを使えば、サイファー
を自分のものにすることさえも容易きこと」
 ネルのしゃがれた声が甘い甘い蜜のような誘惑になって、アルテナの心を蝕んでいく。
「ネル卿‥‥それは‥‥それは、どんな方法なのですか!?」
 アルテナはネルに縋りついていた。
「フォースの‥‥暗黒面じゃ」
「っ!? ダーク・ジェダイっ!」
 フォースの暗黒面に落ちたジェダイをダーク・ジェダイと呼ぶ。
 ジェダイのもっとも明確な敵であるダーク・ジェダイを目の前にして、アルテナの目が醒める。
「そうとも、わしは暗黒卿ダース・ネクロスじゃ! アルテナ、フォースの暗黒面の力は巨大ぞ! その醜い顔
を再び元のかわいらしい顔に戻すことも叶うであろう!」
「黙りなさい! 誰が暗黒面に屈するものですか!」
 フォースの念動力を使って枕元に置いてあったライトセーバーを手元に引き寄せる。
「きゃあっ!」
 だが、アルテナがライトセイバーを掴んだ瞬間、その腕は切断されていた。ライトセイバーを腰に帯びていた
ダース・ネクロスの斬撃のほうが早いのは当然の理であった。
「あ‥‥ぁあ‥‥」
「アルテナよ。わしは何もおぬしを殺そうというのではない。むしろ、救いたいと思っておるのじゃ。さ、わし
と共に来るのじゃ」
 切り落とされた腕の痛みに顔を歪めるアルテナ。
「じゃが‥‥どうしても拒むというのであればじゃ。正体を知られた以上、おぬしには死んでもらわねばなるま
い」
 ダース・ネクロスのライトセイバーがアルテナの咽喉元に突きつけられた。
「さあ、どちらにするんじゃ? ん〜?」
「私は‥‥私は‥‥」
 ジェダイの天敵であるダーク・ジェダイを前にして、アルテナは一種の興奮状態となっていた。その心からは
先ほどまでの弱弱しく絶望する気持ちは失せていた。

 その時であった。
「アルテナ、具合は‥‥ネル卿?! 何をしていらっしゃるか!」
 サイファーが部屋に入ってくる。すぐさま、ダース・ネクロスがアルテナにライトセイバーを向けているとい
う異常事態に気付く。
「ちぃっ! 邪魔が入りおったわ!」
 すぐさまアルテナからサイファーに攻撃目標を切り替える。
「っ! 乱心されたか!?」
 サイファーもすばやくライトセイバーを引き抜くと、ダース・ネクロスの攻撃を受け止める。そのまま、二合、
三合、四合と猛烈な勢いの斬りあいになる。
 だが、ダース・ネクロスの一枚上手であった。斬り合いながらも、巧みな足裁きで自分の位置を出口側へと少
しずつ移動させていく。
「今日はここまでにしておいてやろう。さらばじゃ、また会おう!」
 ダース・ネクロスは扉から外へと駆け去っていった。
「ふぅ‥‥ふぅ‥・・アルテナ、大丈夫か?」
 サイファーは短い戦闘だったにも関わらず息を切らしていた。
 ダース・ネクロスとて伊達に歳をとっているわけではない。若いサイファーに対して経験で勝るところがあっ
たのだろう。
(それとも、あれこそがフォースの暗黒面の力なのでしょうか?)
 なんとはなしに、そんなことを思ったのは、アルテナが暗黒面からの誘惑を払拭し切れていない証拠であった。


 右腕の応急処置を終えたアルテナはジェダイ寺院への貴官を命じられる。
「よもや、ネル卿がダーク・ジェダイであったとは‥‥。アルテナ、お前はジェダイ寺院に戻り、療養を兼ねて
ことの次第を報告してくれ」
「マスター! 私も残ります」
「駄目だ。怪我を治療することも、ジェダイ評議会にネル卿‥‥ダース・ネクロスのことを報告することも、お
前にとって重要な使命だ」
 アルテナは反駁したが、サイファーは聞き入れなかった。
 アルテナは自分の心臓の鼓動が高くなっているのに気付いた。ダース・ネクロスに囁かれた、多くの言葉、多
くの疑念が心の中で大きくなり、暴れている。
「‥‥マスターは‥‥そんなに私を傍に置くのが嫌なのですか?」
 俯いて押し殺した声でアルテナは問う。
「どうしたんだ? アルテナ」
「私が‥‥醜くなってしまったから、もう、私を傍に置いておきたくないのですか!?」
 アルテナはサイファーに抱きつく。
「マスター‥‥私、マスターの傍を離れたくありません‥‥ジェダイ・ナイトにもならなくていいです‥‥ずっ
とパダワンのままで‥‥ずっとマスターの傍にいさせて下さい‥‥マスターっ、マスターぁぁっ!」
 サイファーの胸に顔をうずめて、すがりつくアルテナ。
 それまで自覚していなかった淡い恋心が、胸焦がす熱い情熱となって噴き出していた。
「‥‥アルテナ‥‥」
 サイファーは抱きついてきたアルテナの頭をやさしく撫でてやる。
(想いが届いたっ!)
 アルテナはそう思った。この瞬間、アルテナは溢れるような幸福感に満ち足りていた。ぎゅっと強く強くサイ
ファーを抱き締める。
 しかし――
「ジェダイにも愛はある。しかし、それはこの銀河の人々に分け隔てなく等しく向けなくてはならないものだ」

 アルテナの心の中で、何かが軋む音がした。それは大きな崩壊の前兆である。
「ジェダイの騎士は、執着を持ってはいけない。執着は貪欲を生み、貪欲は暗黒面へと至る」
 サイファーはジェダイの騎士としての言葉で語った。それは男としてアルテナを拒絶する言葉ですらない。
 アルテナの心の中で、様々な価値観が音を立てて崩れ落ちていく。
「マスターは‥‥マスターは自分に都合のいいことばかり言ってます‥‥どうして、私のことを見てはくれない
のですか!?」
 サイファーの胸の中で、アルテナはなじるように言う。
「私のことが嫌いなら、嫌いだって言えばいいじゃないですかっ! こんな醜い私だから、傍にいて欲しくな
いって言えばいいじゃないですかっ! どうして、ジェダイの掟なんかで誤魔化そうとするんですかっ!」
 顔をあげて、その胸板を左手で叩きながら必死に訴える。
「お前は私の大切な弟子だ。だが、私が師として未熟であるばかりに、お前を正しく導いてやることが出来なか
った。許してくれ」
「‥‥マスター‥‥そうじゃないんです‥‥そんなことじゃないんですっ」
 アルテナは慟哭する。サイファーを欲していた、サイファーに抱かれたかった、キスを‥‥して欲しかった。
そんな様々を想いがこもった慟哭であった。
「アルテナ、お前は疲れているんだ。この惑星に来てから大変なことが続いた。寺院に戻って‥‥」
 サイファーの言葉は優しい。だが、アルテナはサイファーにとって、すべてと同じく愛しい存在であり、それ
は同時にすべてと等しく価値がないのと同じであった。


 サイファーは泣きじゃくるアルテナを宇宙船に押し込むと、信頼できる宇宙船操縦ドロイドをつけて送り出し
た。
 サイファーの脳裏にアルテナの姿が浮かぶ。愛しいと想えた。それは大切な弟子、ジェダイの仲間という想い
を超えた感情の欠片である。
「‥‥未熟っ!」
 サイファーは頭を壁にぶつけて、自らを戒めた。

 送り出されたアルテナは宇宙船の中で失意の中にあった。
 操縦はドロイドに任せて、今はただ袖を涙で濡らし続けている。
 その時、船内に警報が鳴り渡った。
「‥‥どうなっているんですか?」
「とらくたーびーむデ牽引サレテイマス。脱出不能ノ高出力デス」
 アルテナが操縦ドロイドに問いかけると、ドロイドはトラクタービームで牽引されている状況を報告する。
「‥‥」
 アルテナの宇宙船が大型宇宙船のカーゴに吸い込まれていった。
「ほっほっほ、どうやら傷心の様子じゃのう」
 カーゴで出迎えたのはダース・ネクロスである。涙でぐじゅぐじゅになった顔、赤くなった瞳を見れば、察し
がつきそうなものであった。
「‥‥ダース・ネクロス。あなたは私に嘘をつきましたね。マスターには私を捨てるつもりなんてありませんで
した」
 ダース・ネクロスが再び自分の前に姿を見せたことを、アルテナは驚くほど冷静に受け止めていた。
「そもそも、マスターにとって私は捨てる価値もない、とるに足らない存在だったのですから」
 左手の拳をぎゅっと握り締める。思い出すごとに胸に込みあがってくる想いがある。
「ほっほっほ、憎いか? サイファーが」
「憎いです、好きです、殺したいです、愛してます、縊り殺したいです、抱き締めたいです‥‥っ!」
 サイファーに対する相反した感情が次々にアルテナの口から溢れ出す。
「そうじゃ、その感情に身を委ねるのじゃぁ! それこそがフォースの暗黒面! ジェダイには辿り着けない強
き力じゃ!」
 そんなアルテナの様子に歓喜の声をあげるダース・ネクロス。
「サイファーっ! サイファーっ! サイファーっ!!」
 愛しくて憎い男の名前を絶叫するアルテナ。フォースの暗黒面が心を休息に侵食し、感情の制御が出来ていな
いのだ。
「アルテナよ! わしの弟子になるのじゃ! さすれば、フォースの暗黒面の使い方を教えてやろう。強大な暗
黒面の力を使えば、サイファーなどお前の想うとおりにできようぞ」
「‥‥あ、あああっ! くぅ‥‥サイファーを想い‥‥通りに‥‥?」
「さあ、わしをマスターと呼ぶのじゃ。さすれば、サイファーに己を愛させることも、殺すことも自由自在じゃ」
 ダース・ネクロスの甘言が耳に響く。
「‥‥マスター。ネクロス卿、どうか私を‥‥弟子にしてください」
 アルテナはダース・ネクロスの前にひざまづいていた。

 一年後――
「行くのじゃな」
 ダース・ネクロスが問う。
「行きます。私はサイファーを手に入れる為に暗黒面の力を磨き続けてきたのですから」
 答えたのはかつてのアルテナ、今はダース・クローネと呼ばれるダーク・ジェダイである。
 顔には左目付近だけを覆うモノクルのような仮面。複合センサーが仕込まれており、通常の人間にはありえな
い多くの視覚情報を手にすることが出来る、失った左目の代用品である。
 かつてダース・ネクロスに切り落とされた右手には義手。指先は鋭角な高硬度物質で作られており、禍々しい
悪魔の腕のようである。
 ハイヒールを履き、すらりとした脚は少しも隠そうとしていない。
 そればかりか、胸と性器だけをわずかばかりの布が隠すだけで、体もラインも素肌の大部分もほとんどむき出
しという姿である。
 まるで自分の女であることを見せつけようとするような、ふしだらな装束である。
 それでいて、肩上には大きな肩アーマーを身につけ、背後にはマントをなびかせている。
 首にはペットにつけるような首輪を巻いていた。
「そうか‥‥この一年、おぬしの力はわしをも上回った。フォースの暗黒面を受け入れたからじゃ‥‥かはっ‥
‥げふっ、がはっ‥‥故にわしもこの様じゃ‥‥」
 ダース・ネクロスは口から血を吐く。その腹にはもはや治療も間に合わない深い傷が出来ていた。
「私はサイファーを手に入れて、二人で生きていきます。余計なダーク・ジェダイはいらないんです。ですから、
斬りました」
 ダース・クローネは当然のことというように淡々と述べる。
「ほっほっほ、そ、それでよい‥‥それでこそ、フォースの‥‥フォースの暗黒面を知る者じゃ‥‥」
 私利私欲の為に師弟でさえ、殺しあうのがダーク・ジェダイである。殺すのも殺されるのもお互い様である。

「修行ではお世話になりました。ですから苦しまないでいいように、もう殺しますね」
 ダース・クローネの目にも留まらぬ抜き打ち。
「サイファー‥‥私は今でもあなたを‥‥あなたを愛しています」
 呟いたダース・クローネのハイヒールの音が遠ざかっていく。

 後に残ったのはダース・ネクロスの首だけである。

<終り>