オリジナル・吸血鬼


路地を曲がったところで身を隠し、後ろから追いかけてくる吸血鬼を待ち受ける。
彼女はヴァンパイアハンターの泉美。
ショートカットにプロ球団のキャップをかぶり、
無地のTシャツ、GジャンにGパンというラフな格好である。
ヴァンパイアハンターらしいところがあるとすれば、銀の弾丸が収まった腰のガンベルト、
手にしたリボルバー拳銃、そして首もとのの銀の十字架であろうか?
「くっそ、子供だと思って油断した。・・・佳澄は大丈夫かな?」
パートナーである佳澄とはすでに離れ離れになってしまっていた。無事であればよい、と思う。
 コッ、コッ
足音が迫ってきた。
「・・・さあ、こい。この銀の弾丸、あんたの無い胸にぶち込んでやる」
精一杯の憎しみを込めて呟く泉美。
 コッ、コッ、コッ
足音がすぐそばまで迫った。
「くらえっ!!」
泉美はばっと身を乗り出してファニング(扇撃ち)で弾を弾きだす。
「・・・えっ!?」
が、泉美の目に映ったものでは、石畳の道を黒いローファーだけが一人でに歩いてくる光景。
そのローファーをはいていたはずの吸血鬼は影も形もない。
「ひゃぁっ!?」
背後から突然、両方の乳房が揉まれて、泉美は悲鳴をあげた。
「無い胸なんて、ひっどいよぉ。ボク、おっぱいちっちゃいの気にしてるのに〜」
むくれた子供のような声。いや、実際、その吸血鬼は幼い女の子の姿をしていた。
美少女吸血鬼は泉美の胸を揉みながら、溜息をついた。
「はぁ・・・ボクは不老不死だから、もうおっぱい大きくならないし・・・」
「こ、殺せっ! こんな屈辱受けるくらいならっ!」
美少女吸血鬼の外見からは想像できないような力で拘束されてしまった泉美は、
無駄と知りつつも体をくねらせてわめき散らす。
「殺されたいの? じゃあ、キミはボクの仲間にしてあげる♪」
無邪気な声が泉美の耳元で囁かれる。
「や、やめろっ」
「ボクがキミのゆーこと聞かなくちゃいけない理由なんてないよぉだっ」
泉美の首筋に美少女吸血鬼の吐息がかかる。泉美は背筋にゾクリとしたものが走るのを感じる。
「血と一緒におっぱいの大きさも吸い取れたらいいのになぁ」
ふざけるな、と泉美は思ったが、それ以上の抵抗は出来なかった。
美少女吸血鬼は泉美の胸をもみ続けながら、その首筋に牙を突き立てた。
「あっ・・・はぁっ・・・ああぁっっ!」
体の隅々まで闇に染まっていく感覚は甘美ですらあった。
泉美はエクスタシーを感じて、快感に体を震わせたのである。


「泉美ちゃんは大丈夫かな?」
退治しにいった吸血鬼に返り討ちにされて、ほうほうの体で逃げるうちに、
パートナーとはぐれてしまった佳澄は物陰に身を潜めていた。
長い髪に大きなリボン、フリルのついたピンクのドレスとおよそ吸血鬼ハンターに見えない佳澄だが、
手に持った古い聖書は目に見えるほどに神々しいオーラを纏っている。
それがハンターとしての佳澄の武器である。
「佳澄っ。佳澄、いる?」
泉美の声がした。
「泉美ちゃんっ」
パートナーの声に安心した佳澄は物陰から顔を出した。
「よかった、佳澄、無事だったみたいね」
泉美はすぐに佳澄の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「泉美ちゃんこそ、無事だったんだね。・・・よかったぁ」
佳澄は嬉しさのあまり、涙ぐんでいた。
「もう、大袈裟ね。泣かないの、佳澄」
そんな可愛らしい佳澄の頭を撫でようと泉美が手を伸ばした時、
「あつっ!」
火花が散って、泉美が伸ばした手を何かが拒否した。
「泉美ちゃんっ!」
「・・・ははは、こうなってみると、その聖書がどんなに凄いものだったのか、よく分かるね」
火傷のようになった指先を舐めながら、泉美は苦笑いをした。
「泉美ちゃん・・・? ・・・あっ!」
その時になってようやく佳澄は泉美の首筋にある牙の噛み傷に気付いた。
「そっ。気付いたみたいね。私、ヴァンパイアになっちゃったの。どうする?」
泉美は何の苦悩も衒いもなく、いつも通りの笑顔を佳澄に向けてくる。
「吸血鬼になりたての私くらい、佳澄なら簡単に退治できるわよ。その聖書を使ってね」
「そ、そんな・・・なんで泉美ちゃん・・・?」
大切なパートナーが吸血鬼になってしまった・・・ショックが大きすぎて、
佳澄の頭の中はグチャグチャに混乱していた。
「・・・逃げなさい。私がご主人様にお願いして、あなただけは助けてもらうようにしてもらったから。
ハンターなんかやめて静かに暮らすといいわ」
寂しそうな表情を見せると泉美はゆっくりと背をむける。
「最後に一度だけ抱き締めたかったな。吸血鬼になった今だから言っちゃうけど、
私、佳澄のことが好きだったの。友達としてじゃないわ。
佳澄とキスがしたかった、抱き締めあいたかった、肌と肌を重ねたかった。
私はもう吸血鬼だから、神様に何一つ憚ることなく、そう言えるの」
佳澄に背を向けたまま、同性愛という背徳の告白をする泉美。
「じゃあね、佳澄」
「ま、待って! 泉美ちゃんっ」
その泉美を呼び止める佳澄。
「・・・私も泉美ちゃんのことが・・・」
佳澄に背を向けたままの泉美は、にやりと邪悪な笑みを浮かべた。口元で牙が光る。
告白は嘘ではない。だが、吸血鬼になって人間の倫理観というものに縛られなくなった泉美は
たとえ力尽くでも佳澄を自分のものにするつもりでいた。
「・・・佳澄・・・?」
泉美は狡猾にも声を震わせて聞き返した。振り向いた時には邪悪な笑みは消して、
愛の告白の返事に不安と期待がまいなぜになった思春期の少女の表情をしていた。
「私も・・・泉美ちゃんのこと、ずっとずっと好きだったの。でも、それはいけないことだって、
ずっと思っていたから・・・だけど・・・だけど・・・」
佳澄は必死の表情で咽喉の奥から、その一言を搾り出そうと喘ぐ。
「私も連れて行って、泉美ちゃん!!」
佳澄は手にしていた聖書を地面に投げ捨てた。
「佳澄っ!」
泉美は佳澄に駆け寄って抱き締める。
「ずっと、そばにいてね」
佳澄の囁きを聞きながら、泉美は佳澄の首筋に牙を突き立てるのであった。

――終り


保管庫へ戻る