モデルΣ


それは、一見何の変哲もないライブメタルだった。
あるイレギュラーを撃退した時にそいつが大事そうに保護していたもの。
ボスでもないイレギュラーが何故ライブメタルを保持していたのかはわからないけど
相手から奪え返せたんだからよしとしよう。
「我はライブメタル・モデルΣ・・・汝が我が力を欲するものか。」
「ええ、私はエールよ、これらヨロシクね!それじゃ早速だけど貴方の力、試させてね」
その時、モデルΣから暗い光がこぼれたような気がした。なんだろう?なにか不安。
「どうした、何を呆けている。」
「あ、ゴメンゴメン。それじゃあ、いくね!ロックオン!」
モデルXとモデルΣを掲げて私は叫ぶ。
異変が起こったのは、その時だった。
「え、え、なに?」
私の姿に変化はおきず、替わりにモデルシグマから色とりどりのコードがあふれ出る。
そのコードは私の腕、足、身体に絡みつき、私から自由を奪うとともにモデルXにも突き刺さる。
「X!?」
「しまった!エール、コイツはライブメタルではない!こいつは・・・!」
モデルXが言い終わるより先に、モデルXから輝きが消えていく。
「くっくっく・・・。簡単なものだな・・・」
「なんなのよ貴方!」
必死にもがくがコードががっちりと身体に食い込み、身動きが取れない。それどころか、益々私の身体を締め付けていく。
「我はΣ!レプリロイドに、この世界に変革と安らぎを齎す者なり!」
私の首筋にあるソケットがプラグによって器用にあけられる。何をするつもり?恐怖と不安で身体が震えだす。
「貴様はライブメタルに選ばれし者!貴様のその力、世界の変革の為に使うがよい!」
「な、なにを・・・あはぁっ!!」
首筋にΣから伸びたプラグが突き刺さった。同時に世界がぐらぐら揺れる。ウィルスを流し込まれてる!?
このままじゃ、私までイレギュラーになってしまう。嫌だ!そんなの絶対に嫌だ!
「X!目を覚ましてX!お願い、私に力を貸して!!」
必死にもがき、あがきながら叫ぶ。こんなところで諦めたくない!
しかし無常にもモデルXからの反応は無い。握り締めた手から力が抜けてくる。
これを手放したら全てが終わってしまう―そんな強迫観念に駆られながら私はなおも声をあげる。
「お願い!まだこんなところじゃ終われないの!貴方もまだやらなきゃいけないことがあるんでしょう!?」
少しだけモデルXが熱を帯びた。私の呼び声に答えるようにモデルXからわずかな力の流れを感じる。よし、まだいける!
「・・・クックック、ハッハッハ、ハァーッハッハッハ!!」
その時だった。モデルXからΣと同じ笑い声が聞こえたのは。

え?なんで?なにがおこったの?
あまりの予想外の事態に私の思考が一瞬停止する。
「貴様がXと呼んでいたライブメタルは」
「もうこの世には存在しない」
モデルXとΣから同じ声が響いてくる。
「憎きXはこの世から消滅した」
「我を阻むものはもはやこの世には存在せぬ」
モデルXから放たれる輝きは、Σのそれと一緒。
「さあ、エールよ、資格者よ」
「我にその身体を、力を捧げよ」
モデルXからもコードがあふれ出て、私の下腹部にあるソケットに突き刺さる。
頭の中に直接Σの声が響く。
「永遠の安息と平和を―」
「全てのレプリロイドに捧げよう―」
「っああああああああああああああああああ!?」
背中にびりびりと衝撃が走る。何、この感覚は?
「それが安息」
「それが平和」
冗談じゃない!こんな、こんな感覚のどこが平和、安息よ!
負けてたまるか。それだけを強く思い、私は目の前のΣをキッと睨みつける。
「おや、まだそんな反抗的な目をするか」
「面白い、そうでなくては手駒にする意味も無い」
「「どこまで、耐えられるか」」
二つのΣの声が重なったかと思うと、さっき以上の衝撃が私の身体を駆け抜けた!
思い切り叫びたかったが、あまりの衝撃に私の喉はひゅうひゅうとかすれた息を吐くだけ。
びく、びく、と腕が、足が痙攣を起こす。あけたままの口からよだれがこぼれ、目には涙がにじむ。
頭にはぼうっともやがかかりだし、ろくに思考が働かない。
こんなものを何回も喰らったら、私はどうなってしまうんだろう?
弱気な考えが頭をよぎりだす。駄目よ、このままじゃ終われない。
がり。歯を食いしばって帰るべき場所、守るべき人たちのことを思い出す。
「ふむ、それでは貴様を我が眷属とした後には」
「其の者たちも我が配下とすることにしよう」
「な、なにを!」
こちらの考えが読まれている―駄目、あの人たちのことを思い出したら!
「クックック、一人で頑張るつもりか」
「どこまで耐えられるかな?」
「お、お生憎様ね・・・。これでも結構な修羅場、くぐってるんだから!これくらいの苦痛、たいしたこと無いわ!」
「ふむ、あれを苦痛と呼ぶか」
「責め方を間違えたか、それでは」
再び衝撃が来る!私は思わず目をつぶり、これから自分を襲うであろう苦痛に備えた。けど。
「あ、あれ?」
私を襲ったのは今までの衝撃ではなかった。じんわりと暖かく、もどかしいしびれ。
うなじからおしりまで、むずがゆいような感覚が私の中を駆け巡る。
「ふああああ!?なに、なにこれ!?や、いやあああ!」
「ふむ。やはりそちらの感覚が未発達であったか」
「これは失礼な事をしたな」
ずきん、ずきん―私の控えめな胸の先端に甘い痺れが立ち上ってくる。
しゅる、しゅると服の上からコードに先端をなぞられるたび、頭の中がふわふわしてくる。
これは、この感覚は一体なんなんだろう?
「「それこそが、我が与える安らぎ也」」
うあ―?Σの声もどこか遠くから聞こえてくる感じ。耳が遠くなってきている。


(あははは、このままじゃ、ほんとうに、やばいな、わたし。)
なおも甘い痺れが断続的に私の身体を責めつづける。どんどん、頭の中を漂う乳白色のもやが濃くなっていく。
ダメ。何も、考えることが、できない。
もうこのままでいいかな―そんな考えが、ちらりと頭の隅に顔をのぞかせる。
(うふふ。だめだよ、わたし。いれぎゅらーになっちゃうよ。あははは。でも、なんか、しあわせ・・・)
どこまでもこの感覚を味わっていたい、この気持ちよさが続くなら、イレギュラーになっちゃっても、いいかな。
「ククク・・・。大分プロテクトも緩んできたようだ」
「それでは、そろそろ仕上げに掛かるとしよう」
モデルΣから放たれるくらい、つめたい光が一層その輝きを増す。
それと同時に、私のおなかの奥に、今までの比じゃない、とても強い快感が走った。
その快感は私の体中を稲妻のように駆け抜け、一瞬で私の思考を、感覚を焼き尽くす。
「ああああああー!?あはあ、な、なにこれっ!?うきゅぅっ、しゅ、しゅっごおい!!」
ダメ。もうダメ。こんなことされたら、もう他のことなんて何も考えることが出来ない。
私の身体をウイルスが満たしていくのがわかる。ほんの少し前だったらとてもじゃないけど受け入れることが出来なかった感覚。
私は今それを、喜んで迎え入れている。
「ううううう、いひぃッ!もう、もうらめ!わたし、わたしいれぎゅらーに、なっちゃうううううう!!」
ぴたり。その瞬間、私を満たしていたウイルスの波が引いていくのがわかった。
「ふああああ、なんれ、なんでえ?なんれやめちゃうのお!」
私の頭は、もうそれをむさぼることを考えることしか出来なくなっていた。
もどかしい。ウイルスの攻撃が中断された体が熱を持って、疼いている。
あそこまでして、なんでやめちゃうんだろう?
「貴様が真の安息を手に入れるには」
「自ら望んでそれを受け入れねばならぬ」
なにをいってるんだろう?もう私はあれが欲しくて欲しくてたまらなくなっているのに。
「うけいれるからあ!お願い、早く、早くしてえ!!あたま、おかしく、なっちゃうよお!」
こうしている間にも、私の体の中に生まれた、どろどろした熱が、どんどん大きくなってきているのがわかる。
このままじゃ、本当に気が狂いそう。
「ならば、唱えよ!真の安息と平和と!」
「新たなる身体と力を望むなら!」
「「ロック・オン!!」」
「ろ、ろっく、おんんん!」
私が叫ぶと同時に、再びウイルスが私の中を満たしていく。
(ああ、これがあんそく。これが、へいわ。)
それは、私が今までに覚えたどんな感覚、感情よりも甘く、あたたかく、素晴らしく、そして、心地よかった。
「わ、わらし、もうだめえ!かわっちゃう!いれぎゅらーに、なりゅうううううう!」
びくん!私の体が今までよりもひときわ大きい痙攣を起こす。
同時に、モデルΣとモデルXだったものがわたしの身体を侵食していく。
モデルΣが放っていたのと同じ、暗く冷たい光が、私の身体からも溢れ出る。
全てがぐるぐるまざりあって、うえもしたもわからなくなって。
(あはは。わたし、いれぎゅらーになれ、るんだ。しぐまさまとともに、うふふ、へいわをつくりだすため、にたたかえるんだ)
そこで、私の意識は途切れた―


(目覚めよ―)
(だあれ?わたしをよぶのは)
(目覚めるのだ、私の忠実な僕よ―)
(しぐま、さま―?)
ゆっくりと意識が覚醒していく。
あれ?あれからどうなったんだっけ。Σ様に、ウイルスを満たしてもらって、身体を作り変えてもらって・・・。
(目覚めたか、エールよ)
頭の中でΣ様の声が響く。
「Σ様?どちらに、いらっしゃるのですか?」
あたりをきょろきょろ見回しても、どこにもΣ様は見当たらない。
(我は貴様と一体化した。その際、貴様の脆弱なボディを少し弄くらせてもらったぞ)
改めて変わった私の身体を眺めてみる。
心なしか、体のラインが女らしくなったような?ふふふ、素敵な身体。
暗い紫色のボディーアーマーに紅いラインが入って、なんだか毒々しい感じ。
昔読んだ本に載ってた、サキュバスみたい。
セイバーもバスターも、前まで使っていたちゃっちいのじゃなくて、一撃で大型レプリロイドも消し飛ばせるぐらいに
出力が上がっているのがわかる。
「なんて素晴らしい身体・・・!ありがとうございます、Σ様!」
(さあ、最初の目的はわかっているな、エールよ)
「もちろんです。この安らぎを、まずはガーディアンの皆に・・・プレリーに味わってもらわなきゃ!」
(上出来だ。さあ、いこうかエール。この世界に真の安息と)
「平和を齎す為に・・・!」
うふふ、まっててね、プレリー!




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