花は空を求めて

「いたたた…」
頭に響く痛みにセリスが意識を取り戻した時、そこはどことも知れない場所だった
幸いにもどこかへ抜けてしまったのか水は完全に引いており、魔物の気配も近くに
は感じなかった。
「多分、私と一緒で水に巻き込まれてしまったのね。でも、何で私は一緒に流され
なかったのかしら?」
ふと浮かんだ疑問だったが、よく見ると腰の剣が壁が崩れた瓦礫にうまい事引っか
かっている。そのせいでここにとどまる事が出来たようだ。
「運が良かった、と言うべきなのかしらね」
苦笑するセリス。剣を扱うのは嫌いではない。むしろ好きと言ってもいいくらいだ
だが、そのために自分が女らしくないのではないかと考えたことも一度や二度では
なく、そのことが自分にとって少なからぬコンプレックスになっていると思ってい
たりする。
だが、今回ばかりは剣を振るう自分に感謝する他ない。もし剣が無かったら、自分
は一体どこまで流され続けていたのであろうか。
「ま、ともかく。
こんなところにい続けてもどうしようもないわね。セッツァー達を探すなり地上に
戻らないと」
早速テレポを…と考えたが、自分がテレポを習得していないことをふと思い出した
「しまったな…、テレポを使えるのはエドガーだけだっけ…」
しかたがない。上へ上へと進んでいけばいつかは知っている道にたどり着くだろう
ここにいても何もならないし、途中ではぐれたみんなと出会うかもしれない。
セリスは水に濡れた体を翻して、近くにある上り階段を目指した。

どれほどの通路を歩き、階段を上ったのだろう。今だに見知った顔も道も正面に現
れない。いや、なんだか同じ道を行き来しているようにも思えてくる。魔物が現れ
ないのが救いだったが、さすがに気持ちも萎え気味になってきた。
「このままじゃいつまでたっても堂堂巡りだわ。どうしよう…」
この状況を打開するために、何か名案は無いものか。セリスは一旦立ち止まり、思
索にふけってみた。
しかし、何を考えようとしても頭が働かない。
無理も無い。明かりもろくにない墓場でいつ終わるとも無い徒歩(かち)を続けてい
るのだ。体よりも先に頭が参ってしまう。
「これはダメだわ…。一回、どっかで…休まないと…」
一旦休憩して頭と体の疲労を回復させる。名案とは程遠い折衷案だが現在取れるも
のとしては最良の判断を下し、セリスは再び歩き始めた。一口に休憩するといって
もそこいらの通路で休むわけには流石にいかない。今はいないとはいえいつまた魔
物が出現するとも限らない状況では、ある程度安全と判断できるような場所でない
と休んでいるうちに永遠に休むことになりかねない。
せめて扉のある部屋を…、と探し回ったセリスがようやく扉が付いている部屋を見
つけたのは歩き出してからさらに20分経った時であった。
「やった…。これで一息つけるわ」
安堵のため息をつくセリスだったが、その時、ふとした違和感に気が付いた。

(何かしら…?なんか、ふしぎな匂いが…)

不意にセリスの鼻腔を刺激した臭気…、甘露とも腐臭とも感じ取れ、清涼感があり
そうでどことなく黴臭く感じ、拒絶しつつもどこか心惹かれる…
そんな異臭がセリスの体に染み入ってきたのだ。
「なん…なの?これ…」
長い経験の中で培われた戦士の勘が告げる。
(これは危険だ!)
頭で感じるより速く、体が行動を起こした。いや、起こそうとした。普段の彼女な
ら起こせた。
しかし、水に流され、仲間を見失い、明かりの利かない中を長時間歩き続けたセリ
スの肉体と精神は限界以上に磨耗し、危機に対する反応が著しく低下していた。
辺りに漂う魔臭はたちまちセリスの全身に行き渡り、彼女の警戒心を心の奥底に封
じ込めてしまった。
疲労に彩られた瞳はスゥッと光を失い、霞が掛ったように焦点がぼやけていく。
「なに、これ…。すごく、いい匂い…」
全身からクタッッと力が抜け、手に持っていた剣をガチャリと床に落として、セリ
スは熱に当たったかのような足取りでフラフラと匂いの元へ歩いていった。
セリスが向っていったところ…、それは先ほど見つけた扉がついている部屋だった。

セリスの前に聳え立つ扉はさきほどの水流にも動じなかったのかぴったりと閉じら
れている。が、どこから漏れ出ているのかその臭いはますます強くなってきている
「ああ…、ここね…。はやくぅ…」
もっとこの匂いを感じたい。この匂いの元に辿り着きたい。自分でもよくわからな
い衝動に突き動かされてセリスは扉に手をかけた。
しかし、扉は鍵でもかかっているのか全く動かなかった。
「なんで…、なんで、あかないのよぉ!!」
この先に自分が行くべきところがあるのに、行くことが出来ない!
「あけて!あけて!!あけてよぉ!!行きたいの、私、そっちにいきたいのよぉ!」
目を血走らせ、狂ったように拳を扉に打ち付けてセリスは絶叫した。
5発、6発、7発。通路に鈍い音が鳴り響き両の拳から血が滲み出てきた時、不意
に鉄で出来た扉が内側に開き、8発目を叩きつけようとしたセリスを勢いあまらせ
て部屋の内側に転びこませると共に招き入れた。

顔から床に落ちたセリスだったが、不思議と顔面に痛みは無かった。まるで柔らか
いクッションに突っ込んだような感触がする。そして、セリスが部屋に入ったと同
時に扉はまたひとりでに閉じてしまった。が、それは今のセリスにはどうでもいい
ことだった。
顔を上げて下を見ると、そこには花が咲いていた。拳ほどの大きさの黄色い花が目
の前にある。いや、目の前にという表現は適切ではない。
それは、視界内全てに収まっていた。決して小さくは無い部屋の床、壁、天井、あ
らゆるところに黄色い花が咲き乱れている。光も届かぬ墓場の地下で咲く花は、燐
でも含んでいるのか薄ぼんやりと輝き、花冠の奥には蜜をぬらぬらと溜め込み、花
粉が隙間風に煽られ霧のように部屋を覆い、空間全体を幻想的な空気に包んでいた
そして理解した。この花から立ち上る芳香、それこそが先ほどから自分が求めてや
まない匂いの元だということを。
「あああ…すごいぃ…」
目の前にある花に顔を近づけ、スゥーッっと息を吸い込む。咽返るような臭気に脳
の奥がびりびりと痺れ、熱もった吐息が口から漏れ出でてくる。魂までも蕩かすよ
うな魔香に蕩然となり、自然セリスの舌は柱頭へ伸び親指ほどもあるそれを咥え込
んだ。
「んんぅ…ちゅぱ…」
柱頭を口に含み舌を這わすと、ざらりとした感触と共に蜂蜜を何倍も濃くしたよう
な、ドロリとした蜜の味が口いっぱいに広がってきた。
(これ…美味しぃ…)
舐めれば舐めるほど蜜は柱頭から染み出し、セリスの口を満たしていく。四つん這
いになって夢中で舐めしゃぶるセリスの体は真っ赤に上気し、下腹部からは自らの
蜜が、大量に滴り落ち、辺りの花を濡らし始めていた。自然、両手が下腹部に伸び
濡れそぼる自らの花を弄(まさぐ)り始める。
艶かしく蠢く指は溢れる蜜を掬い、媚肉の奥へ、奥へと進んでいく。それが新たな
蜜を呼び込み指の付け根から腕を伝い、下に広がる黄色の花へ降り注いでいく。ま
るで啜る花の蜜と入れ替わるかのごとく、セリスの肢体からは蜜が溢れ出ていった。
十数分ほど花の中に顔を埋めしゃぶり続けていたら、流石に蜜が切れたのか舌から
濃密な甘味が消えていった。霞が掛った瞳に不満げな色を浮かべ、散々に舐った柱
頭から唾液の糸が引いた口を離して、汗と涎でグジャグジャになった顔を上げた。
「もっと、もっと欲しぃ…。欲しいの…」
花はそれこそまわりにいくらである。だが、顔を上げたセリスの瞳に入ってきたの
は、部屋の真ん中に咲く、ひときわ大きい花だった。

他の花が拳ぐらいの大きさなのに比べて、その花はセリスが一抱えにして優に余る
くらいの大きさで、花弁の大きさも柱頭の太さも、そして吐き出している芳香と花
粉の量も他の花とは比べ物にならないものだった。
その花を見た途端、呆けていたセリスの顔にだらしないほど崩れた笑みが浮かんだ
「あれぇ…、あれすごいの…。あれほしいのぉ…」
両手を下腹部に添えたまま、セリスはフラフラと立ち上がった。半開きの口からは
短い吐息と涎が溢れ、下半身に力が入らないのか両脚は内股気味になり、一歩、ま
た一歩と歩んでいる間も両手はその動きを止めることなく秘部を弄り、太腿が溢れ
出す蜜でべっとりと濡れている。
右へ左へふらついて、時たまつんのめって花の海に埋没しつつも、セリスは目的の
巨大な花の前へと辿り着いた。
「あはっ、おおきい…」
濡れそぼった掌で自分の腕ほどもある柱頭をやんわりと掴み、口元に引き寄せて先
端を含むと、あの甘い蜜が流れ込んでくる。しかも、先程より遥かに大きい花は蜜
の量も濃度も比べ物にならないほどで、舌に一滴落ちた瞬間に味蕾に雷が落ちたよ
うな衝撃が生じ
「ンッ!ングウウゥゥッ!!」
刹那の衝撃に貫かれたセリスは全身を大きく戦慄(わなな)かせ、両脚を『く』の字
に折り曲げてぺたりと座り込んでしまい、足元を自らの蜜で溢れさせながら絶頂に
達してしまった。
「ハア、ハア、ハァ………ァァァ…」
放心しきった顔に少しづつ光が戻り始め…、その瞳が花の方向へむいた瞬間

「アアアアアアアアッ!!!」

セリスは獣のような咆哮を上げ、再び花にむしゃぶりついた。口に含んだ柱頭は喉
まで達さんとばかりに深く咥え込み、花をじっと見つめる瞳は狂気にギラギラと染
まり、胸にある双丘の先端は服の上からでもそれとわかるほど高く猛り立っていた。
ドプドプと溢れ出てくる蜜を一滴でも逃すまいと口が窄まるほど強く吸引し、少し
でも多く蜜を出そうと柱頭をがっしりと握って上下にしごき上げていく。いつしか、
花弁に溜め込まれていたものと口元からボタボタと溢れる蜜で、セリスの肢体はベ
トベトになっていた。しかし、それでもセリスは口を離さず一心不乱に蜜を求め続
けていた。



やっと、きてくれた…


その瞬間、花がドクンと脈動した。
口に含んでいる柱頭が急に蠢き始め、セリスの胎内からぬるりと抜け出る。慌てて
掴みなおそうとしたが、蜜と涎でぬらぬらと光るそれはセリスの手をつるんと離れ
垂直にピンと立ちあがった。いや、花そのものがまるで意志があるかのように動き
出し、文字通り『立ち上がった』のだ。
「ああん!蜜、蜜ちょうだい!!蜜、蜜、蜜蜜みつみつみつみつみつぅっ!!」
わさわさと蠢く花にセリスは必死に手を伸ばすが、既にセリスの背より高くそびえ
立った花に、セリスの手はむなしく空を掻くだけだった。

あなたね…、わたしのところにきてくれたの…

喚くセリスを見るかのように、立ち上がった花がくくくっと折れ曲がりセリスのほ
うを向く。そして柱頭がブクッと膨らんだかと思うと、中から蜜に塗れた女性の上
半身がゆっくりとせり出てきた。
細面で長髪の容姿は美人の範疇に属するものだろうが、植物だからだろうかその全
身は灰緑色に染まり、皮膚の下には所々に血管のように葉脈が浮き出ており、瞳は
黄緑色に光っていた。
突然目の前に現れた女怪に一瞬目を奪われたセリスだったが、次の瞬間蜜への止ま
ない渇望が蘇り、再び蜜を求めて騒ぎ始めた。
「お願い!蜜、蜜ちょうだい!!蜜がないと、私、おかしくなっちゃうのぉ!!」

そんなにほしいの…?わたしのみつ…

「欲しいっ!ほしいのよぉ!あの、あのぉ、あなたのぉ、あまぁい蜜がほしいのぉ!」

そう…、なら…

傍目にも優しそうな笑みを浮かべた花女はスゥッとセリスの目の前まで下りてくる
「あ…」
眼前に広がった花の香気に陶然となったセリスを女は両手を広げて抱きしめ、その
唇をセリスの唇に重ね合わせ、舌を絡み合わせてきた。
トロリとセリスの舌に落ちてくる女の唾液、それは紛れも無くあの花の蜜だった。

おいしい…?わたしのみつ…

「お、おいひい!あはふふぇ、おいひいよぉぉっ!!
ほ、ほれにくひが、ひはは、ひはふぇ、いじられれるのぉ!ひもひいいのぉ!!!
んぐううぅあああぁっ!!」

後から後から流し込まれてくる蜜。その上舌に、口に、歯に与えられる愛撫。許容
量を超えた刺激にセリスの肉体と精神は抗しきれず、一声上げて絶頂に達してしま
った。
全身からクタッと力が抜け放心しきったセリスをふわりと抱きかかえ、女はまるで
赤ん坊をあやすかのように囁き始めた。

わたしは…、ずっとまっていたの…
でも、なんでまっていたのか…、わすれちゃった…
おもいだそうとしても、このからだになるまえのこと、ほとんどおもいだせないの…
でも、ひとつだけ、おぼえていることがあるの
わたし、そらをみたいの
わたし、あおいそらがだいすきなの…。なんでかは、おもいだせないけれど…

女の胸にもたれかかっているセリスはその言葉をぴくりとも表情を変えずに聞き入
っている。そもそも、理解しているのかは疑わしいが。

でもね、わたし…、そらをみれないの
わたし、はながあるところならどこにでもいくことができるけれど、わたしのはな
ここにしかさいていないから…、そらをみることがでいないの
そらのしたに、いることができないの…
でもね…

今まで慈母の微笑を浮かべていた女が、不意におぞましいほど淫蕩な笑みに変貌した。

わたしのからだをくれたひとがおしえてくれたの
わたしのはなは、にんげんにうえてふやせることができるんだって
うごくにんげんにはなをさかせてそとにだせば、わたしもそとにでられるんだって
はなをさかせたにんげんをふやせば、せかいのどこのそらもみることができるんだって

自らの言葉に高揚してるのか、女の声は次第に高くなり、セリスを抱きしめる腕に
も力が入ってきている。


『ねえ、あなた
わたしのはなになってくれる?』


セリスは一言も発しない。

あはははは。そうよね、なってくれるよね
あれだけわたしのみつをのんだんだもの。あれだけわたしのかふんをすったんだもの
もういやなんていえるわけないもんね
いやなんていえるこころがのこっているわけないもんね

女の花のおしべが蠢いたかと思ったら不意にその長さを数倍に伸ばし、セリスの腕
に、脚に、腰に巻きつきその四肢を束縛してきた。そしてそのままセリスを持ち上
げ、女の頭上に固定させてしまった。

ふふふ…

女の股間から伸びてくるものがある。それは先端に蕾がついた『女の花』だった。
『女の花』は茎をにゅるにゅる伸ばしてセリスに近づき、太腿のところで止まった
かと思うと、その花を開き始めた。
開ききり、自らの蜜と粘液で濡れそぼる花は、セリスの太腿の間めがけ再び動き出
した。その光景をセリスは光の消えた瞳でじっと見詰めていた。

どうしたの?にげないの?
このままだとあなた、にんげんをやめちゃうのよ?
はななんだから、ひでかんたんにもえちゃうのよ?

女の声が、まるで地平線のはるか先から聞こえているような気がする。何か言って
いるようだが、何を言っているのか頭が理解できていない。いや、できない。

いいの?このままだとあなたのなかにぶちこんじゃうよ?
きっと、あたまがばかになるくらいきもちよくなるよ
あなたのあそこに、わたしのみつをたっぷりとのませてあげるよ




この言葉にセリスがぴくりと反応した。
あの甘い蜜。あの心をも蕩かす蜜。あの自分を虜にした蜜。
改めて眼下の花を見る。その柱頭の先からは溢れ出した蜜が糸を引いて垂れ、あの
魅惑の香りを撒き散らしていた。
あの蜜が欲しい。たっぷりと口に含みたい。ごくりと嚥下してみたい。いや、もう
上の口じゃなくてもいい。とにかく入れたい。体の中に、あの蜜を入れたい!

「いいの!ぶちこんでぇ!!私の中に花をねじ込んでぇ!そして、たっぷり蜜を飲
ませてぇ!お願いよおぉぉっ!!」

蜜が欲しい、もうそれ以外のことが考えられずセリスは絶叫した。全身を蜜に犯さ
れた肢体は、もう寸刻も蜜から離れることが出来なくなっていた。
セリスの言葉にニタリと微笑んだ女は、花の先端をセリスの股間に密着させ、一気
に刺し貫いた。

「あーーーっ!!」

『女の花』も自らの花も既にぐしゃぐしゃに濡れており、何の抵抗も無く花の柱頭
はセリスの胎内に収まった。不意の衝撃で抜けないようにおしべが太腿と腰にピッ
タリと巻きつき、5葉の花弁がぺたりとセリスの皮膚に引っ付いている。
熱い棒を突っ込まれたような衝撃にセリスの意識が一気に覚醒したが、次の瞬間別
の熱い感触がセリスの下半身を支配していた。
「な、なにこれっ!!蜜が、みつがぁっ!!」
子宮口の先の先まで貫いた柱頭から、ゴボゴボと蜜が湧き出してきた。外から見て
も花の茎がところどころ膨らんでは縮み、セリスの胎内に蜜を搬送しているのが解
る。
「あ、熱い!あつぅぃ!!」
そのあまりにも大量の蜜はセリスの下腹部をたちまち満杯にし、セリスの腹はまる
で妊婦のようにぽってりと膨らんでいた。
が、それでも蜜の流入は止まることが無く、後から後からドクドクと送り込んでい
っていた。
「こ、こんなに、こんなに入らないのぉ!お腹、お腹が爆発しちゃうぅ!!」
涙声で懇願するセリス。しかし、その顔には苦痛の表情は出ていない。
「でも、でも気持ちいいの!蜜がぁ、熱いのぉ!熱くて痺れて気持ちいのぉ!!」
蜜に犯されたセリスの肢体は、異様に膨らんだ腹部への恐怖感より、渇望する蜜を
胎内に溜め込んでいることへの幸福感のほうが勝っていたのだ。
全身を蔓で縛られ、下腹部から花で突き上げられセリスの四肢はビクンッビクンと
釣り上げられた魚のように激しく跳ね回る。その間も容赦なく花は蜜を送り込んで
いたが、不思議とセリスの腹部の膨らみはそれ以上大きくなることはなかった。
「ひっ、ひはっ、はあぁぁ………」
肢体を覆う人外の愉悦に瞳孔は開ききり、吐く息は短く、そして荒い。
セリスの肢体にに変化があったのはその時だった。
吐息の中に小さくキラキラと光るものが混じっている。砂よりも小さく黄色いそれ
は、紛れも無く黄色い花の花粉だった。
全身のあらゆるところから流れ出ている体液は、その全てが粘性を増すと同時にあ
の蜜と同じ芳香を醸し出し始める。異様に膨らんでいた腹は空気が抜けるかのよう
に萎み、その代わりに臍を中心にして根とも葉脈ともつかない筋が全身を覆い始め
肌の色を人ならざるものに塗り替えていく。
そして、魔性のものに変化していくセリスの股下に張り付いていた花弁が、セリス
の変化と共に肥大化していき、一枚がひと一人覆うくらいの大きさまでなったとき、
ゆっくりとセリスの肢体を包み始めた。花弁がセリスを包み蕾のようにぴったり閉
じられた様を、女はニタニタ笑いながら満足げに眺めていた。

四方を花弁に囲まれた中、セリスの思考はゆったりとした水面の中に漂っていた。
自分の体が作り変えられていくのがわかる。血が、肉が、心が蜜と共にどろどろに
溶かされ、蜜によって全く違うものに固められてゆく。自分が持っていた使命、志、
そんなものも入り込んでくる蜜に押し流され、自分の外に流出していく。
それを止めようなんて思わない。もう使命も志も自分には関係ない。
そんなものより、自分は甘くて美味しくて気持ちいいこの蜜を選んだ。この味を知
れば、誰だってこっちを選ぶに決まっている。
そう、だから自分は身も心もこの蜜に捧げた。蜜を受け入れ、自らも蜜となり蜜を
広めていく。
そう、これからはそれが自分の新たな志。果たすべき使命。
これからは…

硬く閉じていた蕾が、ゆっくりと、一枚づつ開いていく。
完全に開ききった花の中心にあるのは、金色の長い髪を纏った女。その肌は暗緑色
に染まり、体の至る所に葉脈とも根ともとれぬ筋が線を張っている。
半開きになった瞳は黄緑色に光り、呼吸をするたびに小さな口から微細な粒子が漏
れ出でてくる。

めざめなさい、わたしの、あたらしい『はな』

花の茎の先にあるさらに大きな花を纏った女が声を発すると、女…セリスだったも
のの瞳がゆっくりと開かれる。黄色い瞳に真っ赤な瞳孔、そこには人間の感情と呼
べそうなものはおよそ存在せず、底知れぬ虚空のみがあった。

ねえ、あなたはなに?

「わたしは…、あなたさまの『はな』。あなたさまのみつとたねによってさいた『はな』」

わたしのはな、あなたのやるべきことはなに?

「はい。わたしのやるべきことはわたしをふやし、せかいをわたしでおおいつくす
こと。そして、あなたさまにそらをみせること」

そう。そとのにんげんにどんどんみつとたねをそそいで『はな』をさかせるの
せかいをはなでいっぱいにして、そとをわたしたちのせかいにするのよ
さあ、いきなさい。あなたはじゆうにうごけるあしがある
そとにでて、あたらしいはなをさかせてくるのよ

「はい…」
セリスだったものは花から自分の体を引き剥がすと、閉じられている扉の方へゆっ
くりと歩み始めた。その時、セリスだったものの胸辺りに走っている筋が少し震え
たかと思うと、皮膚を突き破ってあの黄色い花の蕾が押し出てきた。
外に顔を出した蕾はたちまち開花し、あの魅惑の香りと蜜を振り撒き始めた。
が、以前はあれほど求めたそれを目の前にしても、セリスだったものはまるで気に
とめることは無かった。
今の自分は香りも蜜も、求めるものではなく与えるもの。自分の息は花の香気。自
分の体液は花の蜜。自分のものを欲しがる自分はいない。

扉を押し開き、セリスだったものは地上へ出る道を進んでいった。
自分の花を増やすために。
                              終

以上です。でも、FF世界である以上、聖水一発で元に戻って
しまうのでしょうな…




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