FFVI ティナ・セリス



雷鳴とどろく瓦礫の塔−−−
偽りの天使ケフカの肉体は今朽ち果て滅びようとしている。
それに伴い、その者が取り込んだ膨大な魔力が暴走し始めた。


     魔人・鬼神・女神
幻獣界を司り、互いに合い争った、幻獣の神々。

『まさか、人間が・・・われわれの力を・・・』
『消える・・・われわれの力が・・・うごおぉぉぉ・・・・』
『ああああ・・・』

三闘神の魔力の暴走と拡散。
それは彼らの存在そのものの、ケフカに取り込まれつつも微かに
保たれていた漠然とした意識、朧げな存在そのものの消滅を意味していた。
それを唯一察知していたのは同属の血を引く少女だった。
ティナ「消えていく・・・幻獣の力・・・魔力・・・」
ロック「本当か、ティナ?」

『ぐがぁぁぁ・・・・・・・・  …… … 』
『はぁぁぁぁぁ  …… … 』

ティナ「消えた・・・完全に・・・」
セリス「間違いないのね?」
ティナ「うん・・・ もう何も感じな・・・  ?」
セリス「どうしたの?」
ティナ「・・・いや、 なんでも・・・」
少女の微かな違和感。
それが、この世界を変える根源となったことはまだ誰も知らない。

エドガー「さあ!早く脱出しよう!」
マッシュ「やばいぞこりゃ!」
セッツァー「この大人数で一緒に行動するとかえって時間がかかる。
      ここに来た時のように3ルートに分かれていくんだ!」
言うが早いか、各々が走り出す。


ロック「さあ!こっちだセリス! ティナ!、早く!」
男は颯爽とした身のこなしで先導し、道を駆けていく。
その眼の端に、つい先刻刃を交えた『おぞましきもの』の残骸が映った。
ロック「ケフカに力を吸収された絞りカスか・・・」
かつて女神と呼ばれたもの、ケフカにその力を奪われ
かすかに残った魔力が安定を求め具現化したものだ。
それも、彼らによって今は原形をとどめていない。
セリス「幻獣の神がこんな最後とはね・・・」
ティナ「・・・・」
ロック「今はこんなものにかまっていられない。急ぐぞ!」


『消える・・・ 私が・・・ 』

『いや・・・  まだ・・・  魔力を  残り少ない  魔力を
  とどめる・・・ 必要が   
                どこに・・・ 

   あれは・・・    あそこだ・・・ あそこに・・・     』

ティナ「・・・  ・・・?  これ・・・ ??」
少女は立ち止まる。今しがた感じたかすかな違和感が再び湧き上がり、その足を止めた。
ロックとセリスは彼女の足音が聞こえないことに気がつき振り向く。
ティナ「いる・・・ !! まだここに!!
      ああ!ああ・・・!!  ロック!セリス! まだ女神は!!!」

拡散し消滅したかに見えた女神の魔力。
それは、一度この世界に実体化し安定化した同質の『亡骸』に流れ込んでいたのだ。
氷の器に、水が流れ込むがごとく。

『いいわ・・・  まず  この身体に  馴染ませなくては・・・
  だめ・・・ 時間がかかる・・・  力もかなり失われて・・・
   どうする?   どうする?  これでは、この者たちに再び・・・』
魔力が凝縮し落ち着いたためか、女神の思考は次第にはっきりとしていった。

ロック「くそ!!なんてこった! 仕方がない、残った力でとどめを!!
     セリス! ティナ!」

『今ここで魔力を消費するわけには・・・  いかないわ・・・・ どうする?
  ・・・  手足が  私に代わって  戦う   『手足』が   』

崩れ去ったはずの『亡骸』は白い霧のようなものを発し、
そして、その霧を再び吸収しながらその身体を復元していくのだった。
霧は少しずつ薄くなり、見覚えのある姿が明らかになっていく。

すらりと伸びた四肢。なまめかしい曲線を描く腰。
鮮やかな光沢をもって乱れる髪。透き通るような白さを誇る豊満な双丘。
細く筋の通った鼻。怪しくも魅惑的な光を放つ両まなこ。見るものを欲情させる唇。
その美しい体を讃えるべく、必要最小限度に装飾された羽衣。

まさに『女神』がそこに再び舞い降りたのだ。

霧がやがて収束するや、背後に黄金色に輝くの片翼のプレート、
足元の地面から巨大な悪魔の頭部が出現し
その神聖なまでの美しさを更に引き立たせるのであった。

復元された身体を馴染ませるかのごとく、一度大きく髪を振り乱し
軽やかに指先で整えながら、そっとまぶたを開く。
『わたしの両手足となるもの・・・  さあ、おいでなさい。 こっちへ・・・  おびえることはないわ 
  今からあなた達は、かわいい私の天使なのだから・・・  』
その言葉が何を意味するのかロックには理解できなかった。
しかし次の瞬間、彼はその意味を知ることになる。
女神が手を振りかざすと、それが合図であるかのように二つの光がその場に立ち込めた。
ロック「セリス!?ティナ!!」
二人の少女の身体を無数の光の螺旋が取り囲む。
ティナ「これは・・・? この感じ・・・セラフィム・・・ラクシュミ? 何?なにが・・・!!??」
セリス「い、いやっ! なにこれ!!」
魔導の少女が口にした二つの幻獣は、もともと女神の眷属ともいうべき存在であった。
それ故、女神が健在である今なお、この世界に魔力をとどめていたのだった。
その魔力が今、光と変化して二人の可憐な少女を取り囲み、その身体とゆっくりと溶け合い一つに混ざり合っていく。

ロック「くっ・・・!!」
光の螺旋はその数と強さを更に増し、もはや眼を開けてはいられない状態であった。
『綺麗だわ・・・  さあ、その眩しさと暖かさに心と身体を委ねなさい・・・』
ロック「しっかりしろ!ふたりとも!  ・・・くそっ!」
ロックは眼下の状況の元凶となっているであろう女神に向かって駆け出す。
しかし、彼は冷静さを失っていた。
一度戦い知っていたはずのその能力、いや美貌を。
走り始めたはずの彼の両脚は、ゆっくりとその速度を落としぎこちない歩みとなり、ついには両膝を地に付けていた。
そして次の瞬間、彼が口にした言葉は・・・
ロック「女神様・・・」
二人の少女を守るべきナイトは、麗しき女神の僕、愛の虜に堕ちた。

セリス「なに・・・?どうなるの?私たち? やだ・・・ やだ・・・!!」
ティナ「この力・・・どうすれば・・・目が・・・もう開けていられない・・・!」
二人は自らの状況に当惑・混乱するばかりで、ロックの惨状にすら気がついていない。
しかし、無常にも状況は進行していく。
もはや止める者はいない。
ロックは今や二人のことを気にも留めず、女神をただ呆然と見上げ、その美しさに涙を流していた。
ロック「女神様・・・ああ・・・  女神様・・・ 」
光の輝きはついに二人の姿を外部から認識できないほどにまでになっていた。




セリス「こんなところで! あと少し、あと少しで世界を救えるのに・・・!」
ティナ「だめ、あきらめちゃ! 世界を!子供たちを!」
セリス「そう。私たちの世界。新しい世界を!」
ティナ「暗闇から解き放たれた、光に満ちた世界!」
セリス「そう光・・・!  光・・・  この光・・・」
ティナ「あたたかい光・・・ 本当にあたたかい光・・・」
セリス「なんでだろう・・・  いつのまにか、まぶしくないわ・・・」
ティナ「あたたかい・・・ なんて・・・穏やかな・・・ 」
セリス「心地いい・・・  ここが   ここが私たちの新しい世界なの・・・? 」
ティナ「セリス・・・ 聞こえる? 私の声・・・」
セリス「うん・・・届いているわ、心の声が。 光が・・・ 光が見えるわティナ・・・」
ティナ「綺麗・・・  行きましょう、セリス」
セリス「ええ・・・ 待っているわ 新しい世界が 」

ティナ・セリス「「 女神様が 」」



シド「あれは・・・?」
瓦礫の塔からはるか離れた孤島。老人の目には天に向かって伸びる二つの巨大な光の柱があった。



『ティナ、セリス。おいでなさい。』
女神の優しく諭すような言葉に従い、二人はゆっくりと歩き出す。
見た目の姿格好はそれまでとなんら変わらない。
しかし、俗人を近づけがたい神聖な気品とオーラが漂い、その眼はあまりにも澄み渡りすぎていた。
二人が自らの前に跪くのを見ると、女神は包み込むかのような暖かい笑顔で
その両手を広げ二人の眼前に差し出す。
『私たちの新しい世界が今ここから始まるのよ。さあ・・・』
二人は女神の慈愛の眼差しを見つめながら、あまりの女神の気高さに感極まったのか
小刻みにその小さな身体を震えさせていた。
そしておそるおそる両腕を女神の掌にそっと差し出す。
周囲はまだ光の粒子に溢れかえり、女神と新たな二人の美しい従者の姿を讃えていた。
----それは正に神の儀式ともいうべき光景であった。
ティナ「女神様・・・」
セリス「我々の主、女神様・・・」
そこからは言葉が出ない。至高の美の前に、あらゆる賛辞も意味を失う。
二人は女神の瞳をみつめていた。
全てを委ねるがごとく、ただじっと静かに見つめる。それこそが彼女たちの絶対なる神への忠誠の証であった。


『私はまだ力を蓄えなくてはいけないわ。 膨大な魔力を。
  でも、ここにはまだ回収できるものがいくらかありそうね・・・
   いい?分かるわね、ティナ、セリス・・・』

ティナ「はい。 女神様の」
セリス「御心のままに。」
穏やかに、それでいてよく通った凛とした返事だった。
『賢くて綺麗な子達。ティナ、セリス・・・本当に私の天使にふさわしいわ。
  さあ、その古き衣は今のあなたたちに相応しくないわ・・・』

女神が二人に指を差すと、たちまちに身に着けていた衣服は光とともに分解され消えうせる。
ティナの髪留めも消え、新しい姿へと生まれ変わる合図のように、美しい緑の髪がぱっと舞い降りる。
今、二人は生まれたままの姿になった。
衣服が分解されたできた光は、二人を再び包み込む。
ティナとセリスは、本能的に自らの身体を丸め、いつしか光は卵のような形になっていった。

『ロックといったかしら こちらへ・・・』
ロック「はい・・・」
恍惚とした表情の男は、女神に寄り添っていく。
女神はロックの顎を手で掬うや、深い口付けを交わす。
その瞬間、ロックの眼の焦点が定まり意識が復活する。
ロック「!」
『お目覚めね。』
ロック「・・・・!!!」
突然の恐怖と混乱にロックは為すすべがなく立ち尽くしていた。
『最後にあなたに見せてあげるわ。後ろをごらんなさい。』
ロックが目にしたのもの。それは宙に浮いた人間大の二つの光の卵。
ロック「なにをした・・・!二人はどうなった・・・!!」
いまだ混乱覚めやらないロックの言葉は、女神に対してというよりも自分に向けられた感があった。



トクン  トクン  トクン

か細い心音が聞こえてくる。
本来ならば二人が生きている事を認識し、安堵するところであろう。
しかしロックには何故か絶望へと導く二重奏に思えた。
卵の内部----
赤子のように目を閉じ丸まり、息を押し殺す二人。
二人の肌はしみ一つ埃一つなく浄化され、
髪は清流のごとくしなやかに清められていく。
二人が元々備えていた、18歳のはちきれんばかりの瑞々しい生命感溢れる身体と相まって
女神の従者としてふさわしい美が完成されていく。

ロック「おい!  返事を・・・!聞こえているのか二人とも!!?」

全ては手遅れであった。
ロックの声もむなしく、光の卵は形を変え帯状に紡がれていく。
そして女神のそれと同じような羽衣となって現れる。
ふわふわと柔肌を取り囲むや、優しく包み込んでいく。
最後に二人の背に神々しい光の翼が、地面から出てきた草木の芽のように生えていった。
ティナには右の翼が・・・ セリスには左の翼が・・・
ロックは息を呑む。

       -----天子の誕生を前に-----

翼が伸びきり、ゆるやかにたたまれると、二人は身体を開放し
そっと胸元に両手を寄せ、主に祈りを捧げるような仕草をとりながら謝辞を述べていく。
ティナ「この新しき身体、新しき衣をお与えくださった全能の女神様。」
セリス「その女神様の永遠にて完全なる美しき世界。」
ティナ「その礎ともなるべき使命。」
セリス「我々にお与えくださり、身に余る光栄です。」
『あなた達もまた、その永遠の世界の大事な一部なのよ。』

ティナとセリスは女神の台座の両脇へとそれぞれ侍る。
そこがまさに自らの運命として位置づけられた場所であるかのように。
ロック「お・・・おい・・・」
完成された三体の美の前に、まるで場違いのような自分の存在。
ロック自身そう思えるほどに、その場は神秘にあふれていた。

『さあ、まずはあの男から。』
「「はい・・・」」
翼が大きく広げられ、手には光の槍が握り締められていた。
ツバメのような軽やかに舞う二人の飛翔の軌跡が交わった刻、
男は光の槍に貫かれ地に伏せていた。
ロック「がぁぁぁはぁ・・・  ぐはっ・・・・ 」
彼の最後の光景----
男のことなど気にも留めず、次なる使命を果たすべく空高く旋回する二つの光があった。



カイエン「もう少しで脱出できるでござるな。」
エドガー「ああ、他のみんなも無事だといいんだが・・・」
マッシュ「・・・?  !! おい兄貴!  あれを見ろ!!!」
エドガー「何だこんなときに・・・ !   セ・・セリス ?」

ストラゴス「あれは・・・・!?」
シャドウ「!!」
リルム「ティナ?」

分かれたもう二つのグループのそれぞれの頭上には光の天使の姿があった。
その顔は、地を這うものたちを慈しむかのようでもあり、哀れむようでもあった。
女神という絶対なる主を得た彼女たちにとって、かつての仲間を前にして
迷いも葛藤もなんらあろうはずがない。
そのかつての仲間たちは下で何かを叫んでいるようだった。しかしその声はもう二人には届かない。

女神の子守唄が聞こえる---------
聖母の賛美歌ような、聴くものの精神を圧倒し眠りの世界へといざなうメロディ。
ティナとセリスもそれに従うように天高く唄いだし、聖歌は互いに共鳴し始めた。
その甘く崇高な音色は、瓦礫の塔一体のあらゆる生物を・・・
いや、生命力・魔力のレベルで全ての活動を停止させるのに十分なレクイエムとなった。
ケフカの支配下にあった魔物たち、そのケフカを打ち倒した戦士たち、全てが穏やかな眠りにつく。
決して覚めることのない、永遠に眠りに・・・
そしてこれから長い時間をかけてその魔力と生命力が女神へと注がれていくのだ。
新たな世界の神へと捧げられるかのごとく、ゆっくりと、ゆっくりと・・・
上空の雲間がいつしか消え去り、塔はまばゆい光に包み込まれていた。




世界は---



10年の年月が過ぎた。
かつて狂信者の塔と呼ばれた塔は、今では「女神の塔」と呼ばれている。
10年前のそれよりも更に大きく、高く、そして美しく。

最上部、まるで神話を形にしたかのような水と緑に彩られた空中庭園。
女神は汚れを知らない身体を湖に浮かべ、心地よい浮遊感を味わっている。
水面から顔を現す乳房は重力に逆らい豊かなふくらみを保っている。
つんと張り出す朱色の乳首にまとわりつく水滴がまぶしい。
水の下では、ゆっくりと脚を交互に遊ばせている。

近くの岸辺ではティナがユニコーンを膝に毛並みをやさしく整えてやっている。
そこに森の向こうからセリスが舞い降りてきた。
セリス「女神様、今年もそろそろの頃かと・・・」
『そうね・・・いってらっしゃい・・・』
セリス「かしこまりました。さあ、ティナ。」
ティナ「ええ。 それでは行ってまいります、女神様。」
うやうやしい会釈を終え二人が羽ばたくと、純白の羽が散り、水面に波紋が生まれ女神の体を微かにくすぐる。


もう邪魔な魔人も、鬼神もいない。
自らを利用したケフカも、抗う戦士たちも。
そして、残った人間たちは・・・
遠くにシルフと小鳥たちの戯れる声が聞こえている。
女神は唇を軽く歪ませ、満ち足りた笑みを浮かべるのだった。



今、地上の人々は女神を畏れ敬い、女神の塔を聖地と讃えながら生きている。
1年に一度、塔から、女神の使者として二人の麗しき美貌の天使が地上に舞い降りる。
ユニコーンの背にたたずみ、赤い羽衣を纏ったティナ。
キリンの背にたたずみ、緑の羽衣を纏ったセリス。

ある者は、二人の聖女を女神同様に崇め、信仰の対象としていた。
ある者は、二人の姿を直視できずただ涙していた。
ある者は、恐れ多くも、性欲を交えて興奮し発狂していた。
丸みを帯びほどよく肉付いた身体、丸く熟れた魅惑の乳房、端整にすらりと伸びる手脚
天から光臨する、二つの裸身はいつしか美しさと優雅さに加え、艶かしさを兼ね備えるようになっていた。

ティナ「地上の人間たち」
セリス「女神の大いなる愛を受け取るのです」

二人が現れた一帯が黄金色の光に満たされる。
その光を浴びたあらゆる生物は女神に永遠の忠誠を誓う僕と化す。
1年もの間蓄えられた誘惑の効果は。その対象のみならず、その者の遠く子孫にまで受け継がれていく。
地上の全ての人間が女神の僕と化すのに、そう多くの時間は必要としないであろう。


仰ぎ見上げる地上の者どもをよそに天使は、ただ真っ直ぐと遥か彼方の塔を見つめている。
穏やかな、安らぎの笑みを浮かべ、

ティナ「すべては女神様の」
セリス「御心のままに」




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