【ロリも】ハーレムな小説を書くスレ【熟女も】 12P

211 :無題 ◆MFi1XRZQyw :2007/10/27(土) 23:02:15 ID:CPc52O2s
 薄々、気づいてはいたのだ。
 どうもおかしいな、という程度には。
 そして、納得していたのだ。
 まあこんなこともあるかな、という程度には。

 学園に行けばメイドさんがいて。
 家に帰れば自称探究者――なにを探究しているのかはもちろん知らない――がいて。
 蹴れば崩れそうなアパートの大家さんは日本を代表するような大企業のご令嬢で。
 長髪とメガネを常備の友達が実は女の子だったりして。
 たまに学園の中を箒にまたがった女の子が飛んでいたりして。

 そんな非科学的なことがあるわけないだろ、と思う反面。
 それでも、まあ、広い世の中、こんなこともあるのかもしれないなあ、と、半ば本気で、思っていたのだ。
 どうせ自分とは関係ないし、関係ないならなんでもいいや、と半ば投げやりになりながら、納得していたのだ。

 でも、さすがに。
 色白の女の子に首筋を咬まれているいま現在。
 現在進行形で血を吸われているらしい、いま現在。

 メイドさんは許そう。なんか妙にかわいいし。
 自称探究者も許そう。変人は嫌いじゃない。
 深窓の令嬢も許そう。素直な子は好きだ。
 男装の友達も許そう。女だったとしても友達であることは変わらない。
 箒の女の子も許そう。毎日、下からしか見えない絶景をありがとう。

 けれども。
 さすがに、これは。
 吸血鬼は、守備範囲外だ。

「――ああ、寒い」

 呟いてみたものの、本当は寒いというより冷たい。
 指先が、目の奥が、首筋が。
 足音もなく、ただ虫が這うように、自分の寿命が近づいてくる。
 いや、俺が近づいているのか。
 そこで待っているものに。
 ずっと待っていたものに。

「――死ぬ、のかな」

 死ぬんだろうなあ、とぼんやり思う。
 俺がなにを呟いても吸血鬼の女の子は反応してくれないから、自分の問いには自分で答えるしかない。

212 : ◆MFi1XRZQyw :2007/10/27(土) 23:04:48 ID:CPc52O2s

 死ぬのが恐いのか、というと、それは、たしかに恐い。
 そもそも小学生のとき予防注射から全力で逃げた俺だ。
 あらゆる罠とあらゆる抜け道と持てる体力と持てる知力を使って大人五人から逃げ切った俺だ。
 道端で「おい、へたれ」と呼びかけられたら間違いなく振り返ってしまう俺だ。
 恐くないわけがない。

 でも、それとは違う気がした。
 よくはわからないけれど、なにか、違う。
 死ぬのが恐いというよりは、他人事のように、悲しい。

「……まあ、でも」

 顎が震えて歯が音を立てる。
 寒いのか、恐いのか。
 きっとどっちも正解で、どっちも正解のひとつでしかないのだろう。

 寒いし、恐いし、悲しい。
 でも、まあ、それでも、食べ物を買う金もなくなってのたれ死ぬよりは、遙かにましな死に方だろう。
 吸血鬼とはいえ、誰かが俺を殺したいと思って、それが成功したのだから。
 吸血鬼だか猟奇殺人鬼だか知らないが、俺がここで死んだら彼女は喜ぶだろう。
 目的を達成して、喜んで、そのあとどうなるかはわからないが、少なくとも誰の意志でもなく死ぬよりはいい。
 道端でのたれ死ぬなら、いらいらしている人の気晴らしに殴られて死んだほうが、まだ有意義というもの。

 満足なのかもしれない。
 こんな死に方ができて、俺は、満足しているのかもしれない。
 ただ死ぬ間際の恐さを紛らわせるためにそう考えているだけかもしれないが、それでも俺はたぶん、笑っている。
 笑いながら、そして、死んでいく。

 さようなら、この世界。
 こんにちは、あの世界。

 ばいばい、みんな。
 久しぶり、父さん母さん。

 ――それじゃあ、いままでありがとう。
 ――そういうわけで、これからよろしく。



     ◇

213 : ◆MFi1XRZQyw :2007/10/27(土) 23:06:24 ID:CPc52O2s
     ◇



 目が覚めたときから、微かな違和感は感じていた。
 三時半になったらいつも憎らしいほど的確に脳をシェイクしてくる目覚まし枕が、今日は震えていない。
 おかしいな、と思いながら目を開け、手探りで枕元の時計をたぐり寄せようとして――また、違和感。
 手が動かない。
 ついでに、目も開かない。
 そう気づくととたんに腕がかゆくなった。

「――に、これで大丈夫なの?」

 目は閉じられても耳は閉じられない――ああ誰だっけ、そう言ったのは。
 まったくの暗闇、身体中の感覚が喪失してもなお、耳だけは正常に機能していた。
 ただ、とても遠くから聞こえているような気がして、言葉は聞こえるのにどんな声なのかはよくわからない。

「――大丈夫なはず、としか言いようがありませんけれど……」
「魔法使いなのに――空だって飛べるのに、こんなときはなにもできないなんて……」
「わたくしだって、そうですわ。いくらお金があっても、いくら人が動かせても、そんなことなんの意味も……」
「無力なのは魔法使いだろうと金持ちだろうと同じ、ということだよ。もちろん、探究者たる私もね」
「ひーくんはいつも助けてくれたのに――僕は、なにもできないなんて」

 でもな、と俺は動かない口を動かしたつもりになりながら呟く。
 でもな、きっと、想うってことは実際に行動するよりもずっと大切だ。
 想いがなければどうにもならない。
 たとえ行動ができたとしても、想いのない行動に、きっと意味も意義もない。

 だからおまえらはすげーんだぞ、と言ってやりたかったが、声は出なかった。
 人の枕元でくっちゃべっている彼ら――彼女ら?――が誰かは知らないが、すげー奴らだということはわかる。
 誰かに想われるより誰かを想える奴のほうがすごいのは常識だ。

 ――ああ、すっきり。

「……っていうか、もう、動けるはずなんだけど?」

 うん?
 あれ、そういえばかゆかった腕がなぜかすっきり。

「――あ」

214 : ◆MFi1XRZQyw :2007/10/27(土) 23:07:32 ID:CPc52O2s
 目を、開ける。
 そもそも赤い瞳を真っ赤にしているメイドさん。
 シニカルな表情を崩してじっと俺を見下ろしている自称探究者。
 頬に手を当てて悩ましげに眉をひそめているお嬢さま。
 顔をくしゃくしゃにして肩を震わせているしましまパンツの女の子。
 メガネの奥の大きな瞳いっぱいに涙を溜めている友達。
 そして、

 白い八重歯を見せる青い目の吸血鬼。

「ひー……くん?」

 まず、最初に呟いたのは男装の令嬢を地でいくハヤ。
 その声を飛び越えるようにして抱きついてくる箒が得意の魔法少女イコ。
 呆れ顔でため息をつくのは、いつもなにかを探究しているエナ。
 抱きついてくることはないが控えめに手を握ってくるのは一松財閥の次期当主アイ。
 いつものように一歩後ろで優しく微笑んでいるのはメイド服が大好きなラトさん。
 その隣で、いいように言えば天真爛漫、悪く言えば脳天気に笑っているのは、名前も知らない吸血鬼。

 なぜか、みんな、それぞれ違う表情をしているのに、同じように泣いていた。
 その涙に、俺は思い知った。
 もう彼女たちは無関係ではないのだと。
 もう彼女たちを無関係だと済ませられないのだと。

 俺はその日、本当の意味で、彼女たちと出会った。
 この先、まるで出来の悪いマンガのような展開が続くことを、ほんの少しだけ、予感しながら。




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