【スキスキ】ハーレムな小説を書くスレ【独占】
455 :名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 01:26:19 ID:lzAPG4Fg
お邪魔します。いつも楽しく職人様の作品を拝見しております。
どこからか電波を受信したので、ひとまず設定と登場人物だけ置いていきます。
需要があるなら頑張ってみようと思います。見切り発車感は否めませんが。
ちなみに、ここに書き込むのは感想、SS含めて一切初めてです。優しくして下さい。

※概要
現代における、人外ハーレムの物語。
このハーレムの特徴としては、現代に生活している吸血鬼を初めとする人外の者で構成されているという点にある。
彼(彼女)達は、人間ではないため、人間の法に縛られない。
一夫多妻だろうが多夫一妻だろうが、人間が作った法律で自分の行動を制限するつもりはないという考え方。
その代わり、彼らは人間に一部の契約を除けば特に何かを期待することもない。
この場合の『契約』とはRPGなどにありがちな魔術による召喚などとは関係のない、世間一般のビジネスにおけるそれを指す。


467 :名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 01:48:40 ID:lzAPG4Fg

勇太=レフゾン;現代に生きる真祖の吸血鬼。
この名前はいくつもある偽名のうちの一つでしかなく、
元はと言えば『Nosferatu(ノスフェラトゥ)』の無理やりな逆読み(U-ta=Refson)。
ただし彼の真の名前がノスフェラトゥというわけではない。
見た目は20代前半。実年齢は推定750歳。
かなり陽気な性格で、吸血鬼のイメージとしてありがちな陰鬱な印象はない。
普段はほどほどに魔力を某吸血鬼漫画のように封印して過ごしているが、
それでも、人間では太刀打ちできないほどの力を持っている。

紫苑:見た目年齢は23歳、大人っぽい口調で勇太を『あなた』と呼ぶ、いわゆるお姉さんキャラ。
彼女の種族はもともと形を取るような種族ではなく、イメージとしては靄のように不定形である
(といっても一般人には見えず、例えとしては『流動的な情報の塊』のような感じ)。
ふわふわ浮いているところ勇太と出会い、以後人の形を取って付き従っている。
実年齢は本人曰く『世界が出来たときから今まで』。
普段はしっかりしているが、時々何をしたいのかよく判らない行動があり、近頃始めた同人活動(数字系)もその一つ。
メンバーの中では唯一パイズリが出来る巨乳。

メテオール=シュルツ;メテオールという名前が可愛くない(ドイツ語で『隕石』の意)ので、本人は『テオ』という名乗ることが多い。
オーストリア辺りの生まれの吸血鬼で実年齢は250歳。見た目19歳。普段は留学生として大学に通う生活をしている。
色白で銀髪、あどけない外見は一見可憐な少女であるが、実のところツンデレ気味。
勇太のことを相応に愛しているのだが、素直になれない態度を取っている。
日本語習得の際の勘違いで、発音は滑らかなのだが一人称が『ボク』でなおかつ関西弁という
わけのわからない言語を喋る。

篠倉絵麻;日本生まれのサキュバス(吸精鬼)。
15のときに実家を出てし、初めて精気を吸う相手に、何も考えず『すっごい魔力を感じた(当たり前)』という理由で勇太を選んでしまい、
逆に虜にされてしまう。天真爛漫で無邪気、ハーレムの構成員としては実年齢16歳と最も(というか桁違いに)幼い。
普段は家でゴロゴロしていることが多いが、料理の腕は一級品。
しかし、それ以外の家事は壊滅的なので、紫苑の担当になっている。
黒髪のショートカットでスポーツが大好きな引き締まった体。発展途上の貧乳担当。


鴇沢 爾(みつる);『機関』の人間で勇太の担当者。短い髪に一年中背広を着込み、
事務的な敬語で話す。ちなみに、爾自身は只の人間である。22歳。
『機関』とは吸血鬼やその他の種族がが人間社会で生活するために色々と支援する団体。
具体的には輸血用の血液の調達や、住居を得るに当たって必要な書類の手配・・・など。
その代わり、吸血鬼は人知を超えた不可解な事件が発生したときに、彼らに知恵を貸すのが報酬代わりとなっている。

※話の流れ
おそらく、『機関』が持ち込む『人知を超えた事件』にエロを絡めて進んでいく、はずです。
さらにハーレム構成要員も増えていく、予定です。
なにぶん見切り発車で御座いますので、多少のことはお目こぼしをお願いいたします。

ひとまずこんなところです。
エロはあんまり書き慣れてませんが、需要があるなら頑張らせて頂きます。


490 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 03:59:55 ID:Zx6zP+WZ
 駅から続く、だらだらとした坂を上る。
 三十年前の子供たちが『裏山』と称して遊びに興じたであろうそこは、
 すでに宅地造成やら土地開発計画やらの影響で、立派な高級住宅地と変貌を遂げていた。
 季節は秋と冬の境目ではあったが、長い坂を上り終えると流石にうっすらと汗が額に浮かぶ。
 爾(みつる)はその汗を拭いながら、カメラ付きのインターホンを鳴らした。
『は〜い・・・あ、爾さんだ〜』
 と底抜けに明るい声が返ってきた。天真爛漫という表現がピッタリの、幼さを残した声。 
 爾はその声ですぐに相手を特定すると、マイクに向かって話しかけた。
「どうも、絵麻さん。勇太さんはご在宅でしょうか?」
 事前に一応電話でアポは取ってある。
  とはいえ、相手はそういったことに非常に無頓着ですっぽかされたことも一度や二度ではなく、
その経験から念の為の確認だった。
 向こうの返事はいつになく歯切れが悪かった。
『え〜〜〜〜と・・・居るには居るんだけど・・・ちょ、ちょっと待っててね?』
 プツッ、と音を立てて通話が切られ保留の音楽が流れると、爾は少しだけ周囲を見回した。
 超高級・・・とまではいかずとも、普通の会社員が住むには苦労するような、それなりのマンションのエントランスである。
 後ろには管理人室があり、中年の警備員がやる気のなさそうに煙草を吹かしながら新聞を見ている。
 その様子が高級とはかけ離れていて、爾は思わず吹き出しそうになった。
 ネクタイの結び目を直すことで、それをどうにか誤魔化す。
 小奇麗に着こなされた背広は、本人が思っている以上に窮屈な印象を周囲に与えていた。
『ごめん、お待たせ〜。入ってきて〜』
 自動ドアが部屋からの操作によってスルスルと開くと、爾は目的の部屋へ向かった。
 ――このマンションに人間以外のものが住んでいると知ったら、あの警備員はどんな顔をするだろうか。
 ペット可のマンションではあるが、無論それ以外の意味で。
 それを考えると、爾はまた意味なくネクタイを締めなおした。

491 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 04:02:23 ID:Zx6zP+WZ
 12階建てマンションのうち、8階にその部屋はある。間取りは3LDK。一家族でも余裕の床面積を誇る。
 玄関で出迎えてくれたのは、やはり篠倉絵麻(しのくら えま)だった。
「お久しぶり〜、爾さん」
 あどけない表情は16歳という年齢相応のもので、身長も172センチの爾より、
頭一つ小さい。全体的に小作りな造作の顔が日に焼けて、健康的な魅力を放っていた。
「どうも、ご無沙汰してます。勇太さんは・・・?」
「ん、なんかしー姉ぇのモデルやってる」
「モデルって・・・例の・・・」
「ま、まぁ、とりあえず上がってよ、ね?」
 強引に押し切られた気がするが、とりあえず革靴を脱いで言葉の通りにする。
 廊下を進み、突き当たり右の扉がキッチンだ。リビングの扉の前を通るときに、見はしなかったが大勢の気配を感じた。ここの住人の一人が、同人誌を書くのが趣味なのである。おそらくそのサークルの集まりだろう。
「いま、お茶入れるからね。勇太もすぐに来るから」
 いそいそと紅茶の缶を棚から取り出し、お茶を入れ始める。
 無駄がなくテキパキとした動作で用意を進めていく彼女に、爾は話しかけた。
「今日は・・・テオさんは?」
「大学〜。今日は平日でしょ?」
 絵麻は笑いながら答える。答えながらも、手の動きは止まらない。
 この世帯との付き合いも半年ほどになるが、彼女の料理の腕には舌を巻かざるを得ない。
 手際も味も見た目も、そこらの料理人に引けを取らない。
 もっとも、彼女の家は15になったら子供は独立する慣習らしく、
とにかく手に職をつけなければならないという事情もあったようだ。
 今時古いと感じるかもしれないが、彼女はそういう生まれなのだ。
 天真爛漫で無邪気。だが、その実はれっきとしたサキュバスの一族である。
 見た目は人間と変わらないにも関わらず、人の精気を吸わねば生きていけない。
 そして、そのための体の仕組みが整うのが(もちろん多少の個人差はあるものの)15歳という年齢なのだ。
 因果な話だと思うが、仕方のないことだし、そもそも『因果な話』という認識も『人間側』の話のこと。
 あちら側の住人にとっては、当然の『決まり事』なのだ。
 もともと、その世話をするために、爾はここを訪れている。
 爾の所属する『機関』はそういう仕事をしているのである。

492 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 04:04:36 ID:Zx6zP+WZ
 紅茶の香りが鼻をくすぐり始める頃、キッチンのドアが開いた。
「や、待たせたね」
「いえ、大丈夫です。お邪魔しています。――勇太さん」
 黒く長い髪を一つに括って背中に垂らした男――この部屋の主、勇太=レフゾンが、バスローブ一枚の格好で入ってきた。
 見た目は20台前半と言ったところだろうか。やや垂れ目気味の目に鳶色の瞳が収まっている。
 口元は笑みを浮かべ、それが彼の陽気な性格を伺わせた。
 バスローブの襟口から覗く鎖骨は、その下の引き締まった体を連想させる。
 彼が入ったことで、別に部屋の空気が変わるとかそう言ったことはない。
 何も知らなければどこにでも居る、ごく普通の男に見える。それがまた、爾にとっては不気味だった。
 来客を迎えるには明らかに不適当な格好だったが、それにはもう慣れてしまっているので特に何も言わない。
 それに、彼に人間の礼儀を説いたところでどうにもなるまい。
 ――700年を生きている吸血鬼に『人間のマナー』など、お笑いでしかない。
 そもそも、『勇太』という名前でさえ、偽名でしかないのだから。
「・・・紫苑さんのモデルをされてたようで」
「おう、もう今日は終わりだそうな。今お仲間が帰ってるとこだよ」
 テーブルの向かいに腰掛けると、ちょうど紅茶と茶請けのクッキーが運ばれてきた。
 爾が礼を述べると、絵麻は
「ごゆっくりどうぞ〜」
 といって、部屋を出て行った。
 気の利く子だと思う。紅茶のことではなく、席を外したことがだ。
 勇太は子供のように、紅茶にミルクと砂糖を大量に入れながら、陽気に話し出した。
「いや〜、参った。女の子にあそこまでジロジロ見られるのも、気疲れするもんだな」
「なら、引き受けなければいいでしょう?・・・今、紫苑さんはどんなものを?」
「ん?なんつったけな・・・あ、そうそう、ヤオイ系だそうだ」
「・・・・・・・意味判って言ってます?」
「うん。まぁね。・・・飲みなよ、アッサムの良い奴が手に入ったんだ」
「・・・頂きます」
 全ての台詞をさらっと言ってのける勇太に半ば呆れつつ、爾は紅茶をストレートで一口啜った。
 なるほど、詳しくはないがいい紅茶だと思う。口から鼻へ抜ける香りや、程よい渋みも爾の好みだった。
「で?今日は何の用?また何か面倒ごと?」
「はい・・・これを」
 爾は鞄を開けると、中から書類を抜き出した。
 中身はある事件の調書。警察の調べを元に、爾たちの『機関』が独自に作成したものだ。
 通常、警察では確実に迷宮入りになると思われる、『呪い』『魔術』『人外』による事件が扱われている。
 だからこそ、エマは席を外したのだった。
 彼ら吸血鬼はこの手の事件に対して協力する代わりに、報酬代わりとして必要な輸血用血液の調達や、
居住に際しての対外的なカモフラージュなどを『機関』に任せている。
「ふむ・・・」
 勇太は紅茶を啜りながら、書類を読み始めた。

493 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 04:07:06 ID:Zx6zP+WZ
 書類に目を通し、それについての意見を聞いていると、突然
「ふえ〜〜〜疲れたぁ・・・あ、ご、ごめんなさい」
 と関西訛りの強い声が、ドアから飛び込んできた。
「お帰り、テオ。別に構わないよ」
「お邪魔してます」
 爾が頭を下げると、テオは困惑したような顔で勇太を見た。
「おおかた話は終わったからね。飲み物か?紅茶は・・・冷めてしまったかな」
「あ、ええよ。ボク、オレンジジュースがええから・・・」
 そう言うとテオは自分で冷蔵庫に向かい、中を漁り出した。
「今日は随分早いんだな」
「うん、いきなり休講になってもうて」
 勇太はテオの話を目を細めて聞いている。その様子は子供から学校の話を聞く父親のようだった。
 グラスにジュースを注ぎ、口をつけながらテオはこちらに近づいてくる。
 爾はさりげなく書類を片付けると、勇太の隣に座るテオを見た。
 本名はメテオール=シュルツ。透けるような白い肌に、肩までの銀髪が映える。
 彫りの深い顔立ちと名前も含めて、明らかに日本人のものではないが、本人は非常に流暢な日本語――というより関西弁を操る。
 日本語の習得過程で勇太曰く『致命的なすれ違い』があったそうだ。
 大学生という外見年齢相応に幼さを残しているが、実のところ彼女も吸血鬼である。
 しかもその世界では『本場』と言われるオーストリア生まれであり、実際の年齢は250歳ほどになるだろうか。
 三人でしばらく世間話をしていると、
「ごめんなさい、ちょっといいかしら?あなた」
 と入り口の方から声がした。
「ん?どした」
 この部屋の最後の住人――紫苑(しおん)が背中に届く長く黒い髪の毛を揺らして入ってきた。
 対外的な書類には、彼女は勇太の妻ということになっている。
 テオやエマは紫苑の妹であり、その四人で同居しているという体裁で、この世帯は成り立っていた。
 もっとも、彼らにとって人間の書類の都合など知ったことではないので、それはあくまでも建前でしかないのだが。
 紫苑は『あなた』という呼び方が気に入ったらしく、勇太をそう呼んでいる。
 事実、勇太との付き合いも三人の中では最も長く、かれこれ200年ほどになるらしい。
 正体は――爾にも良く解らない。勇太に尋ねても、『幽霊みたいなもんだ』と曖昧な答えしか返って来ないし、
本人に聞いても『さぁ?』と笑顔で首を傾げられるだけなのである。

494 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 04:08:36 ID:Zx6zP+WZ
「来週、モデルを頼みたいのだけど・・・」
「あぁ、構わんよ。改まってどうした?」
「いえ・・・その・・・爾さんも」
「え?私ですか!?」
 唐突に話を振られて、爾は戸惑う。
「ええ・・・その・・・廊下を通ったときに、サークルの子があなたを見たみたいで・・・」
「はは、それで絡みを描きたい・・・ってか?」
「か、勘弁してくださいよ!!」
 溜まらず声を上げると、爾以外が爆笑した。
「まぁ、そうよね。ダメもとだったから、別にいいわ」
 紫苑はそういうと、切れ長の目を細めて笑顔を作り、首を傾げた。
 金色のネックレスが、僅かに音を立てる。その笑顔に爾ははっと息を詰まらせた。
 特にいかがわしくもないはずなのだが、なぜか目のやり場に困るような笑顔だった。
 それは人外の者が持つ怪しい魅力なのだろうか。
 まったく奇妙な話なのだが、彼女の笑顔だけは爾はいつまでたっても慣れることはなかった。
「ええやん。爾クンもやったら」
 テオが冗談半分に言う。爾は顔を真っ赤にして反論しようとしたが、紫苑が先に
「テオ、余り困らせちゃダメよ?」
 と窘めたので、無理やり飲み込んだ。
 こういう様子は、明らかに血の繋がりのない外見を除けば本当の姉と妹のようである。
「は〜い。ごめんなさい。爾クン」
「いえ・・・別に・・・いいです」
 流石に気まずくなったのか、そのままテオと紫苑は部屋を出ていった。
「ま、気にすんなよ、爾」
「別に気にしてません」
 自分でも思いがけないほど強い口調だった。
 勇太は軽く眉を上げただけで、すっかり冷めてしまった紅茶をティーポットからカップに注ぎ、一口啜った。
「しかし・・・お前さんも、もうちょっとそれなりにすりゃ、見れる外見はしてるのにな」
「・・・ほっといて下さい」
 『彼女』はそう言うと、ネクタイを直した。

495 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 04:10:54 ID:Zx6zP+WZ
「それ」
「え?」
 勇太が右手でカップを持ち、左手で首元を指差した
「動揺すると、お前さん、ネクタイに触るよな」
「・・・・」
「ま、だからどうこう言う気はないがね」
 落ち着いた様子で冷めた紅茶を楽しむ姿は、部屋に指す西日と相まって儚く幻想的であった。
 しかし、彼はこの先何年も存在し続けるだろう。夢幻と呼ぶには、余りに強すぎるほどの存在感で。
 ――初めて彼を見たとき、爾は恋をした。彼が三人の女性を同時に伴侶としていることを知っても、
それは不思議なほど揺らがなかった。彼らは人間ではないのだ。
 人間の作った法に、心の底から従うなどということはあり得ない。
 ただ、『守っておいたほうが面倒が少ないから』というだけの理由。
 それだけの理由にぶら下がるように、爾の『機関』は血液の調達や書類の細工などという、
取るに足らない仕事で彼らに恩を着せている。
 いざとなれば、個人で程度の差こそあろうが、彼らは躊躇なくその辺りの人間を襲って血を吸い、
気に入った家があれば簡単に奪って住み着いて見せるだろう。
 それほど異質な者だと、爾は理解していた。
 しかし、それでもなお。
 勇太の顔を思い浮かべるたびに頭の奥を掠める甘い痺れや、体を熱くする淫らな熱は、
 どうしようもなく彼女の決意を揺らがせる。
 しかし、一時の感情に任せて彼らのハーレムに混ざったところで、
20年、30年と年月が過ぎれば爾は抗うべくもなく、老いてしまうだろう。
 自分ひとりだけ醜く老いさばらえても、彼らは今と同じ若々しく美しい容姿のまま・・・それに耐える自信が、爾にはなかった。かと言って、途中で抜けられるという自信もない。
 だから、彼女は男物のスーツで自分を包む。想いを封印するために。それは、彼女が自らに課した戒めという名の『呪術』だ。
 魔導師としての適性のない爾にとって、それは比喩的な意味合いでしかないが、絶対のものだった。
 ――だと、思っていた。
 呪いの解ける日は、そう遠くはないのかも知れない。
 彼女はその事実に、陰鬱でありながらどこか救いのようなものを感じていた。

502 :twist ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:37:49 ID:HBy1sFBW
 爾が暇を告げ、部屋を出たその夜。勇太達が住む部屋の寝室にて、いつものようにその行為は行われる。
 毎晩とは言わないが、それなりの頻度で行われていた行為は、実のところこの一週間ほどは滞っていた。
 そのため、今夜はそれぞれの昂ぶりも大きい。
「ふや・・・ぁん・・・勇太ぁ・・・」
「ふふ・・・エマ。ずいぶん濡れてるわね」
「だって・・・んっ!!久しぶり、だからぁ・・・」
「悪いねぇ。ちょろっと最近忙しくてさ」
「せや。久しぶりなのはみぃんな一緒やで?」
広いベッドの上には、勇太とその膝の上で愛撫を受けているエマを中心に、四人が素肌を惜しげもなく晒して怪しく絡みあっていた。
 紫苑はかなりボリュームのある乳房に、張りのあるヒップライン。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
 むっちりとした肉付きと、女性としてのスタイルが絶妙なところで釣り合っていた。グラマラスなボディの理想的な形だ。
 テオの身体も胸の大きさこそ紫苑に劣るものの、同年代からすればかなり誇れる部類である。
 紫苑が『グラマー』ならば、テオは『スレンダー』の理想形だろう。美しい調度品のような体に、引き締まった腿の間に銀色の陰毛が薄めに覗き、それがまた見慣れぬ者にとって彫刻のような非現実的な美しさを醸している。
 絵麻は二人と比較すると、やはり未成熟な印象を受ける。スポーツ好きな彼女らしく、三人の中では最も引き締まった肉体を持ち、女性らしい柔らかさに欠けるのは否めない。
 しかし、その身の奥にサキュバスとしての魔性が、中性的なフォルムと相まって、滲むような魅力を放っていた。
 そして、そのまだ膨らみかけの小さな胸は、勇太に唇で優しく弄ばれている。
 桃色の先端をついばむと、エマが溜まらず声を上げた。
「やあぁぁ・・・だめ、勇太ぁ・・・もう・・・欲しいよぉ・・・」
「ほんま、今日は早いなぁ・・・精気はまだ足りてるはずやろ?」
「そんなんじゃ・・・なくてぇ・・・」
「フフ・・・駄目よ、テオ。意地悪しちゃあ」
「ふぁ・・・んあぁ・・・っ!!」

503 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:40:11 ID:HBy1sFBW
 実際エマがこれほど切羽詰っているのは、会話をしながらテオが耳や首筋、紫苑が股間を責めているということもある。
 それを含めれば、十分に紫苑も『意地悪』ということができるのだが。
「はぁうぅ、だめ、しーねぇっ!そんな、激しっ、ひやあぁ!テオねぇもぉ、耳、とかぁっ!」
「かわええなぁ、エマ。しゃーないから、今日の一番は譲ったるわ」
「そうね。ちょっと意地悪が過ぎたかも知れないわね」
 二人が手を止めて、少しだけ離れる。勇太はエマの顔を真っ直ぐに見て、笑いかける。
「大丈夫か?エマ」
「うん・・・いいから、早く、して・・・?」
「了解」
 勇太はエマの腰を掴むと、ペニスの先端をあてがい、一気に引寄せた。剛直が深々と、エマの中を抉ると、その体が大きく跳ねた。
「ふあああぁぁぁう!!」
「なんやぁ?入れただけでイってもうたんか?」
「らってぇ、テオねぇ達が、あんな、するからぁ・・・」
「あんなって、こんな?」
 紫苑が再びエマに取り付き、縦長のへそを撫でた。
「ひぁっ!」
「それとも、こんなかいな?」
 こんどはテオが肛門の辺りに触れる。その度に、エマの幼さがのこる肢体はいちいち反応を返してしまう。
「やぁ、らめ、だよぉ・・・」
「そうだぞ、俺を差し置いて」
 勇太が内心面白くて溜まらないといった風情で言いながら、腰を揺らした。
「ひぅん!!」
 対面座位の状態で突かれて声を上げるエマに群がるようにして、二人は愛撫を続ける。
「ああぁぁぁ!!らめ、らってばぁっ!!しぃねえぇ、てお、ねぇも、んむっ!!」
テオが突然、絵麻の唇を奪った。すぐに舌同士が絡み合い、唾液が交換される水音が響き始めた。
紫苑はその間、執拗にエマのクリトリスを押し潰すように弄っている。
 三人で勇太に抱かれるようになって一年が経とうとしていた。もうお互いの性感帯も熟知している。
「んっ・・・ちゅぅ・・・ひっ!?」
 キスをしていたテオが、唐突に顔を離した。エマの右手が尻の方から性器に触れていた。
「へへぇ・・・テオねぇはぁ・・・中を指でこうするとぉっ・・・」
「あ、あかんって!かき回したらっ、んあぁ!」
「お返しだよぉ?サキュバスを舐めないでよねっ、あんっ!!」
勇太がエマの乳首を指で押しつぶしながら、首筋に顔を埋めて口付けをしていた。その間も、腰の動きは止まらない。
「ひああぁぁぁっ!らめっ、勇太ぁ!テオねぇにっ、お返しするのにぃ・・・」
「だーめ。俺に抱かれてる間は大人しくしてろ」
 ベッドの軋みが早くなり、それにつれてエマの嬌声も大きくなっていく。
「やぁんっ!!らめっ!またっ、またイっちゃうよおおぉぉっ!!」
「何回でもどうぞ、っと・・・ほれ、お前らも」
「えっ、きゃっ!!」
「ひゃあっ!」
 勇太は座った姿勢のまま紫苑を右腕で、テオを左腕で抱き寄せた。
「あっ、あなたぁ・・・んぁっ!」
「はうぅ、勇太ぁっ!」
 そのまま、両手で二人の股間に手を差し入れ、弄っていく。
 両方の指先から雫が垂れる感触に、勇太は思わず苦笑した。


504 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:41:53 ID:HBy1sFBW
「何だ。二人ともびしょびしょじゃないか。エマのことは言えないな」
「はぁっ・・・ん。あなたぁ・・・」
 紫苑が溜まらず、勇太に口付ける。テオはエマと空いた手で互いを愛撫している。
「ちゅぅ・・・ちゅぷっ・・・んむぅ・・・」
「んっ、くああぁぁっ!ゆうたぁ、ゆう、たぁっ!いいっ、きもちいいよぉっ!!」
「ちゅぱっ・・・ん・・・エマも、もう限界かしらね」
「うぅん、次どうする?紫苑。ボク、もうしたいねんけど・・・」
「いいわよ、私は一番最後にたっぷり可愛がって貰うから、ああっ」
「今も可愛がってるだろ?え?」
 内壁に軽く指を立て、紫苑の快感を直接擦りたてるようにすると、下半身がガクガクと痙攣を起こしだす。
 エマが自分から腰を揺らして、自ら絶頂を駆け上り始めた。
「あっ、ゆうたぁ・・・ゆう、たああぁ!!」
「こっちもか。やれやれ、人の体じゃ、手が足りんな」
「あんっ、でも、こないだみたいのはもう勘弁やで?」
 以前、勇太が戯れにと実体との繋ぎを希薄にして体構成を組み替え、数本の蝕腕を通常体に追加構成――簡単に言えば、体から触手を生やすように変身をしてみたことがあったが、翌日は勇太以外は誰一人としてベッドから出ることすら出来ず、図らずも生やした触手を活用して家事を全て勇太が行うはめになった。
「解ってるよ、テオ。とにかく、今はエマに悦んでもらおうよ」
 そういうと、彼はエマを両手で抱き締め、膨らみかけの胸に顔を埋めた。コリコリに尖った乳首を口に含み舌で転がすと、それだけでエマの引き締まった肢体が大きく弓なりに反った。
「ひあああぁぁぁっ!!そこぉっ!いいよぉっ!!」
「ぅくっ・・・俺もイきそうだな」
「はぁん、頂戴、いっぱいぃ・・・ゆうたの、熱いのちょうだいぃ!!」
「イくぞ、エマ・・・っ!!」
「ふやぁっ!!きて、きてぇっ、あ、あああぁぁぁぁっ!!!」
 長く尾を引く絶叫と共に、エマが痙攣する。勇太はその奥で、白く濁った熱を吐き出した。
 膣から子宮、そして全身へと精気が吸収され、それがさらにエマの快感を引きずり出していく。
 勇太がゆっくりと、ペニスを抜き出した。
「ふうぅっ、うやぁぁっ!」
エマは解放されるなり、蹲って股間を押さえている。
 人間とは質も量も比べ物にならない精気により、脳が焼け付くような絶頂が、ペニスを膣から抜かれても続いているのだ。
 精気は『生気』でもある。一般に使われる意味ではなく、『子孫を生もうとする気』『この世に生まれようとする気』とでも言い換えればいいだろうか。
 生物が繁殖しようとするエネルギーを、サキュバスは吸収して生きているのだ。
「相変わらず、スゴいイき方するなぁ・・・あんなん、ボクじゃ身が持たへんわ・・・」
 未だに身体を快感に震わせているエマを見て、テオは呟いた。勇太に虜にされてしまったのも、納得がいく。
 普通の人間の精気ならば相応の絶頂で済むだろうが、全く桁が違う。


505 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:43:53 ID:HBy1sFBW
「さて、次はテオか?」
「あ、うん・・・ってうわぁっ!!」
 突然、紫苑が猫のようなしなやかな動作で、テオを押し倒した。
「し、紫苑・・・次はボクって――」
「駄目、エマを見てたら、我慢できなくなっちゃった。一緒に・・・してもらいましょう?」
 そういうと、紫苑は自分とテオの股間を擦り合わせた。
 黒と銀の陰毛が濡れそぼって絡み合う中に、二つの勃起したクリトリスが触れ合っている。
 その上下には、先ほどから既に開いて露を垂らしている陰唇、そしてひくひくと誘うように動く褐色の肛門までが、鏡写しになったような状態で勇太から丸見えになっていた。
「ふぁんっ!!・・・もう、しゃぁないなぁ・・・」
「ごめんなさいね。テオ・・・んくぅ・・・」
 放っておくと二人で始めてしまいそうな雰囲気に勇太は苦笑いすると、四本の足の間に割って入った。
 そのまま二人の柔肉の間に、自らの剛直をあてがう。一度精を放っても、それは全く衰えることはなかった。
「二人とも、いくぞ?」
「ふあぁ・・・ゆうたぁ、来てぇ・・・」
「あなた・・・そのままぁ・・・うぅん・・・」
 蕩けきった声を上げて、二人が腰を揺らめかせる。
「了解・・・っと」
勇太が一気にペニスを二人の間に突きたてると、二人は
「「はああああああぁぁぁぁっ!!」」
 と声を揃えて絶叫した。勇太は構わず、一気に責め立てる。陰核や肉襞が、ペニスに絡みつくように擦り立てられて、その度に二人は声を上げた。
「ひあぁっ、ん、はあぁぁんっ!」
「あっ、あっ、あっ、ああぁっ!!」
 テオは長く響くような、紫苑は短くしゃくり上げるような喘ぎを、それぞれ聞かせる。それらは一つのBGMとなって、部屋を官能に染めていく。
「あああぁんっ、す、すごい・・・気持ちええよぅっ!!」
「あ、あなた、はっ、あっ、すご、いぃっ!!」
 日頃は大学生として溌剌と過ごすテオに、楚々とした妻としての顔を装う紫苑。二人とも、今は快楽に涎と涙を垂らして蕩け切っている。
 絵麻が吸血鬼の精液からもたらされる膨大な精気を、ようやく受け止め終えて、身を起こした。
 呼吸はまだ荒く、頬が上気した姿はそれだけで十分に欲望を燃え上がらせた。悪戯っぽく笑い、勇太と目配せをすると、折り重なった二人に取り付いた。
「えへへ〜・・・もう抵抗できないね?二人ともぉ・・・」
「あ、うぅ・・・絵麻ぁ・・・」
「あっ、あぅ、ふあぁっ」
「フフフ・・・し・か・え・し☆」
 軽く舌なめずりをすると、絵麻はまず手始めにテオの肛門を弄り出した。
「はああああぁっ!エマっ、それはあかんって・・・っ!!」
「さっき、あたしのお尻弄ったでしょ?覚えてるんだからね?」
 勇太のペニスが激しく前後に動いているその下、僅かに褐色に色づいたすぼまりに、華奢な指が伸びる。
 それは皺をほぐすように、その周囲を撫でていたが、やがて上から垂れてくる愛液を潤滑剤にして、侵入を始めた。
「くあああぁぁぁぁんっ!んんんあああぁぁっ!!!」
 テオが紫苑の下で大きく体を反らした。
「ひあっ、らめ、エマ、あかん、はあああっ、そこは、おかしなってまうよぉっ!!」
「あっ、ふぅ・・・テオも、イっちゃいそうね」
 紫苑は微笑むと、自分の乳房をテオのそれに押し付ける。
 柔らかく形を変える四つの塊の頂点にある勃起した乳首が擦れあって、お互いに刺激を与え続けている。
「しーねぇも、油断してちゃ駄目だよぉ?」
「えっ、んあああっ!!」
 エマの空いている手が、紫苑の背筋を撫でた。
「んふふ・・・どうしようっかな〜?テオねぇみたいに、お尻がいい?それとも、おっぱい?」
 先ほどとは逆転した立場で、絵麻が悪戯っぽく訊いてくる。

506 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:44:46 ID:HBy1sFBW
「ふああぁぁ、すごいぃ、中でっ、擦れてるぅ・・・お尻の中で、一杯になってるぅ!!」
 テオの嬌声に、紫苑は屈した。
「・・・お尻を、お願い・・・」
「りょーかーい!!えいっ!」
「はあぁぁん!!い、いきなりぃっ!?」
 いきなり、とは言っても、そこは絵麻の細い指を迎えるには十分にほぐれていた。
「ひぁっ、あああっ!すごっ、んあああ!」
「はぁっ、ひぅっ!あ、あなたぁ・・・」
「っく、上手になったなぁ、エマ」
「えへへ、でしょ?」
 両手で器用に二つの肛門を弄りながら、エマは答えた。
彼女はこのハーレムでは今のところ一番の新参だが、こと性技において、サキュバスという素養は伊達ではなかった。
「ひぃああぁぁぁっ!、イく、ボク、もうイってまうよおぉぉっ!!」
「わ、わたしも、だめぇっ!全部、お尻も、あそこも、全部駄目になっちゃううぅっ!!」
 その台詞に、勇太は笑って答えた。
「・・・まだまだ、夜は長いぞ?」
 その言葉に、三人は蕩けた笑顔を返した。
 まだまだ可愛がって貰える。その想像が、より興奮を高めていく。
「あっ、ああ、イく、イくぅっ!ふああああぁぁぁぁぁっ!!!」
「はぁんっ!駄目、だめ、だめええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 二人が強く抱き合って、大きく同時に痙攣した。
「うわぁ、すっごい、締め付け・・・。イくとき、二人ともギュ〜〜〜ッって」
 エマがゆっくりと、アヌスから指を抜く。
「あ、ああぁ・・・。覚えとれよ、エマ・・・」
「ふぅっ・・・ん・・・。そうよ、まだ、夜は、長いんだから・・・」
 テオと紫苑が台詞にそぐわない微笑で呟くと、絵麻は期待した表情で
「んふふ〜。幸せ〜」
 と微笑を返して見せた。
 三人を余所に、勇太が突然立ち上がると、ベッドから降りる。
「あなた、どこへ?」
「ちょっと休憩だよ。水飲んでくる。それまでに回復しとけよ?」
 バスローブ一枚を羽織ると、そう言い残して部屋を出て行った。

507 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:46:54 ID:HBy1sFBW
 その同時刻。
 勇太達が住むマンションの屋上に、彼は居た。
 彼の名は1098。只の番号の羅列が、彼に与えられた名前。
 真っ黒い防刃スーツに鍛え上げられた身を包み、目には暗視ゴーグル、腰にはアーミーナイフとサイレンサーつきの拳銃を携えている。
一見、警察の特殊部隊にも見えるが、彼は警察の人間ではない。というよりも、人間ですらなく――。
『屋上、こちら875。これより突入準備に入る。オーバー』
 目出し帽の内側、耳につけたイヤホンに通信が入る。彼が居る屋上には他に2人のチームメンバーがいる。
 今回の任務はこのマンションの一室から、一人の女を攫うこと。
 その女も、彼らと同類であるが同じ部屋に障害となり得る人物も複数居るので、注意が必要。
 865は今回のリーダーで、彼はマンションの廊下から突入するはずである。オートロックのドアでも、恐らく魔術と薬物を併用した改造を受けた875なら破るのは訳のないことだ。
 炎熱系の魔術を使いドアノブ部分を焼き切るのが、この場合もっとも静かで迅速なはずだ。
 『四桁』の1098には、まだ出来ない芸当である。 
 転落防止用の柵に、ロープを通して腰のベルトに金具で固定する。数回強く引っ張って、柵が降下に耐える強度であることを確認すると、それを乗り越えて降下体勢に入る。
 縁に足をかけ、階下に背を向けてロープ一本に体重を預ける姿は、よくテレビで見るレスキュー隊員のそれだ。すぐ左を見ると、彼と同じように屋上から身を乗り出したメンバーが居る。
 その姿は、彼と全く相似形であると言ってもいい。1098よりはいくらか小柄なだけだ。
 あとは突入の合図を待つだけである。合図と同時に四階分を一気に降下、八階のベランダに着地し、寝室に通じる窓を破る。
 この時にはもう玄関のチームは寝室に突入しているので、音に気を使う必要はない。玄関のドアを静かに処理するのは、あくまでもギリギリまでターゲットに気付かれないためであり、騒ぎになるのを避けるためではないのだ。
 そこまで頭の中で確認をして、右側を見た。
 そこには、彼の左側と同じように屋上に割り当てられたメンバーが、彼自身と同じように身を乗り出して合図に備えている。
 ――はずだった。

508 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:48:25 ID:HBy1sFBW
 誰も居ない。
 反射的に左側へもう一度目をやる。
 先ほどまであった姿が、消えていた。
 1098は背骨が氷になった感覚を味わいながら、無線を875に繋ぐ。
「こちら屋上、異常発生!!隊員二人が消失した!」
 しかし、さっきまでリーダーの声を伝えていたイヤホンからは、
『ッ―――――――』
と無機質な信号音が聞こえるばかりだ。
 柵の向こう側。さっきまで立っていた屋上の気配を素早く探る。反射的に腰のナイフに手をやった。
 拳銃よりもナイフの方が彼にとっては扱いやすいものだった。
 屋上には、貯水タンクと空調のダクト、あとはいくらかの配管があるだけだ。隠れられる場所はない。隠れても人ではない彼には、すぐに気配で――
「こっちだよ」
 背後から声がした。
 反射的に降下体勢のまま身を捩ると、脇腹に熱が弾けた。
 痛みの比喩ではない。深々と突き刺さった手刀それ自体が、白く発光している。
「ぐぶっ!!がああぁぁぁっ!!」
 1098は悲鳴を上げた。脇腹から肉の焦げる匂いが、煙に乗って漂ってくる。
 男は何もない空中に『立っている』。それが何ごとでもないように。
 高台のマンションの屋上を吹き抜ける強風に対して、バスローブ一枚のあまりに無防備な姿。
 長い髪は、今は纏められておらず、好き勝手になびいていた。
 ――そして、その鳶色の目。
 その奥に宿る虚ろな闇に、1098は全てを悟った。
 自分が作戦内容を脳裏で反芻していた僅かな時間に、この男は自分以外の全てを易々と屠り去ったのだ、と。
 ――自分とは全く次元の違う存在が、そこには居た。
「ばっ・・・化け物っ・・・!!」
「いいや、勇太で構わないよ」
 薄ら笑いの顔でかけられた台詞は、脇腹に突き立てた手刀も含めて勇太が最近DVDで見た映画からのパロディだったが、それはもう1098には何の関係もないことだった。
 1098の腰に下げた拳銃から、パンパンと爆竹のような破裂音がする。熱により、薬莢内の火薬が爆発したのだ。
 しかし、その音は既に張られた遮断結界によって、勇太を中心とした半径三メートルの外に出ることはない。
 悲鳴を上げようが、マシンガンを撃ちまくろうが、空間の外は無音が保障されている。
「くあああぁぁぁぁぁっ!!・・・がぼっ、ぶごっ」
 悲鳴を沸騰した血の泡に代え、口と鼻から噴出しても、勇太は顔色一つ変えない。ロープが焼ききれ、支えを失った体を突き立てた右手だけで持ち上げている。

509 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/11(土) 21:50:18 ID:HBy1sFBW
 やがて、彼らのリーダーが使う炎熱系魔術とは比べ物にならないほどの超高熱で、全身を炭にされた1098『だったもの』は、そのまま屋上のコンクリートの床に、無造作に投げ捨てられた。
 粉々になった一部は屋上のコンクリートに散らばり、別の部分は風に乗って高台の下の町へと飛んでいく。コンクリートの床に降りた勇太は、
「あーあ、洗濯物入れ忘れてるトコは大変だな」
 と、苦笑してバスローブのポケットから左手で煙草を取り出し、片手で器用に咥えた。右手の人差し指で先端を押さえてやると、『余熱』で火が着く。
 それを吸いながら思うのは、ほんの数分の間に奪った6つの命ではなく、先ほどの台詞が登場する映画の内容だった。
 あの映画は中々面白かった。何しろ、大量の同じ顔の男が一人に寄ってたかって襲い掛かるのだ。
 しかも、吹き飛ばされても殴られても、顔のサングラスが外れない。レンズが割れても、棒で殴られても、建物の二階まで投げ飛ばされても外れない。
 そんなに強いサングラスなら、一斉に敵に投げつけたら良さそうだと思い、想像したらまた笑えた。
 もっとも、大笑いしていたら一緒に見ていた絵麻に怒られたのが、未だに良く解らないのだが。 
 煙草を吸って煙を吐き出すと、今度はバスローブのポケットから携帯電話を取り出す。24時間繋がるホットラインを通じて、『後片付け』を『機関』に依頼するためだ。
 夜中に迷惑だろうとは感じるが、勇太も出来るだけ後片付けが簡単なように、全部炭にしてやったのだ。もっとも、ぶち撒いても『掃除係』の手際なら、朝には綺麗になっているだろうが。
 いつもの手順で電話を済ませ、煙草をもう一口吸う。
 部屋で吸うと同居人が五月蝿いので、今ではベランダか屋上に忍び込んで吸うようにしている。
 娘に邪魔にされている父親のようで情けなくはあるが、どこか人間染みている自分がおかしいのも事実だ。
 煙草を一本吸い終えると、大きく背伸びをして、
「さて、週末だし、夜通し可愛がってあげますかね・・・」
 と吸殻を足元の未だに絶叫した面影を残す灰の塊の眼窩を狙って放った。それが狙いを外れてすぐ横の床に着いたときには、もう屋上には誰も居らず、時折吹く風がサラサラと灰を鳴らすだけだった。
 ――苦痛に大きく開かれた口には、人のものではない大きな犬歯が僅かに燃え残っていた。

553 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:30:23 ID:PQWtLl3a
 よく晴れた気持ちのよい、まさに清清しいという言葉が良く似合う朝、勇太は大きく背伸びをして、その時間を享受していた。
 吸血鬼が朝を気持ちよく思うというのは、なんともちぐはぐな気がするだろうが、吸血鬼が日光を苦手とするのは、彼に言わせれば『まがいもののルール』なのである。
 ベッドには勇太の他にはテオが寝ているだけだ。エマは朝食の用意、紫苑は他の家事だろう。そっと、朝日を反射する銀色の髪を撫でてやる。
「んぅ・・・」
 喉の奥から吐息を漏らして、僅かに寝返りを打った。勇太はいつものバスローブを羽織ると、シーツをテオの肩にかけてやり、部屋を出た。
 朝食のいい匂いを辿りながらキッチンに向かっていると、洗濯機の前で紫苑が不機嫌そうな顔で眉をしかめていた。
「どうした?」
「あ、あなた、起きたのね。いえ、洗濯物がね?」
「洗濯物が?」
「実は昨夜ベランダから取り込むのを忘れていたんだけど、なんだか黒っぽい灰みたいなのが――って、あれ?あなた?」
「あー、あー。きーこーえーなーいー」
「??」
 最後まで聞かず、耳を塞ぎながら勇太はその場を後にした。
 大丈夫。洗濯機は最近買い換えた新型だ。どんな汚れも、なんちゃらイオンでみるみる落としてくれるらしいし、きっと大丈夫だ。
 そう自分に言い聞かせて、彼はキッチンのドアを開ける。エプロン姿のエマがコンロの前で味噌汁の味見をしていた。
「あ、おっはよー!!勇太」
「随分元気がいいな。肌もツヤツヤじゃないか?」
「だって・・・ねぇ?」
 お玉を片手に、照れたように可愛らしく体を捩る。その頭を撫でながら、勇太は言う。
「ま、サキュバスだしな」
「うん、サキュバスだし」
「それはそうと、今日の朝飯は?」
「今日はなめこのお味噌汁と、あと納豆に玉子焼きにアジの開き」
「パーフェクトだ、エマ」
「えへへ〜。感謝の極みぃ〜」
 のどかな会話が交わされる、休日の朝の光景だった。

554 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:32:07 ID:PQWtLl3a
 ――記憶。
 赤。白。黒。青。
 注射針。メス。錠剤。点滴。
 消毒液の臭い。麻酔の臭い。血の臭い。
 ――夢を、見る。
 まだ、子供だった頃。家族が幸せだった頃の、夢。
 食卓には父と母、弟が座っている。
 自分より3つ下のまだ幼い弟は、スプーンからシチューを零してクロスに落としてしまう。父親が半分は笑いながら、それを叱る。母親は、ただ微笑んでいるだけ。中年の召使いだけが、洗濯の手間を考えて少しだけ苦い笑顔でそれを見ている。
 とはいえ、笑い声は絶えず、裕福だったあの頃。
 ――また、記憶。
 一面の赤。赤。赤。赤赤赤赤あかあかアカアカアカアカアカ・・・・。
 視界が赤に埋め尽くされて、そして気がつくと、あの人が見ている。
 捨てられた子犬を拾うような哀れみと同情と、そしてその他の自分には解らない『何か』で出来た顔で。
「来るか?」
 『彼』が言って、手を出す。
 『彼女』は黙って頷き、その手を取った。

 テオはとても時間をかけて、目を開けるというだけの動作をした。。
 それから大きく首を振りながら身を起こす。頭の奥に溜まっていた嫌な熱の塊が、朝の空気で一呼吸すると、一気に抜けて行った。
 あくびもしていないのに目尻に浮かぶ涙を、乱暴に手で拭う。
「・・・はぁ」
 まだ、夢に見るのか。そう溜息をつき、ベッドから降りる。クローゼットを漁って勇太のものより一回り小さいバスローブを取り出すと、紫苑が姿を見せた。
「テオ?朝ごはんよ・・・あら、起きてたのね?」
「ん、すぐ行くわ」
 腰の紐を結びながら軽く返事をした。紫苑は無言でこちらを見て立っている。
「どしたん、紫苑。行かへんの―――!」
  突然、顔を挟まれ、子供の熱を測るときのように、額同士を付き合わされる。
「なっ・・・」
「・・・いいのよ?別に」
「な、何がやねんな・・・」
「・・・辛いときは泣きなさい。私たちと違って、あなたは――」
「それは言うなや!」
 きつい調子の声を放つと、すぐに紫苑を振り払うように顔を離す。
「別に・・・平気や。・・・勇太のせいで、平気になったからな」
 皮肉っぽい笑顔で、テオは言う。『せい』というのは、いまいち素直になれない彼女特有の言い回しで、『お陰』と同義語であることを紫苑は承知していた。
 だから、この話はもうやめることにする。
 紫苑は一言、
「顔、洗ってから来なさいね」
 とだけ言い残して、その場を去っていった。
 テオは少しだけ苦笑いして、洗面台へと歩き始めた。

555 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:33:11 ID:PQWtLl3a
第一章 吸血鬼・ヴァンパイア
 1−1 その概要
 
 吸血鬼の、世間一般に知られるそのイメージは概ね以下のようなものである。
・人間の血を吸う。特に処女・童貞のそれを好む。
・蝙蝠を使い魔として使役する
・体を霧のように変える。
・鏡に映らない。
・日光にさらされると、灰になる。
・そのため、日中は棺で眠る。
・ニンニク、十字架、聖水、銀が苦手。
・殺すには心臓に白木の杭を打ち込まなければならない。
・流れる水を渡ることができない(橋を渡る場合を除く)・・・等
 しかし、こと『真祖』と呼ばれる純血の吸血鬼において、これら全てを当てはめることはできない。
 現在、真祖と呼ばれる吸血鬼は全世界で7個体が確認されているのみである。
 1個体当たりの寿命が長く繁殖の必要性が小さいためと、捕食者は常に被捕食者に対して十分に少ない必要があるという食物連鎖の法則にしたがって、吸血鬼という種が始まって以来、この個体数はそれほど変わっていないと推測される。
 そもそも、夜行性の動物を日光にさらしても死ぬことはない。その点だけを考えても、これほどの弱点を持った生物が進化の過程上生き残ることは難しいはずである。
 しかし、これらのイメージどおりの吸血鬼が存在するのも、また事実である。
 それらは真祖ではなく、人間を魔術変異と外科・薬学的処置を施して作り上げられた『後天性吸血鬼』である。『人造吸血鬼』と言い換えてもよい。
 本章では、真祖(以下比較のため『先天性吸血鬼』と呼ぶ)、および後天性吸血鬼を比較し、その生態を記述して――。
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 ドアが開く気配に、爾はそれまで読んでいた本を閉じると、大急ぎで立ち上がった。それは訓練生時代に使っていたテキストだったが、今でも持ち歩くようにしているものだ。
「あぁ、いい、いい。そんな堅苦しいのは抜きだ。待たせたかね?」
「いえ、教官。今来たところであります」
「だから、もう教官ではないと言うに・・・」
 苦笑いしながら入ってきたのは、初老の男だった。爾と同じような安物のスーツに身を包み、頭に生える白髪は短く刈り込まれて、年齢相応の皺がよった顔を更に皺くちゃにした笑顔を向けている。
 全体的に好々爺とした雰囲気なのだが、爾は背筋を伸ばして気を付けの姿勢を崩さない。
 それは訓練生時代に体に染み付いた習性だった。
 美濃山孝治(みのやま たかはる)は、手に持っていた何冊かのテキストをデスクの上に置き、それから部屋の隅に設えられた簡素な流し台に向かう。
「鴇沢君は、緑茶でいいかね?インスタントだが、コーヒーもあるぞ?」
「あ、いえ。それなら私が・・・」
「いいから、いいから。座って待っていなさい」
 来客用のソファの横で立ったまま慌てている爾を、美濃山は手で制した。爾はなす術もなく、大人しくソファに腰掛けるしかない。


556 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:35:35 ID:PQWtLl3a
 やがて、盆に二つの湯飲みを乗せて美濃山は爾の向かいに座る。
「恐れ入ります」
「なぁに、粗茶ですが・・・最近は人が足りんでな。専門以外の講義もせにゃならん。いつまでたっても引退できんよ」
 溜息混じりに愚痴る元教官を前に、爾は苦笑いをするしかなかった。
 ここは爾達の『機関』が所有している建物のうちの一つである。傍目には鉄筋コンクリートの建物で、グラウンドもあり、学校のような佇まいで、事実ここは『機関』で働く人員を育てるための『訓練所』として使われていた。
 山奥、という程ではないが付近に民家はもちろん建物すらなく、誰に気兼ねすることもなく、『訓練生』達はここで徹底的に扱かれるのである。
 別名『地獄版ホグ○―ツ』。
 そして、この美濃山孝治はその『訓練所』でも評判の『鬼教官』だった。
 というか、現在進行形でもそのはずなのだが、『訓練所』を卒業した人間はあくまでも対等に扱う主義らしくそのギャップに戸惑う『卒業生』も多い。
 何しろ爾の訓練時代には『吸血鬼は血を吸うが、美濃山教官は吸血鬼を喰らう』という噂がまことしやかに囁かれていたのだ。
 もちろん、根も歯もない噂話ではあるが、特殊戦術魔導師としての経歴がその裏にはあった。
 特殊戦術魔導師とは、『機関』が誇る戦闘集団であり、人外種との戦闘が必要と認められた場合のみに動く特殊部隊である。魔導師としての資質はもちろん、基礎体力も軍隊並みに鍛え上げられた、まさに対人外種戦闘のプロと言えた。
 その中で美濃山は隊長を務めたこともある、『伝説の男』なのだ。
 とはいえ、今二人が居るのはごく普通の事務室であり、確かに一人で使うには少々広い気もするが、それだけの部屋である。デスクも只のスチールだし、応接セットも安物。
 爾の持っている湯飲みには茶渋がこびりついているといった有様だ。部屋の隅にある萎れかけの観葉植物が、何とも物悲しい。茶を手ずから淹れているように、秘書も居ない。
 『伝説の男』の執務室にしては、粗末にすぎると言わざるをえなかったが、これは本人の意向らしく、爾としては何となく複雑な思いだった。
「して・・・今日は?」
「あ、はい。実は今抱えている事件で、教か・・・先生にお知恵をお借りしたいのです」「別に先生でもないんだが・・・まぁいいか。するとなると、『平面図式魔術』のことかね?」
「ええ」
 爾は鞄から書類を取り出して、美濃山に差し出した。
 その書類には、常人なら三日は食事を満足に取れなくなるような惨殺死体の写真がクリップで添付されていたが、彼は眉一つ動かさずそれを読み出す。この辺りは流石に『伝説の男』といったところか。
 茶を啜りながら一通り書類を斜め読みしたところで、美濃山は顔を上げた。
「ふぅん・・・だが、これがどうかしたかね?まぁ、確かにこの殺し方は人間にはちょっと無理だろうが・・・」
 そう言うと、テーブルの上の写真を指で弾いてみせる。
 廃ビルの一室で、人間がバラバラになっていた。天井にまで飛び散った血痕が、その凄惨さと犯行現場がそこであることを物語る。
 警察の調べによると、死体の接合面には刃物の跡はなく、爆弾を抱えて自爆したような状態だが、部屋や死体から煤などの痕跡は一切出ていない。
 そもそも、廃ビルとは言っても繁華街の中で、取り壊しも間もなくのところだったのだ。爆発が起きれば目撃者もありそうなものだが、それもない。
 言うなれば、屋内で何か大きな力と正面衝突したような有様なのだ。
 殺害方法がわからず、『機関』にお鉢が回ってきたのだが、更に頭の痛いことには同じ状況での殺人があと二件、二週間の間に立て続けに起きている。
 場所こそ違えど、中身は同じ。
 一箇所は何もない空き地の上で。もう一人は海辺の貸し倉庫の中で。
 しかし、殺害方法に関して言えば、爾達はそれほど頭を悩ませる必要はない。この程度は、人外種が軽く撫でた程度だろう。人狼種ほどの腕力があれば、十分に人間一人をバラ撒くのは可能だ。
 問題なのは――
「問題は、動機なのです」

557 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:37:29 ID:PQWtLl3a
そう。
 なぜ、三人も?何のために、こんな目立つ殺し方を?
 なんにせよ、人間を襲う人外種がいるのは問題である。
 美濃山にも爾にも、そうしたことをする心当たりは一つだけあった。
「まぁ、なぁ。十中八九、『連中』が何か企んでるんだろうが・・・」
「真祖の一人に話を聞いてきたのですが、彼が言うには、コレは『儀式』だと」
「儀式?なんだ、生贄ということか?」
 普通なら不謹慎な冗談だろうが、この場でそれを言う者は居ない。
 それは魔術が跳梁し呪いが跋扈するこの世界では、むしろ当然の発想である。
「ええ、しかも、これでは終わらないと・・・」
そう言って、爾は今度は地図を取り出した。
テーブルの上に広げると、死体の発見された場所に赤い印が着いている。
「ん?・・・・・これは・・・いや、まさか」
 一目見るなり、美濃山はその三つの印の意味を悟り、驚愕の表情で身を乗り出す。
「その、まさかだそうです」
 爾は背広の胸ポケットから青のボールペンを取り出し、新たに三つ、印を書き込み、さらにそれぞれを線で繋いで見せた。
 ――六芒星の六つの頂点を、半分に分けるように赤と青の印がついていた。
 その大きさは、一つの町をすっぽり包むほどだ。六芒星を内接する円の直径だけでも20キロはある。
だが・・・。
「有り得ない」
 美濃山が呟く。爾も頷く。
「はい、だから、先生にお話を伺いたいのです。これほどの魔方陣を敷くには、どれほどの魔力が必要なのか、その効果はどれほどのものか。『平面図式魔術』の権威である先生に」
 ――『平面図式魔術』とは、その名の通り二次元状の平面に描かれた図案を媒介として用いる魔術である。
 一般に知られる魔法陣のほかに、アクセサリーに図案を彫刻したものに魔力を込めて一種の護符としての効果を持たせたり、時には図案を術者自身や対象に直接刺青として彫り込む場合もある。
 神社の札なども、このカテゴリに入るだろう。
 その代表的と言われる研究者でもある美濃山は、落ち着かない表情で白髪頭を掻いた。
「どれほどと言われても・・・見当もつかんよ。
普通、魔方陣ってのは、その規模が大きくなるほど、術の発動時間も費やす魔力も大きくなるが・・・こんなもの、真祖の連中が全ての魔力を使っても発動できるかどうか・・・。
そうだ、その君の担当の真祖はなんて言っとるんだね?」
「『ヒントはやった。あとは勝手にどうぞ』と・・・」
「困ったもんだなぁ。彼の気まぐれにも・・・」
 乗り出していた体をソファに沈めて、美濃山は溜息をついた。爾も眉をひそめて
「まったくです」
 と答えるよりない。
 人間が体内の魔力を体外に持ち出すためには、何らかの媒介が必要である。
 その媒介が魔方陣や魔導杖(いわゆる魔法の杖)であったりするのだが、それも術者それぞれの力量にあったものでないと術の発動は愚か、下手を打てば術の効果が術者自身に逆流する『呪詛返し』に遭う危険すら持つ。
 直径20キロの魔方陣を無理矢理術に使うとしても、陣の隅々にまで魔力を行き渡らせることが出来なければ失敗は明らかだ。そのような膨大な魔力はとても調達できるとは思えないし、仮に調達したとしても魔方陣の形態だけではその用途すら推し量ることは出来ない。
「とにかく、これ以上の被害者が出ないようにと手は打っています。特に青印の場所は警戒を強めていますが・・・」
「ふむ・・・『連中』、今度は何を企んでいるものやら・・・」
  美濃山はそう言うと、ぼんやりと窓の外を見た。
 遠い目でしたままで唐突に爾に尋ねる。
「あの、彼女は元気だったかね?」
「は・・・?」
「ほら、真祖のところにいる・・・」
「テオさん、ですね」
「あぁ、そういう名前だったかな。どうも物忘れが激しくていかんよ」
 首を振りながら渋い顔を作って見せる。爾は目を伏せて、テーブルの上の地図、勇太たちが住むマンションの辺りを見て、言った。
「相変わらず、ですよ。皆さんお元気そうで」
「そうか・・・困ったもんだなぁ、本当に」
 今度はそれほど困っていないような穏やかな口調で、美濃山は言いながら、既に冷めた茶を啜る。

558 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:38:41 ID:PQWtLl3a
 と、そのとき、ドアがノックされた。
 瞬間、美濃山の背筋がぴぃん、と伸びる。
「入れ!!」
 ドアの向こうに話しかけるにしても、明らかに不必要な大きな声で怒鳴ると、扉が非常に機敏な動作で開けられた。
 入ってきたのは訓練生の制服を着た青年だった。こちらも、不必要な大声を張り上げて、気を付けの姿勢で最敬礼をする。
「失礼します!!」
「用件は!!」
「イエッサー!!講義に関する、個人的な質問であります!!サー!!」
「学ぼうとする心構えは感心だが、今は来客中だ!!グラウンド20周してからまた来い!!」
「サー!イエッサー!!失礼します!!」
 訓練生は矢継ぎ早の会話を終えて理不尽な命令を受け取ると、あっという間に去っていった。
 ドアが閉まると、美濃山は再び相好を崩して、肩をすくめて見せる。
「まったく、壁に『来客中』の札が掛かってると言うのにな。彼はもうちょっと注意力が必要だな」
「・・・先生も、お変わりないようで少し安心しました」
「なあに、年寄りの冷や水という奴だよ。君も昔を思い出したんじゃないかね?ハハハハ」
「ハ、ハハ・・・」
 屈託なく笑う美濃山と対照的に、引きつった笑いを浮かべて、爾は誓った。
 ――訓練生時代のことは、口が裂けても勇太達には言うまい。
 特に、あのおかしなテンションの中に身を置いていたことは、絶対に、と。
 ――あの4人は休日をどう過ごしているのだろうか。
 爾は少しだけ思ったが、すぐに美濃山との会話に夢中になっていった。


「――ん、じゃぁそういうことで、頼んだよー。バイバーイ」
「ゆうたぁー。こないだの映画の続編借りてきたけど・・・あ、ゴメン」
 エマがリビングからベランダに顔を覗かせたが、勇太が携帯を耳に当てていたのに気付き慌てて引っ込む。しかし、勇太は
「おう、丁度終わったからいいよ。早く見よう」
 と返事をし、急かすようにエマをテレビの前に追い立てた。
「いいけど、こないだみたいに馬鹿笑いはやめてよね」
「あ、ボクも見るー」
「私も見てみようかしらね」
「じゃぁ、みんなで見よ?」
 とんとん拍子に話はまとまり、リビングで鑑賞会となった。

559 :ドラキュラ=ハーレム(仮) ◆mswnQv7VS6 :2006/11/15(水) 00:40:02 ID:PQWtLl3a
「・・・あの昼行灯が!!」
 彼女は苛立たしげに、電話の子機を壁に投げつけた。それは粉々に砕け、無残に床に散らばる。それを主人の手に持ってきた執事のフリッツは、ただオロオロするばかりだ。
「こっちは忙しいってのに・・・30年ぶりに連絡して来たと思ったら無茶ばっかり・・・ったく!!」
 彼の主人がこれほど機嫌を悪くしているのを、フリッツはこれまで見たことがなかった。
 夜の九時という普通なら控えるような時間に男の声で掛かってきた国際電話は、見る見る内に主人の美しい顔を険しくし、そして傍目から見ても解るほど一方的に切れたのである。
 主人にこれほど無礼な真似をする者を、電話越しとはいえフリッツは初めて見た。
「あぁもう、ムシャクシャする!!お酒よ!ワイン持ってきなさい!!」
「はっ・・・銘柄の方は・・・」
「安酒で十分よ!!あんな奴のこと考えて飲むのなんか!!さっさとなさい!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴りつられる。『あんな奴』がどんな奴か彼は全く知らないため、これは全く理不尽な言葉だったが、とにかくワインセラーへ向かおうと足を進めた。
 だが、唐突に彼の主人は何かを思い出したように
「あ、待ちなさい、フリッツ」
 と、この日初めて彼の名前を呼んだ。
「は、はい」
 知らず知らずの内に、その返事には僅かな期待が篭っている。 
 それまで毛皮の豪奢なソファに座っていた彼女は立ち上がると、殆ど身を摺り寄せるような距離に近づいてきた。その身体から、熟れた果実のような濃密な香りが立ち上り、フリッツの鼻腔を媚薬のようにくすぐる。
 先ほどまでの不機嫌な空気は完全に消え、その瞳は艶っぽく潤んでいた。
「気分が変わったわ。寝酒に付き合いなさい・・・バローロがあったわね?」
「は、はい・・・」
「酒肴にはクラッカーにスカルモッツァ・チーズとキャビアを添えて持ってきなさい・・・。あと――」
 そこで、彼女は耳元に口を寄せた。ぐっと香りが濃密になると同時に、吐息が耳からも侵入して、脳を直接犯されたような気分になる。
「シャワーを、浴びてきなさい。コロンも忘れずに・・・獣の臭いは嫌いじゃないけど、ね?」
 そう囁きながら、彼の主人は繊細な硝子細工のような指で、彼のズボンの股間をなぞる。
 自分でも知らないうちに、そこはズボンの中で最大限に勃起していた。指で撫でられた刺激だけで達してしまいそうになり、彼は思わず呻き声を漏らす。
「う・・・っく」
 それを愉快そうな流し目で見ると、彼女は身を引いた。それまで感じられた体温が、彼を焦らすように消えていく。
「早くなさい。また、私の気が変わるかも知れないわよ?」
 そう言い残して今度はキングサイズのベッドに横たわる主人を見ると、彼は大慌てで寝室を飛び出した。


 ――二時間後。場所は14時間の時差を隔てた勇太達の部屋に戻る。
 女性陣は納得の行かない顔で、DVDプレイヤーの停止ボタンを押した。
「ふぅん・・・なーんか消化不良やなぁ・・・」
「うーん。まぁ、ねぇ」
「何の説明もなく、宙に浮くのはどうかと思うわねぇ」
 紫苑の言葉に、テオが悪戯っぽく勇太の方を見た。
「まぁ、その点では勇太も人のこと言えへん――って、おーい。なに落ち込んでんねん」
勇太はガックリとうな垂れて、何かブツブツと呟いている。
「・・・んが」
「え?どうしたの?あなた」
  聞き取れず、具合でも悪いのか心配してと紫苑が尋ねる。
 しかし、勇太の答えは――
「・・・・グラサンが、外れた」
「・・・・ほぇ?」
 エマが間の抜けた声を出すが、勇太はお構いなしに呟き続ける。
「信じてたのに・・・グラサン・・・お前は最後まで顔に残ってるって・・・信じて・・・」
「「「???」」」
 どうやら勇太は、三人とは全くかけ離れた視点でこの映画を鑑賞していたらしい。
 やがてリビングに一人取り残されても、勇太の『グラサン・・・』という呟きは途絶えることはなかった。


660 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:40:52 ID:kmc62/n8
 宇宙の成り立ち――
 諸説ある中でも、現在では『ビッグバン理論』が有力と言われている。
 『無』の『揺らぎ』から起きた大爆発により、この宇宙は生まれたという説だ。
 だが、何人も決定的なことは言えない。それを見てきた者など、居ないのだから。
 学者に出来るのは、宇宙誕生の1秒後を予測し、その10分の1を予測し、さらにその10分の1を予測していく・・・という『予測』の積み重ねでしかない。
 だから、彼らは知ることが出来ない。
 宇宙が始まった瞬間に、『時』や『光子』や『クオーク』や『熱』といった、現在の科学の土台となるものの他に、生まれたものがあることを。
 『それ』は情報と思考の塊。
何者にも影響を及ぼすことはなく、何者からも干渉されない、唯一の存在。
 恐ろしく永い時を、ただ孤独に過ごし、この宇宙を見続ける『傍観者』。
やがて、『それ』はある恒星系のうち、一つの惑星へと引かれていった。
 理由は現在でも不明である。
『それ』には、その青と緑に覆われた色彩を『美しい』と感じるような『情緒』や『嗜好』というものはなかった。
 純粋に情報と思考のみの存在である『それ』に、感情などという不合理なものは備わっていなかったのである。
 その惑星に引かれた理由を、あえて言うならば、『波長が合った』というだけのことだろう。
 その惑星で『それ』がある『生き物』と出会ったのも、結局は『波長が合った』という理由でしかないのだから。
                   ※
「まったく・・・悪いことは言わないから、解いた方がいいわよ?」
 紫苑は、この部屋の唯一のドアの前で、自分を見張っている男に向けて言い放った。
彼女は今、服の上から、ロープではなくワイヤーで縛られている。その間からセーター越しでもはみ出すように自己主張している胸に、いやらしい視線を送りながら男は答えた。
「これも仕事なんでねぇ、お嬢ちゃん?」
「はぁ・・・」
 男の台詞に、紫苑は退屈そうな溜息をつく。
 無論、紫苑とて黙って縛られるわけもない。
 テオが人質に取られているのだ。こことは別の部屋にいるらしい。
 二人で街まで買い物に出かけた最中、突然襲われてしまったのだ。
 それから1時間の間、彼女はこの部屋に閉じ込められている。
 簡素な蛍光灯や周囲のスチールの棚を見る限り、元は備品の倉庫か何かだったようだ。
 打ちっ放しのコンクリートの壁の、剥き出しになった配管の一つに、ワイヤーは繋げられていた。
 紫苑は人間ではなかったが、実のところごく見た目どおりの体力しかないため、ワイヤーを『引きちぎっての』脱出は不可能である。
 仕方がないので、質問を続けることにした。
「テオは?無事なの?」
「今のところはな。まぁ、あの女『は』五体満足に引き渡せっていうお達しだし」
 そういうと、下卑た笑い声を上げて男はまた紫苑の胸を見た。
 つまり、テオがしかるべきところに引き渡されたなら、こいつらは紫苑を犯した上で、売り飛ばすなり、殺すなりするつもりなのだろう。
標的ではない紫苑をついでに攫ったのも、その卑しい下心でしかあるまい。
そしてそれとは別に、この男たちは肝心な部分は知らされないまま、二人を襲ったことも推測できる。
 紫苑をワイヤーで縛った程度で拘束した気になっているのも、その根拠だ。
もし、連中が紫苑の正体を知らされていたら、こんな杜撰な真似はしないだろう。
もっとも、彼女の正体を正確に把握している者など、この世に勇太しか居ないのだが。
 ――面倒なことだ、と思う。
だが、最後に紫苑はもう一度尋ねた。
「・・・ねぇ?やっぱり逃がす気はない?」
「そりゃ、あんた次第だなぁ?お嬢ちゃん」
 男は馴れ馴れしく近づくと、紫苑に顔を寄せ、嫌な臭いのする息を浴びせた。節くれだった指が、無遠慮に紫苑の胸を突付く。
「あんたが、ここで俺にご奉仕してくれるんだったら、考えてもいいぜ?」
 何がご奉仕だ。どうせ『奉仕』という漢字も書けない馬鹿の癖に。
 紫苑は心底、しかしどこか的のずれた軽蔑を心の中で浴びせると、相手の目を真っ直ぐに見た。
化粧こそ最低限だが、長い睫毛が縁取る切れ長の瞳は濡れたように美しかった。
 何を勘違いしたのか、男はだらしのない、期待の篭った目で紫苑を見る。
 その半笑いの目を見ながら、彼女は一切の感情をオフにして、言った。
「・・・・もういい。ゴミが」
「へ?」
 紫苑の瞳が怪しく光ると、男の指先から柔らかな感触が消えた。
そしてその直後には、彼の目の前に莫大な光が満ちて――。

661 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:41:52 ID:kmc62/n8
 テオは後ろ手に縛られた状態で、目の前に居る三人の男たちを見ている。
 それは、睨めつけるとか、涙目でとか、感情のこもった行為ではなく、ただ漠然と眺めているだけのことだ。
 用具室のようなゴチャゴチャと、物ばかりが多い部屋である。テオはその部屋の一番奥、冷たい床の上に直接座らされていた。
 男たちは出入り口であるドアの前でパイプ椅子に腰掛け、テオを見張っている。
 三人ともかなり鍛え込まれた体をしている。特にリーダー格らしい男は、他に比べても上背が一回りほど大きかった。
 できる質問は一通り終えた。それらに、彼らは一貫してまともに答える気はないようだ。
 ぼんやりと眺めながら思うのは、紫苑のことだ。
 はぐらかしているつもりだろうが、彼らの依頼主も、自分が攫われた理由も見当が付いていた。 
 そして、それはテオ自身の問題である。だから、紫苑を巻き込んだことが酷く悔やまれた。
 紫苑の身体の心配ではない。彼女なら別に縛られようが牢に入れられようが、問題はないだろう。
 ただ、巻き込んでしまったという事実そのものが、テオに重く圧し掛かっていた。
 と、そのとき、
「た、大変だ!!」
と、ドアがけたたましく開き、一人の男が転がり込んできた。
「お、女がっ!もう一人のがぁっ!!」
「なんだ!?まさか、逃げたのか!?」
 椅子から腰を浮かせて一人が言う。
 その言葉に、男の首が外れんばかりに縦に振られると、
「馬鹿野郎!!!」
とリーダー格らしき男がそのまま殴りつけた。そのまま男は派手に吹っ飛んで、部屋の隅に立てかけてあるモップやバケツをひっくり返す。
 コントそのままの光景に、テオは思わず吹き出してしまった。
「あ?何がおかしいんだ?てめぇ?」
 その声を聞きつけて、別の一人がテオに詰め寄った。
「舐めてんじゃねぇぞ、コラァ!!」
 右手が振り上げられ、その頬に平手を喰らわせようとする。
 だが、その手は振り下ろされる寸前にリーダー格が掴むことで、制止された。
「そんなことをやっている時間はない。とにかく、女を探すんだ。急げ・・・!!」
 低い威圧するような声でそう命じられると、彼はあからさまな舌打ちをしてテオを睨みつけ、それから部屋を出て行った。
 他の者もリーダーに追い立てられ、逃亡者を探すために部屋を出て行く。
 やがて、部屋にはテオとリーダー格の二人になった。部屋の隅では、さっき殴られた男がまだ伸びていたが、これは人数に加える必要はなかった。
 バケツやモップに隠れて一味には見えなかったが、その口からは泡が吹き出し、白目を剥いた目は人間の動きとは思えない、細かな振動を繰り返している。
 テオはその様子を見ながら言った。
「相変わらず、エグい真似するなぁ。使い捨てかいな、紫苑」
 リーダー格の男は、テオのワイヤーを近くにあった工具で注意深く切断しながら、野太い声で答える。
「だって、殴られるのは御免ですもの。痛いのは嫌いよ」
「その格好でその口調はやめぇや。気色悪い」
 ワイヤーが解けると、テオが溜息をついて赤く跡が残る手首を撫でた。
 細かな細工のブレスレットが、澄んだ音を立てた。
「まぁ、それはそれとして、私のネックレスと服、回収お願いね。出て右の突き当たりの部屋よ。露払いはしておくから」
 ペンチを放り投げてそう言うなり、リーダー格の男は白目を剥いて、その場に崩れ落ちた。テオは手首をさすりながら、失禁している男に眉をひそめ、
「はいはい・・っと」
と軽く返事をして、部屋を出た。

662 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:43:07 ID:kmc62/n8
          ※            ※           ※
「何か、居るのか?」
 彼は言った。『居る』という単語はこの場合、『誰か』に繋げられるのが自然である。
 それは、彼が常日頃から『何か』と言われる存在に慣れている故の言葉であろう。
「・・・居るんだな?」
 『居るのか』に比べて、断定する調子が強くなった。
 だが、彼以外にこの部屋には誰も居ない。
 『我』という存在が『在る』以外には。
「ふむ・・・敵ではなさそうだが・・・」
 その推察は正しい、と我は考える。
我はこの世のいかなる存在に対しても、『敵』にはなりえない。
 なぜなら、我は何者にも影響を及ぼさず、そして何もからも影響を受けることもないからだ。否、影響という前に、認識すらされることはない。
 常に我はこの世界と共にありながら『傍観者』である。
 その存在の仕方に、多少の疑問はあれども、我が疑問を抱いたところで何が変わるわけでもない。今までも、これからも。
 『時』すらも、我に何も残しては行かないのだから。
 彼は部屋の中を、困惑の表情で見回している。
 我以外には、この部屋には誰も居ない。
 そして、我は誰にも認識されない。
 ならば、彼の言葉は人間の言葉を借りれば『気のせい』に他ならない。
 煉瓦で出来た建物の一室だ。この形式の建物は『屋敷』と呼ばれている。
その『屋敷』の寝室に、我は在る。
 建物の豪勢な外見に反して、この部屋は比較的質素である。彫刻や絵画などの無用な調度品はなく、まとまって落ち着いていた。
 余りに落ち着いているので、建物の外見とバランスが取れていないほどだ。
 推測するに、恐らくこの部屋のような地味なものが、本来の彼の趣味なのだろう。
 我は、その部屋の天井の隅に漂っている。
 我にしてみれば、その場所は単に通りかかっただけのところだった。
 ただ素通りしようとしていたのだが、そこに先ほどの言葉を聞き、つい足を止めて(念の為に言えば足などない。只の比喩だ)しばらく様子を伺っている。
 彼はしばらく部屋の中を落ち着かない様子で歩いていたが、ふいに立ち止まる。
 それから、我が漂っている天井の一角を真っ直ぐな視線で見上げて、明確な発音で言った。

「そこに、いるのか」

 恐らく、悠久の時の中で、我が我以外に始めて認識された瞬間だった。


663 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:44:57 ID:kmc62/n8
 ――『認識される』ということは、『変質する』ことへ直結する。
 良きにせよ悪しきにせよ、何らかの影響を受けるということだからだ。
 彼と出会い、言葉を交わし、我は自らの中に、ある欲求が芽生えてきたことに気が付く。
 自発的な欲求など、今まで一切、持つことのなかった我が、である。
 ――初めて、『人の身体が欲しい』と言ったとき、彼は酷く驚いた。
 それは我が冗談や上辺の建前を言うような存在ではないことを、重々承知していたのだろう。
 また、その時期は彼が『ある事件』によって酷く塞ぎ込んでいたときのことだったから、なおさらだったかもしれない。
 彼はしばらくの思考と時間を費やして、金で出来たネックレスを作り上げた。
 その中には、魔力で『人間』という種の、生物としての情報を刻みつけてあるのだという。
 一見シンプルなもののようだが、実際には複雑で人間の肉眼では見えないような細かな模様がびっしりと刻んであり、その模様の全てから『力』が滲み出ているのが、我には認識できた。
 多少の訓練は必要だったが、我はそれからしばらくして、ネックレスを依り代に、初めてこの世界に『形』というものを得た。
 それは、我が『私』になった瞬間でもあった。
 肉体の動かし方も解らず、初めて感じる重力の強さに驚いてその場にへたり込む私の姿を初めて見て、彼は言った。
 その表情は、逆光で見えなかったが、確かに、

「・・・それは、嫌味か皮肉か?」

 ――と。
その台詞の直後には、彼は首を振って『悪かった』と謝り、素裸の私に上着をかけてくれたのだけれども。
 ネックレスには『人間』という種の最低限の情報しかなかった。だから性別や、ある程度の外見は私の判断に委ねられ、それは彼も承知の上ではあった。
だが、私の選択は彼の予想外の出来事だったようだ。
 ――彼が永遠に失ってしまった『彼女』の姿をベースに作り上げた肉体は、今になって思えば彼にとってとても残酷な姿だったのだろうし、失敗だったとも思う。
 当時の私は、他者の感情の機微などを察する能力にことごとく欠けていた。
 失えば補えばいい。単に、そう考えていた。
 悪意のあったことではない。ただ私がこの世に現れてから、初めて私を認識してくれた彼に、何かしてやりたかっただけなのだ。
 それから、しばらくして私が立ち方を覚え、歩き方を覚え、感情の表し方を覚えるにつれて、彼は次第に態度を軟化させていった。
 それは、子供の成長を見守る父親のような感情なのだろうか。私には推察する以外にないが、あの頃の彼は一線を越えないように、巧みに私から距離を取ろうとしていたはずだ。
 しかし、私にはそれがもどかしかった。
 何年かの月日が経ち、私は今とは大分違う口調で、初めて彼に嘘をついた。いや、嘘をつくこと自体、そのとき初めてだったのだけど。
「性行為に興味がある。今後、君と離れたときに困らぬよう、私を抱いてみてくれないか」
 それは、ほとんどが出鱈目だった。
 性行為に興味があるのは事実だったが、私はもう彼と離れるつもりはなかったし、彼に心の底から抱かれたいと思っていたから。
 そもそも、情報を寄せ集めて構成した肉体には繁殖の機能はないのだ。
 繁殖の必要も機能もないのに、なぜそんな欲求を抱くのか、そのときの私には酷く不思議で、不合理的なことのように思えた。
 だが、その不合理な欲求に、逆らうことも出来なかった。それを当時は疎ましくすら思っていたほどだ。
 はじめ彼は思った通り酷く難色を示したが、やがて、首を縦に振ってくれた。

664 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:45:53 ID:kmc62/n8
 服を脱いで仰向けに寝台に横たわると、彼はその上に覆いかぶさってきた。
 私の乳房が重力で変形する。少しだけ、恥ずかしい。
「きれいなものだ・・・」
 彼は呟くと、私の顎に手を当てて、口付けをした。
 瞬間。たったそれだけで、身体の奥で何かが切れた。
 彼にとっては何のことはない儀礼的な動作だったかもしれないが、それだけで私の中の何かが確実に変質してしまうのを感じた。
 彼の髪の毛に手を埋めて引寄せると、カチリとお互いの前歯が当たる。彼が少しだけ息を呑んだ気配がしたが、しかしそれも僅かなこと。
 ぶつかった私の前歯を癒すように、舌でくすぐってくる。私もそれに応じるように、彼の舌を迎え入れた。
 キスは長く続いた。それだけで、私の身体は普段の何倍も敏感になっているのが解る。乳首や性器に至っては、それ自体が心臓になってしまったように激しく疼いた。
 これが、肉体を持つということだろうか。ただただ、虚無の中を漂うだけの存在だった頃には、全く想像もつかないことだった。
 彼のたくましい体が目に入る。知識としてあるその器官は、大きく天を向いていきり立っていた。
私のこのまがい物の身体でも、これほど興奮してくれている。そう思うと、私の中でまた一つ、何かが変質していく。
「・・・どうする?」
 彼がシンプルに問う。私は少しだけ考えて、彼のペニスに手を添えた。
「私が、する。教えて、くれ」
「解った。まず、先のほうを舐めてくれるか?」
「・・・ん。ぺろ・・・」
 とても熱かった。私が感じた感覚は、殆どそれだけ。事前に湯浴みをしていたお陰で、何の味も臭いも無かった。
「ん・・・んむぅ・・・ぺろ・・・」
「よし、じゃぁ、次は咥えて見てくれ」
「解った・・・あむ」
 先端から、大きく口を開けて咥えてみる。嫌悪感はまったくなかった。時折、切なそうに彼が漏らす吐息が、私の行動の正しさを証明しているようで、単純に嬉しい。
 寝そべる彼の股間に顔を埋めて、私は彼の指示のままに行為を続けた。
「じゅる・・・ん・・・ぺちゃ・・・んぐ・・・」
 咥えた先端を、口の中で弄ぶ。舌を使い、頬の裏側に擦り合わせ、時には吸い込む。
さらに次の指示で、一旦口から出し、唾液でぬらぬらと光るペニスを乳房に挟み、捏ねるようにしてみる。
「はぁ・・こんなのが、いいのか?」
「あぁ、男は喜ぶぞ」
 男は――。
そうだ。これは性行為の『練習』という建前だった。それを言われるまで、私はすっかり行為に没頭してしまっていた。
 ――できれば、彼にも忘れていてほしかった。
 なぜそんなことを思うのか、その理由も解らないまま、私は行為を続ける。
 混乱はしていない。ただ、自分が変わっていくのを感じるだけだ。
やわやわと、もどかしい刺激が乳房を撫でる。熱を発する彼のペニスは、谷間からその顔を覗かせていた。それを舌を伸ばして舐めていると、彼は指先で私の乳首を軽く摘んだ。
「ふうぅっ!」
 それだけで、私の身体は敏感に反応してしまう。そのまま、彼は私の尻の方へ手を回して、私の性器に突然、指を挿入した。
 内壁を軽く引っかかれるようにされると、それだけで身体のどこかがショートしてしまうような感覚が走る。
「はぁっ、ふあぁぁっ、だ、だめ、だぁ・・・こ、こんなっ・・・!!」
悲鳴を上げる私に、彼は言う。
「どうした?してくれるんじゃないのか?」
「こ、こんな・・・無理・・・ひああぁぁっ!!」
 まったく・・・これは未だに、彼に皮肉を言うときの材料になっているが、彼は少々底意地の悪い性格をしているようだ。

665 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:47:46 ID:kmc62/n8
 しばらくして、彼は私の性器を弄るのをやめ、私を仰向けに寝かせると、脚の間に身体を割り込ませた。
「行くぞ・・・」
「あぁ・・・挿入するのか・・・」
「醒める言い方をするな」
「じゃぁ、どう言えばいいんだ?」
「これから自分で覚えていけ。でないと意味がない」
 彼はそう言うと、私がさっきまで舐めていたその先端を入り口に押し当てた。
 それだけでちゅくっ・・と水音が耳に入り、私は羞恥に顔が火照るのを感じる。
 自分のそこが、はしたなく濡れてしまっているのを改めて認識してしまう。
「行くぞ・・・」
 私が水音だけで平静を無くしてしまっている内に、彼が言う。
返事の出来ないまま、彼は私の中に侵入してきた。
「うあっ・・・あああああぁぁぁ・・・」
「やっぱり、キツいかな」
「大丈夫だ・・・だから・・・」
「解った・・・」
 私の静止に、彼は頷いて腰を進める。裂かれるような痛みに、私は歯を食いしばる。結合部分から血が伝ってシーツを汚すのが解る。
「うっ・・・くぅあ・・・」
「膜まで再現してるのか・・・律儀な・・・」
「その方・・・がっ、男は・・・嬉しいんだろう・・・?」
「だが、いちいち再生してたらキリがないだろ」
 その言葉に、私は目尻から流れる涙を隠さないまま、答えた。
「もう、しない・・・これは、残しておく」
「・・・・・そうか」
 彼は短く頷くと、一気に私の中に侵入させてきた。再び、みりみりと突き破る感覚と共に、痛みが走る。
「うああああぁぁぁぁっ!!あっ・・・へい、きだから・・・その、まま・・・」
「装うな。誰でも平気じゃなくなるんだ」
「ふううぅぅっ!!」
 その一言が、私の心を溶かしていく。それと同時にまた新しい感覚が私の中に満ちた。
暖かく、柔らかな、感情とも言いがたい、何か。
それが、胸の中から込み上げて、私を満たす。痛みが、その感覚に押しやられるように、引いていった。
 完全に私の膣が、ペニスを飲み込むと、彼は微笑んで私の額にキスをしてくれた。
彼のペニスの先端と、私の子宮口が触れ合っている。
身体の内の外でそれぞれキスをしているようだ。
「動くぞ」
「あぁ・・・来てくれ。私を・・・君のものにして欲しい」
 それの何がおかしかったのか、彼はクスリと笑うと腰を揺らし始める。
「んっ・・・ふああっ!あっ!はぁっ!」
 声が喉の奥を突いて勝手に出てくる。
 自分の声なのにそうでないような、はしたない声に、また、私の何かが変化していく。
 痛みが完全に消え、はっきりとした快感が、私を支配し始めていた。
「どうした・・?練習じゃないのか?」
「ふあぁぁ!!そ、んな、ことぉ・・・くああぁっ!!」
 自分でした質問なのに、肝心なことを言おうとすると彼は耳を食むことで新しい刺激を与え、続きを答えさせてくれない。
 本当に意地が悪いと思う。
「あっ、やぁっ!」
「耳が、いいのか!?」
「ぜ、ぜんぶぅ・・・・」
「え?」
「あなたが、触れているところは・・・ぜんぶ、いいのぉ・・・」
 その言葉に、彼は一瞬キョトンとした後で、満面の笑顔を見せた。
 多分、私が肉体を得てから、彼が心から笑うのを見たのは始めてだったかもしれない。
 失った女と同じ姿の女を抱くのは、どんな思いなのだろう。
 そればかりが不安だったが、その懸念はこの笑顔で消えてしまった。


666 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:48:39 ID:kmc62/n8
 そのまま、私は抱え上げられて、膝の上に向かい合わせの姿勢になる。重力でより深く奥を抉られて、私は思わず叫んだ。
 これが、肉の悦びというものだろうか。
 下腹部が焼けるように熱く、彼と溶け合ってしまったかのようだ。
「ひやああぁぁぁっ!!」
「・・・離れるな」
「・・・え?」
「俺から離れることは、もう考えるな。いいな?」
 それは、余りにぶっきらぼうで、今の彼からは想像もつかないプロポーズ。
 でもそんな彼を知っているのは私だけ。
それが、200年経っても私を蕩かせる。
 本当に、意地悪で・・・可愛い人。
「はい・・・よろしく・・・お願い・・・しま・・・す」
 その台詞は、やっぱりどこかが少しずれていて。
 彼はやっぱり苦笑いを浮かべる。
 彼の動きが激しくなっていくと、私の中でこれまで最大の変化が起ころうとしているのが解った。
 それは、『世界』が始まろうとする直前の、あの混沌とした揺らめきを感じさせる、何か大きな取り返しのつかない変化の予兆。
 けれども、もう私に恐れは無い。
「あっ、ああぁっ!はぁっ!ふああああっ!」
 左の乳首が口に含まれ、彼の舌で弄られている。たくましい腕が、私のお尻を掴んでこねくり回す。
「いやっ、はあぁぁっ!!なにか、来るっ!来ちゃうっ!!ひいぃぃっ!!」
「いいぞ。俺も・・・イきそうだ」
「はぁんっ!!ダメ、らめぇ!!イく・・?私、イくのぉ・・?」
「あぁ、そうだ。思いっきりイけっ!うあっ・・・くぅっ!!」
「あっ、あっ、はあっ、あんっ、あっ・・・ああああああああぁぁぁぁっ!!!」
 その瞬間。
 彼が、私の胎内に激しく射精をした瞬間。
 同時に、私の中で光が弾けた。
 あの、『世界』が始まったときの凄まじい光に匹敵する快感と幸福が、私の視界を真っ白に染め上げる。
 ――この日、『私』という存在は、真の意味で生まれた。
 彼と出会うための永い孤独も、この瞬間のためだったと、今なら言える。
 『愛』という感情を知った私は、ようやく自分のあり方を知ることが出来たのだ。

667 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:49:36 ID:kmc62/n8
                     ※
「――それで、自力で逃げ出して今に至る・・・と」
 爾は『後片付け』で奔走した後の草臥れた様子で、『事情聴取』を終えた。
 場所は勇太の部屋のリビング。外は既に日が暮れていた。
「えぇ、そうね。大体そんなところかしら」
「せやな・・・」
 さっぱりとしている紫苑と対照的に、テオの表情は沈痛だ。
 恐らくそれは狙われた理由を承知しているからだろうし、全く本人は問題にしていないとはいえ、紫苑を巻き込んだことへの罪悪感もあるのだろう。
「まぁ、ほとんどは気を失っているだけで命に別状はありませんが・・・一部記憶障害を起こしている者がいますね」
「まぁ、あの人たちの脳味噌じゃ、そんなところでしょうね。壊してしまっても良かったのだけど」
 紫苑が微笑を浮かべながら、恐ろしく剣呑なことを言った。いつもの金のネックレスが立てる音が、今は刃物が擦れあう音のように聞こえる。
爾はその笑みに心を乱されるのを押し隠すように、咳払いをした。
「コホン・・・。とりあえず『機関』の方で尋問はしていますが、恐らく重要なことは出て来ないでしょうね。末端も末端のようですし、ひとまず、今日のところはこの辺で・・」
 簡単に暇を告げ、見送りを断って一人でダイニングを出ると、玄関の前の廊下に、勇太が壁にもたれて立っていた。
 いつものバスローブではなく、カットソーに細身のジーンズという、ごく普通の格好だ。
「お疲れさん」
 気だるそうな声で挨拶をされる。爾は立ち止まると、目を伏せた。
「・・・いつまで、続けるつもりですか?」
「さぁ?・・・それは『連中』に言って欲しいね」
 勇太は爾に向き直り、その目を真っ直ぐに見た。
 鳶色の瞳に、爾の化粧気のない顔が映りると、その頬が僅かに赤く染まる。それを悟られないよう、彼女は素早く目を逸らした。
「・・・例の、魔方陣の件は?」
「・・・アンカー候補地の警戒を強めています」
「そう・・・まぁ、気を付けな。奴ら、やるときは一気だろうからな」
 爾はその注意に答える代わりに、以前からある疑問を口にした。
「・・・あなたは、何もかも解っているのですか?」
 詰問調になったが、勇太は無表情のままだ。
「別に・・・外れてりゃいいな、っていう予測はあるけどね。まぁ、犯行現場が只の偶然っていう可能性もまだあるし、その方がいいとは思うけど」
「予測があるなら、ぜひ聞かせて頂きたいものですね」
 嫌味っぽい口調で言う爾に、彼は唇を歪ませて笑った。
「それは、君らが見つけきゃ意味がないよ」
 それだけ言うと、勇太は身を翻して廊下の奥に消える。
 爾は首を振ると、磨り減った革靴を履いて、すっかり日の暮れた外へと出て行った。

668 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:50:40 ID:kmc62/n8
 テオはリビングのソファに座ったままで、テレビを眺めていた。
 アナウンサーが、ロシアの国境付近で起きた大規模な山火事のニュースを報じているが、彼女の思考は、全く別のところにある。
 今日、攫われたことに対してではない。そのようなことで今更心をかき乱すようなデリケートさは、ない。
 待ち伏せされていたとはいえ、大事な仲間を巻き込んでしまったこと、大事な仲間に心配をかけてしまったこと、それに尽きた。
 自分はここに居てもいいのだろうか。多分、今までも勇太や爾達は自分の知らないところで、火の粉を払ってきたのだろう。
 このままでは、また迷惑をかけるだけではないのだろうか。
 それならいっそ――
 今まで何度も考えてきたそれに、頭を抱えそうになったそのとき、
「よっ」
「ふやぁっ!!」
突然頭に手を置かれ、テオは飛び上がって驚いた。しかし、驚いたのは相手も同じようで、逆にキョトンとした顔で見返される。
「ビックリしすぎだろ、テオ」
「う、うっさいわ!ボケ!!」
 立ち上がって、勇太を下から突き上げるように詰め寄る。
「ちょっと考え事しとっただけ――っ!!」
 唐突に言葉の途中で抱き締められた。
「な、なにすんねん・・・離せや・・・」
「・・・・悪かった」
 勇太は耳元で囁く。耳朶をくすぐる声に、テオは思わず身を捩った。
「うくっ・・・何が、やねん」
「・・・守れなかった。だから、悪かった」
 その、いつになく真剣な言葉に、過去がちらついた。

『・・・来るか?』

 シンプルでぶっきらぼうな言葉は、きっとこの真剣な台詞と同じくらいの覚悟で紡がれたのだろう。その事実に、テオはゆっくりと勇太の背中に手を回す。
「・・・今日は、一番にボクとしろ。そういう、気分や」
「・・・了解」
「・・・・絶対やぞ」
「・・・了解」
 きっと自分の頬は、リンゴのように真っ赤になっているに違いない。こういう直球のお願いには、未だに慣れていないのだから。
 でも、きっと大丈夫。テオは背中に回した腕に力を込めた。
 

 二人が抱き合うリビングの入り口。廊下から覗くようにして、エマと私は様子を伺っていた。
「むぅ。今日はテオ姉ぇが一番かぁ・・・。いいなぁ」
 エマが物欲しげに人差し指をくわえている。
「今日くらいは譲ってあげましょう・・・それとも、二人がしてる間、私とする?エマ」
「えっ、うっ、いや、女の人同士だと、精気が補給できないし、えっとっ」
 突然慌て出す彼女に、私はクスクスと声を殺して笑う。
「冗談よ、冗談。そんなに焦らなくてもいいじゃない」
「ぶぅ。しーねぇは時々意地悪だっ!!」 
 今度は頬を膨らませて抗議する。
 本当に、良く表情の変わる子だ。爪の垢でも飲んでみたい。
 特に、笑顔。肉体を得てから感情を覚え、その表現も色々学んだけど、笑顔だけは多分、人間が無意識に感じる程度の違いがあるはずだ。
 いつも来る爾さんは、私が笑いかけるたびに戸惑っていて可笑しい。
 そういうところがなかなか可愛い子なんだけど。どういうつもりで男装なんてしているのか判らないが、もったいないと思う。
 ――私は、きっと、エマやテオ、そしてあの人よりも長く、この世界を見続けるだろう。例え地球上の生物が全て滅んでも、私はそれを見届けなければならない。
 それがきっと、私がこの世界から与えられた『役割』なのだから。
 でも、いつか再び『私』が『我』にもどっても、それは前の『我』とは明確に違うはずだ。思考と情報そのものの存在である『我』は、きっとこの毎日の思い出を新たに持つことになる。
 寂しいとかの感情は、実体がなくなればそのうち消えてゆくだろうけど、いつかこの世界の終わりと共に、私が『傍観者』としての『役割』を終えるまで、この日々の記憶だけはずっと持っていよう。
 そう思いながら、私はエマの機嫌をとるため、その髪を優しく撫でた。

669 :或る吸血鬼の懸念事項 紫苑の場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/11/26(日) 01:51:36 ID:kmc62/n8
 ※                     ※                  ※
 ――暗い部屋だ。
 窓はない。
 開いた鉄製のドアから、逆光のシルエットが覗く。
「イルマ・・・さぁ、この間と同じだ・・・儀式を行おう」
 髪をオールバックに固めた、ブランドのスーツで身を固めた男は、その鋭い眼光を少女に向けた。
40代に見える男に対して、少女の年齢は20手前と言ったところだろうか。
フードの付いたローブのような服を着ている。所々に見られる刺繍が、民族衣装のような独特の雰囲気を作っていた。
「・・・」
 すっぽりと被ったフードの奥から、少女は無言のまま、おびえきった瞳を彼に向ける。
「どうした・・・?おいで・・・終わったら、故郷に帰れるんだよ?」
「・・・」
 それでも、少女は動かない。牢獄のような部屋の片隅で震えている。
 男の言葉を、何一つ信用すべきではないと解っていたから。
 その様子にそれまで比較的、優しげな態度だった男は声のトーンを一変させた。
「・・・ジルマが、悲しむぞ?」
 低い、穏やかなようでありながら、血液を凍らせる冷たい声。
 その声の裏側に込められた意味を汲み取って、イルマと呼ばれた少女はゆっくりと立ち上がる。
 立ち上がるという動作を終えることが、酷い苦痛のように。
「そうだ。行こう」
 元のとおり優しげな声に戻った男は、彼女の頭を撫でた。
 その拍子にフードが外れ、少女の顔が露になる。
 赤毛を右側で編み込んだ髪型。陰鬱な表情を浮かべているその額には、皮膚が隆起した小さな角が二本、生えていた。

43 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:24:49 ID:sAnaIM9D
「謝るなっ!!」
 彼女は絶叫した。
ミノヤマと名乗った日本人の男が、今にも掴みかからんとする彼女を押し留める。それでも、彼女の中の怒りは収まらなかった。
「あんたがここで謝ったら、私はどうすればいいのよ!!あんたのせいでこんな体になってまで生きてきた私は、どうしたらいいのよ!!
悪党なら、最後まで悪党のまま死ね!!」
 怒りに任せ、彼女は叫ぶ。日の差さない暗い地下室に、その声はキンと響いて、消えた。
「あとは、任せる」
 その場に居た、もう一人の男に向けてミノヤマは言う。
 男は無言のままで軽く手を振って見せただけだったが、それを確認すると彼は叫び続ける女を引きずるようにして、地下室から出て行った。
 壁の蝋燭だけが、仄明るくそこに居るものを照らす。
 しばらくして、閉じた扉の上に魔方陣が浮かび上がった。ミノヤマの手で封印がされたのだ。人間にしては上出来だ、と彼は思う。
 彼の目の前には、広い地下室の三分の二を占める、恐ろしく巨大な肉の塊が、呼吸に合わせてぶよぶよと動いていた。
自己修復機能と、魔力臨界突破の成れの果て。
 人の身には無謀な量の魔力を搭載した身体はその負荷に耐えることが出来ず、自己を再生する機能が暴走していた。
今は人間の名残を肉に埋もれるように見える、僅かな顔面に残すのみだ。
 その半ば崩れた顔が、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ろ・・・ろごぉ・・・・・さん・・・・・ご・・・ごめ・・・ん・・・ね・・・・」
 ぐじゅぐじゅとした水音混じりの発音は、謝罪の対象が居なくなっても、呪詛のように地下室に響いた。
その禍々しくグロテスクな外見にそぐわず、声は十代の少年のように幼い。
それがこの肉塊が195年の間に負ってきた業を思わせた。
 男の翳した手を中心に、直径1メートルほど光の球体が空中に出現した。
「言い残すことがあれば、聞いてやる」
 もはや、まともな意識もないのは明白だったが、彼は肉塊に尋ねた。
「ごぶ・・・・ろ・・・ね、ねえさん・・・・ねぇ・・・さ・・・」
 手の中の光が、次第に強くなっていく。全てを焼き尽くすエネルギーが、彼の掌の中に完成しつつあった。
「ね・ぇ・・さん・・・・お・・・おぉ・・・」
「・・・・もういい。幕だ」
 彼は言う。
放たれる直前、光球は一気に手の平に収まるサイズに圧縮され、そこから一直線に輝く矢のように肉の塊へ突っ込んでいった。

44 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:26:50 ID:sAnaIM9D
――――――――――――――――――――――――――――
7章 『組織』と『機関』の対立について
(中略)
7−9 『組織』の壊滅とその後
 ここまで見てきたように、後天性吸血鬼の『組織』は人間に取って代わり、世界を支配しようと画策してきた。
それは、我々『機関』の理念と真っ向から対立し、断固として容認できるものはなかった。
30年前、我々『機関』が誇る特殊戦略魔導師の活躍により、『組織』のトップであるアレン=ヘルメスベルガーは抹消された。
こうして『機関』と『組織』の抗争は、我々の勝利という形で幕を閉じたが、
『組織』の手によって作りだされた後天性吸血鬼は、以後大きく二つの道を辿ることとなる。
 一つは、『機関』の監視の下で、人間としての暮らしをする選択。
 もう一つはあくまでも『機関』に対抗し、『残党』として『組織』の再建を図る選択である。
 現在でも、人外種における殺人・強盗・強姦などの重要犯罪のうち、およそ半分が後者の『残党』達の仕業であると言われている。
 抗争の終結は、『残党』とと呼ばれる、分裂した小さな『組織』を生んだ。
また事件も年々大規模なものが増え、我々『機関』にとって彼らの発見・捕獲も一つの大きな課題となっている。

――――――――――――――――――――――――――

 ――発見・捕獲も一つの大きな仕事となっている。
 テキストの一文に、爾は苦笑する。
実際のところ、捕獲したところで、人に戻すことも叶わない上に、更正も不可能に近い。
 捕まった程度で『機関』の世話になるなら、初めからそうしているはずだ。
 実情は、他の『機関』に協力的な人外種の手を借りて、『処理』しているだけである。
 発見・捕獲、などという穏やかな言葉を使っているだけで、実際は『私刑』を黙認している状態だ。
 手は汚さず、徹底して『後片付け』を行うのみ。昔はともかく、今の『機関』はその程度の影響力しかないのである。
爾は電車が自宅の最寄り駅に到着したのに気付き、テキストを閉じた。
改札を出て、コンビニで弁当とペットボトルのウーロン茶を買い、自宅へ向かう。
家路を辿りながら、爾は夜空を見上げた。
幼い頃に両親をなくし、『機関』に拾われた爾は、子供のころから星を見るのが好きだった。今の季節は、そろそろオリオン座が見えるはずだ。
最近の都市計画で電線の類は全てケーブルとして地下に埋められたために、見上げれば空が良く見えた。
爾の自宅は、『機関』の持ち物であるアパートの一室だった。築3年のまだ新しい建物には、カムフラージュのために一般の住人も何世帯か住んでいる。
部屋の明かりを点けて弁当を電子レンジに放り込むと、上着をハンガーにかけ、ネクタイを緩める。
スラックスを脱ぎ捨てると、姿身に下着姿の自分が写った。
平均を大きく超えて、可愛げのない域にまで育った身長に、貧弱な胸がスポーツブラに包まれてくっついている。
色気も何もないボクサーパンツからは、筋肉質に鍛えられた下半身が嫌な自己主張をしていた。
せめて、紫苑のようにもう少し胸が大きかったら。あるいは、胸は小さくともエマのように可愛げのある身長なら。それとも、テオのようにすらりと伸びる細い脚だったら。
あの人は、少しでも自分を見てくれるだろうか。
そっと、爾はスポーツブラの上から胸に触れる。寄せても谷間が出来るかどうか解らない慎ましやかなそれを、勇太の顔を思い浮かべながら触れる。

45 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:27:45 ID:sAnaIM9D
先端は軽く触っただけで、ピリピリと刺激を送った。
「ふぅ・・ん」
 思わず声が漏れるが、手は止まらない。そのままフローリングの床に膝を着いて、ボクサーパンツの中に右手を入れた。
 湿気が篭った秘所に外気が触れて、ひやりとする。
 指が割れ目に触れると、粘っこい感触と共に、背筋が引きつるような快感が襲う。
「ふぅっ・・・んんっ!!」
 オナニーをしながら、爾は思う。
 自分は、どういう存在なのだろう。
 決して人に言えない職業をしている自分は、決して人に言えない存在の『彼ら』とどう違うのだろう。
 指がブラをめくり上げ、乳首を摘んだ。同時に膣に指を入れ、責め立てる。
「あ・・・ん・・・はぁっ・・・あぁ」
 目を閉じれば、勇太が目の前に居る。今自分を快楽に送り込んでいるのは、勇太の指。
 必死にそう言い聞かせる。
「んっ・・・んあぁっ・・・あっ・・・あぁ・・ゆう、た・・・さん」
 爾は今年22になるが、処女だった。
仕事にかまけて、恋などしている余裕はなかったし、肉体的なコンプレックスも恋愛への興味を削いでいた。
 だからこそ、勇太への思いは心に深く根を張ってしまっている。
 スーツで押さえ込んだ欲求の反動であるかのように、快感の炎はあっという間に彼女の神経を爛れさせた。
 指を水っぽい愛液が伝い、パンツの染みを無節操に広げていく。
「ふあぁ・・・あぁ・・・・はああぁぁっ!!」
完全に『女』の声をあげて、爾は行為に没頭していく。
――レンジの中の弁当は、再び冷め切っていた。
     ※              ※               ※
 ――『記憶』。
赤。白。黒。青。
注射針。メス。錠剤。点滴。
消毒液の臭い。麻酔の臭い。血の臭い。
エルザは、全裸で冷たい寝台の上に縛り付けられていた。
 静脈には点滴針が刺さっており、それには不気味な青色の液体が満たされたチューブが繋がっている。
 それが身体に入ってくるたびに、自らの体がそれまでと全く別のものに作り変えられていくのを、彼女は明確に感じていた。
 決して日が差すことの無い地下室。
 地上には、研究所だった後の建物が、それ自体大きな骸のように横たわっているはずである。
 はず、というのは、エルザのすっかり頼りなくなった時間感覚でも、すでに一月以上をこの地下室に幽閉されて過ごしているのは間違いないからだ。
 地上では自分の行方が知れなくなって、どんな騒ぎになっているだろうかと思う。
 一方で、家族と呼べる者はもう誰も居なくなってしまったという現実も、脳裏を掠める。
 母は、父が研究に打ち込むあまり、寂しさから酒に逃げて死んだ。
 科学者だった父は、妻が死んだ悲しさからに逃避するべく、ますます研究にのめり込み、そして彼もまた身体を壊して死んだ。
 弟は――弟ではなくなっていた。

46 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:29:04 ID:sAnaIM9D
弟は、いまや彼女の平穏な日常を奪った、『略奪者』と化していた。
「う・・・ぐ・・・」
 呻きは、エルザのものではない。
 下肢を切り落とされ、両手を頭の上で壁に繋がれた哀れな虜囚。
 生きたまま切り刻まれ、それでもなお、死ぬことすら出来ず、かといって自ら傷を修復することもできず、腸(はらわた)を剥き出しにして呻き声を上げている。
 乱雑に両脚の切断面を覆う白い包帯のすぐ上には、エルザと同じような針が二本刺さっており、中は血液で満たされていた。
チューブの先は二本とも、ガラス管やフラスコや試験管がのたうつように配置された、奇妙な装置に繋がっている。
 この部屋の主が自慢げに語るところによれば、一方の針から彼女の血液を抜いて、装置を通すことで血中の『魔力』を消滅させた上で、もう一度体内に戻しているのだという。
 それは、この時代からずっと後に実用化される、『人工透析』という技術に似ていたが、そのことは無論、この装置を作り出した『略奪者』さえ知らないことだった。
 その『略奪者』は壁の前で、囚人の診察をしながら呟いた。
 「ふぅん・・・まだ、生きてるんだ・・・・この状態で342時間か・・・
 やっぱり、吸血鬼ともなると、すごいもんだ」
 字面とは裏腹に、その言葉には大した感動もなかった。
「・・・のじょ・・は」
 すでに腹筋の大部分を抉られた彼女は、木枯らしのような声を、うわ言のように呟く。
「ん・・・?」
「わたしは・・・いい・・・から・・・彼女は・・・お姉・・さんは・・・たす――」
 恐らく、彼女の今の全力を使ったであろう訴えは、むき出しの腸を深々と抉ったメスで中断された。
「黙れよ・・・実験動物が、喋るな」
「あ・・・・・・ぎ・・・」
 口と鼻から、血が噴出す。口から出るのは能動的な声ではなく、吐き出された息が僅かに声帯を振るわせただけの、音に近いものだった。
 エルザは、それを見ても、もう何も感じない。
 感情や感覚があった自分が、酷く昔に感じられる。
「どうだ!!お前が母さんを奪ったんだ!!思い知ったか、化け物!!」
 メスが、何度も何度も振り下ろされ、その度に女の白い喉から虚ろな音が漏れた。
「ははっ、あははははははははっ!!」
 笑い声と共に、エルザの腕から点滴針が乱暴に引き抜かれる。
 肘の裏に出来た小さい点のような傷は、エルザがもう人間で無いことの証明であるかのように、すぐに塞がって跡形もなくなってしまった。
「姉さん、見せ付けてやろうよ・・・あの化け物に・・・人間の愛し合う姿を」
 ――彼は自分の身を自らの手でその『化け物』に作り換えていることに気がついているのだろうか。
 自分がその『化け物』を抱こうとしていることにも、自覚はあるのだろうか。
 狂った『略奪者』は、何のためらいも無く、自分の剛直をエルザの中に侵入させた。
「姉さん。言っておくれよ・・・『愛してる、アレン』って。昔みたいにさぁ・・・」
 甘えるような声で彼は言う。だが彼女は答えない。
 しかし、狂った笑い声は、いつまでも響く。その、ばっくりと開いた口の中に、人間とは違う犬歯が覗いていた。
 異物に突かれてそれを見ながら、自分の口の中にも同じものがあることを再認識し、嫌悪に首を振る。
 水音が響く部屋で、縋るように彼女は記憶を掘り起こす。
 それは、ささやかな現実逃避だった。
――食卓には父と母、弟が座っている。
 自分より3つ下のまだ幼い弟は、スプーンからシチューを零してクロスに落としてしまう。父親が半分は笑いながら、それを叱る。
 母親は、ただ微笑んでいるだけ。中年の召使いだけが、洗濯の手間を考えて少しだけ苦い笑顔でそれを見ている――
 それから程なくして、弟はウィーンの全寮制の学園に入ることになる。

47 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:31:03 ID:sAnaIM9D
明日には旅立つという夜。アレンはエルザの部屋の窓から、空を見上げていった。
「ねえさん。流れ星って、なにか知ってる?」
 弟は度々、そうやってエルザの知らない知識を、父親の書架から持ってきた本で仕入れてきた。
 そもそも、その年齢にそぐわない利発さを見て、父親は都会の学校に入学させることを決意したのだ。
 九歳だったエルザは、実際には知らなかったが弟の手前、幼い見栄を張って
「ええ、もちろん」
と答えた。アレンは年齢相応の悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「そう・・・流れ星はね、おそらのずっと上の上の上の方から落ちてくる、“いんせき”っていう石なんだ」
「ええ、そうね。知ってるわ」
「それはね、おそらの上でもえ上がって、ひかるんだ。それで、あんなふうにみえるんだよね」
「ええ、そうだったわね」
 エルザは初めて聞く話だったが、姉としての威厳を保つため、すまして言った。
そもそも石は燃えないし、なんで落ちてくるだけでそうなるのか、とも思った。
だが、それを口にすると自分が何も知らないということがバレてしまいそうだったので、黙っていることにする。
「そう・・・でもね、きっと、僕が流れ星を見てるときは、姉さんもおんなじ星を見てるはずなんだよ?」
「・・・え?」
 さっきまでの自慢げな様子が無くなり、突然しおらしくなった弟に、エルザは首を傾げる。
 ――今思えば。
 この時の、弟の年齢にそぐわない気障な台詞は、やはりある種の感情が露になった瞬間だったかもしれない。
 このときに、何かしていれば、今のような事態にはならなかったのかも知れない。
 汚れた頬に、涙が伝った。
 全ては無駄だ。思い出も、この涙も。
 どれだけ思い出に浸っても、それは只一つの事実しか照らさない。
――『彼女の弟』だったアレンは、もう、居ないのだ。
――そして、彼女自身も、もう以前の自分ではない。
「あぁっ・・・姉さん・・・気持ちいいよ、姉さんっ・・・!!」
 感極まったようにアレンが叫ぶが、エルザの耳にはもう届いていなかった。
    ※             ※             ※
――これは、『記憶』ではなく、『記録』である。
 エルザ=ヘルメスベルガーは、弟のアレンに陵辱され、その身を無理やりに吸血鬼へと改造された。
 約3ヶ月の監禁の後、彼女は監禁されていた地下室から、主が居ない隙に逃亡を果たす。
 その際に、エルザは研究所の一切を焼き払っている。
 無人であったこと、また付近に民家がなかったことから、建物は地下の研究資料もろとも、あえなく全焼してしまった。
 それから、およそ195年の間。
 アレンは改造を終えた自らの体を再解析し、そのデータを元に、次々と『仲間』を増やしていった。
 それは次第に徒党を組み、やがて組織力だけならば『機関』と拮抗するまでに至る。
 彼らは自らその団体名を名乗ることはなかったため、ただ漠然と『組織』と呼ばれた。
 『組織』の目的は、世界の完全な支配。夢物語のような話だったが、それは本当に紙一重のところまで来ていたのだ。
 『機関』がどうにか彼らを抑えられたのは、ある決定的な唯一の要素が欠けていたお陰だった。
 焼き払われたデータの中には雌体――つまり、女性の吸血鬼に関するものも含まれていた。
 アレンは事態の発覚を恐れ、データの写しや持ち出しは一切していなかった。
 どれほどの労力と時間を費やしても、ついに失われた雌体のデータを補完することはできなかったのだ。
 結果として、後天性吸血鬼は人体を改造して『増殖』することは比較的容易になったが、それらに頼らない『繁殖』は不可能となった。
 生物としての機能が欠けた後天性吸血鬼を、真祖は『まがい物』『欠陥品』と蔑んだ。
 ――失われた雌体のデータは、どこにあるのか。
 無論、エルザの中である。
 エルザは唯一無二である、女性の後天性吸血鬼なのだ。
 『組織』はその更なる勢力の拡張を行うべく、躍起になってエルザを求めた。
 それは、『機関』も同様であった。
 エルザを押さえれば『組織』に対して利用することも可能ということもある。
 だが一番の理由は、必要なものを手に入れるのに手段を選ばない『組織』の方針は、『機関』と真っ向から対立するものだったからだ。
 しかし、その足取りは両者とも掴むことができなかった。
 エルザを発見できないまま、その理念の違いから『機関』と『組織』は対立を深めていった。

48 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:32:26 ID:sAnaIM9D
      ※             ※              ※
愛のないセックスを何とも思わない。
弟に汚された体が、今更どうにかなるはずもない。
だから今、エルザは娼婦として働いている。
日の光を避け、血を吸わなければならない身にとって、この職業は隠れ蓑としては最適と言えた。
恐ろしく長い年月を、彼女はこうして過ごしている。肩書きは多少違ったこともあったが、アレンに見つかることを思えばあまり目立つことも出来なかった。
酒や薬に逃げたこともあった。しかし、それは不死の身にとっては殆ど無意味だった。
結局、彼女が駆使できたものは『女』だけだ。
死ぬことも出来ず、常に追われる身のエルザは、いつ見つかるとも知れない焦りと、あとは惰性で生きている抜け殻に等しかった。
男に身を任せても、快感を得ることはなくなっていた。生活のために、つまらない演技をベッドの上で繰り広げる日々が続いた。
――その日、いつもの通りに眠りこける客にクロロフォルムを嗅がせて、注射器で血を失敬したあと、エルザは部屋を出た。
 この娼館は、5人ほどが常駐しているだけの小さな宿だ。
 ふと、彼女は廊下で足を止める。
 ――気配がない。
 今の時間は確かに客も娼婦も寝静まる頃ではあるが、どの部屋の前を通っても全く人の息遣いが感じられない。
 背筋を嫌な予感が伝う。
 すぐ横に、ドアがある。この部屋は確かダリアという、エルザの先輩に当たる娼婦の部屋だったはずだ。
 目元のほくろに、パーマをかけた長い髪。あだっぽい空気をまとう三十女。
 少し崩れたボディラインを、熟した女の色気に変える術を知っていて、よくそれを自慢していた。
 ノブに手をかける。
 なにも問題が無ければ鍵が掛かっているはずだ。
 開かないことを祈って、エルザはゆっくりとドアノブを捻る。
 廊下の小さな窓から、冷たい刃のような月明かりが差し込み、ノブに反射した。
 祈りを裏切って、何の抵抗も無く、ドアは開く。
 狭い部屋が、赤で染まっていた。
 むせ返るような生臭さに、思わず口元を押さえる。
 ダリアと客の二人分の体が、弾けてばら撒かれていた。
 ベッドの上に、パーマのかかった長い髪の毛だけが見える。彼女の少し垂れた乳房が、どういう加減か壁から生えるように張り付いていた。
 それを視認した瞬間、背中に突然衝撃が走る。
 背筋が引き攣るような痛みに、彼女は溜まらずその場に倒れ込んだ。
 黒い影のような姿の男たちが、いつの間にか狭い廊下を占拠している。
 口元から僅かに除くのは、鋭く、血まみれの歯。
――とうとう追いつかれた。アレンが、自分を捕らえにやってきた。
 そう覚悟した彼女の記憶は、ここからスライドのようないくつかの場面にブツ切りになっていた。
 ――自分を取り押さえようと手を伸ばす男。
    ――その胸板から、いきなり突き出す三本目の手。
       ――何が起きたか理解できない表情の男は、そのまま崩れ落ちる。
          ――その手の持ち主は、彼女には目もくれず、男たちに風のような俊敏さで向かう。

 ―――そして、赤。

 一面の赤。赤。赤。赤赤赤赤あかあかアカアカアカアカアカ・・・・。
 視界が赤に埋め尽くされて、そして――

「大丈夫か・・・・?怪我は・・・問題ないな」
 ガラスと血と肉が散らばる廊下に、たった一人残った影は、そう言った。

49 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:33:16 ID:sAnaIM9D
それからの体験は、エルザには別の星の出来事のように思えた。
 だが、一方でその全ての発端は自分でもあるのだ。
 吸血鬼の『組織』と、それに対抗する人間の『機関』の戦い。
 決して歴史の表舞台に出ることは無く、しかしその抗争は熾烈を極め、死傷者の数は知れず――。
 自分が発端になっている以上は関係ないという顔も出来ず、かといって何も知らずに190余年を過ごしてきた彼女に役立つようなことが出来るわけでもなく、
エルザは結局保護という名の軟禁を受けることになった。
 『機関』は彼女の行動の自由を、割り当てた部屋に限定するだけで、実験も検査もせず、三食の食事もきっちり支給された。
 あの日、娼館で自分を助けた男はユウタと名乗った。
 そして、地下室で解体されながら死んだ吸血鬼と同じ顔の女を連れていた。
 初めて見たときは驚いたが、血の繋がりはないと言う。
 軟禁された状態で、エルザは何故かユウタから戦況の報告をいちいち受けた。
 なぜ、彼がそんなことをするのかは、未だに彼女には解らないままだ。
 だが、少し推測するならば、ユウタは彼女が今のような身体になったのは、自分のせいだと思っているようだった。
 そして、それは多分、あの地下室で朽ちていった女吸血鬼と関係があるのだろう。
 その程度の推測しか、彼女には出来なかった。
 それから二週間ほどの軟禁生活の後、彼女は突然出るように言われ、そして、アレンと再会をしたのだ。
 ――巨大な肉の塊と化した、アレンに。

50 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:34:00 ID:sAnaIM9D
 一通り泣き叫び、罵声を浴びせ、ミノヤマに引きずられるように地下室の外へ連れて行かれる。
それでも、エルザは、胸の奥に湧き上がる感情をこらえることは出来なかった。
195年間、ひたすらに殺してきた感情。
 それは、怒りでも憎しみでもなく――

『ねえさん。流れ星って、なにか知ってる?』

 あぁ、どうして・・・。
あの建物の地下で、今まさに殺戮が起きているというのに。
 
『そう・・・流れ星はね、おそらのずっと上の上の上の方から落ちてくる、“いんせき”っていう石なんだ』

どうして頭の中で繰り返されるのは、この記憶なんだろう。

『そう・・・でもね、きっと、僕が流れ星を見てるときは、姉さんもおんなじ星を見てるはずなんだよ?』

 ――どうして。
 憎い相手が死んだはずなのに。父の仇を取れたはずなのに。
どうして、こんなに悲しいのだろう。
 涙が次から次に溢れて、止まらない。
 それは、195年分の涙。
 ただ、悲しかった。
憎しみも怒りも絶望も、自分には初めからなかったのだと気付いた。
 ただ、何も知らない小娘が、泣きたいのを我慢しながら長い時を生きていただけのことだった。
 あの死んだ吸血鬼の顔をした女が、エルザの傍に寄り添って、その肩を優しく抱いた。
 暖かい、母のような香りの髪に顔を埋めて、エルザは大声を上げて泣いた。
 『機関』の人間が、後始末に慌しく奔走する中、エルザの周囲だけ時が止まったようだった。

 時間を忘れて泣きじゃくり、ようやく顔を上げると、ユウタがいつの間にか音もなく立っていた。
 その表情は、晴れ晴れとするでもなく、ただ、暗い。
 火の点いた煙草が、酷く不味そうだ。
 アレンの死を手放しで喜べる者は、アレンのことを何も知らない。そう彼女は思う。
 喜ぶには、エルザも、ユウタも深く関わりすぎていた。
 煙を吐き出すと、彼は言った。
捨てられた子犬を拾うような哀れみと同情と、そしてその他の自分には解らない『何か』で出来た顔で。

「・・・来るか?」

彼が言って、手を出す。
 彼女は黙って頷き、その手を取った。
弟を殺したその手を――。
「・・・来るなら、名前を変えなきゃならんな・・・。どんなのがいい?ちなみに、そいつはシオンっていうんだが」
 ユウタが、彼女の隣の女に向けて言った。 
 シオンは、にこにこと微笑んでいる。エルザは彼女の名前を始めて知った。
 少しの思案の後で、彼女は言った。

「――Meteol」

 その声は、埃っぽい空気に凛と響き、すぐに紛れて消えた。
「Meteol(隕石)・・・ね」
 ユウタは大して興味がなさそうに言うと、煙草を吹かしている。
「苗字は、任せるわ」
 それ以上の言葉は無く、ユウタの手を握り返す。それだけで十分だった。
 ――エルザ=ヘルメスベルガーはこの日を境に、この世から完全に消えた。
 そして、代わりにメテオール=シュルツという吸血鬼が『機関』に登録されることになる。

51 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:35:35 ID:sAnaIM9D
 人をやめる。
 それは、人の世界の法に縛られない代わりに、人の法にも頼れないということだ。
 だが、それでいいと思う。
 今まで、人と化生の境を行ったり来たりしていたのだ。開き直ることが出来れば、これ以上楽なことはない。
ユウタに抱かれようと思ったのは、今までの自分と決別するためだった。
「ん・・・ちゅぷ・・・ふぅ・・・」
 ユウタとディープキスを交わしながら、メテオールは思う。
 すぐ後ろで、素裸にシンプルな金のネックレスだけという格好のシオンが羨ましそうな表情で二人を見ていたが、今日は譲る気はない。
 ユウタに初めて抱かれる日なのだから、今日くらい我が儘を言ってもいいだろう。
 口の端から唾液が溢れて顎を伝い、シーツに垂れる。
「ずるいわ、テオ」
 長く熱烈なキスに、シオンが焦れたように呟く。
 突然、後ろから胸を揉まれる。
 白く吸い付くような肌は、シオンの細い指によって弄ばれた。
「ふぅ・・・ん」
「綺麗な肌ね・・・」
 背中から、豊かな胸を押し付けられる。女同士のはずなのに、鼓動が高鳴るのを感じた。
 愛のないセックスをなんとも思わない。
 でも、今、この瞬間だけは、例え偽りでもユウタに愛して欲しいと思う。
 テオはこの不器用な吸血鬼を愛してしまっているのだから。
 そんな彼女の心を察したのか、ユウタは微笑んでいった。
「愛してるよ、テオ」
「あ・・・・」
 それは、何気なくぽんと言われた台詞だった。
だが、初めて言われたにも関わらず、その言葉は何十回も言われてきたかのように、彼女の心に馴染んでいく。
「あら、感じてる・・・?」
「え・・?ふぅ・・・ん!」
 勃起した乳首をつままれ、思わず口から声が漏れる。ピリピリとした刺激が、195年前に、あの地下室に置いてきた快感を掘り起こしていく。
「綺麗だよ・・・テオ」
「綺麗なわけ・・ないでしょ・・・・私が、今まで何して生きてきたか、知ってるくせに」
「知ってはいるが、あまり興味はないな。昔のことなんか」
「自信を持ちなさい。私からみても、あなたは綺麗よ」
 シオンが耳元で囁いた。その言葉で、自分の秘所が勝手に潤っていくのを感じる。
 今まで数え切れない数の男に身を任せてきたが、こんなことは初めてだった。
「ふあ・・・そんな・・・」
 身体の反射ではなく、心の底から濡れていく。
 ユウタだけではなく、きっとシオンもテオを愛そうとしているのだろう。
 彼女の性格は未だによく掴めないが、テオのことをユウタが好きな『同好の士』と捉えているようだ。
 あるいは、ユウタは愛するものは、自分もまた愛する価値がある、と考えているのか。
 普通は嫉妬の一つでもしそうなものだが、その辺りの精神構造が多分テオとは大きく違うのだろう。この状況を楽しんでいる。
「濡れてるね。匂いで解る」
 ユウタがわざとらしく鼻をひく付かせて言った。言われた途端、テオの顔が爆発しそうな朱に染まる。
「な、なに言って・・・ひゃあんっ!!」
 反論しようとするが、シオンに後ろから股間を撫でられ、膝が笑ってしまう。
「うん、濡れてるわね。あんまり弄ってないのに・・・可愛い」
 そういうと、彼女はテオの頬に、少女が縫いぐるみにするようなキスをする
「これなら、もう挿れても大丈夫だと思うけど・・・どうする?」
 ユウタの方に悪戯っぽい眼差しを向けて、シオンが言う。
「テオ・・・いいか?」
「・・・うん・・・私は、いい・・・ユウタが、欲しいよ・・・」
 生娘のように、テオは言う。
それは、人の身と決別するための交わり。
 人外としての処女を、今日彼女は捨てる。

52 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:36:08 ID:sAnaIM9D
ぬち、と粘膜と粘膜が触れ合うと、それだけで身体が跳ねた。
「ふあ・・・あぁ・・・」
「可愛い・・・声だけで、私も濡れてきちゃう・・・」
 熱っぽい吐息を、シオンが吹きかける。
 腰がゆっくりと沈んで行き、ペニスがテオの中に飲み込まれていく。
「ふあんっ!!」
 全てが収まると、テオは硬く目をつぶってから、それからゆっくりと開けた。
 鳶色の瞳。長い髪。人懐っこい笑顔。
 彼女を抱いているのは、『略奪者』でもなく、『客』でもない。
 正真正銘、彼女自身を愛し、同時に彼女自身が愛している男。
ふと、愛し合うセックスは人間の寿命の倍以上を生きてきて、初めてであることに気付く。
そんなことに今更気付いた自分がおかしくて、彼女はかすかに笑うと、安らぎに任せてその体重を勇太に預ける。
 線は細いが、がっしりと絞り込まれた胸板にしっかりと受け止められて、テオはそのまま眠ってしまいそうになる。
「大丈夫か?」
「うん・・・平気・・・動いて・・・」
 テオはいま少しまどろみから抜け出して、答えた。その声で、ゆっくりとユウタは動き始める。
「あ・・・あぁっ・・・はぁ・・ん・・・・」
 じれったいような快感に、テオは身を捩って耐える。
「はぁ・・・もっと、激しく・・・しても、いいよ・・・?」
「そう?じゃぁ、遠慮なくさせてもらうわね」
「ひゃあんっ!!」
 ふいに、背後から抱きつかれ、テオは声を上げた。シオンが、両方の乳房を揉みしだき出したのだ。
 背中に、たっぷりとした量感の乳房と、その頂点で固く尖っている乳首の感触が感じられる。
「あ、あんたじゃ・・・ないっ・・・んっ・・・ふぅ・・・ああぁ・・・」
ユウタの伸ばした脚に股間を擦りつけながら、上半身はテオの身体に蛇のように絡み付いている。息を荒くして、シオンは行為を続けた。
「あっ・・・・やぁっ、そんなっ・・・あはぁっ!!」
 背後に気を取られると、今度はユウタが深く突き込んで来る。ユウタに注意を向けると、背中から手が伸びて、テオの性感帯を責める。
 息の合った責めに、彼女はとうとう悲鳴を上げて懇願した。
「やはぁっ!あぁっ!おねがい、もっと・・・もっとしてぇっ!!はあぁぁんっ!!」
「「了解」」
 二人同時にそう答えると、ユウタは腰の動きを激しく、シオンも愛撫の手を早めた。
 ユウタがテオの腰をしっかりと掴み、一気に抉る。
 シオンの細い指が、テオのクリトリスを包皮ごと押し潰し、こね回す。
 ピッチが上がるにつれて、テオの中の官能が一気に爆発していく。
「あああぁぁっ!!いいっ!シオン、ユウタぁ・・・気持ちいいのぉっ!!」
「あぁ・・・・俺も、出そうだな」
「いいよぉ、出してぇ、わたしも、もう・・・イくぅっ!!」
 テオの銀色の髪が宙になびく。いやいやをするように首を振って、来るべき絶頂に備えた。
「あっ、あぁぁっ!はぁん、うあぁぁっ!!イ、イく、わたし、もお、イくううぅぅぅっ!!」
「う・・・くっ・・・出るっ!!」
「あ、はあああぁぁぁっ!!あつい、あついいぃぃっ!!」
 シオンがクリトリスを摘み、ユウタが膣の奥で射精した瞬間。
身体が灼ける感覚と共に、テオは全身を痙攣させて、絶頂に達した。
 息を切らして、ユウタの胸に倒れ込んだ。
 人の身ならば、この交わりは大多数に不道徳なものとして取られるだろう。
 だが、もう自分は人ではないのだ。
 この吸血鬼によって生まれ変わったのだと、テオは感じながら、まどろみに落ちていった。

53 :或る吸血鬼の懸念事項 テオの場合 ◆mswnQv7VS6 :2006/12/07(木) 22:38:18 ID:sAnaIM9D
  ※             ※         ※
――そして、『現在』。
「んっ!!ふああぁ・・・ゆうた・・・ええよぉ・・・」
 テオは今、勇太の上に跨って、懸命に腰を振っている。その度に、ブレスレットが音を立てた。
 一見、手首にフィットした普通のブレスレットだが、良く見れば継ぎ目がない。
 取り外しが出来ない以前に、どうやって着けたのか見た目では解らないものだった。
「大丈夫か、こんなに激しくして?明日、学校じゃないのか?」
 掌に収まる、丁度良い大きさの胸を揉みながら、勇太は尋ねた。
「野暮なこと・・・いいなや・・・自分も、ノリノリのくせに・・・うあぁっ!!」
「まぁ、そうね。じゃぁ、楽しんでくださいよ・・・っと」
「ふぁっ!ああぁぁっ!!!」
 テオが大学に通っているのは195年と言う長い年月を、追われる身だったとはいえ殆ど無為に過ごしてしまったことにある。
 だから、勇太と住むようになってから30年は、行く先々で出来る限り学校に行くようにしている。
たまにテレビなどで、定年を過ぎてから大学に通う老人の話を聞くと、その気持ちはテオには理解できる気がするのである。
エマと紫苑が、すぐ隣でキスをはじめ、二人でお互いを愛撫している。
それを見ると、自分の中でまた興奮が燃え上がるのが解った。
紫苑のネックレスに反射した光が目に入り、テオは少し目を細める。
テオの手首に掛かっているブレスレットも、勇太の手によるものだ。
 このブレスレットのお陰で、テオは太陽の下でも普通の生活を送ることが出来る。一種の護符なのだ。
 だが、それ以上の意味で、テオにとってこのブレスレットは彼女と勇太を繋ぐ『しるし』でもある。
「ああぁぁ・・・きもちええ・・・紫苑も、エマも、来てぇな・・・」
「あ、はぁい」
「あらあら」
 テオが誘うと、二人はお互いの愛撫をやめ、すぐにテオに取り付いた。
 一気に増えた四本の手が、テオの身体をまさぐって、より高い絶頂に導いていく。
「ふあぁぁぁぁっ!!、あっ、あぁんっ!!ダメッ、あかんって・・・!!」
「あかんって、テオねぇが『来て』っていったんでしょー?」
「そうそう、発言には責任を持たなきゃね」
「そない言うたかて・・・ふああ・・・激しいすぎぃ・・・」
 身体をくねらせて、テオは悲鳴を上げる。
紫苑はクリトリスと、右の乳首を。エマは性感帯を直接触ることはないが、その動きは焦らすように背筋や腿を撫でる。
そして、勇太は下から突き上げながら、左の胸を揉み続けている。
「あはぁっ!!あかん、イく、ボク、もうイってまうぅ!!ああああぁぁぁっ!!!」
 往復が早くなっていく。湧き上がる快感が噴出して、身体から溢れそうになっているのを感じる。針が突き刺さる寸前の風船のようだ。
「あぁ、イく、イくうううぅぅぅぅぅ!!」
 快感という風船が破裂し、絶頂に達した瞬間、勇太の腹の上に潮を噴出して、テオは身体を痙攣させた。
「あらまぁ・・・派手にイったわね」
「テオねぇ、えっちぃなぁ、もう・・・ぺろ」
 エマが勇太の腹に飛び散った愛液を、掃除するように舐め取った。
「あぁ・・・エマぁ・・・」
 勇太のペニスを入れたまま余韻に浸っていたテオは、その短い髪を撫でる。
 自分とは違う、真っ直ぐな純真さ。
 それを羨ましく思うが、妬ましいとは思わない。
 むしろ、可愛らしいと思う。自分もこの半分でも素直になれればいいのだけど。
 そんなことを考えていると、勇太が言った。
「愛してるよ、テオ」
 それは、あの人同じ。初めて抱かれた夜と同じ、何気ない一言。
 それが、どんな愛撫よりも、滑らかにテオの心を梳かしていく。
「うん・・・ボクも、愛してる・・・」
 もしも、勇太と同じ真祖だったら、これほど彼のことを愛することはできなかったと思う。
 もしも、ただの人間だったら勇太に出会うことはなかったはずだ。
 例え『まがい物』と罵られようとも、勇太との出会いを思うときだけ、テオは自分の身体をありがたく感じるのである。
「あー、あたしはー?」
「わたしにも言って欲しいわ」
「はいはい、二人とも愛してるって」
「な、なんか、軽くない!?」
「そうよ、あなた。もっと情感を込めて・・・」
「えっ?えぇっ!?」
 勇太に迫るエマと紫苑を見ながら、テオは笑って手首のブレスレットを撫でるのだった。

348 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 04:59:51 ID:1XMMb8il
「んっ!!ふああぁ・・・ゆうた・・・ええよぉ・・・」
 あたしはエマ。漢字でフルネームを書くと、篠倉絵麻。
 勇太っていう吸血鬼のところで、家事手伝いをしてる淫魔(サキュバス)なんだけど、今日は一緒に住んでるテオねぇが、色々大変だったから、あたしはおあずけ。
 でも勇太は優しいから、あたしにもちゃんとしてくれるはず。
 あ、テオねぇっていうのは、やっぱり勇太と一緒に住んでる、吸血鬼の女の人で、勇太が言うには『後天性吸血鬼の第一次雌体サンプル』なんだって。
 あんまり難しいことは解んないや。あたし高校も行ってないし、この家じゃメチャクチャ年下だし。
 もう一人『しーねぇ』っていうお姉さんが居るんだけど、その人も含めてみんな年齢3ケタ軽く超えてるからね・・・。
 ピチピチの若さで勝負・・・って、みんなもうずっとピチピチだから、あんまり意味ないかも。
 淫魔の一族は、精気を取らなきゃいけないから年取っても見た目は若いけど、でも寿命自体は人間と大して変わらないんだ。
 でも、質のいい精気を長い間かけて吸収すれば、たまに『おばば様』みたいに200歳超えてピチピチしてる淫魔もいるし、勇太がいっぱいしてくれたら、きっと、あたしも・・・。
「ふあああぁっ!そんなん・・・はげし、んぁっ!」
 テオねぇが、勇太の上に跨って、腰を振ってる。
 気持ち良さそうだなぁ・・・いいなぁ、なんて思ってると、しーねぇが擦り寄って来た。
 ちょっと嫌な予感。
「エマぁ・・・」
 うわぁ・・・そんな潤んだ瞳で見られると、女同士でもドキッとしちゃう。多分テオねぇにアテられちゃったんだろう。
 あたしも人のコトは言えないけど。もう結構濡れてきちゃってるし。
 これ以上言葉は要らないな。さっき『二人でする?』なんて冗談のつもりだったんだけど。
 あたしはしーねぇとキスして、そのおっきいおっぱいを揉んだ。お餅みたいで気持ちいい。
 あたしも将来的には、このくらい大きくなるもんね・・・多分、きっと。
 ――初めて、四人でしたときってどんなだったかな。
 しーねぇに耳をはむはむされながら、あたしはそんなことを思っていた。

349 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:01:48 ID:1XMMb8il
        ※         ※           ※
「ふぃ〜〜〜、極楽、極楽・・・」
 湯船に入ると、思わずそんな台詞が出た。
 広い露天風呂には勇太の他に7、8人ほどが、それぞれ思い思いに温泉を楽しんでいる。
 2メートル半ほど囲いに囲まれた浴場は景観こそ望めないが、それが過剰な観光地らしさを削いで落ち着いた雰囲気を醸している。
 たまの気まぐれで、旅行に出たのは正解だった。
 こういった鄙(ひな)びた風情は勇太の好みだし、旅は金をかければ良いというものではないのは、身に染みて解っていた。
 勇太はもとより、地味でシンプルなものが好みなのだ。
 脚を伸ばしてくつろいでいると、中年の男が湯船の中を泳ぐように近寄り、訛りの強い言葉で話しかけてきた。
「兄ちゃん。旅行かい?」
「えぇ、解ります?」
 勇太は長い髪を掻き上げながら答えた。
「解るよー。兄ちゃんみたいな目立つ男、この辺じゃ見かけないからねぇ」
「目立ちますかね」
「おうよ。つーか、あれだろ?兄ちゃん、ガイジンさんだろ?日本語うまいなぁ。一人旅かい?」
 一度に大量の疑問符を並べる男に、勇太は苦笑して、パターンになった自己紹介で答える。
「いやー。ガイジンっていうか、ハーフなんですけどね。ほとんど育ったのは日本ですから。
 一応、今日は妻と、妻の妹と一緒ですね。今、二人でお土産見に行っちゃって、邪魔にされたもんで」
「はぇー。そうかい、そうかい・・・」
 感心したように、男は頷く。何がそんなに感心するところだったのか、勇太にはいまいち解らなかったが、とりあえず一緒に頷いておく。
 それからしばらく世間話をしていると、急に相手が神妙な顔になった。
「そうそう、兄ちゃん。気をつけなよ?この辺はよぉ、最近、覗きが出んだ」
「覗きですか・・・?まぁ、連れに伝えておきますけど――」
「いや、兄ちゃんの奥さんの話じゃなくてな」
 怪訝な表情の勇太を遮って、男は何故か声を潜めた。
「男湯に出んだよ。女の覗きが」
「へぇ、そりゃまた珍しいですね」
「おうよ、しかもまだガキだって言うぜ?世も末だよなぁ・・・。俺もなァ、婿養子入って、この辺に住んで30年になるけど、こんな変な話は始めてだなぁ」
「ハハ・・・。」
 首を振って溜息を付く男に、勇太は苦笑いをしながら、一方で別のことを考えていた。
――30年。
 テオと紫苑、そして勇太の三人で生活し始めてそろそろ30年が経つ。始めは上手くやれるか正直心配だったが、杞憂だったようだ。
 女性陣の仲に関しては、750歳の吸血鬼と言えども、ただ顔色を伺ってバランスを取るしか術はなかったのである。
 もっとも、そのバランスはそれほど危ういものではなく、勇太が思っているよりはずっと強固なものなのだが・・・。

「んふふ〜、みっけー」
 エマは木の上から、男湯を双眼鏡で観察していた。
 さっきから、中年のさえないオヤジばかりが入れ代わり立ち代りしていて、いい加減場所を変えようかとしていたところだ。
 といっても、既に何箇所か見つかって出入り禁止を喰らっているため、男湯が覗けるポイントがある露天風呂はもうそんなに残っていなかった。
 その点では、彼女にとって、その髪の長い男を見つけたのは僥倖と言える。
 家を出る前に、『おばば様』に習ったことを、彼女は復唱した。
「良い宿主を捕まえるポイントその1、魔力の大きな男を狙うこと・・・」
 エマの見る限り、その男の魔力は温泉にだらしなく浸かっているオヤジは勿論、同年代の男に比べても飛びぬけていた。
「まずは、1ポイントかな?」
 彼女がもう少し慎重ならば、その飛び抜け方が些か異常なことに気づいたかもしれないが――
「さぁて・・・どうやって落とそうかなぁ・・・?」
 既に獲物を捕まえるための算段を立てている彼女の頭には、そんな懸念は微塵もなかった。

350 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:02:55 ID:1XMMb8il
 紅葉が終わりかけの鮮烈な色彩を残す山の裾野に、硫黄の匂いが僅かに漂うその温泉街はあった。
「う〜ん・・・ええなぁ、のどかっちゅーか、うらぶれた感じで」
「それを言うなら、ひなびた、でしょ?怒られるわよ?」
「う・・・」
「それでよく大学に合格できたわね?」
「うっさいねん!!日本語は難しいんや!!」
「関西弁を先にマスターする方がよっぽど難しいと思うけど・・・」
 漫才のようなやり取りをしながら、土産物屋が並ぶ通りを歩いているのは紫苑とテオだ。
 ここに来た経緯に関しては、特に珍しいこともない、勇太の気まぐれだった。
 『旅行に行くぞ』と言われたときには、全て必要な準備は勇太が進めてしまっていたので、今回も二人は流されているだけである。
 大体、5年前に日本に移住したときも似たような感じだった。
 ケーブルテレビでやっていた日本の特集を見て何に惹かれたのか、その翌週には『引っ越すぞ』である。大方今回も、温泉地の特集でも見たのだろう。
 とはいえ、やはりいつもとは違う環境で少々テンションが上がっているのも確かだし、なんだかんだで楽しんでもいるのだが。
 一軒の土産物屋の店先に掲げてあるノボリを見て、テオが声を上げた。
「紫苑、見てみ。オコジョ饅頭やって!」
「何でまた、オコジョなのかしら?他にも動物なら居そうなのに・・・」
「さぁ?観光地の名物なんか、あんまし深く考えてもしゃぁないやろ」
「そうそう、こういうのは雰囲気だよ」
 いつの間にか、勇太が旅館の浴衣に半纏という姿で二人の後ろに立っていた。
「あら、お風呂はもういいの?あなた」
「まぁ、時間はあるし、後でまたゆっくり浸かるさ」
 半纏の袖に手を突っ込んで答える姿に、テオが苦笑いした。
「なんか、勇太もすっかり馴染んでもうてるなぁ」
「おう、日本大好きだからな。いつかチョンマゲ結おうと思って髪伸ばしてたんだけど」
「そんな理由で髪長いん!?」
「前来たときは出島から出られなかったしなぁ・・・」
「どんだけ昔やねん・・・ちなみに、何しに来たん?」
「猿と魚のミイラを縫い合わせて、『人魚ノ木乃伊デース』って売りに来たの」
「え、マジ・・・?」
「洒落のつもりだったんだけどなぁ・・・本当に売れるとは思わなかった」
 どこまで本気か解らないやり取りに、紫苑が珍しく声を出して笑いながら見ている。
 年齢3桁を軽く超す人外でも、旅がもたらすハイテンションからは逃れられないようだ。
 そして、その3人の様子を物陰から伺っている影が一つ――。

「良い宿主を捕まえるポイントその2、妾を囲ってる男は精力旺盛・・・」
 エマは再び『おばば様』の教えを口の中で唱えた。
 一人の女は、男のことを『あなた』と呼んだ。これが正妻だろう。
 もう一人、銀色の髪をした色の白い女がいるが、こちらも男とはただならぬ雰囲気である。きっと愛人に違いない。
 あの会話のどこにそう思わせる要素があるのかは不明だし、そもそも正妻と愛人が何故仲良く旅行に来ているのかという疑問は彼女の頭には、ない。
「1ポイント追加・・・」
 なにはともあれ、これほどの獲物を逃す手はない。
 温泉のときは遠目で良く見えなかったが、湯上りの髪を頭の天辺で団子に纏めた横顔も中々に精悍でエマの好みだ。
 男が何事か耳打ちして女達から離れていくのを見ると、エマは行動を開始した。

351 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:04:25 ID:1XMMb8il
 勇太はフラフラと土産物屋を冷やかしながら、通りを歩いていく。
「ガイジンさん!ほらこれ、お饅頭だよ!」
「お兄ちゃん、ちょっと見てってよー!!」
 呼び込みを笑顔でかわしながら商店街を歩いていると、前方で蹲っている人影が見えた。
 15,6歳くらいの女の子が、具合が悪そうにしている。
 ミニスカートから見える脚は白く、十分男の下心を刺激しそうなものだが、
「う〜ん・・・う〜ん・・・」
というわざとらしい呻き声が、それを台無しにしてしまっていた。
 余りの怪しさに、周囲の通行人が避けている有様だ。
 だが、勇太は何のためらいも無く、声をかけた。
「どうした?大丈夫?」
「ちょっと・・・持病のシャクが・・・」
 時代錯誤の症状を、その女の子は心底辛そうな顔で訴えた。 
 もっとも、それは『おばば様』直伝の『良い宿主を捕まえるポイントその3、ちょっと弱いところを見せると男は弱い』『その4、古風な女に男は弱い』から彼女が考えた仮病なのだが、何から何まで間違っている。
 だが、勿論そんな自覚は彼女にはないのだった。
(フフフ・・・病気で弱っている女の子をほっとけない優しさはさらに1ポイント――)
 腹の中でそう思ったとき――。
「大丈夫?」
「あ・・・。」
 覗き込まれて、エマは病気を装うのを忘れ見蕩れてしまう。
 優しげな鳶色の瞳に、通った鼻筋。彫りの深い顔立ちは人懐っこい笑顔が良く似合う。さっき物陰で伺っていたときには解らなかった、顔の細かな造作までがはっきりと見えて――
「・・・100ポイント」
「え?」
「あ、いや、なんでもないです。はい。あいたた・・・」
 訝しげな顔を浮かべる勇太にエマは慌てて首を振り、仮病を再開する。
「あぁ、なんでもなくないじゃないか・・・とりあえず、そうだな、この近くに、俺が泊まってる旅館があるから、そこで休む?」
 勇太の無防備な発言に、エマは内心で
(よっしゃ!!おばば様、あたしやりました!!)
とガッツポーズをした。

 勇太が泊まっているのは、エマが覗いていた男湯がある旅館の、ごく普通の部屋だった。畳敷きに、古いダイアル式のテレビ。
 窓際には向かい合わせに椅子が置かれて、その間にテーブル。元々は家族用の部屋なのだろう。
 座椅子と机は、今は部屋の隅にどかされていた。
「具合はどう?」
「あ・・・大分・・・平気です」
 病人らしく、しおらしい口調で答える。
「まぁ、とりあえず横になって休んどきな。ちょっと連れを探してくるから」
「え、ちょっと!!」
 布団に寝かされたエマは、慌てて部屋を出ようとする勇太の浴衣の裾に取りすがった。
「うわっ!!」
 いきなり裾を掴まれた勇太は、なす術なく転ぶしかない。
 その上にエマは素早く覆いかぶさった。
(良い宿主を捕まえるポイントその5・・・トラブルを上手く利用すべし!!)
 段々、雑誌に書いてある『クリスマスに向けて彼氏をゲットするコツ』のようになっていることに彼女自身は気付いていないようだが、まぁ、とにかく。
 上目遣いに、エマは勇太の整った顔を見る。相手はキョトンとしているが、目を逸らすことはしない。
「あの・・・勇太さん、優しいし・・・えっと・・・あたし、お返しって・・できなくて・・・」
 そもそも、お返しが必要なほど大層な話ではないし、その展開自体に無理があるのだが、宿主を見つけることしか頭にないエマにはそんな懸念は欠片ほどもない。
「あの・・・よかったら、あたしの・・・初めて、貰ってください・・・」
 今度は本心から、顔を真っ赤にしてエマは言った。
 初めて、というのは本当だった。何しろ、家を出て始めての『ハンティング』である。淫魔と言えども、年相応の羞恥心くらいは持っている。男湯を覗いていたけども、まぁ、とにかく。
 そんなエマの決意に満ちた発言を、勇太は真顔で見た。
 緊張が張り詰める。ほんの数秒が酷く長い。エマは細い喉をこく、と鳴らして唾を飲んだ。

352 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:06:14 ID:1XMMb8il
 「プッ・・・ハハハハハハハハ!!」

 静寂は、唐突な笑い声によって破られた。
 なにが起きているか解らないエマに、追い討ちをかけるように部屋のドアが開く。
「あなた・・・そんなに笑っちゃ可哀想よ?」
「せやで?初めて言うてたし・・・」
 テオと紫苑が、言葉とは裏腹に、やはり笑いをこらえた顔で入ってくる。
 ますます混乱するエマに、勇太が口を開いた。
「お前さん、サキュバスだな」
「!!」
「宿主探しか?」
 突然核心をつかれ、エマは絶句した。
 一体、彼らは何者だ?魔力が普通の人間より飛びぬけているのは確かだが・・・。
「まぁ、別に過度に干渉する気はないが、覗きは感心しないな」
「なぁ、どうすんの?この子?血でも吸う?」
 そう言って、テオはわざと普段は隠している犬歯を剥き出しにして見せた。
「血!?」
「あぁ、悪くない考えだな」
 エマの下で勇太も同じように鋭い歯を出して笑う。大慌てで、エマは飛びのいた。
「ま、まさか・・・あんたたち・・・きっ・・・きききゅ、きゅっ・・・」
「あらあら、慌てちゃって・・・まぁ」
 紫苑が冷たい笑顔で言うと、エマが溜まらず叫んだ。
「きゅうけつきぃ!?」
「一人は違うけどね」
 勇太が言いながら身を起こした。
 吸血鬼といえば人外種の中でもトップクラスの魔力を誇り、その存在は不死に近く、それから、それから・・・
 パニックになった頭でも、サキュバスごときでどうこうなる相手ではないという答えは出せた。
 まんまと嵌められたエマは、顔を赤くしたり青くしたりして、完全に固まっている。
「おーい、嬢ちゃん。だいじょぶかぁ?」
「あら、面白い表情ね。ここまで綺麗に引っかかってくれるとは思わなかったけど」
「まぁ、俺が名乗ってないのに、名前呼んだり色々抜けてたからなぁ。初歩だよ、初歩」
 石になっている間に勝手なことを言う三人に、エマは涙目で叫んだ。
「だっ、騙したの!?」
「騙したっつーか、ほら、覗きとか不健全な真似はやめろって言いたかっただけなんだけど」
「ほんま、お節介やなぁ・・・」
 暢気な声を出すテオを余所に、エマは恐る恐る尋ねた。
「い、いつから気付いてたわけ?」
「木の上で露天風呂覗いてたときから。」
 即答で答えられ、まるで床が抜けたような感覚を得る。じゃぁ、今まで自分がやっていたことは何だったというのか。
 恥ずかしさの余り、目頭が熱くなる。
「うぐぅ・・・ば、ばかああぁぁっ!!」
 泣き出す顔を見られたくなくて、エマはドアに向かって走り出した。進行方向には、紫苑とテオが立っている。
 二人に向けて、エマはせめてもの対面を保つため、大声で啖呵を切った。
「どいてよ!オバさん!!」
 それは、何気ない、負け惜しみの一言。
 騙された屈辱と、本気で初めてを捧げかけた後悔を覆い隠すための、せめてもの虚勢だった。
 ――だが、その一言が、彼女の運命を分けた。

353 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:08:39 ID:1XMMb8il

「「――オバさん?」」
 
 二人を押し退けて、ドアノブに手をかけようとしたとき、低い――とても低い声と共に両肩がガッチリと掴まれた。
「え?」
 振り返ると、紫苑の右手がエマの右肩に、テオの左手がエマの右肩にそれぞれ掛かっている。見た目からは想像もつかない、強い力だった。
「なかなか、ええ度胸しとるやんか・・・えぇ?嬢ちゃん」
「オバさん・・・宇宙が出来てから初めて言われたけど、こんなに不快とは思わなかったわね・・・」
「クク・・・クククク・・・」
「フフ・・・ウフフフフフ」
 地獄から響くような笑い声に、エマの背中を冷たいものが伝う。
「いや、あの・・・紫苑さん?テオさん?ここは穏便に・・・」
「「黙って!!」」
「はい!」
 ――『キシャ〜〜〜ッ!!て感じの二人の間で、勇太がオロオロしてるのが変だった。』
 それが、後のエマがした描写であるが、実に的確である。
「ちょっと注意して帰したろ思てたけど、これは、お仕置きやなぁ・・・」
「えぇ・・・お仕置きね。サキュバスらしいし・・・たっぷり・・・ね?」
「えっ・・・・・えっ?・・・・きゃああああぁぁぁぁ!!!」
 静かな温泉街に、エマの悲鳴がこだまし――かけたが、それは勇太が反射的に張った防音結界で、外に漏れることは無かった。

 ――そもそも。
 片方は年齢250歳の吸血鬼、片方に至っては年齢など数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの情報生命体である。
 今更『オバさん』の一言の、何がそれほど気に障るというのか。
 女心の不可解さに思いを馳せながら、勇太は裸の紫苑を膝の上に乗せて突いている。
「あっ!ああぁっ!あなたぁっ!・・・・はぁん!!」
 動くたびに、その豊かな乳房が上下に柔らかく動く。だが、勇太の主な注意はそっちではなく――
「んぁぁぁ・・・これ、解いてよぉ・・・・こんなの、ふあんっ!ひどいよぉ・・・」
 サキュバスの少女は、浴衣の帯で後ろ手に縛られた格好で、テオにその身体を好き放題にされていた。思えば、まだ名前も聞いていない。
 上半身は上着を脱がされ、セーターとその下のシャツを首下まで捲り上げられている。
 Aカップのブラは、ずらされて乳首が露になり、取り去ってしまうよりもかえって卑猥な状態になっていた。
 ミニスカートはめくりあげられ、薄いピンクのショーツが覗く。
 女の子らしいフリルが付いたそのショーツも、既に失禁したように盛大に濡れてしまっていた。
 そのショーツの股間の部分が不自然に盛り上がり、モーター音が漏れている。
「買っててよかった、ってヤツやな」
「それは絶対に違うと言わせてもらう」
 ピンクローターを操作するテオに勇太が口を挟むと、紫苑がその頬に手を当てて自分の方を向かせた。
「駄目よ・・・今は、私を見ていて・・・。見せ付けてあげましょう?」
「いや、見せ付けてって・・・んっ・・・」
 言葉を継ごうとすると、そのまま顔を胸に押し付けられた。
「あなたは気にしないで・・・たまには、こういうのも・・・いいでしょ?」
「・・・・」
 もう自分が何を言っても無駄だろう。勇太は腹をくくると、腰の動きを再開した。
 結合部の水音が激しくなる。紫苑も、勇太の動きに合わせてたっぷりとした量感の尻を振った。
「はぁっ!・・あなた・・・すごいわ・・・んはぁっ!!見られて、興奮してるのぉ・・・?」
「どこでそんな言葉覚えてくるんだ?」
「だってぇ・・・あぁ・・・テオが、DVD買ってきて・・・」
 テオの方を見ると、エマのシャツをめくりながら、明らかに『まずい』という表情をしている。
「・・・テオ、あとでな」
「・・・ほれほれ、ここがええのか?」
 勇太の台詞を黙殺すると、テオはオヤジのような口調でエマの小さな胸を撫で出した。
「ふぅっ・・・そ、そんなの・・・よくなんか・・・」
 焦らすように、細い指が膨らみかけの胸を愛撫している。ぷっくりとした乳首の周囲を回り、ゆっくり中心に向かう。
 しかし頂点に到達する寸前で、その指は焦らすようにまたすぅっと引いていった。
「うあぁ・・・」
「ほぉら、見てみ。気持ちよさそうやろ?」
 テオがエマの顔を掴み、勇太と紫苑の方を向かせる。

354 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:09:48 ID:1XMMb8il
「はぁんっ!!やぁっ!こ、こんなの!!す、すぐにぃ・・・あああぁぁっ!!」
 エマにしてみれば、先ほどまで上品そうな顔で笑っていた女が、いまや本能のままに乱れて、肉の悦びを貪っているのだ。
 嬌声と水音と肉がぶつかり合う音が、合わせてエマの鼓膜から脳を犯していく。
 多分、紫苑も意識していつもより大きな声を出しているのだろうが、エマは自分の中から溢れてきたものが、またショーツを濡らしていくのが解った。
「そういや、名前、聞いてなかったな。教えてや」
 テオが尋ねるとエマは紅潮させた顔できっと睨みつけ、懸命に怒っている顔を作って言った。
「な、なんでっ・・・こんなことする人に教えなきゃいけな・・・ふやあああぁぁぁっ!!」
 ローターのスイッチが『弱』から一気に『強』にされ、取り繕った表情はあっけなく瓦解する。ニヤニヤしながら、テオは再度質問をした。
「な・ま・え・は?」
「え、えまああぁっ!しのくら、えま、ですう!と、止めて、これっ、とめてええぇぇ!!」
「エマやな。名前くらいに手間かけさせんなや・・・」
 苦笑いして、テオはローターのスイッチを再び『弱』にした。
「ふうぅ・・・」
 ぐったりとエマは脚を投げ出して脱力していたが、ふいに、
「エマ、勇太に惚れたな?」
 と、耳元で囁かれ、跳ね起きた。
「ふなっ!?な、なんでわかっ・・!?あ、や、じゃなくて・・・」
 図星を突かれ、思わず自白と同等のことを口走ってしまったエマを、テオはニヤニヤしながら見ている。
「ふふん、女の直感ってヤツや。でも、ゴメンなぁ?アイツはボクたちのもんやねん。」
「う・・・」
「でもな・・・?」
 テオはここで、エマにキスをしそうなほど顔を寄せた。透けるような白い肌に、汗の甘い香りが纏わり付いて、エマの鼓動は更に高鳴った。
「エマが、ボクたちと同じになれば、勇太はエマのもんや」
「お、同じ・・・?」
「せや。あんたがな、勇太の精気だけ目当てやったら、こんなこと言わんよ。エマが、勇太のこと好きやって解ったから、提案しとんねん」
「・・・」
「あんたが本気やのに、こっちは笑ったりしたさかいな。そのお詫びいうのもある」
 ――テオは言わなかったが、実際は一緒に暮らし始めて30年。そろそろ新しい『刺激』が欲しい、と紫苑と話していたところだったのだ。
 勇太は今の生活に満足しているようだが、正直マンネリは否めない。
 勿論、その程度の理由で勇太の元を去る気はないが、それとこれとは別の話なのである。
 そこに、カモがネギと白菜と豆腐を背負ってやってきたのだ。
 つまりエマが勇太を狙っていたように、テオ達も土産物屋の前で勇太に耳打ちされてから、エマのことを狙っていたのである。
 エマの視界の大部分を占める距離にテオの顔はあり、その背景に勇太と紫苑が絡み合っている姿が見える。
「あ、はぁっ・・・ダメっ、あなたぁ・・・こ、壊れちゃううぅぅっ!!」
 紫苑は完全に余裕をなくして、声も高く叫ぶ。既にエマの存在は頭にないようだ。
ローターの刺激が、一秒ごとに自分の理性を刈り取っていくのが感じられ、エマは息を荒くした。
「気持ちええで?勇太上手やし、こんなオモチャの何倍も、何十倍も気持ちええ・・・」
 殆ど悪魔の誘惑のように、テオが続ける。催眠術でもかけているようだったが、効果は絶大だった。
 ローターを着けられたまま、紫苑のキスから前戯、挿入までの流れを見せ付けられたのだ。
 勇太が欲しかった。
 サキュバスとして。女として。獣として。恋する少女として。
「どや?ボクらと来るか?嫌やったら、すぐ解放したる。後は、自分で決めぇや」
 そういうと、テオはローターをショーツから取り去った。
 ねっとりと僅かに白く濁った液体に塗れたそれを、テオは目を細めて目を細める。答えなど一つしかないだろう、という顔だった。
 下腹部の熱が頭にまで伝わり、神経を焦がしていく。
 男を手玉に取るサキュバスの誇りや、人間のものとは若干違うものの確かにある道徳感が、熱に押し流されていく。
 自分は今レイプに近いことをされている。
 しかし、それがなんだというのだろう。
 自分は勇太を宿主にしようとしていたのだ。
 何の不都合がある?
 結果は同じではないか。
 その考えに至ったとき、エマの理性は完全に崩壊した。
 震える声で言葉を発する。
「・・・ぃ・・・ま・・・す」
「ん?なんや。」
 途切れ途切れの台詞に、テオがわざとらしく眉を上げる。
「はっきり喋りや。どうすんねん。」
「あぁ・・・い、行き、ます・・・連れてって・・・下さい・・・!!

355 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:12:35 ID:1XMMb8il
 限界だった。唯一の刺激だったローターを取り上げられ、エマの理性は決壊した。
「ふぅん・・・やって、どうする?勇太?」
 いつの間にか、勇太がテオのすぐ後ろに立っていた。
 紫苑は、布団の上で息を切らして横になっている。
 呼吸の度に上下する豊かな乳房。長い髪が汗で顔に張り付いて、それが絶頂を迎えた女の艶かしさを際立たせていた。
 膣からは精液と愛液が混じって溢れ、布団に垂れている。
 ――自分も、ああして欲しい。ああなりたい。メチャクチャにして欲しい。
 エマは心の底から、そう願った。
 だが、当の勇太はこの期に及んでも、乗り気ではないようだった。
「どうするって・・・それでいいのか・・・?」
「あ、あたし、頑張って働きます!料理得意だし、頑張って働きますから・・・!!」
「いや、そういう問題じゃなくてだな・・・」
 困ったように頭を掻く勇太の背中を、テオが思いきり平手で叩いた。
「ほれっ!!」
「いっっでぇ!!」
「女の子にこれ以上恥かかせんなや!!男やったら、ビシっと決めんかい!!」
 そう言い捨てると、エマの腕を縛っていた帯を解く。
「はぁ・・・あたし・・・勇太さんが、いいです・・・。して・・・下さい・・・」
 立ち上がったエマは、もはや殆ど用を成していなかった服を自ら次々と脱ぎ捨てた。
 セーターとその下のシャツを一緒に脱ぎ、スカートを畳に落とす。
 ずり上がってしまっているブラジャーも、愛液の盛大な染みが出来ているブラと揃いのショーツも、一気に身体から剥ぎ取って見せる。
 細く引きしまった身体は、『女』と『少女』の中間である危ういバランスを保っていた。
 薄桃色の乳首は破裂しそうなほどに張り詰めて勃起し、ほのかに朱に染まった太腿は切なげにに擦り合わせられる。
 その姿に、勇太も遂に腹を括った。
「解った・・・。だが、俺は、女を抱くときは一生世話するって決めてるからな。覚悟しろよ?」
「はい・・・お願い、します・・・」
「おうおう、おアツいやないか」
 この状況を作り出した本人が、他人事のように囃し立てているのが勇太には納得の行かない点だが、こうなっては責めても仕方ない。
 エマは布団にうつ伏せに横たわり、尻を高く上げた。そのまま、尻の肉を自らの手で広げて見せる。羞恥は、すでに遥か彼方に吹き飛んでいた。
 薄目の陰毛に覆われて口を開いたそこはサーモンピンクの肉がひくひくと蠢き、その上にある菊門までが露になっている。
 溢れてきた蜜が細く引き締まった腿を濡らし、糸を引いて早くもシーツに垂れ始める。濃厚な女の香りが、部屋に立ち込め始めた。
 それはサキュバスが分泌する微弱な魔力を帯びたフェロモンでもあったのだが、勿論真祖の吸血鬼に通用するものではない。エマもそれは解っていた。
 勇太は勇太の理性でエマを抱くのだ。それが彼女には何よりも嬉しかった。
 催淫効果のある体液や口先の手練手管ではなく、素のままの『篠倉絵麻』が勇太に『抱く』という選択をさせた。それを思うだけで、身体の奥から熱が湧き出てきた。
「あの・・・ホントに、初めてだから・・・色々、解んないかもしれないけど・・・、来て、下さい・・・勇太さんのオチン○ン、あたしに、下さい・・・!」
「・・・解った。最初はゆっくりするから」
 直接的な言葉でせがむエマの粘膜に、勇太は自分のペニスを宛がい、ゆっくりと腰を沈めた。
 一度紫苑の中で精を放ったものの、それは全く萎えておらず、エマの膣を荒々しく貫いていく。
「あ・・・ああぁぁぁ・・・・」
 そこは既にテオの愛撫(拷問?)によって、たっぷりと潤っていた。さしたる抵抗もなく、あっけないほどに根元までが埋まる。
「ふあぁぁぁ・・・くぅ・・・全部、入りました・・・?」
「あぁ、入ったよ、エマ」
 名前を呼ばれただけで達しそうになる身体に、エマは確かな喜びを感じる。
 まだ入れられたばかりなのに、すっかり勇太に調教されてしまったような錯覚を覚える。いや、実際に調教したのはテオなのだが。
「動くぞ?」
「はい・・あっ!ふああぁぁっ!!はぁん!!ああぁぁぁっ!こ、こんなの・・・っ!!」
 サキュバスとしての本能が、貪欲に快感を神経に叩き込む。その小さな身体から溢れそうな快楽を、エマは享受していた。
「ああぁぁっ!すごい、すごいよぅ!!こ、こんにゃの、こわれひゃうぅ、ふやぁぁっ!」
 ろれつが回らなくなっても、腰は更に勇太を求めるように蠢いていた。勇太もそれに応えるべく、腰を掴んで奥を抉る。
「ごっつい感じてるなぁ・・・なぁ、勇太、ボクにもしてぇな・・・な?」
 テオが四つんばいの格好で、エマの横に並んで尻を突き出す。

356 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:13:39 ID:1XMMb8il
 勇太は右手で、その既に潤っている陰唇に触れた。暖かい泥に沈んでいくように、抵抗無く指が入っていく。
「ふやああぁぁ・・・。」
「こっちも、すっかり出来上がってるな」
「だって・・・ボクも、お預けやったしぃ・・・ふあぁ・・・紫苑と激し、かったからぁ・・・」
「見てるだけで濡れてきちゃった?」
「・・・・ふくぅっ!」
 喘ぎながら、テオは何度も頷く。
 内壁を引っかかれて身体を振るわせるテオと、エマの二つの嬌声が空中で絡み合うように響く。
「あぁぁっ!エマ・・・気持ちええか・・・?はぁ・・・」
「うん、うん!!気持ち、いいよぉっ!!・・・ふあぁぁっ!!」
「さよか・・・んっ・・・これで、ボク達と一緒や・・・エマも、勇太のもんや・・・」
「あぁ・・・」
 エマの唇の端から、涎が垂れた。それを舐め取るように、テオは唇を重ねる。
 余談だが、これがエマのファーストキスだった。
「んんっ・・・ちゅぅ・・・ゆうたぁ・・・あたし、の中、気持ちいい・・・?」
「あぁ、エマの中は気持ちいいぞ・・・ぬるぬるしてて、ギュウギュウに締まって・・・」
「あぁ・・・嬉しい、よぉ!はぁぁっ!!んああぁ!」
 自分の身体で、相手も悦んでくれている。その事実が、エマを更に焦がしていく。絶頂はすぐそこだった。脳裏に、脱力して横たわる紫苑の姿が映る。
「ああぁぁっ!!らめっ!もう、あたし、イっちゃう、イっっちゃうぅ!!」
「あかんっ・・・ボクも、指でぇ・・・はあああぁっ!!」
「あぁ、俺も、出そうだ・・・」
「出して!あたしの中に、ゆうたのせーえき、せいき、全部、ちょうだいぃ!!」
 エマは涎をシーツに垂らし、半狂乱になって懇願する。
「くぅ・・・出すぞ、受け取れ!!」
「あぁ、来て、来てぇ!!あ、ふあっ、ああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 思考が真っ白に染まり、エマは生まれて初めての絶頂を味わう。
 膣の中に出された精液から、まるでスポンジに熱湯が染みるように、圧倒的な熱を持って精気が全身に伝播した。
「あっ・・・ああああぁぁぁっ!!!りゃめぇっ!!ふあああ、こ、こんにゃぁ、聞いてひゃいい・・・っ!!」
 勇太のペニスが抜かれても、エマの視界は真っ白のままだ。
 それまで一人でやっていた自慰とは全く違う、怖いほど長く続く絶頂感にエマは全身を痙攣させて悲鳴を上げた。
「イってる!!あらし、じゅっとイっひぇるううぅぅ!!」
シーツの上を快感に任せて悶絶するエマの股間から、勇太の精液が溢れて飛び散った。
 その飛沫が、勇太本人の顔に掛かる。
「うわっ・・・と。スゴいな・・・噂には聞いてたけど」
「スゴいんは、勇太の精気とちゃうの?」
 勇太の頬に掛かったザーメンをペロリと舐めて、テオは言った。
「まぁ、精気の量に応じて、強い絶頂を迎えると聞いたが・・・そんなにかな?」
「そんなになんやない・・・?なぁ、勇太・・・ボクにも、ちょうだい・・・?」
 腕を絡めながら、テオがせがむ。
 エマはそれを見ながら、自分がもう普通の人間の精気では満足できない体になったのを感じた。確かにこれは、一生面倒を見てもらわねば割に合わない。
 脱力するエマに、誰かが後ろから抱きついた。
「ひゃぁっ!!」
「駄目よ、休憩しちゃ・・・これは、お仕置きなんだから・・・」
「えっ・・やぁんっ!!」
 有無を言わさず、紫苑はエマの乳首を摘み、捻り上げた。
「や、やだっ!こんな・・・あああぁぁっ!!」
 エマは、今度はテオと勇太のセックスを見せ付けられながら、紫苑に弄ばれるのだった。

357 :或る吸血鬼の懸念事項 エマの場合 :2006/12/24(日) 05:16:18 ID:1XMMb8il
         ※           ※              ※
 ――そうだった。今の状況とそっくりだ。
 テオねぇが勇太としてて、しーねぇがあたしとしてて・・・。
 そう言えば、あまり意識してなかったけどファーストキスってテオねぇだったんだ、あたし。思い出したら、ちょっとだけ腹が立ってきたかも。
 次の日の朝起きたら、しーねぇが『旅行に来たらすごいお土産が付いたわね』って笑ってたな。正直腰が立たなくて、それどころじゃなかったけどね。
 まぁ、初めのうちはやっぱり色々考えたけど、今はもういいかなって思ってる。
 だって、毎日凄く幸せなんだもん。
 勇太のことだって、一日ごとにちゃんと好きになっていってるし、好きな人に毎日ご飯作ってあげられて、『おいしい』って言われるとウキウキしちゃう。
 少しだけ心配があるとしたら、あたしの知らない昔のこと。
 勇太の昔のことなんて解らない。
 しーねぇもテオねぇも、色々あったみたいで、その辺あんまり話したがらない。
 それがちょっと時々寂しかったりするけど、でもいつかあたしにも話してくれると思うし、あんまり今は気にしない。
 おんなじ人が好きな者同士だもん。きっと、最高に趣味が合う仲間なんじゃないかな、って思う。ポジティブなのはあたしの取り柄だし。
「ああぁぁ・・・きもちええ・・・紫苑も、エマも、来てぇな・・・」
 テオねぇからお呼びが掛かった。あたしとしーねぇは、キスをやめると、目を光らせてテオねぇに襲いかかる。
「ふあぁぁぁぁっ!!、あっ、あぁんっ!!ダメッ、あかんって・・・!!」
「あかんって、テオねぇが『来て』っていったんでしょー?」
「そうそう、発言には責任を持たなきゃね」
「そない言うたかて・・・ふああ・・・激しいすぎぃ・・・!」
 思い出したんだし、一年前の仕返ししなきゃね。

※             ※            ※
「ふむ・・・首尾は上々・・・と言ったところかな」
 向かい合わせに座ったイルマに、携帯電話をしまいながら男は言う。
 男は狩野竜馬(かのう りょうま)といった。もとは『組織』で『15』のナンバーを持っていた、後天性吸血鬼である。
 リムジンの後部座席は、狩野の隣に人間の女が座り、その向かいにイルマが身を竦ませているという状態だった。
 運転席との間には強化ガラスの板が嵌っており、こちらとは隔離されている。
「少し早いが、祝杯を挙げようか・・・。ワインは飲むかね?」
「・・・」
 イルマは首を振った。
「そうか・・・では、勝手にやらせてもらうとしよう」
 そう言うと、狩野は隣の女を抱き寄せた。女は、甘えるように彼の首に手を回す。
 イルマはフードを被り、固く目を閉じて耳も塞いだ。
「なぁにぃ・・・・?この子?」
 女がその様子を見て、不機嫌そうに言う。息が鼻に抜けるような、だらしない喋り方だった。 
「なぁに・・・刺激が強すぎるのさ。気にしなくて良い」
「あらぁ・・・こんな車の中で、何するつもりなの・・・?」
 香水の臭いを下品に振りまいて、女は媚びるように尋ねる。
 ――何も知らずに。
 狩野は、女の首筋に顔を埋めたまま、言った。
「ワインを、飲むだけさ」
 ――獲物が異変を察知した時には、何もかもが遅かった。
 悲鳴がこだまし、香水の香りが血の生臭さに変わる。
 断末魔がやみ、それが液体を啜る音に変わっても、イルマは耳と目を塞いでひたすらに妹のジルマと故郷の村のことを考えていた。

938 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:35:45 ID:DlYTadEb
 研究室のドアを開けると、爾がソファから立ち上がり、
「講義中に申し訳ありません」
と型どおりの挨拶をした。その姿は、早朝からの呼び出しに応じて方々を駆け回り、かなり草臥れている。目の下の
隈に、乱れた髪の毛がその印象をさらに強めていた。
美濃山は挨拶もそこそこに、すぐに向かいに座る。
「例の件だね。君に話を聞いてから気にかけてはいたんだが・・・」
「一晩で三人です・・・」 
 テーブルの上には既に地図が広げられていた。犯行『予想』地点を示す青い印の場所が、犯行『達成』地点を示す
赤で塗りつぶされている。
 昨夜の深夜から未明にかけて、三人の新たな犠牲者が出てしまった。
 現地を警戒していながらこの有様である。犠牲者を出してしまったのも勿論だが、自身の無力さにも、爾は苛立ち
を感じていた。
「一晩で三つの儀式を行ったわけか・・・早すぎるな。一人の術者がやったとは思えない」
「しかし、この手の儀式は一人がやらなければ意味がないはずです。手分けしては成立しません」
「確かに・・・魔導紋がなぁ・・・それに術式の構成時間を考えると・・・」
 美濃山は、専門用語を含む独り言を呟きながら首を振った。
「ふむ、ひとまずそれは置いておこう。
 実は、昨夜の件が無くても、君に連絡を取ろうと思っていたのだよ」
そう言うと、美濃山は立ち上がり、キャビネットから一枚の折りたたまれた図面を取り出した。
「『索』のことなのだがね・・・それっぽいものが見つかったよ。手に入れるのに苦労したが・・・」
 席に戻った彼は、爾の地図の横にその図面を広げた。
 それは爾が持ってきたものと似たような地図だったが、道路や等高線の他に、別の線が縦横に細かく走っていた。
通常の地図ではなく、何か専門的な分野に使う、特殊なもののようだ。
「これは・・・?」
「地下ケーブルの設置計画図だよ。宅地造成のときの・・・6年も前のものだから、探すのに苦労したよ」
「ケーブル・・・」
 縦横に街を走る線のうち、何本かがマーカーで上からなぞられている。
その形は、魔方陣の形――六芒星と、それを内接する円だった。
 六芒星の頂点と、爾の地図の印は完璧に一致している。
「当時の事情を調べてみたが、電線を地下ケーブルに切り替える工事は、入札の時に一社がかなり強引に割り込ん
で落札したらしい」
「その会社が・・・『連中』の・・・」
「隠れ蓑、ってとこだろうな。ちなみにその後、ケーブルの仕事を終えたあとにこの会社は、さっさと潰れてしま
ったそうだ。いや、もう必要がないから、潰したんだろうな。
 恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
 恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
同じ町に住んでいながら、これほど堂々と犯行の準備を進めていたのだ。大胆に過ぎると言えばそうなのだが、向
こうとしても爾の存在など知ったことではないだろう。
 だが、『何のために?』という疑問は解けないままだ。
 そもそも、なぜこの場所でならなければいけなかったのか。
 この街を包むほどの魔方陣を、どうしてわざわざ会社を立ち上げてまで、仕上げなければならなかったのか。
 そう思った爾の目に、地図上の一点が、あたかも光を発しているように浮かび上がった。
「まぁ、これが解っても、今更どうしようも無いのだが・・・ケーブルを切るわけにもいかんだろうし、なんにし
ても目的がなぁ・・・魔方陣の形状を見る限り何らかの呪詛だとは思うのだが・・・」
 白髪に手を突っ込んで、美濃山は説明を続ける。
 だが、その説明は殆ど爾の耳には入っていなかった。
「・・・その工事が行われたのは、6年ほど前からなんですね?」
「あ、あぁ・・・そうだが・・・」
 ふいに質問されて、美濃山が戸惑う。
 ある仮説が、爾の脳裏に浮かんでいた。
 図面にひかれたラインを目で辿って、爾の顔は蒼白になった。
「まさか・・・」

『外れてりゃいいな、っていう予測はあるけどね』

 勇太が言っていた『予測』とは、このことなのか。
 爾の背を、冷たいものが伝う。

939 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:36:37 ID:DlYTadEb
「鴇沢君・・・?」
 ――直径20キロの魔方陣――それほどの仕掛けでなければ、討ち果たすことの出来ない『相手』。
 ――30年前の『抗争』――彼らの頭目を葬ったのは『誰』か。
 ――6年前からの計画――6年前に『何』がこの場所にやってきたか。
 答えは常に目の前にあったのだ。気付かなかった自分が馬鹿に思えてくる。
 魔方陣の円内に、そのマンションはある。勇太の言葉が、脳裏をよぎった。
 
 『相手の立場になって考えろ』
 
 これほど目立つ、大掛かりなことをしてでも『連中』は彼を倒したいだろう。
 その恨みも30年ともなれば、さぞかし蓄積されたことだろう。
「どうした?具合でも悪いのかね?」
 彼女は美濃山の問いには答えず、跳ねるように立ち上がった。
あっけに取られる美濃山を尻目に、爾は鞄をひったくると、
「失礼します!!教官!!」
と部屋を飛び出した。
 一人残された美濃山はしばらくポカンとしていたが、やがてソファに深々と身を預け、窓から差す西日に目を細めた。
 雲が夕日に焼かれて、血のような赤い色に染まっていた。
 
        

               ※            ※             ※
 
 ええ、そうです。イルマとジルマは、双子です。
 村には代々、その家の長女が巫女を務めるという家系があり、二人はその家に生まれました。
 一応、姉がイルマで、妹がジルマということになって居ましたが、今回の場合は特殊な事情があったため、『2人で
1人』の巫女ということになったのです。

――特殊な事情?

 はい。
 巫女の家系は、村の中でも強い魔力を備えた者の血を、濃くしていったものです。
 ですが、あの2人は、周囲が期待しているほどの魔力を持っていなかった。
 結論を言えば、代々の巫女のおよそ『半分』の魔力しか、備えていなかったのです。

――それで、『2人で1人』・・・と?

 姿形は勿論、声や話し方、好みまで一緒でしたから、周囲の勧めで、見分けをつけるために、髪型を変えていたくら
いです。赤毛を右側で編み込んでいるのが、姉のイルマ。左側が妹のジルマ。
 勿論、双子だからといって完全に一緒というわけでもなく、イルマの方が、どちらかといえば活発なようで、ジルマ
がそのブレーキ役をすることが多かったですね。得意な魔術も、イルマは電撃や炎熱などの攻撃系、ジルマが結界など
の防御系と、互いの欠点を補い合っていました。
 母の胎内で魔力を分かち合った二人ですから、『2人で1人』という言い方も、単なる比喩以上の説得力を持ってい
ました。
 ・・・口さがない村の者は、『出来損ないの巫女だ』などと陰口を叩くこともありました。
 村の信仰神・・・その象徴である『私』を守るには、不十分だと。
 しかし、彼女たちは十分にやってくれました。まだ年若く、未熟な部分もありましたが、それでも、2人で力を合わ
せて私を守ってくれました。

――それで、彼女たちは、今、どこに・・・?

 遠く・・・東の地でしょう。
 ・・・あの者たちが、この森を焼くときに、『ニホン』という地名を口にしていました。

――そう・・・ですか。


940 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:37:53 ID:DlYTadEb
 あなたは、悲しんでいるのですね?

――え?

 大丈夫です。ありきたりな言い方ですが、形のあるものは、いずれ壊れてしまうのです。
 あなたが、私に何もできないことを、気に病む必要はありません。確かに、不本意な終わりではありますが、それだ
けです。私はもう、十分に生きました。
 それよりも、あの双子を、お願いします。彼女たちは、あの者たちに連れ去られ、きっと恐ろしいことに利用されよ
うとしています。
 人間よりも遥かに大きな魔力をその身に宿す、竜人族の中でも特別な2人なのです。おそらく、利用されれば恐ろし
いことになる・・・。

――・・・はい、必ず。

 ありがとう・・・。
 あなたは、優しい方ですね・・・。
 最後にお話できるのが、あなたのような方で良かった・・・。




 彼はトランス状態から意識を覚醒させた。
 涙が頬を伝っていた。
 辺りは、一面の焦土だった。炭化した家の残骸が墓標のように立ち、地面までも文字通りの灰色で覆われている。
 20メートルほど離れたところに、彼らが乗ってきたヘリが止まっており、それがこの場で唯一、炎の洗礼を受けて
いないものだった。そして、生きているものは、『機関』が派遣した、彼らだけである。
 ここにはかつて、竜人族の集落があった。『竜人』という名前は、魔力のセンサーの役割を果たす額の角と、強大な
魔力を持つことから連想された単なる比喩でしかない。また、『種』ではなく、『族』と呼ばれるのは、彼らがこのロ
シアの国境付近にある深い森の奥で、独自の言語を操り、独自の信仰を持ち、殆ど血縁の一族だけで自給自足の生活を
していたからだ。
 ――全ては過去形の話になってしまったが。
 現実には、世界唯一の村は炎に呑まれ、そこの住民も殆どが命を落とした。
 村から延焼した炎は、森を二週間の間、数百ヘクタールに渡って焼き尽くした。対外的には、この一件は原因不明の
山火事ということになっていたが、遺体に残された弾痕が、その嘘がいかに薄っぺらいものであるかを物語っていた。
 彼は、目の前の大樹を見る。
 直径20メートルほどの、太い幹。それが、五メートルほど上で、ぼっきりと折れていた。恐らく、業火に晒され、
自重に耐え切れなかったのだろう。もしも無事なら、資料によれば高さ70メートルの大木だ。樹齢に至っては、想像
さえもつかない。だが、その年月が、先ほどの会話を生んだと言ってもいいだろう。
 樹木も、長い時を生きれば意思や自我を持つ。先ほどの会話は、彼が自らをトランス状態に持ち込み、意識をこの木
とリンクさせて得られたものだ。
 世界でここにしか居ない種が、殆ど全滅させられたという重大事件である。『機関』の上層部は、何としても解決を
しなければと息巻いていたが、その成果は芳しくなかった。これだけ大規模な山火事を完全に世間に対して隠しおおせ
るわけもなく、その対応だけで精一杯なのだ。もしマスコミのヘリが、地図にはない集落の後を発見したら、それだけ
で大騒ぎになる。
 そんな中、魔術師としてはまだ駆け出しの彼が、この調査へと借り出されたのだ。
「・・・何か、情報は・・・?」
 彼の傍らに立つ、軍人風の男が言った。
「日本・・・だそうだ。その地名を、聞いたと。それと、村の双子の巫女が拉致されたらしい」
「・・・そうか。日本支部に連絡をとろう」
 短い会話だった。だが、それだけで十分だった。
 決してドライなわけではない。彼も、自分も、今回の事件に関しては相当の怒りを持っているし、使命感も抱いてい
る。ただ、その怒りや使命感を、決して人間の世界に持ち込めないというだけの話だ。
 それがお互いに解っているからこその、会話だった。
 彼は立ち去る前に、もう一度大木に触れた。
 人間の胴体ほどもある根が地面に潜り込み、そこから途方もなく太い幹へと続く。その姿は、既に樹木の一種という
域を超えるほどの神々しさを、炭化した今でも周囲へ放っていた。
 自我を持った時点で、この木は樹木として生きることを辞めていたのだ。

941 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:38:39 ID:DlYTadEb
 そして、この村で竜人族の営みをただ見届け続け、理不尽にその命を奪われた。
 自分の無力さが悲しい。死に掛けであるこの木に対して、何も出来ない自分が恨めしい。その感情さえ、一般には受
け入れられないものなのだ。そのまま、深々と溜息をつく。
 その溜息で弛緩した意識の隙間を縫うように、突然微かなイメージが手の平から流れ込んできた。それは、木が語り
かけてきたわけではなく、ただ意思の残滓が偶然流れ込んできた、ノイズに近いだけのものだった。
 だが、彼はそのイメージの意味を悟ると、突然しゃがみこんで足元を素手で掘り返し始めた。
 灰が積もった地面は、まだ仄暖かい。灰をどけ、地面を露出させると、さらに慎重に手を進めていく。
 ふと、小さな手ごたえを感じた。
 それは、二センチほどの種子だった。
 霊樹が、この世に残した、小さな小さな希望。
 それを見つけた彼の目に、再び涙が溢れる。
 同僚が怪訝そうな顔をするのも気にせず、彼は種子を抱き締めたまま、焦土の真ん中で声にならない嗚咽を漏らし続
けた。
                     
                   ※           ※             ※

「今こそ!!」
 狩野はその場にいた30人ほどの群れに向けて、大声で言った。
「今こそ、雪辱を晴らすときはきた!!アレン様が成し得なかった、世界の掌握!その一歩として、今ここに復讐を!!」
「「「「「復讐を!!!!!!」」」」」
 鋭い牙が覗く口で、集団は吠えた。
 ある建設会社の資材置き場だった。
 既に、場は完成している。六人の生贄から採取した血液を混合したものを絵の具とし、彼らが街に送電ケーブルで描
いたものと同じ魔法陣が出来上がっていた。
 その中央で、狩野は演説をしている。黒いバンが4台、リムジンがそれらに挟まれるように1台。それら車のライト
は全て点けっ放しにされ、狩野をスポットライトのように照らしていた。
「我らは今宵『母体』を得る!!『イヴ』を得た我らはまさに『アダム』となるだろう!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」
 大気を震わせる異形の声。
その熱気と歓声の中、二人の少女が狩野の横に連れてこられる。フードを被っており、表情は見えない。
「さぁ・・・始めよう。イルマ・・・ジルマ」
 狩野は少女たちの耳元で告げると、魔方陣の外に出た。
少女たちはフードを取る。
その下から現れた顔は、ほぼ完璧に相似形であったが、髪型だけが違っていた。
右側で髪を編み込んでいるのが姉のイルマ。反対側が妹のジルマだ。
丸顔に、あどけない童顔をしていたが、その表情は堅い。
双子は、同じ動作で首から下げたペンダントを握った。
それは、樹齢3000年を越す、彼女たちの故郷にある霊樹から作ったもので、村の信仰神の姿が彫り込まれていた。
 人型に翼を持つ神の姿を握り締め、二人は頷きあう。
 同時に、双子は口を開いた。呪文を詠唱し、術を完成するために。
「おぉ・・・・」
 狩野が息を漏らす。
 それは声とも音ともつかない、不思議な音色だった。
 彼女たちの種族、竜人族が持つ、独特の発声器官から生まれる、歌のような呪文。
 異なる二つの旋律は絡み合い、溶け合って大気に一旦拡散する。双子の良く似た性質を持つ魔力が、完璧に統合さ
れ、一つの形を造り上げていく。
 二人で手分けをして行った生贄の儀を、一つの術として纏めるためのコーラスは、やがて生贄の呪詛を吸収して再
び集合を始める。のたうつような怨念が地下のケーブルを駆け巡るのを、イルマとジルマは額の角で、鋭敏に感じて
いた。
 術式の図面を描いたのは、狩野だった。だから、イルマ達は直接に彼の口からこの術の効果を知らされていない。
恐らく、彼女たちは狩野からすれば、生贄達と等しく、術を完成させる『装置』であり、『道具』なのだ。
 だが、目の前で泣き叫ぶ生贄を殺され、術を強要され、その上でも自分が何をしているのか、まったく見当がつか
ない程、彼女らは鈍くなかった。
 自分たちがこの術を為すことで、何か恐ろしいことが起きる。
 だが、もはや彼女たちに自由は無いのだ。この場で逃げようとも、行く場所も無い。村はもう、焼き払われた後だ。
狩野は、全てが終わったら村に帰すようなことを言っていたが、それが嘘だということを、二人は理解していた。
 抗う術はなく、そして帰る場所もない。
 2人に出来ることは、たった一つだけ。
 歌声のような呪文を、大気に浸透させて、自らの『意思』を乗せることだけだった。

942 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:39:45 ID:DlYTadEb

        ※          ※        ※

 勇太はベランダで煙草を吸っていた。
 既に日は没したが、どんよりとした雲が、街の明かりを微かに反射して垂れ込めていた。眼下に広がる家々に灯る
明かりの、遥か遠くを透かしてみるように、彼は遠い目をして煙を吐き出す。
「勇太ー、夜食できたよー」
「んー、ごめん、いらないかな」
 勇太がそう答えると、エマがリビングから不機嫌な顔を覗かせた。
「いらないって・・・勇太が作れって言ったんでしょー?」
「あとでチンして食うからさ。ラップでもしといて」
 話している間、彼は相手の方を見ていなかった。その態度に、エマの眉がハの字になる。サンダルを突っかけてベ
ランダに出ると、勇太の隣で住宅地よりも先の山に向けられた視線の先を追った。
「・・・何見てるの?星?」
「いや・・・そんなに綺麗なものじゃないね」
 勇太は視線を固定したままで、答える。その声は、いつもの勇太のものでありながら、老人のように、しわがれて
いるようにも聞こえた。まるで700余年という時間を、人間と同じように老化して生きてきたような声だった。
 その声に驚いて、エマが勇太の顔を見る。だが煙草の火に照らされたその顔は、当然ながら、いつもの勇太だった。
「エマにも見えるさ・・・サキュバスって時点で、人間よりは素質があるからね。実認識と虚認識の識閾値を統合し
て・・・」
「ゆーたぁー・・・」
 情けない声を上げるエマの頭を、勇太は苦笑いしながらグシャグシャと撫でた。
「ま、ようするに『心の目で見ろ』ってこと。もうちょっと具体的に言うと、『目で見る』って言うより、『肌で見
る』って感じかな」
「それでも難しいよぉ・・・それにあたし、別に幽霊とか見たくないし」
「いや、必ずしも幽霊ってわけじゃないけどな」
 膨れっ面で抗議するエマに、勇太は肩を竦めてからもう一度、山の方を見た。
 その奥から、ゆらゆらと煙のように立ち上る、濃密な怨念が、勇太の『感覚の目』に映し出されていた。その呪詛
が一筋、枝分かれしてこちらに伸びてくるのを確認して、勇太は煙草のフィルターを噛み潰し、
「始めたか・・・」
と呟く。エマは首を傾げたが、彼はそれについては何も言わずに、
「血液パック、一つ持ってきてくれるか?」
と彼女に言いつけ、頬に軽くキスをした。
 エマはその言葉どおりに、サンダルを脱いでリビングにあがった。輸血用の(ここでは飲料用だが)血液パックは、
キッチンにおいてある専用の冷蔵庫に保管されている。
 キッチンへ一歩を踏み出したエマの背後で、ふいに水を撒いたような音がした。
 振り返ると、ベランダへの出入り口が真っ赤に染まっていた。

           ※           ※              ※

 爾は走っている。駅からのだらだら坂は、全速疾走するには辛いコースだったが、それでも訓練生時代に鍛え抜か
れたのが役立った。自分の女らしくない体を、この時だけは感謝した。
 既に遅い時間のせいか、やけに大きな外車が路上駐車されている以外は、人影もなかった。ぽつぽつと、街頭が頼
りなくマンションの前の道を照らしているだけだ。
 大きく息を切らして、目的の部屋を見上げる。
 どうか間に合っていますように。その願いを込めて、一歩を踏み出そうとした爾の顔に、水滴が降って来た。どん
よりと曇った天気だったが、とうとう降って来たのかと思い、何気なく手で拭う。
 だが、それは透明ではなく、色を持って爾の手に薄く延びた。
 街灯の光に照らすまでもなく、血だった。
 もう一度、勇太達の部屋を見上げた爾の目に、何か棒状のものが回転しながら飛んでくるのが映った。反射的に身を
屈めると、それは彼女の体を掠めて、湿った音と共にアスファルトと激突し、路面を滑走して、停止した。
 人間の、肩から先の腕だった。

943 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:41:13 ID:DlYTadEb
 厳密には、それが人間のものでないことを、爾は瞬時に悟る。
 間に合わなかったか。勇太の部屋を見上げると、ベランダに片腕のないシルエットが、部屋からの照明で浮かび上が
っていた。
 と、そのとき、突然、路上駐車していた外車の後部ドアが開いた。
 車から降りてきたのは、車のイメージを体現したような女だった。ブロンドの髪は、緩く巻いており、毛皮の派手な
コートを見につけている。透ける様に白い肌が、街灯に照らされて眩しいほどだった。
 そのまま、パープルのピンヒールを鳴らし、澱みない足取りで腕へと歩み寄る。近寄ることで顔立ちがはっきりする
と、相当に美しい女であることが知れたが、その表情には驚きや恐怖といったものは一切なかった。
 あまりにも動揺した様子がない女に、爾は違和感を抱く。もしかしたら、『連中』の仲間かもしれない。
 その疑念に身構えたが、女は爾自身には全く興味がないように、勇太達の部屋を見上げた。
 横目でその目線を追った爾が見たのは、重心を崩してベランダの柵から転げ落ちる、勇太の姿だった。
 片腕のないシルエットは、8階の高さから真っ逆様に落下する。
 そのまま、地面に激突すると、思わず爾が目を閉じようとした瞬間だった。
 長身が、空中で反転した。落下の空気抵抗に弄ばれる動きではなく、意思を持って足を下にする動きだ。
 そのまま、叩きつけるような音を立てて、彼は着地した。衝撃を吸収すべく、膝を曲げている様子は、体操選手が宙
返りの後の着地を決めているように見えた。
 そのまま、曲げていた膝を伸ばすと、脚の痺れを取るようにブラブラと振って、周囲を見回す。それから、爾達を見
つけると、そのまま平然と歩いてきた。
 街灯に照らされた顔は、やはり勇太だったが、顔の右半分が血で汚れていた。
 ふいに、女が足元の腕を、ピンヒールでぞんざいに蹴り上げた。その腕は、放物線を描き、頂点を少し過ぎたと
ころで、勇太の左腕にキャッチされる。
「こんばんは、爾」
 その様子が、全くいつもと同じだったため、挨拶された当の本人は混乱した。その間に女が、勇太に向って何事か囁
く。英語のようだったが、小さな声だったため、爾には聞き取れなかった。
 驚くべきことに、勇太はそれに答えながらあっという間に右腕を接合して見せた。会話の片手間の仕事ではあったが、
爾は初めて勇太が人ではない力を使うところを、直接目の当たりにした。
 破れたカットソーの袖で汚れた顔をぞんざいに拭い、地面に捨てると、再び爾のほうに向き直る。露になった腕は、
地面に激突した際の損傷も完全に修復されていた。白く街灯の光に浮かぶ、その手を出して、
「すまん、携帯貸して」
と勇太は苦笑いをして見せた。狐につままれた思いで、どうにかスーツのポケットから携帯電話を出して手渡すと、滑
らかに番号をプッシュする。先ほどまで、肩先からもがれていたとは思えない動作だった。
「あ・・・もしもし?エマか?うん、俺。今、マンションの下にいるんだけどさ・・・うん、大丈夫。爾も一緒なんだ。
ごめんな、心配かけた。うん、あと爾のほかに客がいるから、茶を二人――」
 女が手をヒラヒラと振った。
「――いや、爾の分だけでいいや。俺はちょっと出かけてくるから。アレだったら、先に寝てて。ん、ちょっと急ぐか
ら、じゃぁね」
 そう告げると、携帯を爾に返した。
「・・・とりあえず、日本語に統一するか。アルミラ、こちらは『機関』でお世話になってる鴇沢爾。爾、こっちは、
アルミラ=C=ファニュ――」
 そこで、勇太は言葉を区切ると、悪戯っぽく眉を動かした。
「俺の義理の妹だ」
「え・・・」
 その一言で、完全に爾は絶句してしまう。
 真祖の吸血鬼である勇太の、親戚。それはつまり、彼女自身も真祖であることを示している。いや、それ以上に、
『義理の妹』という関係が突飛過ぎる。
「『元』だけどね・・・・・よろしく」
 高みから見下ろすような声だったが、日本語自体は変なアクセントもなく、流暢だった。もっとも、爾は碌に返答
できなかったのだが。
 絶句する彼女を放って、アルミラと勇太はマンションを見上げた。
「そっか、屋上の連中は、お前さんの方でやってくれたのか」
「えぇ、家の駄犬が、処理してるわ・・・いや、終わったみたいね」
 アルミラが目を細める。マンションの屋上から、影が地面に向けて降りてきていた。しかし、その形は、犬とは遠
く隔たっている。それは、各階のベランダを器用に伝うようにして落下速度を落とし、地面へと軟着陸を果たした。
 その姿を見て、爾は息を呑む。

944 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:42:08 ID:DlYTadEb
 長く突き出した鼻に、大きく裂けた口。全身を覆う褐色の体毛。大きくたわんだ背骨は、フサフサとした尻尾へと
続いていた。
「・・・じ、人狼種」
 どうにか、それだけを喉から搾り出す。
 半人半獣のそれは、爾を縦長の瞳で見、それからアルミラへ視線を移す。アルミラは、軽く頷くと、車のほうを顎
で示した。
 素早く車のドアへ消える人狼を見て、勇太は口笛を鳴らす。
「やるねぇ。随分と怖い『駄犬』だな」
「どうにも、節操がないのが悩みどころね。あなた」
 そういって、突然指差され、爾は我に返った。
「屋上、相当酷いことになってると思うから、念入りに後始末しといてくれないかしら?」
「あ・・・は、はい」
「うちのベランダも頼むよ」
 戸惑いながらも、爾は二人に背を向けて、携帯を取り出した。その後ろで、真祖同士の話は続く。
「説明してもらえるのかしら?それとも、急いでる?」
「ちょっとね・・・ありゃ、余所から術者を連れてきてるな」
「そう・・・私も『視た』けど・・・随分と殊勝な奴みたいね」
「あぁ・・・死なせるのは惜しい」
「また、お得意の偽善かしら?」
「なんとでも・・・・・・茶くらい飲んでいけばいいのに」
「冗談でしょ?あの『猿真似』達と顔合わせるなんて、ごめんよ」
 爾が電話を終えて向き直ると、勇太はその背中から翼を生やしていた。何の気配もなかったので、爾は跳び上がり
そうになる。形だけは、蝙蝠のそれに似ていたが、生物らしさとは無縁だった。墨を押し固めて作ったような、真っ
黒い羽を、一回だけ動かすと、それだけで勇太の体が宙に1メートルほど浮いた。
 マンションに着いてからの僅かな時間に、心臓が限界を迎えかけている爾に、勇太は笑って見せた。
「・・・あいつらを頼むよ。爾」
「あ・・・」
 その一言で、爾は一気に現実に引き戻される。信頼されているという事実が、自分の成すべきことを彼女に思い出
させた。
「はい!」
 歯切れのよい返事を聞くと、勇太は満足そうな笑みを浮かべ、そのまま夜空へと一気に舞い上がっていった。
 黒い羽は夜の帳に紛れて、すぐに点となり、見えなくなる。
 車のドアが開き、そこから西洋人の男が降りてきた。かなり大柄で、筋肉質な体を窮屈そうに黒いスーツで包んで
いた。映画のシークレットサービスのような恰好だった。
「一応、紹介しとくわ。執事のフリッツよ。日本語は出来ないんだけどね」
 アルミラがそのまま、フリッツに英語で爾を紹介する。
 大きく頷く頭の褐色の髪の毛が、彼が先ほどの人狼であることを示していた。
「後片付けを押し付けて悪いけど、私たちは引き上げるわ」
「はぁ、そうですか・・・お気をつけて」
 そう言った爾に、アルミラは片眉を上げて見せる。
「いいの?『機関』の人間として、真祖が悠々と大手を振って歩いているのを見過ごすのは、拙いんじゃないかしら?」
 アルミラ目の奥に、僅かに宿った挑戦的な眼差しを、爾は真っ直ぐに見据えて答えた。
「私には止める術もありませんから・・・上司に多少小言は言われるでしょうが、それだけです」
「ふぅん・・・あの男には抱いて貰ったの?」
「なっ!?」
 唐突に言われて、爾は声を上げた。だが、アルミラは意に介さず、既に歩き出している。
「まったく・・・無駄足もいいところだわ・・・」
 ぼやきながら、車に乗り込む。フリッツも、明らかに日本の風習に慣れていない、不恰好な礼をしてから、運転席に
乗り込んだ。
 走り去るテールランプを見送りながら、爾はアルミラの言葉を反芻して、立ち尽くす。
 そもそも、初対面で自分が女だと見抜かれることすら、ほとんどなかったのだ。それは、真祖の眼力だと思うにして
も、『抱いて貰ったの?』とはどういう意味だろう。ただの冗談だったのだろうか。
 だが、今はそれについて深く考えている暇はない。勇太達の部屋に行かなければ。
 自分のすべきことを思い出すと、爾は入り口へと急いだ。
 部屋に上がると、テオに出迎えられ、キッチンへ通される。そこには、エマと紫苑が既に紅茶を飲んで待っていた。
だが、暖かい団欒といった雰囲気ではなく、空気はただただ重い。特に、エマは普段の快活な印象を完全に失ってい
た。紅茶に口をつける動作も、どことなく機械的で、緊張で口が渇くのを抑えるためのようだ。
 テオが爾の分の紅茶を差し出す。礼を言ってそれを一口啜ったところで、紫苑が口を開いた。
「じゃぁ・・・始めましょうか」

945 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:42:57 ID:DlYTadEb
「せやな・・・爾クン。今から、ちょっと込み入った話するさかい・・・」
「あ、外しましょうか?」
 慌てて腰を浮かしかける爾を、紫苑が手で制した。
「いいの。爾さんにも、聞いていて欲しいお話だから・・・」
「はぁ・・・」
 生返事をして、爾は再び椅子に腰を落ち着ける。
「まぁ、元はといえば、ボクのせいやからな・・・エマもここに来て一年が経ったし、話しといてもええやろ」
「別に、テオだけのせいじゃないわ。いい機会というのには賛成だけど」
「うん・・・・ありがと」
 まだ話の流れが掴めず、目を白黒させる爾を見て、紫苑が微笑んだ。
「エマにね、私たちの昔のことを、話しておこうと思って。本人が、聞きたいって言ってるのもあるけれど」
「え?」
 エマに視線をやると、彼女は軽く頷いてみせる。それは、相当に過酷な話を聞かなければならないという、覚悟を
秘めた眼差しだった。爾はまだこの時知らないことだが、エマは目の前で愛する男が傷つく姿を見てもなお、過去か
ら目を逸らしては居られなかったのだ。
「まぁ、ボクらが話せるのは、ボクのことだけやけど・・・せやな、さしあたり、紫苑から話してくれるか?あんた
の方が、付き合い長いからな」
 テオに促されて、紫苑は頷く。それから、一度大きく息を吸って、語り出した。
「そうね・・・まず、私のこの姿だけど・・・これは、ある人から借りたものなの」
 そこで、言葉を区切り、全員を見る。
「彼女の名前は、レイチェル=ガリアンド・・・あの人の・・・そうね、配偶者だった女性ね」
「は、配偶者って・・・奥さんってこと?」
 素っ頓狂な声を上げるエマに、紫苑は頷く。その目は、鬱々として暗く、あえて感情をオフにしているような印象
を受けた。
 爾も目を見張る。アルミラが勇太の義理の妹なら、紫苑が姿を借りているその人物は、アルミラの姉ということだ。
「えぇ・・・もう亡くなったけれども。時系列に沿って話さないと、訳が解らなくなるわ。
 そう・・・今、宇宙の成り立ちとして最も有力な説は、ビッグバン理論と言われるものだけど・・・・・私のこと
を話すには、ここまで遡らなくてはならないわね・・・・」


        ※           ※         ※

「どういうことだ!これは!!」
 遠くで、狩野の叫びが聞こえる。怒号と混乱の坩堝のなか、イルマは魔方陣の中央で仰向けに倒れながらも、笑お
うとした。だが、顔の筋肉を動かすだけで全身に走る激痛のせいで、それは上手くいかなかった。
 イルマは、満足だった。
 自分の力で、誰かを傷つけることなく済んだのだから。例え、そのせいで自分が滅びたとしても、巫女として生き
てきた自分としては、満足だった。
 妹のジルマも、同じ考えのはずだ。今までも、ずっと一緒だったのだし、今回も自分の考えに同調して力を貸して
くれたのだから。
 体中が錆びついたように動かなかったが、それでも辛うじて首を妹の方に向ける。二人の手は、固く繋がれていた。
 妹は、血に濡れた顔で、それでも微笑んでいた。
(大丈夫・・・お姉ちゃんと一緒なら・・・平気)
 念話だった。すでに虫の羽音のように微弱で、辛うじて意味が汲める程度のものだった。
 声を出そうにも、声帯は爛れてしまい、呼吸さえも辛かった。
(ごめん・・・でも、こうするしか・・・)
(いい・・・この後も、ずっと利用されて、沢山の人を傷つけるよりも、ずっと、いい)
(うん・・・ありがとう)
 儀式を始める直前の僅かな時間、2人は念話を使い、そして決断した。
 詠唱にほんの僅か、気取られない程度の『意思』を込めること。
 その『意思』は、術の矛先を自らに向けるというものだった。それはつまり、どこの誰かも解らない標的を、自分
の身を犠牲にして守る、という『意思』だ。
 既に術式自体が仕上げの段階だったため、全ての呪詛を『意思』にそぐわせることはできなかったが、それでも、
二人は精一杯を尽くした。
 身体の芯の方に、深々と生贄の怨嗟が爪を立てている。激痛はやまなかったが、それでも安らかだった。
 ふいに、ジルマの念話が聞こえた。
(神様・・・・助けて・・・お姉ちゃんだけでも・・・)
 それは、はかない祈りだった。既に、念話に乗せるイメージと、そうでないイメージの差別化が出来ていないよう
だった。

946 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:44:48 ID:DlYTadEb
(馬鹿なこと言わないで・・・2人は、ずっと一緒だったでしょ?)
(違うの・・・違う・・・)
(何が、違うの・・・・・?)
 ジルマの目から、涙が零れる。それは、血に染まった顔に一筋のラインを引いた。
(私・・・あいつに・・・犯されたんだ・・・・)
(・・・・!!)
 小さく、浅い呼吸が乱れた。脳裏に、小さく声が聞こえるだけの狩野の顔が浮かぶ。
(私は、汚れちゃったの・・・・だから、神様が助けるなら、きっとお姉ちゃん・・・)
 その告白を聞いて、視界が滲んだ。
 悔しかった。
 あの男は、自分たちから何もかもを奪っていった。
 故郷も、家族も、巫女としての役割も。
 その上、妹の純血まで。
 それを知らなかった、自分に怒りが芽生えた。1人で悲しみ、自らの境遇を嘆くしかしなかった自分が、腹立たしく、
悔しかった。そうしている間、妹はたった一人で、悩んでいたのに。
(術・・・上手くいってよかった・・・汚れちゃった私と一緒じゃ、失敗するって、思ってたけど・・・)
 自分は姉なのに。どうして、守ってやれなかったんだろう。
いつも、何から何まで一緒だったから、故郷から引き離された今でもずっと一緒だと、根拠もなくそう思っていた。
(違う・・・違うよ、ジルマ・・・・ジルマ・・・)
(お姉ちゃん・・・自分を、責めちゃ、ヤだよ?私は・・・いいから)
(よくないよ・・・よく、ない・・・!!)
 喉が潰れてなければ、きっと大声で泣き叫んでいただろう。
 五体が満足ならば、きっと思いつく限りの攻撃魔術を狩野に叩き込んでいただろう。
 怒りと悲しみと情けなさがない交ぜになって、全身の傷口から噴出してきそうだった。
 だが、何もかもが遅すぎた。
 車のヘッドライトで照らされているはずなのに、視界が酷く暗い。吸血鬼たちのざわめきが、遥か遠くに聞こえる。
(・・・悔し・・・な・・・んな・・・り・・・)
 ジルマの念話も、途切れ始めた。もう、何もかもが手遅れだ。
 瞼が重い。イルマは、もうそれに逆らうことはやめることにした。
 目を閉じる前に、イルマは繋いでいない方の手で、ペンダントをもう一度強く握った。
 人に翼の生えた姿。村の大樹に宿るとされる、その姿を脳裏に思い浮かべ、目を閉じようとしたとき。
 2人に影が差した。
 裸足の足が、2人の顔の間に割って入ってくる。
 どうにか、イルマは目だけで足の持ち主を確認した。
 その人物には、羽が生えていた。
((・・・・か、み・・・・・さま・・・・?))
 2人は、同時にそう思った。
「なん・・・、間に合っ・・か・・」
 そんな会話が聞こえてきたが、彼女に内容を吟味することは、もう出来なかった。
                ※              ※          ※ 

 夜の闇を押し固めたような、質感を感じさせない羽。
 影のような、黒く長い髪。
 鳶色の目は、怒りに燃える。
 彼らが最も認めたくないものを、彼ら自身が用意したヘッドライトが照らし出していた。
「なんとか・・・間に合ったか」
 勇太が指を鳴らすと、双子がそれぞれ、ドーム状の光の膜に包まれた。
 呪詛を中和する魔術と、損傷を受けた組織を再生する術を、同時に重ねて掛けているのだ。光が二つの術の干渉で、
シャボン玉のような美しい揺らぎを見せている。
 その輝きは真祖と、彼らの圧倒的な戦力の差を物語っていた。
 真祖は、その『生態』として魔術を使う。
 チーターが途方もないスピードで走ったり、イルカが数十分も潜水をするのと同じ、進化上で与えられた種としての
『生態』だ。他の者がそれに追いつくには、自動車や潜水艦を作るのと同じ、『技術』を用いるしかない。すなわち、
術式の組成、魔力の確保、儀式の執行、呪文の詠唱、精神の初期化・・・それらの手順が、魔術における『技術』であ
る。
 目の前の存在は、その『技術』の成果を、指を鳴らすだけで、いとも簡単に実現してのける。チーターが内燃機関の
助けなしに、時速100キロ以上へ加速するように。
 そして、『彼ら』に『技術』はもう残されていない。あるのは、生身の身体と、彼の前では『僅か』と言っていい武
装だけだ。
 術の効果が、滞りなく現れているのを確認すると、勇太は口を開いた。

947 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:45:53 ID:DlYTadEb
「作戦失敗の次は、迅速な撤退・・・それが鉄則のはずだが?特に、俺みたいなのを相手にするときは、な」
 全員が、声にならない声を上げた。双子が倒れてから10分と5分と経っていないのである。それに、撤収が完了し
たところで、逃げおおせるとはとても思えなかった。その場にいる全員が、勇太の姿を見ただけで、それを本能で察し
ていた。
 ふいに、ヘッドライトに照らされた両翼が、液体のように形を失って、一つに纏まる。
「・・・・喰われろ」
 その言葉をきっかけに、タールの塊のようなそれは、爆発的に体積を増大させ、奔流となって襲い掛かった。それは
夥しい数の蝕腕へとほどけていく。一本が大人の胴回りほどもあり、その先端には爪か牙、あるいはその両方がついて
いた。
 逃げ惑う者も、立ち向かう者も、行動に対して期待した結果が、ことごとく裏切られるのを享受するしかなかった。
 喉笛を食い破られ、身体を内側から切り裂かれた死体は、野生の動物が獲物を喰らうときの無秩序な破壊を思わせた。
 バンが宙を舞い、頭から地面に突き刺さる。『中身』ごと雑巾のように絞られ、オイルと血と部品を撒き散らしなが
ら、炎上したそれは、さながら燃え上がる墓標のようだった。
 狩野は、自分が描いた絵が、上からペンキをぶち撒けられて、塗り潰されるのを感じた。
 骸が打ち上げられ、花火のように空中で弾ける。血の雨が降り注ぎ、狩野の全身を汚した。のたうつ大量の触手に、
為す術なく蹂躙される者たち。B級のモンスター・パニック映画を思わせる光景だったが、それは絶望的な現実だった。
 悲鳴、銃声、爆発音。肉の裂ける音、骨の砕ける音、血が降り注ぐ音。
 獣臭、火薬臭。血の臭い、糞尿の臭い、臓物の臭い、焦げる臭い。
 感覚の全てを、極彩色の地獄が彩る。
 その殺戮の中心に佇む勇太の視線と、立ち尽くす狩野の視線が交錯した。
 狩野はスーツの内側にある拳銃を思い描いた。
 それを抜いて、照準し、引き金を引くまで、おそらくコンマ1秒も要らないだろう。
 しかし、それでも全く足りなかった。
 銃では勝てないのだ。時間は問題ではない。
 しかし、それでも狩野はスーツに手を差した。
 それが合図のように、勇太が纏う闇が襲い掛かる。真横に跳び、鉄骨の後ろへ隠れる間に4発を撃った。
 空振りした触手が地面に穴を空けるが、すでに別の数本が狩野の後を追っていた。
 隠れていた鉄骨の山が薙ぎ倒され、狩野は更に移動を続けた。崩れてくる鉄骨の隙間を縫うようにして、人ならざ
る反射神経と筋力で動き続ける。
 襲ってくる触手の先端が二つに割れ、その中に鋭い牙と、柘榴のように真っ赤な舌が見えた。
 その口中に向け、狩野は引き金を引く。
 舌が砕け、弾丸が貫通して抜けていったが、それがダメージではないことも承知の上だった。
 進行方向に、鋭い鍵爪を持った触手が先回りしていた。
 避けることはできなかったが、身を捩り、右腕を爪に差し出した。
 肩から先が、吹き飛ぶ。
  激痛が走るが、それには構わず、胴と離れた腕を残った方の手でキャッチする。
更に移動しようと足を動かしたが、それは絡みついた触手によって阻まれた。
 そのまま、身体が宙に浮き、天地の区別が一瞬なくなる。
「ぐああぁっ!!」
 次の瞬簡には、骨が何本か折れる音と共に、地面に叩きつけられていた。狩野はその場に激しく嘔吐する。血と胃
液のカクテルを地面に撒くと、ゆっくりと顔を上げた。
 そこは、勇太の足元だった。
「・・・不便な身体だ」
 勇太はそう言って、切断面を顎で示した。
 そこには既に薄く皮膜が貼って、傷口を覆っていた。腕の方の断面にも、同じように組織が再生している。
 後天性吸血鬼がその身に施している組織再生処置は、完全に元の通りにするものではない。細胞を魔力で活性化し、
怪我が治るプロセスを、早回しにしているだけだ。だから、切断などの重症では、かえって接合の機会を失うことに
なってしまう。
 だが、狩野は相手の言葉を聞いてもなお、薄く笑った。
 その奥によぎる余裕を見て、勇太は眉を上げる。
 狩野が左手に抱えていた自らの右腕を放った。同時に、有らん限りの力で後ろに跳ぶ。
 ズタズタに避けた袖の隙間から、右腕にびっしりと刻まれた刺青が覗いた。万が一を考えて事前に彫らせておいたも
のだ。そして、目の前の相手は、その万が一を尽くさずには倒せない相手だった。
 狩野が呪文を一言、叫ぶように言った。
 同時に右腕に刻まれた刺青が青白く発光し、腕に残っている魔力を残らず破壊エネルギーに換える。

948 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:47:03 ID:DlYTadEb
 爆風は、炎上するバンの炎を吹き消し、倒れる数々の死体を完全に破砕した。
 狩野自身も爆風で吹き飛び、やがてシートに包まれた資材に激突して停止する。
 土煙がもうもうと立ち込め、何も見えなくなっていた。固唾を呑んで彼はその奥を見透かすように目を凝らした。
 ふいに一陣の風が吹き、土煙が割れる。
 その中から現れたのは、直立する勇太の下半身だった。腹から上は、粘度細工を乱暴に引き裂いたように、消失して
いた。
 その体から伸びていた触手も、今は死に絶えた大蛇のように地面に転がっている。
 ――やったか。
 狩野が淡い期待を抱き、その身を起こしたときだった。
 地面にその身を横たえていた触手が、全て一度に立ち上がった。
 そのまま、一気にその根元――勇太の下半身へと集う。大蛇のような触手は細く解けて、立体的に布が織られていく
ように編み込まれ、人型になっていった。
 やがて、下半身までが覆われて、全身が真っ黒な勇太の形が修復されると。その中央に亀裂が走る。
 狩野の呼吸が荒くなっていった。そんなはずはないと、必死で打ち消そうとしたが、そうしてる間にも、ひび割れは
全身に広がり、そして砕けた。
 中から現れたのは、爆発の前と同じ、勇太の姿だった。表面の薄い殻のようなものは、微かに光りながら、地面に落
ちる前に薄い光を放ちながら消えてゆく。まるで、蛍の群れの真っ只中にいるようだった。
 鋭い歯が並んだ口が、欠伸でもするように大きく開かれる。
 全身から染み出す魔力が空間を支配し、圧倒的なプレッシャーが迫った。狩野は冷や汗が滲み出すのを感じ、喉を鳴
らす。いまや、狩野は完全に無力な獲物だった。尽くせる手段は、もう一つも残っていなかった。
 唐突に、勇太が言った。それまでとは、全く違う口調だった。
「・・・貴様らは、馬だ」
「・・・何?」
「目の前にぶら下がった餌に釣られて、永遠に走り続ける馬だ・・・・お前の背中に乗っていた者は、餌が目的ではな
い」
 一瞬なんのことか解らなかった。だが、『背中に乗っていた者』がアレンを指すことに思い至ると、狩野は歯を食い
しばった。
 自分の崇拝している対象を、目の前の敵が知った風な口で語っている。それだけで、狩野の怒りを呼ぶには十分だっ
た。
 狩野の怒りに気付いているはずの勇太は、それでもなお、断言した。
「ただ、お前らは利用されただけだ」
「黙れ、お前などに、何が解る・・・!」
「あの男の目的は、世界の掌握などではない。そんなことは、どうでもよかったのだ」
「なに・・・?」
 勇太は、そこで軽く息をついた。狩野は、反射的に返事をしたことを、心の底から後悔した。これでは、自ら術中に
嵌るようなものだ。
「・・・あの男は、ただ、女に会いたかっただけだ。繁殖がどうとか、そんなことはどうでもよかったのだ
 ――ただ、会いたかった。それだけだ」
 その言葉の真意を悟り、狩野は声を絞り出す。
「・・・・嘘だ」
 そんなはずはない。アレンの望みは、世界を吸血鬼のものに塗り替えること。愚かな人間を『家畜』として飼い慣ら
し、支配すること。
 そう思っていた。ただ、盲目的に、そう思っていた。疑ることなど、考えてもみなかった。
 だが、その一方で勇太の言葉に、狩野が衝撃を受けているのも事実だった。
 それが事実なら、自分は只の道化ではないか。
 脳裏をよぎるその思考を振り払い、狩野はもう一度口にした。
「・・・・嘘だ」
 資材に被せていたシートが、バタバタと騒々しい音を立てた。
 生きている者は狩野と勇太、そして双子の巫女だけで、虫の一匹もあたりには居なかった。
 血で描かれた魔方陣の中央で、光に包まれ安らかに眠る、二人の美しい少女。その周囲には、墓石のような車の残骸
と、土葬を仕損ねたような半壊の骸が、無秩序に散乱していた。
 その、異常な風景のなかで、勇太は、狩野の最後の支えを挫くべく、口を開いた。
「ならば、貴様はあの男に、一度でも番号以外で呼ばれたことがあるか?」
 その台詞を聞いた瞬間、狩野の全身が震え始めた。そして、それが勇太の言葉に対する、彼の答えだった。
「黙れ・・・」
 食いしばった歯の隙間から、なんとかそれだけを搾り出す。だが、震えは止まらなかった。100年以上に渡って揺
ぎ無かった忠誠が、音を立てて崩れ始めていた。
「番号で呼ぶのは、単に、管理上その方が楽という以上の理由はない」
「・・・違う」

949 :twist ◆mswnQv7VS6 :2007/03/19(月) 02:47:36 ID:DlYTadEb
「あの男は、常に一人だった。貴様たちが、どれだけあの男に心酔していたかは知らないが、本当の目的は常にあの男
の胸の中にしかなかったし、あの男はその目的のためだけに行動した」
「・・・黙れ」
「貴様があの双子を『道具』として使おうとしたように、貴様もあの男の『道具』だ。それも、使い捨ての、酷く騙さ
れやすい――」
「黙れええええぇぇぇっ!!」
 絶叫と共に、残った左腕が振り回された。それは、感情の爆発に伴うもので隙だらけの一撃だったが、それだけに一
切のブレーキがなかった。人間相手ならば、その体を安々と引き裂く程度の力はあっただろう。
 ――人間相手ならば。
 空間に衝撃が走り、狩野の腕が爆発した。
 悲鳴を上げる間もなく髪の毛を掴まれ、そのまま大きく後ろに引っ張られる。
 万力のような力で、頭が後ろに反り、喉仏が露になった。
 相手の意図を察し、狩野は両腕を失ったままもがく。それは、ちょうど彼が今まで血を吸った獲物たちがしたのと、
同じだった。
 勇太は、その喉仏に深々と牙を突き立てた。
 血は、魔力の源だ。そして、魔力は精神活動を行うための原動力である。通常、人間は食物等から必要分の魔力を
体内で作れるが、吸血鬼は自らの肉体で魔力を精製することができない。だから、血液を介して他の生物から魔力を
補給するのだ。
 だが、狩野の血を吸う行動は、勇太にとってはまったく別のものだった。
 血を吸う化生の血を吸う。それは、相手を完膚なきまで蹂躙する行為。『まがい物』の吸血鬼が持つ、ささやかな
プライドを粉々に打ち砕く殺し方なのだ。
「ごぉ・・・がっ・・・はっ・・・・」
 血を吸われる可能の目前に、過去の光景が映った。
 長めの灰色がかった髪を揺らし、あどけない天使のような微笑を、アレンは狩野に向ける。
『15(フィフティーン)』
 狩野が『15』のナンバーを襲名した時のことだった。彼は、直立不動の姿勢で、アレンが歌うように言うのを聞
いていた。
『15・・・15・・・よし、覚えたよ・・・・』
 そう言うと、再び彼は天使のような笑顔を向ける。その姿はまだ幼さすら感じられ、それだけを見れば、とても数
千人の後天性吸血鬼の群れを束ねる長とは思えなかった。
 だが、その緑色をした瞳の奥に宿る確かな狂気が、彼が人間とは違うことを雄弁に物語っていた。
 その狂気こそが、狩野達をどうしようも惹きつける魅力なのだ。
 独善的でありながら、他者を熱狂させる何かを、カリスマと呼ぶのではないか。
 ずっと、あの狂気と混沌を宿した、緑の瞳に見つめられていたかった。
 優しく耳を擽る声が、狩野の神経を緩やかに侵し、自分の全てを委ねてしまいたくなる。
 いや、自らの全てを使って、アレンに仕えようと、そう強く思った。
『15・・・期待しているよ』
 だが・・・そう。確かに――

 ――確かに、この後にも先にも、狩野がアレンに名前で呼ばれることはなかったのだ。

「ごぁ・・・がぶ・・・・げ・・・」
 狩野の喉から声が漏れる。だが、勇太はそれを掻き消し、わざと聞かせるように汚らしい音を立てて血を啜った。
 やがて、狩野の体から体温が消えると、両腕のない骸を捨てる。一度、口を開け、血の匂いを口腔から追い出した。
「哀れな・・・」
 死体を見下ろすと同時に、背後で双子を包んでいた光のカプセルが宙へ溶けるように消える。それは、呪詛の解除と、
損傷を受けた組織の修復が終了したことを示していた。それをちらりと見て、『後始末』を頼むためにズボンのポケッ
トを探す。だが、携帯を持って来ていないことを思い出し、それから自分がやってのけた惨状を見て、がっくりと肩を
落とした。
 その背中を、誰かが遠慮がちにつつく。
 双子の竜人が、怯えたような、縋るような目で、こちらを見ていた。

「「かみ・・・・さま・・・・?」」

二人は、たどたどしい日本語で、そう言った。

112 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:27:14 ID:XJPG9M+H
 爾はティーカップを口に運んだが、それは既に空だった。
 二人が語り聞かせた半生に、完全に圧倒されてしまっていた。
 紫苑はこの宇宙が始まったときから、延々とそのあり方を傍観してきたという『観察者』。そして、その姿は勇太の元妻を真似たものだという。
 テオは実の弟に犯され、その身を吸血鬼へと改造された。そして、最後に行き着いたのは、弟を殺した男を愛するという結末だ。
 それは、きっと『機関』の中でも最高機密に類するような内容の話だろう。

『あの『猿真似』達と顔合わせるなんて、ごめんよ』

 アルミラはそう言って、勇太の誘いを拒んだ。それは、一言で紫苑とテオの二人のことを表していたのだ。つまり、自分の姉の姿を『真似て』
いる紫苑と、本意ではないとはいえ吸血鬼を『真似て』いるテオと。
 エマの方へ目をやると、沈痛な面持ちで自分のカップを見つめている。それは、紅茶の水面に映る自分に、何かを問うているようにも見えた。
「ボクらがエマを仲間にしたんのも……実を言えば、その辺りの事情も……あるんかな」
 テオが言う。それがまるで『私が殺しました』と自白する容疑者のようで、爾はどうしようもなく逃げ出したくなる。この三人の間で、そんな
トーンの会話が成立していること自体が、彼女の想像の外だった。
「そう……かもね。それは意識していたわけではないでしょうけど」
 紫苑の相槌に、エマは顔を上げてかすれた声を出した。
「どういう、こと?」
「そんな難しいことやない。勇太は過程はともかく、ボクの弟を殺したんや」
「そして、私はあの人が亡くした大事な人の姿を真似ている」
「結局、ボクらはどんなことをしても、勇太から忘れさせてやることがでけへん。ボクら自身が、勇太が傷ついた原因、それそのものなんやから」
「でも、それは……」
 たまらず、爾が割って入った。傷ついたのはテオも紫苑も一緒のはずだ。続けて言おうとした台詞は、テオの首が振られただけで喉に詰まった。
「それは、関係あらへん。ボクらは、忘れさせてやりたいだけなんや」
「ただ、それだけ。誰がどのくらい傷ついたとか、それを癒すとか、そういうことはもう絵に描いた餅だもの。私たちはただ忘却に傷さえも埋没
させてしまいたいだけ。たとえそこから血が未だに流れ出ていようとも、快楽と愛情に埋没してしまえばそれで全て許容できると思っているだけ」
 爾の背中を、悪寒が駆け上がった。紫苑の言葉が、感情を切り捨てたものになっていく。それは、そうしなければ、コントロールできない領域
に来てしまっているということなのだろうか。テオが突き刺すように呼ぶ。
「紫苑っ」
「……えぇ、大丈夫。ごめんなさい。……続きを言えばね。その点、エマは過去とは切れているから、ということよ。あなたを見ているときだけ、
あの人は過去を忘れられる」
「まぁ……マンネリやとか、たまたま丁度よく……ってのも、勿論あったけどな」
 苦笑いをして肩をすくめるテオを睨みつけて、エマは我慢ができなくなったように立ち上がった。
「え、エマさん!?」
「えぇんや。爾君」
 はっとして声の方を向くと、二人は悲しそうに諦めた顔をしていた。
 駄目だ、と爾は思った。この顔は、駄目だ。
「ここまで言うて、そうそうまだ一緒にいてくれるなんて、思てへん」
 エマはうつむいて、テオと紫苑のすぐ後ろにあるドアの方へ歩いて行った。
 止めなければ。でもどうやって?
 自問をしているうちに、エマはテオと紫苑の背後に立つ。
「なぁ、エマ……」
 テオがその去っていく姿に、最後の言葉をかけようとした。そのときだった。
 エマが、倒れ込んできた。右腕にテオの、左手に紫苑の肩をそれぞれ抱いて。
「……だ、だめ……だよぉ」
 それは、泣き声だった。
「あ、あたしが……い、いいなくなったら……だ、誰が? ご飯つくるの?」
「エマ」
「……」
 紫苑に至っては絶句していた。エマは体を震わせて、それでも二人の肩をがっちりと掴んでいる。
「だめ……だよ? これで、あたしが…さよならしちゃったら……二人とも、悲しいでしょ? そんな……計画? 思惑? あっても……ね。二
人が……うぅん、三人が、ちゃんと、あたしを大事にしてくれたの、ちゃんと解ってるから……ね?」
 大声で泣きそうになるのを、無理やりに抑え込んで、エマは言葉を絞り出していた。テオと紫苑の境遇を聞いて、彼女は本当に、我がことのよ
うに悲しんでいるのだ。

113 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:28:52 ID:XJPG9M+H
「だから……悲しいのは、あたしで終わりに……しなきゃ。あたしがいる限り、そんなことで……っ誰も、悲しくしたくないの!!」
「テオ……ごめん、な」
「うぅ……冗談でも……出てっていいみたいなこと、言わないでよぉ……!! 意地悪意地悪意地悪!!! うあああぁぁぁぁん!!」
 ついにエマの我慢が限界に達したようだった。テオと紫苑は、エマの方に座りなおすと、その体を抱きとめる。
「……ありがとな、エマ」
「ありがとう」
「うん、実にいいシーンだな」
 まったく場の空気を読まない、浮ついた調子の声がした。全員が声の方を振り向き、飛びあがらんばかりの表情を見せる。
 いつの間にか、勇太が輸血パック用保冷庫の前に立っていた。手にはすでに赤黒い液体が詰まったビニールを手にしている。その端を噛み破る
と、中身を吸い出し始めた。上半身は完全に裸で、下半身のズボンも丈が半分ほどになっている。
「あなた……どうしたの?」
 紫苑が、特に慌てる風もなく、まるで服を汚してきた子供を迎えるように言った。彼女は、勇太の不死性を『常識』として考えている節がある。
だから、心配などしない。当然、テオとエマは別ではあるが。
「ちょっと喧嘩をね。爾、○○山にある××建設の資材置き場、後片付けお願い」
 事もなげに言うと、紫苑たちの方に歩み寄った。途中で空になったパックを手の上で焼却し、灰をゴミ箱に捨てる。
「エマ」
「ひゃ、ひゃい!?」
 先ほどの涙も完全に吹き飛んだエマは、声を上ずらせて返事をした。その様子に苦笑いすると、勇太は茶色がかった髪を優しく撫でる。
「お前が出ていくって言っても、俺は認めないからな」
「え?」
「エマが何を考えて去っても、絶対に戻ってきてもらうから。出て行くなら、そのつもりで」
 唇の片端を釣り上げて笑うと、テオと紫苑にも同じ眼差しを投げる。エマだけではない。今の言葉には、二人のことも入っているのだ。それを
受けて、三人ともがほほ笑む。
 重荷を投げ捨てたような空気に、爾までもが安堵の吐息をついた。
 ――しかし、爾の重荷はこれからだった。
 資材置き場の惨状もさることながら、いまリビングのソファで身を寄せあって眠っている双子が、彼女にとってはメガトン級の荷物だったので
ある。

         ※               ※               ※
 二週間が経った。
 爾は疲れきった身体を椅子に投げ出していた。彼女がこれほどだらしない姿を見せるのは珍しいことだったので、キッチンに入ってきた勇太は
見るなり苦笑しまう。
「お待たせ」
「いえ……」
「毎度、手間をかけて悪いね」
 爾が疲れきってるのは、この間の事後処理にこの二週間追われているせいだということを、彼は十分に承知していた。勇太の暴れた後の惨状と
いえば、担当者が『震源の深さ0メートルでマグニチュード8くらいの地震が来たらこうなるんじゃない?』と嫌味をいうほどで、後始末や情報
操作だけでも一苦労というものだった。
 加えて、あの夜勇太が連れ帰ってきた竜神族の双子の件で、ロシア支部との折り合いもつけねばならず、末端人員の爾はそれまで雲の上だと思
っていたお偉方の前で、何度も状況の報告を繰り返す羽目になった。
 久々の訪問は、今日は『機関』が決定した二人の処遇を勇太に通達するためだった。
「それで? 結局どうなったんだ?」
 向かいの椅子に腰を下ろしながら、勇太はティーポットから自分のカップに新しく紅茶を注ぎ、砂糖とミルクを入れた。いつもの甘そうな紅茶
を一口啜るのを見届けてから、爾は口を開いた。
「結論を先に言います。
 あの双子の管理に関しては、勇太さんに任せるとのことです」
「ふぅん……つまりは?」
「ロシア支部の話では、生まれたところに帰そうにも村は焼けてしまっていますし、生存者の捜索は現在も続けていますが、望みは薄いとのこと
でした。
 加えて、勇太さんが二人を引き取りたがっているという希望を伝えたところ……」
「厄介ごとは押し付けるに限る……ってか」
 少しだけ皮肉を滲ませて、勇太はもう一口紅茶を啜った。だが、その表情は安堵したように目を細めている。
 爾はその台詞にはあえて反応せず、自分のカップに口をつけた。
「……なにはともあれ、勇太さんに本気で抗われると、我々としても手の打ちようがありませんから」
「そうでもないと思うけどね」
 本当にマグニチュード8相当のエネルギーかどうかは別にしても、『そうでもないと思う』とはそれこそ嫌味に聞こえる謙遜だった。

114 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:29:33 ID:XJPG9M+H
 軽くため息をついて、勇太は首の骨を鳴らす。長い髪が、とてもゆったりと揺れた。その黒髪の先端の動きを目で追いながら、爾は腰を浮かせ
る。
「……それでは、今日はこれで。ご馳走様でした」
「飯でも食ってけば?」
「お構いなく……」
「いや、エマがもう準備してしまってるんだ」
 いつも話は爾の知らないところで、強引に進む。
 勇太が双子を引き取ってどうするつもりなのか。そこに一切下心がないと言い切れるほど、爾は勇太を信頼できていない。
 けれども、むしろあった方がいいのだ、とさえ思ってしまう。勇太が抱く女を増やすほど、そこに自分が紛れられる可能性が増えるような気が
していた。もちろん、その期待は自己嫌悪を漏れなく引きずるものではあったのだが。
「……わかりました。頂いて帰ります」
 そう答えた彼女の顔は、ほんの微か、赤くなっていた。


 その夜。
 勇太は一人で眠っていた。広いベッドに、紫苑たち三人の姿はない。
 二週間前から勇太は誰を抱くこともなかった。もちろん、双子たちも含めてのことである。女たちは全員、別室で眠り、双子にはリビングに敷
かれた布団があてがわれていた。
 と、寝室ドアが細く開く。
 イルマだった。
 廊下の明かりも消えているので部屋は暗いままだったが、彼女は特に不自由もなく勇太が眠るベッドの傍まで近づいた。
 そのまま、彼女は身に着けているものを全て床に落とす。
 白く抜けるような肌が暗がりに浮かび上がった。
 イルマはその場で勇太の寝顔を眺めたあと、ゆっくりと掛け布団に手を伸ばした。
 と――

「なぁにしとんねん?」

 唐突に、ドアの方から鋭い声が掛かった。
 はっとして振り返ったイルマの目に、闇を弾くような白銀の髪の毛が入ってくる。
「あ……」
 言葉を失うイルマに、テオは鋭い瞳で見据えたまま、もう一度言った。
「なにしとんねん、って言うてんのや」
棘のある口調だった。その顔は、研ぎ澄まされた刃のように固かった。アーモンド型の目が、細められてイルマを射抜く。
 視線の標的は、その場から一歩も動けないままだった。
 テオは、もう尋ねようとはしない。一歩ずつ、イルマへと近づいていった。
 緊迫した空気の中、彼女のスリッパが立てる足音だけが響く。
 そのとき、布団がモゾモゾと動いた。
「ふぅ……うるさいな」
「勇太……!」
「あ……」
 勇太が、何事もないように起き上がると、笑顔を見せてイルマの身体を掛け布団でくるみ、そのまま父親がするように抱き寄せた。イルマは一
瞬身体を強張らせたが、すぐに緊張を解いた。
「どうした?」
「あ……」
 喉の奥から声を漏らすイルマを睨みながら、テオは勇太の横に腰掛けた。
「そんなに怒るなよ……」
「だって……こいつ、勇太を……」
 『傷つけた』と続けようとした声は、唇に当てられた人差し指で止められた。
「それに関しては、もう蹴りがついてるだろ? この娘の意思じゃなかった」
「……せやけど、納得でけへん」
「そうだろうね」
 勇太は軽く答える。

115 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:30:24 ID:XJPG9M+H
 テオと紫苑が拉致されたときも、勇太は同じ感情を抱いたのだから。例え、本人達が無傷で気にすらしていないとしても、それが勇太の気を逸
らそうとこの間の連中が画策した、涙ぐましくも感じる陽動だったとしても、である。
 だから、テオからすれば、他人からの指示とはいえ、勇太を傷つけた実行犯である双子のことは、恐らく同じ屋根の下にいるのも嫌なはずだ。
 それはもう理屈ではない部分だ。
 それを踏まえて、勇太はもう一度、
「そうだろうな……」
と、今度は困ったように呟く。イルマは、困惑した眼差しを、二人に交互に投げかけていた。
 しばらく細い顎に手を当てて考え込んでいた勇太だったが、ふいに顔を上げた。
「ところで、お前さん、どうしてこんなことしたんだ?」
 今更と言っていい質問だったが、イルマは唾を飲み込み、それからたどたどしく答えた。
「あ……ジ、ジルマ……いも、うと……」
「うん?」
 唐突に出てきた名前に、眉を上げる。テオも同じように、戸惑いの表情を見せた。竜神族の言葉ならば、もっとスムーズにコミュニケーション
が図れるはずだが、流石に勇太でもこの世界でたった一つの村だけで使われるような言語の習得はできていない。そもそも、独特な発声器官の構
造をしているため、人間には不可能な発音まであるのだ。
 勇太は、努めて急かさないように、イルマを促した。
「妹さんが、どうした?」
「あ……ぅ……よごれた? された……」
 搾り出すような言葉に、首を傾げる。
「汚れた? シャワーなら毎日浴びてるだろ? 使い方も教えたし……」
「コホン」
 テオが肘で勇太の脇腹を小突いた。そこで、彼はやっとイルマの言わんとすることを悟った。
「アー……そう、続けて」
「あぅ……だ、から? ジルマ、だけ、よごれる……だめ。ふたご、いつも、いっしょ、だから……」
「……ふむ」
 大まかの事情は飲み込めた。
 要するに、妹のジルマが連中に捕まったときに慰み物にされたのだろう。そして、二人は双子であり、常に何もかもが同じ環境で育ってきた。
だから、自分だけが綺麗なままでは、不公平だ、というわけだ。
「なるほど……そういうことか」
 テオの言葉に、イルマは安堵の息を漏らす。だが、次の紫苑の言葉は、厳しかった。
「せやけど、あかん。許さへん」
「え……?」
 イルマは顔を上げた。勇太も、眉を寄せてイルマを見ている。テオがそう答えるのは、彼にとって予期していたことなのだろう。
「だって、それは肝心なとこが抜けとるやん」
 そういうと、テオは勇太に身を寄せる。
「ボク、勇太が好きやよ?」
「あ……ぅ」
「愛してる。勇太に抱かれるちゅうんは、単なる子供作ろとか気持ちいいだけやないねん……刻むんや」
「……」
 イルマは沈黙を続けた。テオは続ける。
「体中に、勇太を刻んでもらうんや。絶対に忘れへんように。何があっても、勇太がボクの一番で居られるように、や。
ボクかて色々あったわ。勇太に会うまで、好きな男とエッチできんかったもん。せやけど……穢れを落とす儀式ならともかく、汚すための道
具のように言われるのは許せへん」
「あ……」
 反論しようと口を開くイルマを、テオは突き出した指で黙らせた。
「解ってんねんで? そういうつもりじゃ、ないのかもしれへん。やけど、最初に言うたやろ?
 なんにしても、愛情が先やねん。
 こいつんことが好きでないなら、あんたが抱かれるのは、承知でけへん。汚して欲しいんなら、他を当たれや」
 す、と目が細められた。その視線は試すような光を帯びていた。
 テオは、わざと言葉に逆に取れる余地を残していた。つまり、『イルマが勇太を愛しているなら、抱かれるのは構わない』と。
 イルマはまだ日本語こそ不得手だが、頭の回転は早かった。テオの表情や口調、そして言葉の不完全さに気付くことができたとき、その顔に
は一つの決意が現れていた。

116 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:31:47 ID:XJPG9M+H
 彼女は、勇太にかけてもらった布団をベッドの下に投げ落とすと、テオに負けじと抱きついた。
「うお……」
「……ゆーた……すき」
 思わず声を漏らした勇太に、イルマは言う。
 どこが好きなのか。一週間で、勇太の何を見たのか。それを語る言葉を、まだ彼女は持っていない。けれども、それを聞かせるのは焦らなく
ていい、とその場にいる全員がわかっていた。必要なのは、望みを伝える、たった一言だけだ。
「すき……だいて、きざんで……ほし……」
 消え入りそうな台詞だった。それは『妹のため』という建前を捨てた、偽りのない本音だった。
 テオが微笑むと、勇太に対して甘えるような声を出した。
「……どうするん?」
「……はは、紫苑とエマに怒られるな」
 言うなり、イルマを初めて自分から抱きよせる。
「おぅおぅ、お熱いなぁ」
 テオは面白くてたまらないと言った様子で、早くも自らも寝間着を脱ぎ始めていた。
 と、そのとき、寝室のドアが三度、開いた。
「あ……ぅ」
 ジルマだった。三人がもつれようとしているベッドに恐る恐る近づいてくる。その段になってようやく勇太が気付いた。
「念話で呼んだのか?」
 尋ねると、イルマはこくり、と頷いた。
「ジルマも、ゆーたが……すき。だから……いっしょ。ふたり、いっしょ」
「……あう」
 妹は顔を真っ赤にして、ベッドの傍らに突っ立っていた。勇太は、それに向けて手を伸ばす。
「……掴んでくれたなら、離さない。それは、約束する」
 ただ、それだけの言葉とともに。
 その言葉の力強さは、すでに言語を超えていたと言っていいだろう。
 なぜなら、それと同時に、ジルマ、勇太の腕の中のイルマ、そして、テオまでが同時に、その手を取ったのだから。
「……テオさん。どうして貴女まで?」
「ええやん。ボクの初めては、こんなロマンチックやなかったし」


「んっ……ちゅ……んむぅ……」
「ぷはっ……ぺろ……んっんん……!」
 双子は、積極的にキスを始めた。接吻が愛情表現なのは、竜人族でも同じようだ。
イルマが勇太と唇を合わせ、その境にジルマが舌をねじこむ。勇太は軽く顔の向きを変えるだけで、双子の唇を味わうことができた。イルマの
舌を吸う間、ジルマが勇太の頬に口づける。ジルマの口腔を楽しむと、イルマは待ち切れないように首筋を舐めてくる。
「ふぅ……よしよし」
 三往復ほどすると、流石に勇太が一息ついて、赤毛の髪を優しく撫でた。
「大丈夫か?」
 尋ねると、同時に頷く。
 勇太の右腕に抱かれているのはイルマ、左腕がジルマだった。だが、その見分けは殆どつかないと言ってもいい。普段は髪を編みこんでいる
側で区別しているのだが、眠る前だったせいで、それもない。
 しかし、勇太はまったく迷うことなく、
「で、どっちが先だ? イルマか?」
と右腕の方に話しかけた。少し驚いたようだが、テオが微笑むのを見て、イルマは安心する。この程度で見分けがつかなくなるような愛し方を
する男ではないのだ。
 イルマは頷くと、自ら腰を浮かせて、勇太の目の前に乳房を持ってきた。寒い地方に住む民族独特の豊満な体つきに負けず、それは豊かな質
量をもっていた。勇太が脇腹に手を這わせると、
「んふぅ……」
とくすぐったそうに身を捩る。むっちりと指を柔らかく受け止める弾力が魅力的な尻を揉みながら、勇太はやや大きめな桃色を口に含んだ。
「ふっ……んっ、は……」
 乳首が舌で擦れるたび、敏感にイルマの体が揺れる。ジルマはそれを眩しそうな目で見ていた。自分と同じ顔が官能に喘ぐ姿を見るのは、ど
んな気分だろうか。そこに己を重ねて、期待せずにはいられないのではないか。
 それを証明するように、ジルマはイルマが勇太に差し出したのと同じ、右の乳首を自らいじり始めた。
「くふっ……うぅん!」
 勇太の手が、尻の方から股間へ割って入る。腰が反射的に逃げようと前へ突き出されたが、そこには手の持ち主がいるだけである。それどこ
ろか、反対の手が前の方からクリトリスへ伸びていた。
 割れ目へ指が食い込むと、まるで果実を搾るように汁があふれ出し、シーツに垂れる。
「うぅん! あぁっ! ひぃあぁぁ……」
 クリトリスは包皮の上から、やさしく刺激を加えられていたが、それでも膝は笑い始めている。

117 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:32:46 ID:XJPG9M+H
 ジルマは、そんな姉の姿を見ながら、自慰に耽っていた。姉の体を這う勇太の手を、自分の手で真似ながら、同じ快感を得ようとしているよ
うだった。ベッドの上で膝立ちになり、腰をくねらせている。
 と、その眼の前にテオが移動してきた。
「え……」
「ふふ……我慢でけへんなぁ……?」
 そう言うと、いきなり両足を広げて見せる。ジルマの眼には、艶めかしく濡れている内股に、銀色の陰毛、そして早くも開いて中を見せてい
るクレバスまでが、丸見えになる。その上に、白く細い指が当てられた。
「せやけど今日は……二人が優先言う話やからな……ボクは最後や……んんっ」
「あ、あぅ……」
 くちゅ、という音が、妙にはっきりと鼓膜を捕らえた。それは自分のものなのか、それとも相手のものだろうか。いや、勇太に弄られている
姉のものなのかもしれない。
「はあっ……ん、なぁ、ジルマも、見せてや」
「……うん」
 ジルマは膝をついた脚を大きく広げ、腰を突き出す。テオにはっきり見えるように、クリトリスを人差し指で弾いてみた。
「ひっぐぅうぅ!!」
 途端に、まるで電撃の魔法を失敗した時のような閃光が、背骨を駆け上がった。そのまま、ぺたんと尻をついてしまう。
「だめやんか、乱暴にしたら……大事な身体なんやで?」
 そう言うと、テオは土手を揉みほぐしていた手を止めて、中指を一本、割れ目に差し入れた
「ふぅぅ……」
 さっ、と白い首筋の辺りに赤みが差した。それをジルマはきれいだと思った。
「指は? 入るか?」
 ジルマは頷くと、同じように右手の中指を自分の中に差し入れた。異物感が押し寄せたが、それはすぐにテオの喘ぎによって意識の外に弾か
れてしまう。
「はっ……あぁん。ふぅ……あ。ほら……自分の気持ちいいように、してみ?」
「……はっ……あぁぁ」
 それまで巫女として、性的な知識はほとんど得ないまま育ってきた。そして、突然攫われ、犯されて、獣の恐怖を体に刻まれた。
 しかし、これはどれとも違う。自分の好きなようにしていい。怖くなったら、いつでもやめていい。それが、安心感をもたらしていた。
 ぬめる膣の内側を、指の先端でひっかくと、それだけでまた腰の辺りに震えが来た。
「んあぁぁぁ!」
 思わず大きな声が出て、はっとして周りを見てしまう。テオが微笑んで、負けないように自分を慰める手の動きを速めた。
「くっはぁっ! んあっ、あっ!!」
「あんっ、はぁ、はぁっ、あぁぁぁっ!」
 それを見ると、ジルマも止まらなかった。シオンとリンクするように、指先を膣の中で暴れさせる。自分の気持ちいいところ探し、それを
見つけるといつまでも弄っていたくなった。
 そして、溜まった快感が、いよいよ弾けそうになったときだ。
「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ひときわ高く、尾を引く悲鳴が響く。
 思わず手を止めて振り返ると、イルマが勇太に貫かれていた。
「ひぐっ、あうぅぅ……」
 涙を流して、勇太にしがみつく。勇太の上体にもたれかかり、両足を腰に絡ませている姿は、これもジルマには美しいものとして映った。
 剛直を飲み込む接合部からは、赤い血が滴っている。それは望むものではなかった自分の破瓜と重なり、同時にジルマの視界を曇らせた。
 よかった、と思った。
 イルマは、自分のような悲しい喪失をしないで済んだのだ。望む相手に、望むものを捧げられたのだ。それを、単純に喜ぶことができた。
「うあ……あっ!」
「痛いか?」
 勇太の質問に、イルマは首を振って答えた。
「あ、こ、これ……なに? おなか……へん、へん……!」
 『変』としか言うことができない乏しい語彙に、勇太がそっと新しい単語を添えた。
「それは、気持ちいいってことだと思うぞ?」
「きもちぃー?」
「あぁ、多分、だけどな」
「あぁ……きもちぃー……きもちぃー」
 自分の身体に確認するように、繰り返す。そして、イルマは息を荒くして、
「もっと、きもちぃーの……ちょうだい?」
と懇願した。
「よし」
 勇太が腰を揺らすと、そのわずかな動きでイルマの顎が大きくそる。天井を向いた口からは、涎が溢れて首筋まで垂れていた。それをす
かさず勇太が吸う。それはまるっきり古典的なドラキュラが古典的に美女から血を吸う様だった。もちろん、歯は立てていない。ただ、キ
スマークをつける音がする。

118 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:35:40 ID:XJPG9M+H
「あはあぁぁぁぁぁ……」
 その吸引音と、尾を引く喘ぎが重なった。
「ひんっ! あ、ゆーた、ゆーたぁ!」
 張りのある尻が、ぐいぐいと勇太の胴体に押し付けられるように動く。自分と同じだ。気持ちいいところを探してるのだ。ジルマは手を
止めることができず、もどかしい快感の中で、姉と同調し始めていた。無意識に、姉の快感を取り入れようとしていた。聖なる力として、
厳しく律されてきたはずの双子の力を、淫らな目的で使おうとしている自分に、嫌悪を抱きそうになる。
 勇太はイルマの腰をつかみ、さらに深く打ち込んだ。イルマの快感が一気に振り切れる。
「ふはあああああぁぁぁっ!!」
「くあぁぁああぁぁぁぁっ!」
 ジルマにとって、自分の中の指はすでに指ではなかった。熱い勇太の剛直を間接的に体験しているのだ。魔力を介して繋がった双子の神
経は、完全ではなくとも、十分にイルマの感覚を伝えていた。
「「あっ、はぁっ! ひぅ、あ、あ、ああぁぁぁぁつ!」」
 あえぎ声が絡み合い、寝室に響く。勇太が付き込むたびに、二人が反応する。それは異様な光景だったが、テオは楽しそうにそれを見な
がら自慰をした。
「あっ、あはぁ……はよぅ……ボクの番にならへんかなぁ……」
 イルマが膣を掻きまわされる度に、強く勇太の体を掴む。密着したまま溶けあうような二人に、テオはついぼやいてしまうのを止められ
なかった。
「あっ、熱い! ゆーた、ああぁぁっ! ひんっ! あっ、っくぅ、うううぅぅぅぅっ!!」
 絶頂は唐突だった。尻がガクン、と糸をでたらめに引っ張ったように動き、背がのけぞる。
「うぅ、出すぞっ……!」
 勇太は絶頂しているイルマの中に、続けて射精した。膣を焼く熱に、イルマが足をばたつかせて叫ぶ。
「あはあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ほとんど同時に、ジルマはシーツに潮を吹いて、がくりとうなだれた。
「はっ……はっ……ああぅ……」
「あらら、イってもうたんか?」
 テオが呆れた声で言った。
 勇太は半分失神しているイルマを優しくベッドに横たえて、ジルマに近寄る。
「……どうする?」
「なぁにカッコつけとんねん!」 
 テオが景気よく勇太の背中を叩いた。ベチン! という音が、少しだけジルマを快感の余韻から引き戻す。
「いってぇ! だからテオさ、それは痛いんだって……」
「どうするもこうするも、一回出してんやろ? ほれ、お姉さんに見せてみ?」
 そういうと、テオは勇太のペニスを握る。イルマの愛液と、破瓜の血と、精液に塗れたそれを何のためらいもなく口に含んだ。
「あむっ……んん……くちゅ、ぺろ……ふふ、処女の血やなぁ?」
「美味いか?」
「別に……んく、はむ……」
 そのまま、器用に目だけで笑って、ジルマを手招きした。ジルマは言われるまでもなく、テオの隣に並び一緒にフェラチオを始める。
 たどたどしく竿の横に舌を這わせてみると、勇太の腰が揺らいだ。その反応に勇気づけられ、さらに横から咥えてみる。
「はぷっ……ん、ちゅぅ……ちゅる……」
「ふふん、なかなかえぇスジしとるやん?」
 テオは玉の方を舐めながら、満足そうに目を細める。
 ジルマは勇太に奉仕をしている間も、自分を慰め続けていた。姉と同調することで味わってしまった快感が、まだ燻っている。いや、永
遠に燻り続けるのではないかと思えるほど、それはじりじりと彼女を急かした。
「ああうぅぅ……」
 やがて、勇太のペニスが完全に回復すると、ジルマの目に媚を帯びた涙が溜まる。そのまま、自ら寝そべった勇太の上にまたがった。
「あはぁ……」
 くちゅ、と湿った音がする。粘膜同士が触れ合うことが、悦びになる。恐怖だった記憶は、完全に消え去っていた。
「いいぞ、そのままだ」
 腰を落としていくと、もう止まらなかった。そのまま、一気に重力に任せてしまう。
「んっふうぅぅぅっ!!」
 すぐに勇太の手が豊かな胸に伸びる。柔らかく指を飲み込む塊を震わせて、ジルマは滅茶苦茶に腰を振った。
「はっ、あんっ! ひ、ふぅあぁぁ……」
「ジル…マ」
 イルマがようやくいくらか落ち着いた様子で、身を起こす。その右手はすでに股間に収まっていた。その姿で、直感的に姉が先ほどの自
分と同じことをしているのだと解った。
「あ……ひっ」

119 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2008/12/16(火) 20:36:36 ID:XJPG9M+H
 直にペニスの感触を感じるのとは違う、ノイズ交じりのもどかしい快感が、イルマを苛む。ジルマはそれをもっと深く感じて欲しかった
ので、さらに腰の動きを速めた。勇太の上で飛び跳ね、尻をくねらせ、勇太の手の上から自分の手を添えて乳房をあられもなく揉みしだく。
 姉も、同じだったのだ。自分に気持ち良くなってほしかったから、あんな痴態を晒したのだ。むろん、自分も快感を得たいというのも、
本音ではあったのだけど。
 勇太が、笑いの奥に限界を訴えた。汚れた自分でも、ちゃんと気持ちいいことができる。姉と一緒に、気持ち良くなれる。
 涙と汗と涎が覆った顔に、愛しい指が優しく触れる。それだけで達しそうになってしまう自分の身体が、信じられかった。
「ああぁぁっ! くぅんっ! くひっ、あぁぁぁっ! きもち、ぃー!」
「よし、ジルマも……出すぞ!」
 勃起した乳首をつねられると、そこから熱が身体全体に広がる。息も絶え絶えになりながら、ジルマは訴えた。
「んあぁつ、あぁ、だして! きざんで、ゆーた、きざんでえぇっ!」
「あぁっ、いいぞっ! うあっ!」
 勇太が腰を突き上げる。奥の突き当たりに、亀頭が激突する。子宮の最も奥で、精液が噴き出した。
「ひぃんっ! ああぁ! かっ、うぅぅぅっ!!」
 たまらず、ジルマは倒れ込み、勇太の頭の両側に手をついた。シーツを掴んで、神経を焼くような絶頂を解き放った。
「ひんっ! ひ、あ、ひ……」
 喉の奥から声を漏らし、そのまま倒れ込む。ペニスが抜ける感触で、また腰がみっともなく震えてしまった。
「ジル……マぁ」
 姉が優しく、妹の髪を撫でる。
「はぅ……ゆーた……きざんだ……」
「あぁ、もう二人とも、俺のものだ」
 その断言が、なによりも嬉しい。
 ジルマは寝返りを打つと、勇太の左腕に収まった。イルマは右腕に収まり、そしてそっと目を閉じて――
「待たんかい、こら!」
「おうっ!」
 いきなりテオがマウントポジションをとった。双方全裸であるにも関わらず、それは『騎乗位』というよりも、格闘的な言い回しをした
方がぴったりくるような剣幕だった。
「こっちゃ、ずっとオナニーして待っとんねん! 据え膳残すつもりやないやろうな!?」
 いうなり、二度も欲望を吐き出した肉棒の上に跨る。そのまま、割れ目で挟みこんで、ぐりぐりと押しつけ出した。いわゆる素股である。
「あんっ! うはぁっ……」
「おぉ、いいね」
「ぁん! 簡単にいいなや……あとで、滅茶苦茶してもらうからな……」
 ずりゅ、と体液のローションで覆われた亀頭が、銀色の陰毛から顔を見せる。エラがクリトリスを引っかくたびに、テオと勇太の口から
吐息が漏れた。
「ったく……大サービスやんか……」
 ゆったりとしたペースで腰を振る。勃起を取り戻すだけの、最低限の動きは彼女自身を自分で焦らしていた。
「そうか?」
 相手の楽しそうな声に、テオは眉をしかめて、ドアの方を振り向いた。
「そうやんか。なんで……っ、ボクが、“三人分”もお膳立てしてやらなあかんねん……くああぁ……」
 視線の先には、細く開けられた隙間から覗く――

 ――覗いていた爾は、はっとして飛びのいた。
 しかし、すぐ後ろにいた紫苑にぶつかり、肩を抑えられてしまう。
「え? い、いつの間に……」
「そういうセリフは死亡フラグなのよ? 爾さん」
「んふふ〜、爾さんもむっつりだね〜」
 エマも傍らにいる。そのまま、ドアをなんの躊躇もなく開け放した。
 絶望的な気分で、爾は勇太を見る。ベッドに座り、和やかに微笑む相手は、黙って手を差し出した。
 掴むか否か。試すように。

52 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:34:19 ID:ywDj3M1x
 とあるホテルの一室。近くなったクリスマスの気配を遠慮なく爆発させる街で、庶民が見上げては羨望のまなざしを向ける、そんなホテルの一室。
 アルミラはベッドに横たわり、フリッツにマッサージをさせながら、ふいにくくっ、と喉を鳴らした。
「……?」
 『どうかなさいましたか?』と眼でいう執事に、主は軽く首を振ってみせる。
「なに、私もあれを『義兄さん』なんて呼んでた時期があったかと思うとね……信じられないでしょ?」
「……」
 質問を無言で肯定すると、彼は手元のボウルからオイルを手に取った。特製のハーブがブレンドされ、人肌より僅かに暖められたそれは、無骨な
手の平によく伸びる。それを裸の背中に刷り込むようにして、もみ込んだ。
「ん……巧くなったわね。野良犬も仕込めばそれなりになるものかしら」
「……貴女のために、それなりになったのです」
 短い声は成熟したバリトンだったが、セリフの青臭さに顔の火照りが伴った。
「そう」
 主はそんな心理を知ってか知らずか――否、知っているに決まっているのだが、そうは見せずに軽く頷いただけだった。しかし、そんな仕草はか
えって機嫌がいい証拠であることを知っていた彼は、少しだけ踏み込んでみることにした。
「……訊いても、よろしいですか?」
「あの義兄のこと? それとも姉のことかしら?」
「……どちらも、です」
 これも、読まれないわけがない。声に動揺が走ることはなかった。しかし、次の主の叱責は、フリッツの意表をついた。
「質問は明確になさい。いつも言っているでしょう」
 はて。
 自分は何を知りたいのだろうか。
 違う。自分はあの男の吸血鬼や、今は亡きアルミラの姉について知りたいのではない。それらを知ることを通じて、アルミラのことを知りたいの
ではないか。そう思うと、苦笑が漏れる。
「何がおかしいの?」
 こちらに顔を向けることもしないのに、主はいちいちこちらの反応を伺ってくれる。これではどちらが執事でどちらが主かわからない。
「いえ……まずは、貴女のお姉様について」
「あれは姉じゃないわ。今はもう縁は切れてるし……馬鹿な女だったわよ。レイチェルは」
 そういうと、長々と溜息をつき、オイルがつかないように纏めた髪を指で弄りだす。
「なんと言えばいいのかしら……牛や豚を食べるのにいちいち『可哀想』なんてことを言う奴なの……この比喩は解る?」
「はい」
 その話題は、やはりどこかでタブーなのだろう。アルミラが、わざわざ回りくどい暗喩を使っている点からも、それは窺い知れる。
 そして、その暗喩は同時に、アルミラ自身が口調と裏腹にレイチェルの考えに少なからず同調していることも示していた。しかし、フリッツはそ
こには触れず、質問を続ける。
「……それでその……レイチェル様は、どうなされたのですか?」
「代替品の開発よ。人間の血に代わる『魔力補給薬』の開発。しかも一人で勝手にやればいいのに、人間の科学者の手を借りて、ね」
 魔力、は精神活動を行う上で必要なエネルギーだ。人間はそれを通常の食物から十分に摂取することができる。それは人間が必要とする魔力の量
が少ないのが理由である。しかし、吸血鬼はそうではない。精神の動きを物理の世界に持ち出す『魔術』をその生態として行う吸血鬼は、例え魔術
を使わなくとも莫大な魔力を必要とする。凄まじく燃費の悪いモンスターマシンに必要な燃料が血液なのである。
 だから理屈で言えば、人間が点滴だけでも生きていけるように、血液に代わる何かがあれば血を吸わなくともよいということになる。それに吸血
鬼が抱く感情は、どうのようなものだったのだろう。アルミラの口調では、あまり良いものではなかったらしい。確かに、この先必要な栄養をすべ
て点滴で賄え、というのも酷な話ではある。
 しかし、もう一点重要な点がある。フリッツは
「それは……」
と口を開きかけたが、それは直ぐに遮られた。
「フランク=ヘルメスベルガー。アレン=ヘルメスベルガーの父親よ」
 はっとして、フリッツは息をのんだ。思わず手を止めてしまうと、すぐに主の咎めるような視線が飛んでくる。あわててマッサージを再開すると、
アルミラはまるで子供に寝物語を語るような口調で話を続けた。

53 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:35:36 ID:ywDj3M1x
「良くも悪くも、凡人だったわね。
 まぁ、学者ならば入れ込むのも無理はないのかもしれないけど。世界でただ一人だけ、吸血鬼を研究できる栄誉を得たわけだから。
 レイチェルがどうしてフランクを選んだのかは、いまだによく解らないわ。あまりに有名でも困るし、かといってまったく無能でもまた困る……
ってとこかしら? それ以上の理由は、なかったはずよ。
 なんにせよ、フランクは研究に入れ込みすぎて、体調を崩して死んだわ。妻も研究に溺れる夫に絶望し、レイチェルとの関係を邪推しながら嫉妬
と酒の海で死んだ。
 余計な首を突っ込むからそうなるのよ。人間の美しさや高潔さに目を奪われて、泥臭さは見ようともしなかった。最終的に平和な一家族を粉々に
粉砕したんだから、いい迷惑よね。
 で、フランクってのも迷惑なことに、レイチェルが直々に実験体となって収集させたデータをわざわざ遺してたの。それを――」
「アレン=ヘルメスベルガーが見つけた」
 執事が言葉を引き継ぐと、満足そうに喉を鳴らして見せる。
「あとはまぁ……想像がつくでしょ? 結果論とはいえ、父親と母親の死の元凶になったレイチェルへ復讐する手段。そして、『人間』の身では絶
対に許容されない実姉へ想い遂げるための手段を――ぁ、所詮詭弁だけれど、とにかく同時に手に入れることに成功するわけ。その点、確かにアレ
ンは天才だった。真っ当にしてれば、紙幣に肖像くらいは載ってたでしょうね」
「……」
「ヴィクトールは消息を絶ったレイチェルを探した。実際は、地下室でアレンのモルモットになっていたわけだけど。血液から魔力をのぞかれ、た
だの死ににくい化物になっただけのレイチェルを、ヴィクトールは助けられなかった。ようやく所在を掴んで、怒りに身を任せて館を焼いたのはい
いけれど、そこに居たのは不可逆的に魔力を抜き取られた自分の妻だった。まぁ、この辺は『記録』には載っていない部分だけど、とにかく、そう。
そして、ヴィクトールはいきなり『勇太』なんてふざけた名前で、アレンを追い回すようになるわけ。
 アレンはアレンで逃げた姉を追い求め、『吸血鬼が世界を支配する』などというお題目のもとに、兵隊を増やしてあんな大仰な集まりを作ったり
した。実際のところ、そんなお題目は、アレンにとっては建前ですらない、ただの嘘でしかなかったわけだけどね」
「それは……」
「知らないわよ」
 質問をする前に、断じられてまた手が止まってしまう。しかし、主は今度はそれを咎めず、代わりにシーツを摘まんでつまらなさそうに続けた。
「復讐? 責任感? 罪悪感? どれなのかなんて、私は知らない。アレがどういうつもりであんな人数の女を囲ってるのかもね。
 いいこと? この物語は、もう『終わった物語』なの。それ以上でもそれ以下でもないし、当時の関係者の心情なんか、当の本人だって正確に語
ることなんか出来ないでしょうよ」
 また、嘘の臭いがした。
 しかし、今度はその発生源に見当がついた。
 きっと、その物語は確かに『終わっている』のだろう。しかし使い古された言い方だが、『終わった物語』は『次の物語の始まり』でしかない。
物語が終わろうとも、時間は関係なく次から次に現れては、万人に新しい物語を紡げと急かすのだ。
 だから、その物語が『終わった』などというのは、勝手に区切りをつけただけの決め付けに過ぎない。アルミラはそれを承知の上で、『終わった』
という言葉を使っている。
 では、今の勇太やアルミラは、一体なんの物語を紡いでいるのだろう。それにも、フリッツは簡単にたどり着くことができた。
 多くの女を囲って居ながら、まったく血を吸わない吸血鬼と。
 一人の男と添い遂げながら、血をその一人からしか吸わない吸血鬼と。
 『化け物という肩書きから逃れる』という物語は、おそらく永遠に終わることのない物語だ。犬が犬であることから逃れ得ないように、それは莫
大な徒労なのだ。いや、むしろ、だからこそ、二人はその物語を選んだのかもしれない。その理由は、それこそ当人にしか解らないものなのだろう
けれど。
 フリッツは、最後の質問をして、口を噤むことにした。
「……あの方は、なんのためにアルミラ様をお呼びになったのでしょう」
「んー?」
 マッサージでリラックスしているのか、眠そうな声をアルミラは出した。
「『なんのため』かといえば、それは『念のため』よ」
「念のため……?」
「私は解呪が専門なの……まぁ、得意と言ってもいいわね。だから、あれは私を呼んだわけ。もしも、連中の使う魔術が、あれの手に余るものだっ
た時のために」
「……はぁ」

54 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:37:26 ID:ywDj3M1x
 しかし、実際には一人で安々と対応できてしまっている。そもそも、フリッツなどからすれば、勇太という存在が持て余すような魔術など、ほと
んどあり得なく思える。内心首をかしげているフリッツに対して、アルミラは目を細めてからかうように言った。
「あれはね。万が一にも死ねないのだそうよ? あれが死んだら生きていけない女が四人も居るんですって」
「四人……?」
 フリッツは首をかしげる。今、勇太と一緒に住んでいるのは、アルミラの姉の姿を真似た一人と、女吸血鬼一人、そしてもう一人サキュバスがい
るという話はあらかじめ聞いていた。三人ではないか。イルマとジルマのことは、まだ彼らは知らない。
 残りの一人を尋ねようと口を開いたところで、アルミラが上体を起こした。フリッツの言葉を遮るようなタイミングである。それは隠そうとして
いるというよりも、それ以上尋ねるのは野暮の極みだと嗜めるような動きだった。どの道、今のフリッツにとっては大した話ではない。
 アルミラはフリッツの手を取って、オイルに塗れた自分の豊かな乳房に導く。
「しっかり拭き取りなさい。いいわね」
「はい」
 きっと、自分が死んでも、アルミラは生き続ける。そして新しい執事を見つける。彼自身、もう何代目かわからないのだから。
 けれども、今、確かに彼はアルミラと同じ時間を共有できているだけで、満足なのだった。


         ※                       ※                        ※

 爾は、どうすればいいものか、まるで解らなかった。
 夕食を勧められ、それを食べた。エマの作ったビーフシチューがいけなかったのか、爾は出されたワインをつい飲んでしまったのだった。アルコ
ールは嫌いではなかったし、帰りはそのまま電車で直帰だったのも油断を招いた原因だろう。勇太や紫苑がそれなりに飲んでいたのに、柄にもなく
つられてしまった。気がつけば、足取りが怪しくなり、『泊っていけば?』と言われて、そのまま言うなりにソファーを拝借してしまった。
 どう考えても、自分が解せない。常軌を逸していると言ってもいい。普通の家庭に泊るのとは、事情がまったく違うのだ。タクシーを使ってでも
家に帰るべきだった、と後悔しても後の祭りである。
 ――夜。
 ふと目が覚めると、同じリビングに布団を敷いて寝ていたはずの双子がいなかった。
 探しに行こうと思ったのは、それを期待していたのだろうか? 
 爾を誘うように細く開けられたドアは、偶然なのだろうか。それとも?
 とにかく爾は、勇太と五人の女たちに見つめられ、寝室の床にへたり込んでいた。
 どんな言い訳も通じそうになかった。覗いていたのは出来心や弾みでといった時間ではなかったし、おそらくその現場は紫苑とエマに抑えられて
いる。いや、それ以前に勇太とテオに気付かれてしまっていた。そもそも、相手が相手だけに気付かれず覗けるはずもなかったのである。
 裁判所の被告人席というのは、こういう気分だろうか。背中に脂汗が浮かぶのを抑えきれず、爾は顔を伏せた。
 不意に、目の前に布が落ちた。紫苑の寝巻だった。
「ずるいわ、あなた。私たちに黙って……」
「そうだよー。あたしだって、もう二週間も精気補給してないんだからね?」
 言いつつ、今度はエマの寝巻が脱ぎ捨てられた。
「いや、悪い悪い。でもさすがに五人は同時にできないと思ってさ」
「同時とかそういうのどうでもいいよ〜」
「そう。これから一緒に暮すんだから、隠し事はよくないと思うの」
 それは『隠し事』ではなく『プライバシー』の範疇に近いのだが、何を言っても無駄であるし、何より爾に言う権利はない。
 それよりも、自分を無視してことが始められようとしているのが、深く心をえぐった。これは、罰なのだろうか。だとすれば、『もう勘弁してく
れ』と逃げ出したいほどの罰だった。
 次々に、衣擦れの音とともに、二人分の衣類が床に積もっていく。もうこの場で全裸でないのは爾だけになっていた。
 このまま、なのだろうか。
 希望か絶望かはっきりしない推測は、あっけなく打ち砕かれた。
「ほれほれ、なにしてんの? 爾クンもちゃっちゃと脱ぎや?」
 テオが何かを打ち砕くには能天気にすぎる口調で、いつの間にか背後に立っていた。
「爾クンが終わらへんと、ボクらの番が来ーへんちゅうねん」
「え? あ……はい、いや、え?」
 打ち砕かれた何かは、『もしかしたらもしかするかも知れない事態』の中でも最悪のものを封印していた扉だった。
 テオはすでに爾のスウェットに手をかけ始めている。
「あ、やっ! ま、待ってください!!」

55 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:38:42 ID:ywDj3M1x
 色々と。本当に色々と手順をすっ飛ばしてしまっている。普通、男女がここに至るには、健全な交際があるのではなかろうか。いや、それ以前
の問題として、覗いていた件を咎めたり、爾へ謝罪を要求したりといったこともナシなのか。賠償の結果が爾の操というのならば(納得はできな
いが)理解はできるのだが。
 混乱のせいで爾が思ったよりも大声で抵抗したのが功を奏したのか、すでに勇太に体を擦り寄せ始めていた紫苑とエマの動きが止まった。ジル
マとイルマも、きょとんとしている。
「あ、えっと……わ、私は、人間、ですから……」
 沈黙が続くことを恐れるあまり、口から暴発してしまった言葉は、まったく本人の意志から外れたニュアンスを持っていた。
 しかし、それを気にする余裕さえも、取り上げられてしまう。
 エマの、天真爛漫な一言によって。

「でも、爾さん、勇太のこと好きでしょ?」

 実にあっけなく。
 それはまるで『爾さんの誕生日、10月でしょ?』と言われたような当たり前さで、暴露された。
「なっ……」
 絶句して思わず勇太を見る。勇太は下半身を毛布によって、上半身の半分ほどを紫苑とエマの肌で隠して、泰然と座っていた。その変化のなさ
が、かえって爾の羞恥を呼んだ。耳まで真っ赤になるのが自分でもわかる。
「どー見ても、バレバレだもんね?」
「せやなー。無理して男装しとっても、ネクタイが毎日違うねんもん」
「ちゃんとワイシャツの色と合うように選んでたしねぇ。それに髪の毛も、男の人は普段そこまでちゃんとセットしないのよ?」
「みつる……ゆーたとはなすとき……めをみない」「みたいけど、みない……みたいなー?」
 付き合いのそれなりにある三人ならまだしも、双子にまで知られていたのが追い討ちをかけた。さらに言えば、当の勇太本人もどうやら以前か
ら勘付いていたらしく、今まで自分がしてきた男装などの小細工が急に子供染みた悪戯のように思えて、いたたまれない。
「ありゃ、もしかしてヘコんじゃった……?」
 無邪気な一言が恨めしい。
「穴があったら入りたいです……」
「まぁ、それもいいんじゃないかしら?」
 紫苑が妙な返答をしたが、それに突っ込むものは誰もいない。
「とりあえず、脱がな始まらんで? 着たままーっちゅうのも悪ないけどな」
「で、でも……」
「爾」
 そこで、ようやく勇太が口を開いた。
「お前、覗いてたよな?」
「……はい」
「俺やイルマやジルマやテオの裸を見て、自分は見せられないというのはどうだろうか?」
 『どうだろう』と言われても、ハムラビ法典のように、『目には目を、歯には歯を、裸に裸を』という理屈なのだろうか。戸惑う爾に、双子が
追い討ちをかけた。
「ずるい……一人だけ。ドアの向こう……」「ひきょう……一人だけ。守ってる……」
 それで、繋がった。
 勇太たちは、気づいた時点でそれを止めることができた。この様子では、覗き始めてすぐに気付かれたのだろう。けれども、誰も止めなかった。
爾に見られると解っていて、行為を最後まで続けた。
「私は……すでに、受け入れられていたんですね……?」
 紫苑とテオの過去を語った時、席をはずそうとする爾を二人はわざわざ留めた。それは、この結果を見越してのことだったのかもしれない。
「俺は、人間が好きなのさ」
 勇太がバツの悪そうな顔で言う。
「だから、人間らしいヤツは、どうしても好きになっちまうんだ。こいつらみたいにね」
 勇太は視線を周囲に巡らす。
 勇太の空白を埋めようと、間違った姿を取り、それでも離れられない紫苑。
 弟を殺された鬱屈をぶつけきることもできず、しかし完全に水にも流せないテオ。
 自身の魔力のために、がむしゃらに突き進んで、勇太にたどり着いたエマ。
 大きな仕組み翻弄されながら、自らの信仰によって命を投げ出そうとするイルマ、ジルマ。
 その率直さは、その歪み方は、その過ちは、その揺らぎようは、まぎれもなく人間のそれである。
 そして、爾も。
 そっと立ち上がると、爾は勇太の目をまっすぐに見た。
 黙って、指の長い手が差し伸べられる。覚悟を込めてその手を取ると、強引に引き摺り込まれた。
 スウェットの裾に、エマの手がかかる。反射的にその手を上から握って、止めてしまった。エマの全体的に小づくりで愛らしい手を、対照的な大
きい手が包む。
「あ……」
 喉から漏れたのは、その対比に対する失望だった。しかし、エマは手の大きさも気にせず、またスウェットをめくり上げようとしたのと止められ
たことも意に介さず、ただあの太陽のような笑顔を向ける。

56 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:40:23 ID:ywDj3M1x
「ねぇ……『みつねぇ』って呼んでいい?」
「え?」
 思わぬ提案に、つい手が緩んだ。
「隙あり!」
 謀られたと思った時には、視界がなくなっていた。一気にめくられたスウェットを、そのまま頭にかぶせられたのだ。
「ほら、みつねぇ、バンザイしないと脱げないよ?」
「あ、ちょっ、やめてください!」
 子供に言い聞かせるような口調が、少なからず屈辱だった。それに、なすすべなく自分の下着、それも色気もなにもないスポーツブラを他ならぬ
勇太に見られてしまっているという事実が、より一層混乱に拍車をかける。
 と、突然へそのくぼみに指が入ってきた。
「んきゅっ!?」
 思わず妙な悲鳴が出てしまうと、くすくすと笑い声がした。視界がふさがれているので睨みつけることもできない。スウェットを強引に引っ張ら
れると、両手が無理やり頭の上にロックされてしまう。
「やだっ! こんなの……くぅん!」
 まだへそをだれかが弄っている。くりくりと動く指先は、先端を唾液でぬらされているのか、不思議なぬめりがあった。
「だっ、誰ですか!? 人のおへそを……」
「俺だよ」
「なぁっ!?」
 まさか勇太本人とは思わず強い口調で問い詰めてしまった。再び変な悲鳴を出す爾に、ひときわ大きい笑いが浴びせられる。勇太はゆっくりと爾
のスウェットに手をかけて脱がせた。下から真っ赤になった顔があらわれると、その顔が宝物を見つけたように輝く。
「……酷いです。笑うなんて」
「ごめん。でも、真っ赤な爾は可愛いな」
 歯の浮くようなセリフをあっさりと言う。
 スウェットの上下、ブラ、ショーツとあっさり全裸に剥かれた爾は、そのまま勇太の腕に抱きとめられた。やはり恥ずかしい。勇太の体で自身の
貧相な体を隠すことが出来るのは幸いだが、それ以上に素肌同士の接触が緊張を呼んだ。勇太の肌は、まるで女のようにすべすべしていて、くっつ
くとどこまでもなじんで行きそうだ。
「勇太さん……あの」
「爾? ここにいたって、まだなにか言うのか?」
 背後から、視線を感じる。確かに、無粋の極みだろう。だから、爾も言い訳や謙遜は捨てることにした。必要最低限のことだけを告げる。
「私は、初めてですから……その……」
「やさしく?」
「……いえ、お好きなように」
 優しくても激しくても、愛する男との初夜が悪いものであるはずがない。この場に居る全員が、その眼差しで告げていた。最低限の言葉さえ、無
粋でしかないのだ。爾はもう諦めて、それから恐る恐る勇太の首に手をまわした。異性の体にこうして触れること自体、彼女にとっては未知のこと
である。
 勇太は爾の尖った顎に触れて、気持ち上を向かせる。予感のままに、爾は眼を閉じた。
 唇に、温かく柔らかいぬくもりが触れる。それはたっぷりと押しつけられた。それから勇太の舌先が、ゆっくりと爾の唇を撫でる。上唇を右から
左へ、そして折り返しで下唇までも。身を固くして、なすがままに受け入れている自分の姿は、きっと滑稽で無様で、そして周囲の女たちからすれ
ば悲しいくらいに余裕がないものに映るだろう。その証拠に、舌が口内へ侵入を始めると、見計らったように紫苑が耳元で囁く。
「苦しかったら、息をしてもいいのよ?」
 自分が完全に息を止めていたことにすら気づいていなかった。はっと我に返り、鼻で息を吐く。勇太が、口をづけたまま、
「くくっ」
と喉の奥で笑いを洩らした。鼻息がくすぐったかったのだろうか。そう言えば、自分の口臭はどうだろう。夕食を食べたあと歯を磨いていない。
 些細なことばかりが気にかかる。勇太の舌が、爾の舌を探すように口の中をうろついていた。
「じゅる……うぅ、む……ふむ……」
 口の端から唾液がこぼれだすが、どうでもよかった。歯を撫でる舌の動きは、やがて爾の舌を見つけて情熱的に絡まり始めた。
「ぺろ、じゅるる……ちゅぱっ、ちゅうぅ……」
 水音が耳に入るたび、羞恥で逃げ出したくなる。しかし、雄太はもう完全に爾を捕まえて、放してくれそうになかった。いや、違う。爾自身も
膝立ちになり、勇太に寄り掛かるようにして唇を押しつけていた。自分から求めてしまっていることに、ようやく気付く。両手がこわばったよう
に、勇太を離さない。自分で慰めていた身体に再点火がされるのは、恐ろしく簡単だった。
「じゅるる……はふっ……ふぁむ……ぺろっ、じゅぅっ」
 合間に口から洩れる吐息は、どちらのものなのか、それすらも解らない。と、後ろから突然尻を撫でられた。
「んむっ、ぷっ、んんっ!!」
 振り返ろうとするが、勇太の手が後頭部を抑えてそれを阻む。触れている唇が、楽しそうに笑うのがわかった。

57 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:41:20 ID:ywDj3M1x
「うわぁ、みつねぇってばもう大洪水だぁ」
「そりゃぁ、そやろ。ずっと覗いてオナニーしてたんやもんなぁ」
「そうそう、私たちにも気付かないくらい、夢中だったもの」
 膝立ちになった自分の股間を、後ろから観察しているらしい。いまさら恥かしがっている場合ではないと頭では分かっていても、今の姿はあま
りに無防備すぎる。そして、相手はその無防備さに遠慮をするような性格はしていないのだ。
 細い指が内股に触れ、伝っていた愛液を拭う。
「へぇ、けっこう水っぽいんやな。爾クンは」
「でも、これじゃぁ、私たちが準備するまでもないかしら?」
「しーつ、びしょびしょ……」「……おしっこ?」
「ち、違いますっ!!」
 ジルマの発言には、流石に耐えられなかった。勇太を振りほどき、抗議する。しかし、当のジルマは面白そうに笑っているばかりだ。状況に慣
れていないだけに、反論したら負けと解っていても、聞き流すゆとりがない。
「もう……どうしてそう皆さん、意地悪なんですか?」
「こんくらいで意地悪言うてたら、やってけへんで?」
 テオがニヤニヤと言う。紫苑もエマも、同じ表情だ。爾は大きくため息をつき、それから勇太に向きなおった。ここで、主導権とまではいかず
とも、なにがしかの優位性は欲しい。
 しかし、それについて考えをまとめる前に、体をひねるようにして組み敷かれてた。横向きのまま、大きく足を開かれる。
「……って、これって」
「まぁ、描くのが難しそうな体位ね」
紫苑が両手を合わせて、楽しそうに言った。そう言えば、この人は同人作家だったか、と忘れかけていたことを思い出す。股間に勇太の吐息を
感じる。誰にも見せたことのないところを、まじまじと見られ、真っ赤だった爾の頬がさらに紅潮した。
「あ、あの、勇太さん。いくらなんでも、ちょっと恥ずかしいっていうか、あの」
「そうか。じゃぁ、恥ずかしくならないように、もっと見てあげよう」
「ちょっ、あ、な、なにっ?」
 ぬろん、と生暖かい感触に悲鳴をあげる。
「舐めたに決まってるでしょ?」
 エマが笑って言う。
「な、なめ……って、ひんっ! や、ダメ! こんなのっあぁぁぁ」
 自分の中を掻きわけて、舌が侵入してくるのが解った。汚い、恥ずかしい、いやらしい部分を、勇太が味わっているのを思うだけで、逃げだ
してしまいたくなる。異物感がぬめりを帯びて、爾の感覚を支配しようとしていた。
「んあぁっ! こんな、し、しらないぃ!」
「いいのよ? もっと、知らないことしましょう?」
 紫苑が幼子をあやすように(本人はそれそのものの感覚であると思われるが)爾の短い髪を撫でた。
「あん! あぁ、や、だめ……ひあぁはぁっ!」
 気持ちいい。粘膜をなめられると、ひとこすりごとに快感が溢れだす。舌先が、敏感な肉芽に迫ると、未知の快感への恐怖が、腰を震わせた。
他人にそこを舐められるのは、どんな感触なのだろう。紫苑や、テオや、エマは知っているはずだ。そして、彼女たちが例外なく、虜になって
しまうほどの快感。
 勇太が、股の間から目で笑って、舌先をそこへ押しあてた。
「んいあぁぁぁぁ!?」
 執拗にクリトリスを弄ばれ、爾は全身をがくがくと痙攣させる。頭の奥の理性がぷつりと音を立てて切れ始めているのが解った。
「あっ、ひあぁ、そ、それ、強すぎ……んくぅぅぅ!!」
 口から涎が溢れて、頬を伝った。そんな爾の様子を、女たちはただ見て、まるで何事でもないように雑談をしていた。
「爾くん、クリが弱点なんやな」
「すごいね、あんなに乱れて……」
「人事みたいに言うけど、エマもあんな感じよ?」
 それが恨めしくもあったが、下手なことを言うと、彼女たちは勇太と一緒に爾を責めるだろう。それに耐えられる自信などなかった。
 目の前で火花が散り始める。太ももが、勇太の頭を思い切り挟み込んだ。
「んぶっ!?」
 はっと我に返って脚を緩めると、勇太は口元を拭いながら
「死ぬかと思った」
とおどけて見せた。
「もう、いいんじゃない? 勇太ってば、いじめ過ぎだよぉ」
 エマが口を尖らせて、気遣うように素肌の肩に左手を置く。その言葉に、思わずほっと息を抜きかけたときだ。
「早くしてくれないと、あたしも……我慢、できないもん」
 飛び起きてよく見れば、右手が自身の股間に入っていた。そこから、じゅく、と水音がする。詰まるところ、『もう、いいんじゃない?』とは、可哀
想だから見るに見かねて、ということではなく、まるで肉の焼き加減を見て言うのと同じことだったのだ。思えば精気を摂取して生きるサキュバス
にとっては、まさに的を得た比喩かもしれない。

58 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:43:24 ID:ywDj3M1x
 しかし、エマの一言で部屋の空気の密度が、一段階増した気がした。全員の目がぎらぎらと輝いて、勇太と爾を見ている。早く早く早く早く。
急かす視線が、その羽音でも聞こえそうな濃密さで飛び交っている。
 爾は大きく脚を開き、勇太を見つめた。
「あ、あの……もう、平気です、から……」
「ん、解った」
 覆いかぶさる勇太の顔を、爾は両手で挟んで寄せた。
「どした?」
 動揺するでもなく、額同士を合わせる余裕。いつもいつも、今でも、それが憎たらしい。それを崩してみたくて、爾は額を合わせたままで言
った。
「勇太さん。一つ、約束してください」
「ん? 浮気をするなとか?」
 茶目っ気たっぷりに言われたが、爾は首を振った。その真剣な視線に、全員の顔が曇る。
 爾はそれを受けながら、全員に聞こえるように、はっきりと言葉にした。
「私に……勇太さんの赤ちゃんを産ませてください」
「おおぅ……みつねぇ、大胆……」
 エマの言葉は、全員も同意見のようである。一同に吐息が漏れた。爾とてほんの十分前までこんなことを言うとは思っていなかった。
 人間である自分は、紫苑やテオのように何百年も勇太と寄り添うことはできない。それはまだいい。仕方がないと諦めることも、できるかも
しれない。
 けれど、忘れられてしまうのは、耐えられなかった。
 何百年たっても、自分のことを覚えていて欲しかった。忘れられぬよう、忘れようとしても絶対に出来ないように。
 そんな爾の思いをおそらく見透かしている勇太は、笑って、
「実は俺、子供ってまだ作ったことないんだよな」
とだけ言った。それは爾にとって少しだけ意外だったが、それならばさらに好都合である。
「……避妊なんか、絶対してあげませんから」
「はは、すごい意気込みだ……さて」
 勇太が腰を揺らすと、粘膜が触れる。それだけで痺れるような感触が体全体に広がる。
 特に守ろうと思って守ってきた操ではないが、いよいよ亡くす場面に来ると、まるで勇太のために大切にしてきたような思いになる。
それはもちろん錯覚であり、よくある感傷なのだろう。けれど、爾はいまだけは、その錯覚と感傷に身を任せていよう、と思った。
「ゆう、た、さ……」
 自分の声が驚くほど擦れている。それをなだめるように、勇太は髪を撫でてくれた。
「みつねぇ、ガンバレ! あたしは処女膜なかったから、痛くなかったけどね」
 あぁ、そうだ。サキュバスには、確かにその生態上、処女膜などという不合理なものはないのだった。どうでもいいことが、頭をよぎるが、
それにしてもなんと無責任な励ましだろうか。
「……きっと、だいじょうぶ、みつる」「……たぶん、へいき、みつる」
 双子もまた、不安になる励まし方をしつつ、胸元でぎゅぅっと手を握って、まるで怖いものを見るような視線をこちらに送っていた。
錯覚と感傷に身を任せようと思っていた爾も、さすがに現実的な不安を呼び起こさざるを得なかった。
「え、そんなに痛いんですか?」
「それは人それぞれかな? それじゃ、行くぞ?」
 勇太が最後に最高に無責任で玉虫色な返答をして、腰を進める。
 ゆっくりと肉を押し分ける圧迫感が襲った。始めは異物感だけだったが、すぐにそれは裂けるような痛みに代わる。
「ああぁっ! い、いたっ!!」
「よしよし……」
 勇太はずっと、髪を撫でてくれる。その温かさが心地よく、一瞬だけ下腹部の痛みを忘れることができた。爾は勇太を感じていたいという
綺麗な部分の思いをいったん棚に上げて、自分を撫でてくれる手のぬくもりに意識を集中することにした。
「いっ……ぐぅ……あ、はぁっ!!」
 涙が溢れる。肉槍が膣を押し分けて自分の真ん中に到達しそうになっていた。しかし、実際にはまだ三分の一程度である。世界中で起こっ
ている、特別でもなんでもない痛みのはずなのに、爾の体はそれに耐えるので精いっぱいだ。
「あ……くあぁ、ひぐぅ…………」
「みつねぇ、大丈夫だよ? もう、全部だから」
 固く閉じた瞼を恐る恐る開けると、エマが優しい眼差しを向けていた。
「よかったわね? もう、爾さんは、この人のものよ?」
「まぁ、もう逃げられへんとも言うけどな。とにかく、よろしゅう」
「みつる……ないてる」「みつる……きれい」
 それぞれが、それぞれの言葉で、爾を仲間だと言う。それに笑顔を返したかったが、まだそんな余裕はない。
 けれども、ぎゅっ、と抱きしめられると、幸せだと断言できる。
 体と心の感覚が別だと、これほど思い知ったことはない。

59 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:45:10 ID:ywDj3M1x
「あ……ありがとう、ございます……よろしく、お願い、しますね?」
 勇太が、紫苑が、テオが、エマが、イルマが、ジルマが、その場違いとも思える挨拶に、それぞれ笑顔で応じた。爾の胸にも、場違いな安
堵感が満ちていく。頭で解っていてもしつこく残っていた不安が、完全に溶けて消えた。
「そろそろ動くぞ?」
 しばらく、抱き合った後で、勇太は継げた。爾は無言でうなずく。
「勇太さん……愛して、ます」
「あぁ、俺も愛してるよ。爾」
 その言葉は甘い熱湯だった。耳から一気に体中に染みて、内側から焦がされるような茹でられるような熱い情欲が湧き出すのに、身体は指
一本動かずとらえられた獲物のように、全てを相手に投げだしてしまっている。『骨抜き』とはこんな状態に違いない、と爾は思った。
 その熱が、ずくっ、と下腹部に集まった。
「んくぅ……はっ、あ」
 勇太がゆっくりと動く。痛みはまだあったが、挿入の瞬間ほどではなかった。慣れた、とは言い難いが、感触を味わう余裕はできてきた。
自分の中を掻きわけて、男の性器が出入りしている感覚は、伝え聞くよりもはるかに奇妙に思えた。カリの部分が膣壁の襞を掻いていくのに
しても、性感よりは敏感な部分を無遠慮にまさぐられる異物感が大きい。
「くぁん……ふぁ……あん」
 それでも、のどの奥から甲高い声が漏れてしまう。不快ではないが、まだ快感はない。それが彼女を焦がした。先ほど覗き見た、イルマと
ジルマの痴態が、脳裏に浮かぶ。自分もあんな風に、乱れてしまいたい。あんな風に、壊れるほど愛されたい。しかし、快感はまだ訪れない。
 嫉妬にも似た感情が、爾の腰を動かした。たどたどしく、しかし確実に相手の動きに合わせて、自分の腰を揺らす。その反応を、勇太は満
足そうな顔で受け止めた。
「も、もっと……」
 思わず声が漏れた。純粋に快感を求めているのではなく、快感を得られない自分を早く変えてしまいたかったが故の言葉だった。
愛する男と共に快感を得られる自分に作り変えて欲しかったのである。
「わかった」
 勇太は短く答えると、より深く打ち込んだ。
「くひっああぁぁぁっ!」
 つま先が伸びきり、全身がぶるりと震える。次の衝撃に備えたが、勇太はそのまま、ぐりぐりと腰を押し付けてきた。中を掻きまわされて、
それまでとは違う刺激が襲う。ぐちゅ、ぐちゅ、と結合部から卑猥な水音が聞こえる。
「ぁ、そ、それ……うあぁ!」
「ふむ、こういうのが、好みかな?」
「ひんっ! ひあぁぁぁっ!!」
 たまらず、勇太の首にしがみついてしまう。と、それを待っていたかのように、唇がふさがれた。
「んむぅ……ちゅぅ、ん、じゅる……んぐ……」
 甘い唾液が混じりあい、口の中に広がる。舌が火傷しそうなほどに、熱く思えた。勇太がやはり喉の奥で器用に笑っているのが癪だったの
で、今度は少し勇気を出して、積極的に舌を突き出してみる。しかし、その挑戦はすぐに絡めとられた。敵うはずがないのについやってしまう
のは、子供じみた意地のせいだと十分に自覚はしている。そして、そのことは勇太も解ってくれている。
 どうせ掌の上だ。そこから飛び出すようなことは、今の自分にはどうしたって出来ないのだから、それなら思う存分掌で転げまわってしまお
うと、開き直り始めていた。
 唇を貪りつつも、雄太のペニスは動くことをやめない。中を突かれながらも、爾は唇を離すまいと勇太を抱きしめる腕に力を込める。口腔も
膣も奥まで深くをまさぐられ、爾の身体は少しずつ開いていく。
 二度目のキスから口を離すと、勇太は笑って爾の口元を、手で軽く拭う。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?」
 さすがに少し気遣わしげに勇太が眉を寄せて見せた。
「無理はするなよ?」
「大丈夫です……鍛えて、ますから」
「男前だねぇ〜、みつねぇ」
 エマが四つんばいになって、にやにやと爾を覗き込む。
 爾からは逆さまに見える顔に手を伸ばす。そのまま、口付けた。
「んっ?」
 さすがにこれには予想外だったようで、エマはなすすべなく爾の舌をうけいれることになった。まだ口の中に残っている勇太の唾液が、エ
マの舌をぴりぴりと香辛料のように刺激する。それは久しぶりに補給された魔力だったために、余計に刺激が強かった。
「みつ、ねぇ……?」
「ふふ、おすそわけです」

60 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:47:05 ID:ywDj3M1x
 キスの後でぽかんとしているエマに、爾は笑ってみせる。その笑みは完全に爾が今の状況を楽しみ始めていることを語っていた。勇太はそ
の笑顔を心底嬉しそうに見ている。
「あー……やっぱお前最高だ」
「? なんのお話ですか? ……それに、『最高』は沢山いるんでしょう?」
 笑顔のままで答える爾に、勇太はいよいよ噴出しそうな表情だった。そのまま、爾の左足を抱えて、大きく持ち上げる。
「んっ、あぁ……」
 膣の中でペニスの角度がまた変わり、あえぎ声が漏れる。
「エマ、可愛がってやりな」
「え……あ、うん!」
 まだ放心状態だったエマは、勇太に命じられると途端に息を吹き返したように、爾に這いよってきた。
「んふふ〜、さっきは不覚だったけど……負けないかんね?」
「あ……えっと、お手柔らかに、お願いします」
「やぁだ♪」
「なんや、もう爾苛めてえぇのん?」
「そういうことなら、手加減はなしね」
「あ、え……ちょ……」
 エマが爾の乳首に吸い付く。勃起した先端を舌で弄ばれて、思わず悲鳴を上げた。
 テオが右の指先を舐り、軽く鋭い犬歯を立てる。痛みの中で、甘い刺激が広がっていく。
 紫苑はくすくすと笑いながら、反対の乳首を指で挟んで、こね回していた。

 ――爾の記憶が、正常な時系列を保っていたのはここまでである。

 後からどうやって思い出しても、何もかもが極彩色のなかでぐちゃぐちゃに溶け合っている。紫苑が、テオが、エマが、悪戯顔で自分に覆
いかぶさり、その合間に勇太の切なげな顔が見え、イルマとジルマは脇で抱き合ってなぜか上機嫌に歌を歌っていた。
 おそらく、さまざまな記憶が一緒くたになって、ネガを重ね合わせるように焼き付いてしまったのだろう。もしかしたら、夢の光景もごち
ゃ混ぜになっているのかもしれない。
 ただ、そのあとで訪れた眠りは、爾の人生で最も安らぎに満ちたものであった。

61 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/05/05(火) 22:47:38 ID:ywDj3M1x


               ※                    ※                   ※

 爾が目を覚ましたとき、外はまだ暗かった。周囲を見回せば、盛大に汚れたシーツを気にする風もなく、ジルマとエマと紫苑が眠っていた。
ベッドの下には、いつの間にか敷かれた布団で、テオとイルマが寝息を立てている。むろん、全員一糸も纏わない、全裸のままだ。そして、
それは爾も同じである。 しかし、肝心の勇太の姿がない。寝顔を見られるのを少しだけ期待した爾は、軽くため息を
ついて部屋を見回した。カーテンが風でゆるくはためいている。その向こうは、ベランダだったはずだ。隣のリビングからも出入りができる
ようになっている。
 爾は自分の体にかけられた薄手の布団を体に巻きつけると、テオたちを踏まないように気をつけてベッドを下りた。
 そっとカーテンに手をかけると、案の定、勇太が煙草を咥えて、難しい顔で何か書類を読んでいる。爾に気づくと、軽く眉をあげ、ほほ笑
んだ。
「ん? どした?」
「いえ、起きたら姿が見えなかったもので……」
 かといって別に探す必要もなかったはずなのだが、勇太は軽くうなずくと自分のバスローブの前を広げた。その下は、裸のままである。ベ
ランダでそんな行動に出るのを、責める気にもならない。爾は呆れついでに体に巻いた布団を足元に落とすと、勇太のローブの中に身体を滑
り込ませる。
 季節は冬の足音が聞こえ始める晩秋のこと。夜の冷気が一瞬肌を刺したが、バスローブの中は暖かかった。それは、二人分の体温があると
いうだけでは説明のつかないものだ。勇太が魔術を暖房代わりに使っていると気付いたのは、すぐのことだった。
 素肌を触れあわせ、同じローブに包まれていても、何も話題がない。何かを話す必要もないのかもしれない。
 勇太が爾にかからないように、顔をそらして煙を吐き出す。口火を切ったのは、そのまま勇太だった。
「まぁ、さ。いろいろ考えないといけないことがあると思うんだよな」
 唐突なセリフだったが、それは確かにそうだろうと思う。
 テオを狙い続ける連中はこれで終わりではないだろうし、その巻き添えから紫苑やエマを守る対策も立てなければならない。イルマとジル
マにしても、それまでの環境と全く違う、この人間の社会での仕組みを学ばなければならない。
 もちろん、爾自身のこともだ。先ほどは勢いで『子供が欲しい』と言ったが、そもそも人間とそれ以外の人外種の子供は非常に稀なケース
である。二種族間の性交渉自体はそれなりに事例があるが、子をなしたという報告は存外少ない。吸血鬼に限定すると、皆無なのではないだ
ろうか。それが一抹の不安を彼女の胸に残していた。
 『機関』の人間として、爾はそこまでのことを一瞬で考えた。
 しかし、勇太の話の矛先は、全く別のところにあったのである。
「こうなったら一軒家しかないと思うんだよな。マンションじゃぁ、どうしても手狭だしさ」
「……は?」
「七人が住むってなるとなぁ。やっぱ俺は日本家屋がいいんだけど、平屋だと建物に場所取られるし、庭も欲しいしさ。爾は子供作る
って言うから、余裕は持たせた方がいいだろ? となると、いい物件がなかなかなくてなぁ。一から建てるのは時間がかかるし、面倒だし。
でも紫苑たちが、ここは風呂が狭いって文句言うんだよな。どう思う? まぁ、どの道一から練り直しなんだけどさ」
 立て板に水のように、さらさらとそこまで一息にしゃべると、勇太は話を半分程度しか聞き取れなかった爾に意見を求めた。
 ――なるほど。
 今の勇太にとって、爾の考えたようなことはどうでもいいことなのであろう。いや、確かにそれは憂慮すべきだが、確実な自信を持って、
解決できると思っているのだ。
 それよりも、新しい家族との生活の方が、思考を割くべき事柄なのである。
 なんだか不意に、何もかもがおかしくなって、爾は笑った。
「ふ……ふふっ」
「なんだよ? なんかおかしいか?」
「ははっ……いえ、なにも……ふふっ」
 不動産屋で貰ってきたのだろう、この物件の情報こそが、この吸血鬼の何物にも優先する最大の懸念事項なのである。

52 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:37:27 ID:GFUfNR35
「しかし、写真とは……そんなにイベントに積極的だったかね?」
「ん? まぁ、ほら、爾がいるからな」
「あぁ、なるほどね」
 カメラの高さが合わないということで、みかん箱を重ねて調整しているテオたちをよそに、美濃山と勇太――元特殊戦術魔導師と吸血鬼は語り
合う。重ねてきた年輪と、共有した経験は、二人の間に確かな友情を築いていた。
 爾の人間としての寿命、そして女としての寿命は、このメンバーの中では圧倒的なハンディとして圧し掛かっている。その短い日々を記録した
いと願うのは、当然のことだ。
 慎重に箱を重ね、台の高さを調節する爾の横顔を見て、美濃山は頬を緩めた。いまだ短いものの、以前ほど刈り込むことはやめた髪に、ロング
スカートという出で立ちは確かに女性としてのものだ。彼自身、無理をして男装を続ける元教え子のことは少なからず気にかけていたので、何か
肩の荷が下りたような気持ちになる。
「いい女になったろ?」
「あぁ、あと20年若かったらな」
「はは、一度俺も言ってみたいもんだよ、そのセリフ」
「ふふ……それはそうと、あれは?」
 美濃山は庭の一角に設えられた囲みを示す。
「あぁ、あれはロシアの客が持ってきたのさ。野良猫が荒らさないように柵をつけたんだけどね。疲れたよ」
柵のつくりの不細工さに、勇太が顔をしかめて大仰に肩を回す。柵の出来自体は悪くないのだが、大工仕事は苦手らしい。美濃山はその様子に笑
みを作ると、すぐに話を戻した。
「ロシアの……となると、双子の?」
「ご神木の種だそうだよ。俺にもよく解らないが、二人でよく世話をしている。この間、芽が出たとこさ」
「へぇ……管轄から離れてまで、わざわざ直接とは、珍しいな」
「まぁ、そういうこともあるだろうさ。しかし、あれが植わっている以上は、しばらく引っ越しはできないかな」
 肩をすくめて、勇太は目を細める。向こうでは、カメラの調整が終わったらしく、なにやら姦しくなりだしていた。
「よっしゃ、OKや! っちゅーか、三脚くらい買っとけや!」
「注文したのはテオねぇでしょー?」
「あ、あら? そうやったっけ?」
「ほら、それは後にしましょう。えぇと、勇太さんが真ん中で、あとは……」
「ゆーたのとなりは、イルマたち」「シンメトリーが……いいと、おもう」
「難しい言葉知ってるわねぇ。でも却下。ここはジャンケンにしましょう?」
「うわ、しぃねぇが笑顔で怒ってる……」
「トラウマもんやで、あれは……」
 その様子を、男2人はただ、見ている。
 孤児として『機関』に引き取られた爾を、美濃山はそのときから知っている。昔から、己の感情や欲求を示すのが苦手な教え子だった。美濃山
の胸に去来しているのは、紛れもない父性だった。娘を嫁がせるときのような、複雑な諦めと寂しさの入り混じった、感情だ。
「ふつつかな教え子だが、よろしく頼むよ」
「おう、墓参りまで頼まれた」
「ほらほら、二人とも、こっち来や〜! 撮るで〜!」
「勇太、早く! あたしの隣!」
「あ、教官は、後ろで……私と、紫苑さんの間に」
「はは、その年で両手に花とは、やるなぁ。とっつぁん」
「からかわないでくれよ、頼むから」
 庭の新芽の、季節はずれな新緑が鼻をくすぐると同時に、フラッシュが閃いた。


       ※                     ※                     ※

 二階建ての和風建築である。
 もともとはとある会社の社長の持ち物であったそうだが、広めの庭もついており、部屋数も十分であったため、ほとんど手を入れる必要は
なかった。『機関』が抑えていた建物ではなかったが、前の住人が海外へ事業展開した際に家族全員でそちらへ移住した際に地元の不動産業
者へ転売。しかし、その広さからかえって管理費などがかさみ、また周囲の購買層から外れた物件だったため買い手がなかなか付かず、業者
も持て余していたところを、勇太が見つけた。
 そう言った事情から比較的安値ではあったが、曲がりなりも家を買った上に、一カ所だけ大幅に改築をしたために、流石に只では済まない
出費ではあった。とはいえ、基本的には良い買い物だった、と長身を湯に延び延びと浸して勇太は思うのだった。
 この家で一カ所だけ改築をした場所、それがこの風呂である。
 湯船が3メートル四方。洗い場はさらに広く、四畳半ほどだろうか。建物を上から見ると、ここだけ庭の方に不格好に飛び出して見えるほ
どの大きさだ。
 ちゃぷ、と水面を掻き分けて、テオが近寄ってきた。
「ふはぁ……えぇなぁ。家の風呂で泳げるっちゅーんは」

53 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:38:15 ID:GFUfNR35
 そう言えば、テオが日本に来る前、言っていた。
 『金持ちかどうかは、風呂で泳げるか否かで見分ける』
 ずいぶんと無茶な分類だが、この辺りのセンスは関西弁と非常にマッチするのではないか、と勇太は思った。
「勇太もまだまだ隠し財産があったんやなぁ?」
 何の臆面もなく金の話を切り出す性格も、ステレオタイプだと解っていながらも関西人を思い起こさせる。こんな話題をぱっちりとしたア
ーモンド型の瞳になんの屈託も滲ませず投げかけてくるのだから、質が悪い。
 ため息をつくと、答えた。
「そんなもんないよ。ちょいとフィンランドの土地を売っただけさ」
 どこまで本気か解らない答えに、テオはお湯にとろけそうな笑みを浮かべた。
「んふふ〜、あいかーらずやなぁ? 誤魔化してるんか、ちゃうのんか……」
「お前、酔ってんのか?」
 ろれつの回らない話し方に、勇太は片眉を上げた。そう言えば、さっき美濃山が持ってきた焼酎を一緒に飲んでいたような気がする。顔が
上気しているのも、風呂だけが原因とは思えなかった。
「はは、そーかもしれへんなぁ」
 そう言うと、テオは勇太の胸に縋り付くようにして身をすり寄せてくる。
「のぼせたら、てきとーに運んでやー」
「へいへい」
「あら、テオったら……」
「テオねぇは甘え上戸だからねぇ」
 紫苑とエマも湯船に入ってくる。紫苑は長い髪を頭の上で纏めている。勇太は無造作にその細い肩を抱いて、普段は隠れているうなじに顔
を埋めた。
「あん……もう、あなたも、甘えん坊かしら?」
「あー、勇太、あたしもー!」
「はいはい」
 テオと紫苑の間に割り込むように体を滑り込ませてきたエマの首筋にも、勇太は惜しみなくキスをする。
「く、くすぐったいよぉ、ふふふ……」
 身をくねらせんながらも、エマは控えめな乳房を勇太の胸に押しつける。すでに尖り始めた乳首が擦れると、
「くぅん」
と笑い声に混じって甘い声が漏れた。
 と、そのとき、洗い場の戸が開き、脱衣所から三つの人影が現れた。言うまでもなく、イルマ、ジルマ、爾である。
「あれ……もう?」「くらいみんぐ?」
「イルマさん、それはたぶん『フライング』ですよ。ほら、早く身体を洗いましょう」
 湯船の様子を見て、爾が双子を急かす。テオはそちらを横目で見て、
「勇太、ボクにもちゅー、や。べろちゅー」
と、見せ付けるように、勇太にキスをせがんだ。
「べろちゅーって……」
 苦笑いをしながらも、勇太はそれに応じて、たっぷりと唾液を流し込むディープキスをする。
「んく、んっ、こくっ……ちゅぅ、じゅるる……ぷは。あ、せや」
 ふと思い出したように、テオは勇太の背後に手を伸ばし、浴槽の縁に置いていた物を取ると、爾たちに向ける。
「みつるー、イル、ジルこっち向いてーな」
「はい?」
「?」「?」
 洗い場で体を洗い始めていた三人は、ほぼ同時に振り向いた。双子に至っては髪の毛を洗っている途中だったため、本当に何も解らず目
を閉じたままである。
 そこに、フラッシュが閃いた。
「え? て、テオさん! な、なんでカメラ……っ!?」
「え? なに?」「ひかった……?」
 状況を把握できたのは、爾だけである。双子は瞼越しにフラッシュを感じて、うろたえているだけだ。
「な、なに撮ってるんですか!」
「便利やで、これ。ちゃんと防水やしな」
「そんなこと聞いてません!」
 新品のデジカメには、三人の裸がばっちりと映っている。
「うん、よく撮れてるな。画素数いくらくらい?」
勇太も画面をのぞき込み、何気なく尋ねる。
「ん、1200万やったかな。サイズの割にはいいとこいっとると思うで?」
「ふむふむ」
「テオ、こんど私にも貸してちょうだい。背景の資料にする写真がいくつか欲しいの」

54 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:40:39 ID:GFUfNR35
「かめへんでー」
「あ、あたしも! 料理の写真撮って、ブログに載せるんだー」
「あれ? エマってブログなんかやってたっけか?」
「最近始めたばっかだけどねー。まだあれできないけど。えっと、見ないでぱぱぱーって打つヤツ」
「……ブラインドタッチか?」
「そう、それ! 難しいよねー」
「ちょ、ちょっと!」
 ようやく体に付いた泡を流して、爾が湯船に入ってきた。血相を変えて、お湯をばしゃばしゃとけたたましく掻き分けながら、こちらに
近づいてくる。
「それ消してください!」
「え、どして?」
 心底不思議そうな顔で勇太が言った。
「どしてって……あの、えっと……は、恥ずかしいからです!」
 理由を探すのに少し戸惑ってしまった。単なる理屈で言えば、別段写真を撮られたところで、痛手ではない。見るのはこのメンバーだけ
だろうし、外へ漏洩する心配もないだろう。しかし、感情ではやはり抵抗がある。
「えぇやんか、爾。思い出や、思い出」
 そう言われてしまうと、明らかな反論も出来ない。自分がただの人間であるという引け目もある。
「う、ぐ……次からは不意打ちみたいなのはやめてくださいね?」
 どうにか、それだけを答えた。
「ゆーた、ようい、できた」「はやく、はやく」
 その声で洗い場を見ると、タイルの上にピンクのエアマットが敷かれ、その両脇に双子が座り込んでいる。マットはボディソープらしき
泡にまみれていた。
「おー。やっぱお風呂と言えばこれだよね」
「前んとこは、風呂狭かったからなぁ」
「前から思ってたけど、君らのお風呂観は大分おかしいよね」
 エマに至っては覗きの前科まであるし……という台詞はまたも飲み込んで、勇太は立ち上がって移動し、マットの上に座る。イルマとジ
ルマは自分の豊乳にボディーソープを垂らして、そのまま揉み込むように泡立てて始めた。
「んっ、ふぁ……」「あん……あわわわ」
 ソープはたっぷりと泡立ち、二人の体を全面を真っ白に覆っている。
「あぅ……もう、おっきぃ、ゆーた」「がんばる……から……座って?」
 イルマとジルマは勇太をマットの上に足を伸ばして座らせ、前後からサンドイッチするように挟んだ。背中側がイルマ、腹側がジルマだ。
「おぉぅ……」
 背中と胸に当たる心地よい弾力に、勇太は思わず声をあげてしまう。にゅる、にゅる、とぬめりを帯びて動き始める巨乳は、すでに尖っ
ている乳首をときおり引っかからせながら、体全体をマッサージしていた。
「んっ、はぁ……くぅん……」「あっ、はぁ……どう? きもち、いい?」
「あぁ、最高だ……ちゅぅ」
 お礼とばかりに勇太はまずジルマとキスを交わす。そのまま、抱きしめて、たっぷりとした尻を揉みしだき始めた。
「んっ、ひん……ぐちゅ……ちゅぅ、ちゅ……ぺろ……んはっ、ふぅ……」
「あぁぅ、ゆーた、いるま、もぉ……」
 抱き合う二人を、さらにすっぽり抱くように、イルマは勇太に覆い被さり、こらえきれず肩口にキスの雨を降らせ始める。
「んっ、ぷあっ、よしよし。じゃぁ、次はイルマだ……んっ」
「はぁむ……ちゅる、じゅ……んんん……はふぅ、ぺろ……ゆーたのちゅー……すきぃ……じゅる」
 勇太は唇だけでなく、顔にも舌を這わせ、額に出ている角にも丹念に舌の愛撫を施す。
二人が濃厚なキスを交わす傍らで、既にジルマは勇太の太股にまたがり、股間をこすりつけ始めていた。
「はぁん、これ、きもちいい……ぬるぬるって、して……んはぁっ……」
「あ、それえぇなぁ。ほれ、ジルマ、こっち向いて」
 またフラッシュが焚かれる。慌てたのは、撮られた本人ではなく爾だ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 思い出って、こ、こんなところもですか?」
「ハメ撮りくらいで、いまさらがたがた言うなや」
 テオは全く意に介さず、『撮影』を続けている。
「ひんっ、あぁっあぁ、ゆーた、だめ、ほしい……」「ほしい、ゆーたの……おちん○ん、ほしい……」
 双子のソープごっこはそれで終わりだった。勇太に体を擦りつけるだけで、体の方が勝手にできあがっていくのだ。感覚に刻み込まれた
快感が、焦りを生んだ。
 マットに双子は折り重なって寝転がる。下になったジルマが
「は、はやくぅ……」
と腰をつきだして懇願すれば、上のイルマも
「いれてぇ……んはぁぅぅ……」
と尻を振って誘う。

55 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:42:01 ID:GFUfNR35
「あ、ちょっとすんません」
 そのとき、テオはさっと勇太と双子の間に割り込み、重ね合わされたクレバスを撮った。
「?」「?」
 未だに現代社会に馴染んでいない双子には、いまいちカメラというものがピンと来ないらしく、首を傾げている。
「ちょ、ちょっとテオさん! いくらなんでも……」
「もう、爾はカタいなぁ……」
 テオは画面を見てご満悦である。爾はさらに抗議しようと思って口を開きかけたが、
「はっ、あぁぁぁ……!!」
と、尾を引く長い喘ぎが浴室に響き、結局それに遮られてしまった。言いかけたことを飲み込んでしまうほど、それはあまりにも明け透け
な声だった。
 下のジルマが、快感にとろけた顔で顎をのけぞらせている。
「んぅぅ……ひんっ! ひあぁ……」
「ジルマ……ん、ちゅ」
「はぁんっ!」
 イルマがジルマの額の角にキスをすると、その体が思い切り跳ねた。この二人の額に生えている角は、セックスの最中では性感帯の一つ
にらしかった。
「あっ、あんっ! あぁ、ゆーたぁ……」
「よしよし、お姉ちゃんはこっちな」
「くっあぁぁぁん!」
 イルマの膣に勇太の長い指が差し込まれる。易々と第二関節までを飲み込み、中を掻かれる度に、全身がわなないた。
「あんぅぅ! そ、そこっ、ひぁっ!」
「あぁ……イルマぁ……」
「くんっ! うぅぅぅんっ!」
 お返しとばかりに、今度はイルマの角に口づけがされる。そのままそのままぺろぺろと突起全体を口に含み、それは少しずつ顔を這いな
がら、唇まで降りてきた。
「ん、ちゅぅ……ちゅるる……」「はふ、んっ……ぺろ」
 再度濃厚なキスを交わす双子の姿を、テオはあまさずカメラに納めていく。
 勇太はそれには一切構わず、今度はペニスと指を交代させた。
「うあぁぁぁぁん!!」
 イルマが奥深くを抉られ、悲鳴を上げる。ジルマも指技で身悶える。重ねた餅のような乳房が、二人が動くたびに柔らかく形を変えた。
 そして再度、交代。もう一度。
 交代の度に、双子は際限なく乱れ、もはや意味のある言葉を紡ぐことが出来なくなっていた。
「あひっ! ひあぁぁ! はん! あ、あ、あ、ああぁぁぁ」「くあぁぁ、いい、いい……っ! く、ひ、あぁぁぁんっ!!」
 それは唐突に訪れた。それはまったく勇太も予期しないタイミングだった。
「あひっ! あぁぁぁぁぁぁぁっ!」「い、くぅ! い……はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 双子は絶頂と同時にお互いが潰れそうなほどの力で抱きしめ合い、そして弛緩した。
「び、びっくりした……」
 そう言ったのは他ならぬ勇太である。そのまま、先走りと愛液で濡れたペニスを引き抜いた。
「あ、あたしお掃除するね」
 エマが率先して、ためらいなくそれを口に含む。
「んむっ! んん……ぺろぺろ……」
「お、いいね」
「出したかったら、出してもいいからね? あむ……じゅる……」
 その台詞とは裏腹に射精を促すような吸い込みをする。根本近くまで飲み込んだかと思うと、カリまで唇でしごき上げ、再び口いっぱい
にに頬ばる。その往復の間に舌で刺激することも忘れない。
 その見た目と裏腹の手慣れた様子に、爾がおずおずと申し出た。
「あ……あの……」
「んー?」
 小さな口いっぱいにペニスを含む姿は、背徳的ですらある。動悸を隠しながら、彼女は言った。
「わ、私も……それ、したいです」
「あぁ、いいよー。でもみつねぇ、初めてじゃなかったっけ?」
「そら教えたらなあかんなぁ」
 テオがまた悪戯を思いついた顔で、勇太にカメラを渡した。
「ほな、勇太、撮影係な」
「はいよ」
「え、と、撮るんですか?」
「えぇから。まずな、舐めてみ?」
「あ、はい……」

56 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:44:07 ID:GFUfNR35
 マットの上にひざまずき、さらに身を伏せて、仰向けの勇太の股間に顔を近づける。おそるおそる舌を伸ばして舐めてみると、ぬるりと
した感触はあったものの、特に不快とは思わなかった。それに勇気づけられて、全体に舌を這わせてみる。
「お、えぇ調子や。ほな、くわえてみよか」
「はひ……あむ……ん」
 先端を口に入れると、かすかな塩味が舌を刺激する。さらに、口から鼻へ濃厚な雄の臭いが抜けていった。
「んむ……はむ……」
 しかし、爾は負けたくない一心で行為を続ける。たどたどしい舌の動作が、勇太に全て伝わっている。シャッター音がするが、それを気
にしている余裕はない。
 と、突然、誰かが乳首をつまんだ。
「んむっ!?」
 エマだった。
「んふふ〜、ほらほら、続きしないと、ね?」
「せやで? このくらいでへばってたらあかんわ」
 続けてテオも爾の体をまさぐり出す。しかもこの二人、器用なことにそうしながら勇太の太股や胸に唇で愛撫を加えていた。
「くっ……あむ、んん……! ひむっ……!?」
 爾もほとんどやけくそになって、空いている手でエマの尻を揉んだ。
「あんっ! やるなぁ、みつねぇ。えいっ」
「んひっ!」
 乳首を思い切り捻られて、しゃっくりのような声が出てしまう。
 互いの体をまさぐりつつも、三人はやがて一本のペニスを一緒にしゃぶり始めた。
「ん、ちゅぅ……れる、れろ……」
「じゅるる、あん……ぺろ」
「んっ、ふぅ……ぷはぁ」
「悪い、三人とも……もう出そう」
 勇太がうわずった声を出す。爾は、自分でも勇太を導くことができたのが、素直に嬉しかった。だから、それをねだることに、なんの恥
じらいも無かった。
「か、かけて下さい。 勇太さんの……精液」
「うん、えぇで。いっぱい出しや」
「あたしにも! 飲ませて……」
 懇願しながら、三人は舌の動きをやめなかった。ペニスが二、三回ひくついたかと思うと、精液が出口を目指してかけ上げるのが、外か
らの感触でもはっきりと解った。
「あ、くぅっ!!」
 うめき声と共に、ザーメンがまるで噴水のように吹き出す。三人はそれを大きく口を開けて迎えた。
「んっ、あん……こくっ、んっ……」
「はぁ、よーさん出したなぁ……めっちゃ濃いわ……」
「えへへ、ちゃんと撮った? 顔射シーン」
 勇太は黙って、カメラを差し出す。そこには、白い化粧で斑になった、三人の顔があった。
「あはは、めっちゃエロいなぁ、これ」
 あっけらかんと笑ってみせるテオに対して、爾はやはり恥ずかしそうに口元に手を当てて沈黙している。
「なんやぁ、まだまだこれからやで? 夜は長いんや」
 ぺちぺちと爾の背中を叩きながら、なんの屈託もなく言ってのけるテオに、爾もなんだか全てが馬鹿馬鹿しくなってしまった。初めて勇
太としたとこの、あの捨て鉢な気持ちがよみがえってくる。
 結局、楽しんだもの勝ちなのだ。
「それじゃ、次は私がお先に頂きます!」
 爾は言うなり、勇太を押し倒すと、ペニスを股間にあてがう。
「あ、やられた!」
「ずるーい、みつねぇ」
 二人を尻目に、爾はゆっくりと腰を落とした。じゃれあいながらのフェラチオで十分に濡れた膣が、わずかな抵抗を残してペニスを飲み
込んでいく。回数を重ねるたびに、爾のそこは勇太のものに馴染んでいくようだった。それほどに、得られる密着感が日に日に増している。
「勇太さん……」
「おぅ、動いてくれ。俺は少し疲れた」
 言葉とは裏腹にちっとも疲れを見せないペニスに、爾は苦笑して勇太の胸をぺちりとはたいた。
 それから、ゆっくりと腰を動かす。爾はゆったりとしたリズム、じっくりと味わうのが好きだった。順番待ちをしているテオ達も、それ
については口を出そうとしない。
 ――しないが、その代わり、
「あんっ! も、もうっ!」
「あはは、ほれほれ、はよぅイきや?」
「乳首もこんなに立ってるよぉ? ちゅる、ぺろ……」

57 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:45:54 ID:GFUfNR35
と、他の部分の刺激で、爾を果てさせようとする。エマが爾のつつましい胸を押し込むようにして揉むと、ぴりぴりとした刺激が肌から染
みてくるようだった。サキュバスの汗や唾液を含む体液は、他の生物には媚薬として機能するのだ。当然、なんの防御策も持たない爾にも、
その効力は存分に発揮される。肌から浸潤した成分は、あっという間に全身に火を入れた。反則だ、と思ってもどうしようもない。
「あっ、はひぃっ! え、エマさ、それ……きつい……んあああぁぁぁっ!!」
「ほらほら、早く早くぅ」
 エマが指の動きをさらに早めた。テオもクリトリスを何の躊躇もなく扱く。
「勇太! このまま、一気にイかせてまえ!」
 快感に揺さぶられているなかで、テオがカメラをこちらに構えているのが見えた。しかし、それを気にしている余裕はない。悶える表情、
浅ましく腰を振る動作、光る汗。それらが1200万画素で切り取られ、データとして記録されていく。意識すれば恥ずかしいのだろうが、
意識する隙が意識に生まれない。
「くあぁぁっ、ゆ、勇太さん! だ、出してください! もう、わた、しぃ…ひあぁぁぁぁっ! げん、かい……っ!」
「んっ、もうちょっと待てって、うあっ!」
「あっ……あ、あ、あっはあああぁぁぁ!!」
 努力も空しく、爾は身体を大きく仰け反らせて昇りつめてしまう。勇太もまた、一泊遅れて精を爾の膣に吐き出していた。
「ん、ふあぁぁ、熱いぃ……」
「うわぁ、一杯出しちゃって……あたしの分も取っておいてよ、勇太」
「無理言いなさんなって」
「あなた……」
 それまで無言だった紫苑が、勇太に抱きつくエマを遮って口を開いた。
「イルマとジルマが、のぼせてるわ」
指差されたほうでは、確かに双子が頬を赤くして、遠い目をしていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「う〜、ちょっと……ぼ〜〜〜」「ふらふらふらふら……する」
「あぁ、こりゃあかんな。移動するで? ほら、立ちや」
 テオがイルマに手を貸すと、エマもジルマの横に着き、欲情を出た。
「一旦仕切りなおしね。私は氷を取ってくるわ」
 紫苑はそういい残して部屋を出る。
「爾は? どうする?」
「え……あ」
 勇太の問いに、『行きます』と言いかけた彼女は視線の端にそれを捕らえた。
 テオが忘れていったデジカメだった。


「は〜い、撮りますよ〜」
 テオが正常位で絶頂を迎えた瞬間に、フラッシュが目蓋を焼いた。
「ひんっ、あぁぁ! な、なにしとんねん!」
「何って、撮ってるんですよ」
 爾は笑顔でデジカメをかざした。
 居間のちゃぶ台を片付け、六枚の布団が敷き詰めたその上で、テオは勇太と交わっている。紫苑がのぼせた双子のために氷を取りに入った
隙に、大急ぎで布団を出して勇太に迫ったのだ。そんな姑息なことをしたツケだろうか。快感で存在を忘れかけていたカメラが、いま爾の手
の中に奪われていた。
「思い出、なんでしょう?」
「や、やからって、イった瞬間なんか撮らんでも……んあぁぁっ! う、動くな、勇太っ! ひくぅっ!」
 絶頂を迎えたばかりの腰が、再びこわばったように浮き上がっていく。
「んぁ、ま、待てて! 今爾と話しとんのやっ! ひあうぅぅ!」
「ほら、爾。どんどん撮って」
「な、なに言うてっ! あんっ、や、やめや! あかんって、そないされたらっ、またっ、イ、イってまうぅぅ!」
 敏感になった膣を、勇太は容赦なく責め続けた。襞の一つ一つを擦り上げ、熟知しているテオのポイントを突いていく。
「くっ、ひんっ、あ、あ、あ、ひあぁあぁぁぁぁっ!!」
 二度目は呆気なかった。あっという間に引き上げられ、テオは再び全身を強ばらせて果てる。そして、その瞬間も、無事にカメラへ納めら
れた。
「あ、あぁ……イき顔はあかんって……」
「どうして?」
「だ、だって……めっちゃ恥ずかしいやん……絶対ボク、めちゃくちゃ変な顔してるもん……」
 テオは真っ赤になった顔に傍らの枕を被せて、隠してしまう。最中を撮られる事自体にはさして抵抗もないのに、達する瞬間だけは恥ずか
しいという感覚に苦笑しながら、勇太は囁いた。
「そんなことない。テオはどこを切り取っても綺麗だ」
「あ、アホ、甘ったるいわ……どアホ」
 二人はまなざしを交わし、行為の後のキスをしようと顔を近づけた。
 ――そのとき。

58 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:47:45 ID:GFUfNR35
 ――そのとき。
「うっわ、テオねぇってば目が半目だよ!」
「あらら、よだれも何も出っ放しじゃない。最近のカメラは綺麗に写るわね」
「……あぅ」
「…………没収」
 泣きそうになったテオを見て、勇太がそう言って手を伸ばすと、エマの手の中にあったカメラがぴょんと空中を飛んで、勇太の手の中に収
まった。
「君らに渡すと際限のないリベンジ・スパイラルに陥るので、俺が撮ります」
「え……」
 全員が思った。
 それは、独裁者に核兵器のボタンを渡すようなものではないのか、と。
 そして、カメラを手にしたときの勇太の笑顔は、その考えが間違っていないことを物語っていた。 
 すぐに紫苑が四つんばいになったが、勇太ははじめからまったく加減をしなかった。
「あぁぁっ! ふあっ、あぁん! あ、あなたぁっ、激しすぎぃ! くふぁ、また、またあぁぁぁっ!!」
「紫苑、もう何回目だ? 指で数えてみ?」
「む、無理よぉ! はぁっ、はああぁぁぁぁぁん!!」
 白い布団の上で、勇太にバックから突かれて艶めかしくのたうつ紫苑。シーツをかきむしる指先の動きまでが、妖しい魅力を放っているよ
うだ。風呂場でのクンニから焦らされた体は、あっという間に燃え上がった。
「あっはぁっ! は、はぁっ!」
「何回イった? 紫苑」
「んっ、あぁぁぁっ! くぅっ、ひんっ!」
 勇太は腰の動きを緩めると、わざと絶頂の寸前で紫苑の意識を引き戻す。
「あぁ、こ、こんなのってぇ……酷いわ……」
「ほら、早く」
「はぁ……はぁ……ひっん」
 緩やかな腰の動きが快感を確実に蓄積していく。その頂点にさしかかったとき、紫苑は右手の指を3本立てた。
「ふあぁぁっ、あぁ……さん、かいぃ……」
「よしよし……それじゃぁ、4回目だ」
「あっ!? あぁぁぁんっ! ひいぃぃぃ! だめ、またイくっ! イ、くぅ、あはあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 4本目の指が立った瞬間に、シャッターが切られた。液晶には、涙も鼻水も涎も垂れ流しで、長い髪を思い切り乱れさせた顔が切り取られ
ている。
 再びピストン運動が激しくなると、紫苑は大きくのけぞったかと思うと、そのまま糸が切れたように布団に突っ伏した。たっぷりとした質
量の尻も、もはやに動かず断続的な痙攣をするだけになっている。反り返ったペニスの先端から、愛液と先走りが垂れて布団に染みを作った。
それを見ていたエマは、こくんと生唾を飲んでから、
「うわぁ……勇太ってば、ドSモードだよ……」
とつぶやいた。しかし、内股をすり合わせている様子では、それに期待もしているようだ。事実、
「じゃぁ、エマはいいか?」
と意地悪な質問には、首をぶんぶんと振って返している。
「やだ、あたしだって、勇太が欲しいよぅ……」
「勇太のチ○ポが欲しいんやろ?」
「そ、そんなんじゃないよ! そりゃ、それも……だけど」
 勇太の方に手を回し、抱きつくとエマは鳶色の瞳をじっと見つめて、訴える。
「あたしは、全部、欲しい。勇太とエッチするって、ちゃんと抱きしめてもらって、触ってもらって、あたしも触って……そういうことだもん。
おちん○んだけあればいいってことじゃないもん」
「うん……知ってる」
 勇太は抱きついたエマに、そのままの体勢で腰を降ろさせた。
 挿入された圧迫感に、
「んふぅぅ……」
と、長く尾を引く喘ぎで答えるエマの首筋に、勇太はキスの雨を降らせて、強く抱きしめる。テオもエマの言葉には同意だったようで、何も言
わずにエマの後ろから覆いかぶさった。
「ゆーた、ジルマも、甘える」「イルマも、もっと甘える」
双子も左右から勇太に寄り添えば、
「あなたぁ……私も」
と紫苑も珍しく甘えた声で背中からかぶさる。カメラにかまけて出遅れた爾は慌てたが、勇太の手招きでエマのすぐ隣に納まった。
「ははは、すごいな。どこ見てもおっぱいだ」
 後ろと左右は、それぞれ三組の巨乳が囲み、前のほうには控えめながら美しい形の乳房が並んでいる。
「なんか、そのセリフ、頭悪そうやで?」
「そういうこと言わないの」
 言いながら勇太は生意気を言ったお仕置きとばかりに、椀を伏せた形のテオの美乳に手を伸ばす。その感触を楽しみながら、ゆっくりと腰を
使えば、エマの引き締まったからだがびくん、と跳ねた。

59 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:49:39 ID:GFUfNR35
「あんっ、ゆうたぁ……ちゃんと、あたしの中でだし、てね?」
「あぁ、たらふく食わせてやるさ」
「あ、あの……勇太さん。私の……胸も」
 爾は恥ずかしそうに勇太の空いている手を自分の乳房に導く。
「みつねぇ? 揉んで貰うと大きくなるって、迷信らしいよ?」
「いいんですよ……こういうのは気分の問題ですから。それに、実際大きくなってるでしょう?……んっ。エマさんにも、してあげますよ?」
「え? きゃんっ!」
 爾がエマの胸を揉み始めたのを、ジルマの乳首を舐りながら、勇太は見ていた。
「はぁ、すごいもんだな。本当に手が足りない」
「いいのよ? 全部、あなたのものですもの」
 紫苑がいたずらっぽく言うのに、勇太は笑顔で答える。
「ゆうたぁぁぁ、あ、あたし、だめかも……先走りのだけで……軽く、イってる……」
「そうか? よし、じゃぁ、出すぞ?」
 エマがうなずいたのを確認して、勇太はその小さい身体を抱きしめて大きく揺すった。エマも呼吸をあわせ、腰をグラインドさせる。最後の
予兆と期待に、エマの瞳が押さない中にぎらついた光を見せる。
「ああぁぁぁっ! すごいよぉっ! 奥で、ひはあぁぁぁぁっ!!」
「よし、出すぞっ、エマっ!」
「うんっ、きて、きてぇっ! 中でなきゃ、やだああぁぁぁぁぁっ!!」
「うぅ、あぁっ!」
 勇太が呻くと動じに、エマが悲鳴を上げる。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ひんっ! ひいぃあぁぁぁっ!!」
 たっぷり30秒ほども続く絶頂を、全身を暴れさせて受け取るエマの姿は、全員の肉欲を再びあおるのには十分だった。
 紫苑は早くも、勇太の長い髪に自分の乳房を押し付け、ジルマとイルマの股間からは銀色の糸がシーツに零れ落ちる。テオはエマの背中に密
着し、小さな体の動きを全身で味わっていたし、爾も大きく息をついてそれを見ていた。
「はっ、はっ、はぁっ……はぁ……」
 ようやく呼吸の整ったエマの額にキスをして、勇太は
「落ち着いたか?」
と尋ねる。エマがうなずくと、満面に笑みを浮かべ、
「それじゃ、記念撮影だ」
と正面を指差した。そちらに背中を向けていたテオを爾とエマは、何事かと顔を向ける。
 いつの間にか放置されていたデジカメが、部屋の隅に寄せられていたちゃぶ台の上に置かれ、ランプが点滅している。それがセルフタイマー
のものだといち早く気付いたのは、持ち主のテオだった。
「ちょっ、勇太! おまっ――」
 テオの叫びも空しく、フラッシュが焚かれた。
 液晶には、寄り添う裸の七つの人影。
 その中に人間が一人。
 思念体が一人。
 サキュバスが一人。
 後天性吸血鬼が一人。
 竜人族が二人。
 そして、真祖の吸血鬼が一人。
 顔は驚きが混ざるものの、みな一様に満たされ、そしてまだまだ続く夜への期待が浮かんでいるのだった。


60 :或る吸血鬼の懸念事項 ◆mswnQv7VS6 :2009/07/06(月) 21:51:09 ID:GFUfNR35
       ※                     ※                     ※

「うわぁ、すごいね、これ」
「あかん、ピンボケやんけ。せっかくの爾のアヘ顔が……」
「うぅ……どうせ次撮ろうとするんでしょう?」
「あら? 私の写真が少ない気がするんだけど……」
「写りたいの……? しおん」「……めだちたがり?」
 デジカメを弄り回している一同に、双子が話しかける。全員が勇太を中心に、一枚の布団に包まっている。それでも勇太の上に小柄なエ
マが乗って、どうにか納まっている状態だ。冷え込みの厳しい季節だったが、これでは寒さを感じるはずもなく、写真鑑賞の盛り上がりも
あって、特注の布団の中には熱気が満ちていた。次々に切り替わるデジカメの画面を見て、勇太はポツリと言った。
「旅行……行くか」
「え?」
「普通の写真も撮りたいしね」
 その呟きはまったく唐突なもので、会話の流れとも何の関係もないものだったため、爾は戸惑った。しかし、テオは難なく乗ってみせる。
「せやったら、ボク、スキーがえぇな」
「そうね、時期的にも丁度いいかも知れないわね」
 紫苑もあっさりと頷く。
「あたし、やったことないんだよね、実は。みつねぇは?」
「あ、え? スノボなら、少々……」
「スキー?」「ゥルドヌグァのこと……」
 双子は竜神語で言う。ロシアの森林深くの出身なら降雪もそれなりにあるだろうから、生活の中にスキーがあったとしてもおかしくはない。
 しかし、スノボか。何年ぶりだろう? と爾は振り返る。運動神経には自信があるから、完全に忘れていることもないだろうが、少々心細
いのも確かだ。
 と、そこで勇太が大きくあくびをした。
「うん、まぁ、細かくは、また……つーか、眠いわ」
 時計は午前2時を差していた。夜に眠くなる吸血鬼というのもおかしく聞こえそうだが、勇太は長らく人間と同じ生活習慣を続けているの
で、体が慣れてしまっているのだ。大きくあくびをすると、勇太は手近な抱き枕を寄せるように、爾と紫苑を抱き寄せた。
「なんや、寝るんか?」
「ん……また明日にでも話そうよ」
「あたしも正直眠いかも……おやすみなさい、勇太」
 エマが頬にキスをした。それをきっかけにして、
「おやすみなさい、あなた」
「ゆうた……おやすみ」「いい、ゆめみて……」
「おやすみな、勇太」
「えっと、おやすみなさい、勇太さん」
と、次々にキスをしていく。
 と、そのとき、爾は勇太の首筋に残されたキスマークを見つけた。もはや誰がつけたのか解らないそれは、勇太の全身にいたるところに残さ
れている。無粋なことを言えば、キスマークなどただの内出血である。勇太ならば簡単に治せるはずだ。
 しかし、『どうしてそのままにしておくんですか?』という質問は、それこそ無粋極まりないものだろう。もう少しそれに沿って思考を続け
れば、勇太の本質に近づけるような気がしたが、ふいにとろりとした眠気が、まぶたにぶら下がったので、やめることにする。
 布団の中にあるぬくもりだけで、満足できる自分が誇らしくもあり、呆れもするが、爾はそれに身を委ねて、そっと目を閉じた。


 勇太が髪を撫でてくれる感触は……きっと、爾が生きている間は、ずっとそこにある。



                                                                               了


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