【男一人】ハーレムな小説を書くスレ【女複数】
42 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:18:21 ID:0vKIShLm


 市川弘子(ひろこ)は、風邪をひいた。

 弘子は高校一年生。普段から、病気知らずの健康な身体が自慢の一つだった弘子だけれど、少し暖かめだった秋から、一気に冷え込んだ冬の
温度差を上手く乗りこなすことが出来なかったようで、ひどい熱をともなった風邪をひいた。めったにひかない風邪だったせいもあって、熱が完全に
平熱まで下がるのにほぼ一週間を要してしまった。完全な寝たきりというわけではなかったのだが、それでも学校を休まざるを得なくなり、自慢だった
皆勤賞が消えて弘子は悔し涙を流した。

「いってきまーす」

 ようやく熱も引き、顔のむくみもみっともなくない程度に引いた金曜の朝。
 一週間ぶりの登校だったが、休んでいた間に出たであろう宿題のことや、部活を休んだことにねちねちと嫌味を言うであろう先輩のことを考えると、
あまり明るい気分になれなかった。
 普段は明るい弘子だったが、張り合いだった皆勤賞が消えたこともあって、思考がネガティブになりがちだった。もういっそ、後ひと月も風邪が続けば、
冬休みまで学校に行かなくてもよかったのに、などと捨て鉢なことまで考えてしまう。しかし、さすがにそんなことが実現するわけでもなく、もうこれ以上
学校を休むわけにもいかない彼女は、思考を無理矢理ポジティブに切り替えて登校することを決意した。
 肩まで伸ばした髪に櫛をあて終えた弘子は、父と母、離婚出戻りの姉、そして猫のミー助に「いってきます」の声をかけた後、家を出た。

 そして、そこで彼女は、ぎくり、と心臓が縮むほど、驚かざるを得ないものを見てしまった。

「ねぇっ! どうなってんの!? 隣の家!!」

 慌てて踵を返し、家に戻って母に聞いた。
 驚いたのは隣の家、確か彼女が知る限り、古い日本屋敷、だが人の住まない無人の廃墟だったはず。
 それが、古い風貌は残るものの、丁寧な補修が施されていたからである。
 母が言うには、弘子が寝込んだその日、その廃墟に人が越してきたのだという。
 近年になってようやく新しい建物が目立つようになったものの、ここは田舎であった。山間(やまあい)の平地、広い水田の合間に家の建つ、のどかな
農村といったところである。そして弘子達の家の隣には、昔、旧家の人間が住んでいた屋敷があり、ずいぶん前から無人だった。地元の子供達の間で
「おばけ屋敷」と噂されるほど、昼間でも昏(くら)い、雰囲気満点の廃墟であった。弘子は、幼い頃にこの屋敷でおばけを見たと大騒ぎをして以来、どう
にも好きになれないでいた。
 新しい隣人が出来たその日、寝込む弘子の伺い知らぬ頃合い、挨拶にやってきたのは、いまどき和服などという古風ななりの、年若い少女だったと
いう。おそらくは弘子よりも年下、十四、五歳といったところか。明るく人なつこい可愛らしさのあるその少女は、新しく隣人となる挨拶をしたあと、自分が
その家に雇われた使用人であることを伝えた。なんでも、病弱な主人の療養のため、空気の良い環境であるこの村に引っ越してきたのだそうな。
 それから行われた急ピッチの工事によって人が住める程度にまで補修され、今朝になって、一週間ぶりに外に出た弘子の肝を縮ませた、というわけである。

 母からその話を聞き、しかしそれでも釈然としない何かを感じながらも、登校ぎりぎりの時間が迫っていたことに思い至った弘子は再び家を出ることに
した。そして、多少慌てながら通学用の自転車を庭から運びだし、玄関前の歩道に出たとき、弘子に声をかけるものがいた。

「おはようございます♪」

「えっ! ・・・・・・お、おはよう、ございます・・・」

 見知らぬ少女。
 濃い茶色の和服を着た中学生くらいの女の子、その特徴的ななり。驚きに我を忘れた弘子がようやく思考を取り戻し、先程の母から聞いた隣家の
使用人だろうと判断した。彼女は、竹箒を手に、屋敷の玄関先を掃除しているところだった。それにしても、和服に竹箒とは、いささかに懐古趣味が過ぎる。
かなりの田舎であるこの村でも、近代化が及び始めた昨今では、それなりに珍しい。


43 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:21:03 ID:0vKIShLm

「市川さんの、お姉さんですね? 初めまして、わたし、この家で住み込みのお手伝いをしている、大上聡子(さとこ)っていいます。よろしくお願いしますね♪」

 箒を揺らす手を止めて、彼女はぺこりと、可愛らしいお辞儀。
 屈託のない笑顔を向ける少女だった。弘子は彼女を正面から見たとき、その特徴的な、大きな耳のような赤いリボンのせいで、元気な子犬を想像して
しまった。おかっぱのように見えた髪だったが、よく見てみれば、それなりに長さのある後ろ髪を結わえ、リボンの付いた髪留めで頭の後ろに折り束ねて
止めていた。笑ったときに見える八重歯が、ますます健気な子犬を連想させて、弘子は初対面ながらも彼女に不思議な親密さを感じた。兄弟といえば
粗雑な姉しかいない彼女は、昔からこんな妹が欲しかったのだ。

「こちらこそ、よろしくね」

 はじめこそ驚いたものの、聡子の明るさに惹かれて、弘子は笑顔で応じていた。
 そして、いってらっしゃい、と笑顔で見送られながら、弘子は自転車に乗って学校へ向かった。







 昼食の時間、友人達と机を並べて弁当に箸を付けながらも、弘子は上の空だった。
 理由は主に、朝に受けた衝撃だった。
 いつの間にか引っ越してきた、新しい隣人。未だ面識のある人間は使用人の聡子だけなのだが。
 それにしても、あの「おばけ屋敷」に人が住むことになるとは驚きだった。弘子としては、さっさと取り壊して、野菜を植える菜園にでもした方がいいのに、
などと常々考えていただけに、いまだに腑に落ちない。

 そして、彼女を上の空にさせている、もう一つの理由。
 朝、聡子と分かれて自転車をこぎ出した弘子は、いつものとおり屋敷の角を曲がった。
 低い垣根の向こう、今までは寂れた廃屋と、荒れた庭が見えたその道なりだったが、一週間の間に随分と手入れされ、こざっぱりとした屋敷と趣のある
庭へと変じていた。
 そしてその屋敷、庭に面した縁側、真新しい障子で遮られた部屋が並ぶその一室。
 わずかに開いた障子の隙間から、その部屋の住人が見えた。

(なんだかあの人、どこかで会ったような・・・・・・)

 彼女が見たその人物は、薄暗い部屋にいた。布団の上で半身を起こし、障子の隙間から見える庭の眺めをぼんやりと楽しんでいるようだった。その、
男の人、は、庭の向こう、垣根の外を自転車で通り過ぎる弘子と目が合うと、柔らかく微笑んだのだ。
 弘子は、その男性の面影に、どこかで見たような、いわゆる既視感を覚えていた。

 そして、その日一日の授業を上の空で終え、部活の先輩からの嫌味をてきとうに聞き流した弘子は、冬の冷たい風の中、家路についた。
 すでにあたりは暗くなりかけてはいたが、人も車も滅多に通らぬ田舎道、弘子は引き続き考え事をしたまま自転車に乗っている。考えていることは
もちろん、隣家のことばかり。

(夜着のまま布団で養生、・・・多分、あの人が聡子ちゃんの雇い主、屋敷の主人よね。私が顔を知ってる・・・たとえば、テレビに出たことがある有名人
とか、かな?)


44 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:22:17 ID:0vKIShLm

 そんなことばかりを考えていたものだから、自分が自宅に近付いていることに無自覚だった。彼女がそのことに気が付くのは、この少し後。彼女の耳に、
とあるメロディが聞こえてきたからだ。

(え?・・・これって、ヴァイオリン?)

 思わず自転車を止め、立ち止まった彼女は、どこからか聞こえてくるそのしらべに聞き惚れた。普段聴く機会の少ない、重厚な弦楽器の音。それは
深みのあるメロディで、ゆっくりとした旋律ながらも、弘子の心臓を刺激するような、胸騒ぎのする曲だった。しかし、その胸騒ぎが、甘く、心地よい。
そんな、不思議な魅力のあふれる音楽だった。

 ふ、と弘子が我に返ったのは、その曲が不意に途絶えたからだ。
 そして彼女は、自分がいつの間にか自宅近くまで帰ってきていたことに、今更ながら気が付いた。
 つまり、彼女が聞き惚れた音色は、隣家の庭から聞こえていたのだ。

 すでに日が沈み、田舎道に転々とともった街灯の明かりがかすかにその庭を照らすだけだった。しかし、その薄暗い暗がりの中、赤茶色の大きな
楽器を抱えて座る、一人の女性だけは、はっきりとわかった。
 暗闇に溶ける、喪服のような黒い着物。しかしその和風の装束に包まれるのは、異国の美女。透き通るような白い肌、そして流れるような銀色の髪。
さらに、ルビーを思わせる、赤い瞳。弘子の目に飛び込んできたその肌と髪、そして瞳は、黒い服のおかげで、闇の中浮かび上がるように見えてしまった。
 その女性は、庭に持ち出した椅子に腰掛け、大きな楽器、コントラバスを弾いていたのだ。あまり楽器に詳しくない弘子はヴァイオリンなどと思っていたのだが。

「ごめんなさい、騒がせてしまったかしら」

 そう、その女性は言葉を発した。和服、銀髪、あまりにも国籍を問うのに迷う組み合わせであったのだが、その言葉は流暢な日本語だった。むしろ、
弘子達土地のものが使う、訛りの混ざった言葉ではなく、綺麗で淀みない標準語。音楽に引き続き、思わず聞き惚れてしまう彼女の声、しかし弘子は
我に返って、答えた。

「い、いいえ、そんなことありません! 綺麗な曲で、私、思わず聞き惚れちゃって・・・」

 緊張、動揺しながら、弘子は話す。黙って立ち聞きした、などと責められる筋合いもないのだから、普通ならばそこまで動揺する必要はないはずだ。
そんな弘子の緊張を見透かしたのか、その異国の和服美女は、くすりと笑って口調を変えた。

「ありがとう。褒めてくれて嬉しいわ。あなた、お隣の弘子さん、ね?」

 先程までの、ある種の怖さすら感じさせる美しさから転じて、こんどは気さくな笑みの美女となって言葉を続けた。

「初めまして。私、この屋敷で教育係をやっている、ドーラ・クウラーっていうの。よろしくね」

 そういって彼女は、静かに頭を下げた。優雅さすら感じるその動作、いちいち弘子の心を捕らえる魅力がある。慌てて弘子もそれに従い、頭を下げる。

「弘子さんは高校生?」

「はい、一年生です」

「そう、もし、勉強で分からないことがあったら、遠慮なくいってね。お隣さんのよしみ、私が教えてあげるわ」

 そんな、たわいのないやり取りの後、弘子は彼女、ドーラと別れ、帰宅した。




45 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:24:20 ID:0vKIShLm

 その日一日の出来事、といっても、学校でのことなどまるで覚えてもいない。主にインパクトが強かったのは、やはり隣家のことである。
 風呂を終え、宿題も済ませた弘子は、時計の針が真上を指す頃合いに訪れた睡魔に従って、就寝することにした。彼女の部屋は二階にあり、ちょうど
隣家を斜めから見下ろすような位置にある。廃墟だった頃の隣家を眺めるのがいやだったので、いつも部屋はカーテンを掛けっぱなしにしているのだが、
今夜はふと、床につく前にそのカーテンの隙間から、外の景色を眺めてみた。皓々と月明かりが照らす夜、隣の屋敷では、ぽつりぽつりとあかりの灯る
部屋がある。もちろんその部屋に誰が住んでいるのかまでは分からない。

 そうか、満月、なのか。

 ふと、弘子は月を見た。実のところ、その月は完全な満月には後数日あるのだが、弘子にはなぜか、今の月がそう見えてしまった。今までカーテンを
閉め、本当の夜の景色を眺めることの無かったせいだろうか。

 そのとき。
 はっ、と息を止め、目をしばたいた。

(・・・え?)

 そして、気のせい、目の錯覚、と納得した弘子は、大きく息を吐いて安堵した。
 今、一瞬、月の模様が、動いたような気がしたのだ。
 そんなわけがあるはず無い、当たり前のことを苦笑しながら言い聞かせ、弘子はカーテンを閉じた。そして彼女は、妙な錯覚に揺れた心臓を
落ち着かせて、横になった。

(今日も『あの夢』、見るのかな?)

 布団の中に潜り込んだ彼女はそんなことを思い、そしてすぐに、眠りに落ちた。



 弘子が風邪をひいた一週間、彼女の身に起こった変化の一つが、『夢』である。
 毎夜、床につくたびに同じ夢を見るようになった。
 内容はといえば、他愛のないものだ。

 弘子は、花畑で花を摘んでいる。その姿は、日によってまちまちなのだが、ある時は純白のウェディングドレス、次の日は角隠しを被った、白い着物の
花嫁衣装。とにかく、花嫁、なのだ。
 そこに、白馬に乗って家来を引き連れた王子様/若殿様が登場する。家来の数は、どうやら増える傾向にあるようだった。最初に見たときは三人。
後は日が進むごとに、加速度的に増えていく。
 その、くだんの王子様であるが、やはりそれは彼女の待ち人だったようである。ただ、相手がどんな顔なのかは分からない。のっぺらぼうのような、
印象のない顔立ち。
 そして、その男性に誘われまま、花嫁衣装の弘子は彼に歩み寄り、熱い口づけを交わすのだ。

 何ともまぁ、思春期の少女にしても、たいそうロマンティックが過ぎる夢である。人に話せば確実に笑われるだろうから、誰にも話してはいない。しかし、
弘子は、照れくさいけれども、嫌いな夢ではなかった。

 そんな夢を毎日見ていた弘子だったが、その日の夢は、確かに大きく変わるところがあった。



46 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:26:26 ID:0vKIShLm

 翌朝、目を覚ました弘子は、鮮明に残る夢の記憶を思い返して、大きく溜息を吐いた。

「私、もしかして欲求不満?・・・サイテーだ・・・」

 王子様と、キスより先に進んでしまった。
 白の装束をはしたなくはだけさせ、白い乳房を露わにした彼女は、王子の手によって思うがままにまさぐられ、あられもないよがり声を上げてその手を
受け入れてしまった。

 そしてさらに変わったことはといえば。

 王子様は、昨日見かけた隣家の男性だった。






「弘子、お前の処女、本当に俺がもらっても良いんだな?」

「はい、もちろんです。私、ずっとあなたのことを待ってました。だから、こうやって抱いてもらえるの、すごく嬉しいんです」

 純白のウェディングドレスをはだけさせ、花畑に横たわった彼女に、王子が口づけをする。そしてその青年は、ドレスの内の下着を解き、柔らかな胸と、
蜜のあふれる秘部を露わにした。青年の指が、秘部の蜜をすくい、優しくこするように彼女の秘裂をなぞった。敏感な突起も、愛液で滑った指先によって
押さえつけられ、痺れるような刺激をじんじんと生み出す。そして、すでにぷっくりと立ち起こった乳首を、青年は口に含み、舐めしゃぶり、そして舌で
ころころと転がした。そんな彼の愛撫総てが弘子の身体を強く、優しく刺激し、そのたびに彼女はひくひくと身体をわななかせた。最初は懸命に、声を
出すことを堪えていたのだが、しまいにその自制も続かなくなり、掠れるような甘い吐息を漏らし始めた。

「・・・あ、・・・ん、ひあ・・・」

 青年の優しい愛撫は、それでいて彼女の逃げを許さないねちっこさを供えており、どんどんと弘子の性感を高めていった。すでに彼女の口にはなにも
縛るものはなく、彼の指と舌によって、思うがままの泣き声を上げさせられていた。

「それじゃあ、そろそろ、いくよ?」

「は、はい、きて、きてぇ、・・・はやく、早く、私の処女を、奪ってぇ・・・ッ!」

 ぜひぜひと荒く、短い呼吸と共に、弘子は男を求めた。彼の愛撫は優しく、彼女を心地よく高めてくれるが、その高まった先、あと一歩へとなかなか
進んでくれない意地の悪さを持っていた。このまま、生殺しのような性感の焦らしを受け続けたら、自分は気が狂ってしまう、そう感じた。それになにより、
愛する彼と、早く一つになりたい。

「それじゃあいくよ、弘子」

 そして、ようやく弘子が待ち望む瞬間が訪れ、愛する彼の肉茎が、みし、という自身の中に響く破瓜の音と共に進入してきた。

「ひぐっ!!!」

 そうして弘子は、目を覚ました。


47 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:28:33 ID:0vKIShLm


 日曜日の朝。
 屋敷の隣人を知ったのが金曜、その日の夜に見た夢に続き、昨日土曜の夜も、夢を見てしまった。しかも昨夜は、白馬の王子様である隣家の青年に、
とうとう純潔を捧げてしまうところまではっきりと夢に見てしまった。
 そんな淫らな、後ろ暗い思いを抱えながら起床し、朝食を取っていた弘子は、母から用事を言い渡された。引越の挨拶に使用人の聡子が訪れた際、
それなりに高価な挨拶品を受け取ったらしく、そのお返しを持っていけ、という内容だった。とはいえ、未だ夢の内容が半ば現実感を持つ起き抜けの
彼女は、隣家を尋ねるのにはまだ抵抗がある。とりあえず弘子は熱いシャワーを浴び、頭と身体の中にあるモヤモヤを洗い流した。


 古風な屋敷を囲う低い垣根、その入り口に弘子はいた。
 そこには木製の表札があり、「海部」と書かれていた。少し間の抜けた話だが、弘子は、今はじめて隣家の名字を知ったことになる。木製の表札をはじめ、
総てが昔風の造りであるこの垣根の入口にあって、たった一つだけ現代風の、スピーカーの付いたインターホンが、違和感を持って取り付けてあった。
 弘子は、お返しに、と持っていくことを言いつけられた大量の自家製野菜を、段ボール箱二つにに詰めた。当然、その箱の一つですら長時間持ち上げる
ことが出来ないくらい重いので、何とかそれらを台車に乗せてから、ごろごろと車輪の音を立ててここまで運んできたのだ。
 さて、弘子がその表札の前で立ちつくして数分。インターホンのボタンに指を向けてはいるのだが、今ひとつ勇気が出ない。シャワーで洗い流したはずの
昨夜の夢の記憶が、またぞろわきだしてしまったからだ。頭をぶんぶんと振って、他人が見るとさも滑稽なアクションでそれを何とか振り払い、ようやく
ボタンを押すことに成功した。待つこと僅か数秒、スピーカーから、はい、と聞き覚えのある声で返事が聞こえた。聡子のようだ。弘子が、先日のお礼に
野菜を持ってきたことを伝えると、聡子が一通り恐縮した後、すぐいきます、とインターホンの受話器を置いた。
 そして弘子が、この垣根の入口から少し離れた、屋敷の入口から出て来るであろう聡子を待つためにそちらへ視線を向けると、不意に大きな障害物に
よって視界が遮られた。びっくりした弘子が思わず、一歩後ろへ後ずさると、視界を塞いでいた障害物が、大きな女性の着物であることに気が付いた。
 一歩下がってみて初めて、目の前のそれが『着物』ではなく、『着物を着た女性』だとわかった。その女性は垣根の入口、いつのまにか弘子のすぐ目の
前にたっていたのだが、あまりにも身長が高く、弘子の目線ではせいぜい胸のあたりまでしか視界に治まらなかったのだ。およそ二メートルはあろうか。

「・・・えっと、あの、・・・どうも・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 弘子が、その女性に、ばつが悪そうに話しかけるが、なにも返ってこない。

 そして初めて、まじまじと相手を見た。
 大柄、というにはあまりにも大きい、その巨躯を紺色の着物に包み、袖を捲くって襷を掛けている。どうやら力仕事をしている女性のようだ。ワンレングスに
伸ばした前髪で顔の半分を隠し、こちらを覗く左目は、切れ長で表情に乏しい瞳だった。むっつりと押し黙った唇、そしてその瞳と、まさに無表情である。
 しかしなぜか弘子は、その女性から、優しそうな雰囲気を感じていた。

「弘子さん、お待たせしました!」

 そういってようやく聡子が到着した。彼女は、自分よりも先に弘子を出迎えていた女を見て、慌てて駆け寄ってきた。

「こちら、私と同じ、このお屋敷に雇われているお手伝いの、富良野恵(けい)さんです。
 恵さん、声が出せない病気なもので、うまく喋れないんです。気分を悪くされたら申し訳ありません」

 聡子が代わってフォローした後、ぺこり、とその大女、恵が頭を下げた。つられて弘子も、深く腰を折ってお辞儀。そして弘子が台車を指して、「これ、
どこにもっていこうか?」と尋ねると、恵がその段ボールひとつを、ひょいと抱え、肩に担いだ。一つだけでもかなりの重さがあるはずなのだが、
そんなことをまるで意に介しない。続けてもう一つの箱も反対の肩に担ぎ、弘子に向かってぺこりと頭だけ下げるお辞儀をした後、くるりと反転、
屋敷の中へ戻っていった。その間弘子は、ぽかんと口を開けてみているだけであった。

「ところで弘子さん、少しお暇、ありますか?」


48 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:32:03 ID:0vKIShLm

 聡子が弘子の手を取って、そう尋ねてきた。これといって用事のない、平凡な休日である。暇かと聞かれれば暇ですと答えるしかない弘子は、こくりと
肯いて応じた。

「うちの旦那様が、弘子さんにご挨拶したいと申しているのですが、よろしいですか?」

 その旦那様とは、おそらくあの青年だ。病弱で、部屋の中にこもっていた姿をちらと見ただけのはずなのに、なぜか夢の中に出てきて弘子を抱いた、
あの青年。弘子は、顔が熱くなるのを感じたが懸命にそれを振り払い、聡子に手を引かれるまま屋敷におじゃますることになった。


 屋敷の中は、数日前の廃墟に比べると驚くほど手入れされていたが、それでもやはり古さを感じさせる。しかし木材の傷みはやむを得ないのだから
仕方がないだろう。それよりも思った以上に清潔で掃除も行き届いているため、かえってその古さが枯淡の味わいとなって風雅を感じさせる。
 その屋敷の、庭に面した縁側のある一室に弘子は通された。そこで出された茶に手を付け、熱さに息を噴き噴き啜っていると、茶を運んできたあと
引っ込んだ聡子がもう一度やってきた。こんどは、金曜日に出会ったもう一人の女性、ドーラも一緒だった。

「弘子ちゃん、ごきげんよう」

 そういって上品に挨拶するドーラは、あの日と同じ色の着物だった。つられて挨拶する弘子だったが、普段聞き慣れない挨拶に少し狼狽え、どもってしまった。

「私どもの主(あるじ)は、今、支度しておりますから、もう少しお待ちになってくださいね?」

 異国の美女が使う流麗な日本語に、またしても弘子は聞き惚れてしまった。そして弘子とドーラ、聡子の三人が他愛のない雑談をしながら少しの間を
過ごすと、ようやく屋敷の主人が姿を見せた。

「初めまして、弘子さん。僕がここの主人、海部太郎(たろう)です。よろしくね」

 部屋に入ってきた青年は、彼もまた落ち着いた藤色の着物姿で、この日本屋敷の雰囲気にとても自然に馴染んでいた。彼は軽く会釈すると、
その表情を優しげな笑みに変える。その笑顔を見たとき、弘子は、どきり、と心臓が跳ね起きるほどのショックを受けた。

(・・・・・・やっぱり、王子、様だ、・・・・夢の中に出てきた王子様と同じ人だ)

 弘子はそう、確信した。大きく跳ねた心臓は、その勢いを維持したまま、どき、どき、どきりと続けざまに大きく鼓動を刻む。自分の顔が紅潮しているのが
分かる。この動悸はいったい何なのか、弘子自身も正体のつかめない。

(ゆ、夢のことは忘れなきゃ! アレは私が、なんかのはずみで見ちゃった、ただのエッチな夢で、ここにいる、太郎、さんとはなんの関係もない!!
 むしろ、私が勝手にそんな夢を見ちゃ、失礼だ!!)

 とにかく、そうでも思わなければ、正気でこの場にいることは出来なかった。危うく、恥ずかしさのあまりここを駆けだし中座するなどという、屋敷の
主人に対して大変失礼なことをしてしまいそうだったからだ。主人から見れば、自分の顔を見たとたん逃げるような相手は、失礼な人間と映っても
仕方がないだろう。
 なんとか、辛うじて動揺を落ち着けた弘子は改めて、自分の向かいに腰を下ろした青年を見た。年の頃は弘子と同じか、少し上くらい。落ち着いた和服の
わりに、その髪型はワイルドにカットされ、少しやんちゃな印象がある。少々つり目気味ではあるが弘子を見る瞳は優しく、頼もしく見えた。普段から同年代の
男性をあまり意識しないこともあって、弘子には目の前の青年が特別凛々しく感じられるのだろう。

(・・・なんか、素敵な、ひとだ)

 素直にそう思う。まさかこれが自分の心に芽生えた感情の発露であることなどは、当然気付かない。今まで恋人も出来たことがない、
うぶな彼女らしいといえば、大いにらしいのだが。


49 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:34:41 ID:0vKIShLm

「お茶菓子もどうぞ♪」

 そばに控えた聡子に、そういって小皿に上品な様で取り分けられた羊羹を差し出され、弘子はそれを受け取った。そしてその羊羹に楊枝を刺し、口に
運ぶ途中、ぽろりと手からそれが落ちた。

「・・・あれ?」

 弘子は、なんでその羊羹が落ちたのか、訳が分からなかった。だが、しだいに指先が痺れ、身体に力が入らなくなってきたことに気が付いた。

「・・・ど、うしちゃっ、たんだろ、わたし・・・」

 そしてそのまま弘子は、とさり、と身体を倒し、くの字のなって横たわった。薄れ行く意識の中、弘子が最後に聞いた言葉は、「あ〜あ、羊羹もったいない」
といった、聡子の明るい声だった。







 弘子は、音楽によって目を覚ました。
 重く、ゆっくりとしたメロディ。コントラバス一本による、低い音の曲が、耳に届いた。その曲は、低く、重く、そして甘く、弘子の心を掴んだ。
 そしてその楽器の音とは別に、かすかな音が聞こえた。

(・・・これ、なんのおと?)

 ぼんやりとした意識のまま、コントラバスの音と一緒にかすかに聞こえる音に耳を傾ける。荒い呼吸の音、畳がこすれる音、肉の打ち合う音、
そして跳ねるような水音。
 弘子がうっすらと目を開けると、そこでは、音楽によって彩られた、肉の宴が繰り広げられていた。

(え! これって!?)

 その畳の間では、大柄の女、恵が男に組み伏せられていた。俯せに横たわり、わずかに開いた太股の間に身体を割り込ませた男が、彼女の
背中からのしかかるようにして腰を打ち付けている。

「・・・! ・・・・ッ!!」

 大女の恵は、男に力ずくで征服されるような姿勢で畳の上に押さえつけられ、犯されていた。
 彼女は、大女といっても決して筋肉が隆々と付いた体格ではなく、もちろん肥満というわけではない。その骨格の大きさと手足の長さが大柄な
印象を与えているだけだ。着物を脱いだ彼女は、全体的に柔らかそうな肉付きで、張りのある肌をしていた。しかし、その肌の色はただ単純に
美しいとは言えず、まるで異なる人種の肌を継ぎ合わせたような、異様な肌の色の組み合わせだった。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」


50 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:36:56 ID:0vKIShLm

 恵が、声にならない叫び声を上げた。腰を打ち付けていた男の動きがいっそう激しくなったかと思うと、びくり、と痙攣をして動きを止めた。同時に、
組み伏せられ押さえつけられていた恵の身体も大きく震え、おとがいを反らしてわなないた。性経験のない弘子ですら、それが二人同時の絶頂を
示す動きであることくらいはっきりと理解できる。男は、ぎゅ、と強張った身体をゆっくりと揺すりながら、なんの遠慮もなく恵の胎内に精液を流し込んで
いった。恵も、長く顔の半分を覆っていた髪を乱し、皮膚の継ぎ目が残る顔の半面を晒しながら、恍惚とした表情をしていた。

「ふう、気持ちよかったぜ、恵。ところで聡子、まだ弘子は目を覚まさないのか?」

 ぐちゅ、と粘つく水温をさせて、男が恵の女陰から男根を抜き去った。そして、その男、太郎が、そういった。

(え!? なんで、太郎さん、そんなことを?!)

 ようやく男の正体を正しく理解した弘子は、激しい衝撃を受けた。そんな彼女の衝撃も知らぬまま、太郎の言葉に、聡子が応える。

「えへ、すいません。人間用の分量が分からなくて、ちょっと多かったみたいですね、クスリ」

 そういって全裸の少女は、一戦荒事を終えた青年の肉棒に傅き、舌で清め始めた。ぺろぺろと舌を使い、ちゅうちゅうと唇をあてがって男の肉棒に
奉仕する聡子は、その行為がよほど嬉しいのか、しっぽを振って喜んでいる。

(・・・って、しっぽ!?)

 弘子に背を向けていた聡子の尻の上から、ふさふさした毛の生えたしっぽが生えていた。そして、大きな赤いリボンを解き、長い髪をさらしている
彼女の頭には、リボンの変わりに大きな『犬の耳』が生えていた。

 継ぎ接ぎだらけの大女、恵、そして犬の耳、しっぽを持つ少女、聡子。現実離れした光景の連続である、弘子の混乱もやむを得ないだろう。

 そして、ふと、音楽がやんだ。

「太郎ぼっちゃま、どうやら『お姫様』が、目を覚ましたようですわ」

 さっきまで音楽を奏でていた女が、そういった。ドーラだ。彼女は、椅子に腰掛け、全裸で楽器を操っていた。真っ白な肌、銀の髪、そして露わになった
豊かな胸と、官能的なくびれを持つ肉体。
 しかしなにより、弘子の目を捕らえたのは、彼女の背中から生えた、大きくて黒い翼。羽毛のある鳥の翼ではなく、蝙蝠の持つ黒い翼。

 ドーラの指摘に、太郎達の視線が総て弘子に向けられると、弘子は、びくりと震え、やむを得ずに起き、立ちあがった。身体にまだ少し痺れが
残るものの、動く分には支障はない。

「あの、これ、どういうことなんですか?」

 弘子が、とにかく聞きたいことを尋ねる。なにからなにまで、分からないことだらけだった。不安に顔を曇らせた弘子とは対照的に、あのやんちゃな顔に
楽しそうな笑みを浮かべ、太郎が答えた。

「そうだな、なにから話そうか。・・・うん、まずは、俺達が何者か、それからにしよう」

 太郎はそういって、絶頂の忘我から回復し、主(あるじ)に跪いていた恵、そして主に奉仕し、情交の名残を清めていた聡子を抱き囲った。そして彼の
背中から、しなだれかかるように黒翼の美女、ドーラが抱きついてきた。


51 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:40:06 ID:0vKIShLm

「ドーラは夜の種族『バンパイア』、いわゆる吸血鬼だ。色々と博学なんで、俺の教育係って事になってる。聡子には掃除や洗濯なんかの家事一式を任し
てある。コイツの料理はうまいぞ、今度喰わせてやる。種族は人狼族『ワーウルフ』。イヌッコロに見えるけど一応これでも狼なんだ」

「もう、太郎ぼっちゃま、一言よけいですっ!」

 口調は怒っているが、しっぽがぱたぱたと揺れているので機嫌がいいことを隠せないでいる聡子、そしてそんなやり取りを、くすりと笑みを浮かべて
眺めるドーラ。二人とも、太郎に対して並々ならぬ親愛の情を抱いていることが窺える。

「そして、死体をつなぎ合わせて作られた人造人間、『フレッシュゴーレム』の恵。怪力強固、戦闘力が高いんで、主に力仕事と身辺警護を任せてある。
伝統的に、言葉が不自由な仕様なんだけど、中に込められた魂は極上の女だ。もちろん、今の姿も美しい、と俺は思うけどね」

 主人に褒められ、無表情ながらも顔を朱に染める恵。身体は大きいが、そのいじらしさは乙女の持つ清らかさを感じさせる。

 弘子は、太郎の口から出てくる非現実めいた言葉、『バンパイア』『ワーウルフ』『フレッシュゴーレム』等の言葉に目眩を覚えつつも、一番気になることが
あった。その、人間とは異なる三人の女を抱き、従える、太郎そのものの正体はなんであるのか?

「そして俺。お前達人間の住むこの世界が表とするならば、こいつら怪物達が住む世界はその裏の世界。俺は、その世界のとある大国、その王の息子、
つまり王子だ。種族は・・・お前達人間の知識の中には、たとえになるような、わかりやすい適当なものがないな。総ての闇のものを統べる、総ての闇の力を
持った、王たる種族。わかりにくいかもしれないだろうから、すごく強い、ってくらいわかってくれれば、それでいいや」

 まるで人間の男の姿をしたその怪物は、自分のことをそう説明して、にかっ、と笑った。確かに見てくれは普通の人間だ。だが弘子には、彼の正体こそが
もっとも恐ろしい、彼がいうところの『王たる種族』であることは、素直に信じることが出来た。

「そんで、目的なんだが・・・・・・弘子、お前を嫁にしたい」

 そして、唐突に、簡潔に、そして脈絡無く語られた彼の目的。弘子は、唖然としつつも、へ?と間抜けな声で聞き返した。

「俺がガキの頃、この家に来たことがあってさ、そのときに見たのがお前なんだ。それが一目惚れでよ、嫁にするならコイツって決めてたんだ」

 小さい頃に出会っていた、といわれて、あっ、と思い当たる出来事を思い出した。小さい頃、廃墟だったこの屋敷で見たあの「オバケ」、たしか男の子の
姿をしていたように思う。よく見れば、目の前の青年とあのときの男の子は、似ているのかもしれない。弘子がそんな記憶の齟齬を照らし合わせていると、
太郎は気にせず話を続けた。

「それからずっと監視して、悪い虫が付かないよう、色々と細工させてもらった」

 『監視』という言葉が出て、『細工』という単語に嫌な心当たりを、弘子は感じた。数ヶ月前、仲が良く、いい雰囲気になりそうだった男の子が、事故で入院した件。

「監視って・・・・・・まさか、二組の山下君が事故ったのも?」

「奴は、お前に告白しようとしていた。しかも身体目当てだけの薄汚い動機でな。まぁ、殺さないでやっただけでもありがたいと思ってもらわないと」

 他にも心当たりのある出来事が。


52 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:43:07 ID:0vKIShLm

「ラブレターもらって呼び出された場所に行ったら待ちぼうけ喰らったのも?」

「うむ。差出人の川上とやらは、いまでは同じクラスの別の女と、仲良くよろしくやっている。いわば俺はキューピッドみたいなものだ。まぁ、他にもいろいろ
あるが、そんなことはどうでも良い」

 太郎は、弘子の青春に起こったかもしれない恋愛の芽をことごとく摘んでおきながら、どうでもいいの一言で一蹴した。そして弘子は思う。ここ最近見る、
淫らな夢。あれもこの青年の『細工』なのか。

「じゃあ、ここ最近、私に毎日、・・・・・・変な、夢を見せたのも?」

「夢? ・・・・・・それはしらん。お前達、なんかやったのか?」

 そう答える太郎。とぼけているわけでもなく、本当に知らない、そんなそぶりだ。彼の問いに、恵が黙ったまま首を振り、聡子がきょとんとして、
私、やってませんよ?と答える。

「多分それは、『魔』に当てられたのでしょう。聞けば、私たちがこちらに居を移したときから高熱を発していたとか。おそらく、『変化の兆し』かと存じます」

 そう答えたのはドーラ。教育係というだけあって、色々と万事の理に詳しいらしい。

「『変化の兆し』? どういうことだ?」

「はい、弘子さんの肉体は、元々我々に近い素質を秘めていたようですね。そして、その肉体が、太郎ぼっちゃまの花嫁へと変わるための準備を
始めたのでしょう。夢はその副作用、どのようなものを見たのか存じませんが、おそらく近々に起こる未来視のようなものかと」

「ふむ、それはすごい。俺の一目惚れも、むやみやたら人を選ばずといったわけではなかったようだな」

 ひそひそと小さな声で話すドーラの言葉は、断片としてしか弘子の耳に届かず、また今の彼女には、彼らが話している内容を類測するだけの冷静な
判断力が残っていなかった。それが自分の身に起こった、恐ろしい変化を表す内容であったものを、うやむやに聞き流すしかできなかったのだ。ただ
漠然と、不安を胸に抱くことしかできなかった。
 そんな、話の流れから阻害されおろおろしている弘子に向かって、より嬉しそうな笑みを浮かべた太郎が、「まぁ、今はその話は置こう」と話題を切り
替え、話を彼女に戻してきた。

「ようやく俺も十八になって成人した。これで晴れて嫁を取っても良いことになったわけだ。俺達の世界の王族は一夫多妻が当たり前だから、他に
『ゴーゴン』の許嫁もいるし、政略結婚でこれからも嫁が増える予定なんだが、それよりも先に、お前が欲しい」

 え?と弘子が聞き返した。

「一番最初にもらう嫁はお前って決めてたからな」

 いきなりこんな話をされて、一方的な言い分で話を進められて、あまつさえ他に女を作ることを公言されて、弘子は腹を立てるべき立場のはず。しかし、
太郎の、一途ともとれるストレートな告白に、心が少し揺れた。

「それに、早くお前を嫁にしとかないと、他の人間どもと一緒に殺されちまうんでな」

 え?と弘子が再び聞き返した。
 嫁が増える、許嫁云々はおいといて、一番最初に、などと少々心をくすぐられる甘い言葉を聞いたものの、その後、最後に聞いた言葉がよく分からない。
良く意味が分からない、いや、本能的に理解を拒否した言葉があった。それを察した太郎は、顎をつい、と部屋の縁側へ向け、弘子の視線を促した。すると、
音もなく障子が開き、屋敷の庭が見える状態になる。いつの間にか外は夜、こんどこそ本当の満月が皓々と世界を照らし、幻想的な世界を作り上げていた。


53 :『私の王子様』:2006/09/17(日) 19:44:43 ID:0vKIShLm

 ずず・・・

 弘子が月を見ると、その表面が、動いた。
 月の模様を形作る、靄のようなものが、実はごく小さな黒い粒で、それがざわざわと動く、等という現象があることを、弘子は初めて知った。そして月が、
だんだんと増えていく小さな粒によって、黒く蝕まれていく。さらに驚くべき事に、黒く月を覆い尽くしたその小さな黒い粒は、月の表面にあるのではなく、
こちらの世界の、夜の空に広がっていったのだ。
 そして、広がった粒の一つが、ものすごい勢いでこちらに近付いてきた。それが粒などではない、黒く巨大な異形の生物なのだと分かると、弘子は
目眩と共にふらつき、すとん、と足下に尻餅を付いてしまった。

「オヤジももうトシでな、自棄になって、自分が死ぬ前にこっちの世界を制圧するとかいって、部隊を派遣しちまったんだ。今までも、その気になりゃ
すぐにでも制圧できたんだけど、国を治めるのに『平和主義』って看板掲げたもんだからずっと我慢してきたみたいだ」

 弘子にとっては尺度の違う世界。異形の怪物が棲む世界の政策など話題に出されても、理解が付いていかない。

「人間を絶滅させるのはやめとけ、って、俺は止めたんだがね、『嫁の一つも取らん若造が口を出すな』って一喝されちまったよ」

 腰が抜けて、ただ呆然と怪物が埋め尽くす空を見上げている弘子の隣に、いつの間にか、太郎が座っていた。そして彼は、弘子の肩に手を回し、
抱き寄せながら言葉を続けた。

「嫁を取ったら俺も一人前だ。オヤジを隠居させて、その自棄も止められる。それに、初孫の一人も出来りゃあ、飛び上がるほど喜んで、よけいなことを
考える暇もなくなっちまうさ」

 弘子が嫁にならないと、人間が滅ぼされる、この男はそういっている。嫁になってこの男の子供を産めば、人間の世界は救われる、といっているのだ。

 弘子が絶望的な気持ちで空を見上げ、男の言葉を聞いていると、太郎は、優しげな笑顔でこう続けた。

「俺は心が広いからな、今なら神式、仏式、チャペルウェディング、どれだってお前の好きな式を挙げてやるよ」

 そんな怪物国の王子が作る優しげな微笑みを見ながら、弘子は、とりあえず現実逃避のために気絶することを選んだ。


END OF TEXT

54 :449 ◆dPbouk8tpE :2006/09/17(日) 19:45:27 ID:0vKIShLm
以上です。

「♪フンガーフンガー富良野恵〜」
「♪ザマスザマスのドーラ・クウラー」
「♪うおーでがんすの大上聡子ー」
「♪x3 おれたちゃ怪物3人組よ〜」「そーでがんすっ!」
「力仕事に〜」「深夜の散歩〜」「怪物料理の名コック」「うっ!x3」
これが言いたかっただけなんだ。その為だけに書いたSSなんだ。お目汚しスマン。
A先生の某漫画、ハーレム版です。どのあたりで仕込みのネタに気が付いたでしょうか?


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