Bitter Choco Liqueur
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ビターチョコリキュール
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「天使の鎮魂歌」
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epilogue
西の王国オル・ダージュ。広大な領土と、強大な兵団を有する歴史の深い大国だ。農地、文化ともに周辺諸国よりも豊かであるはずのオル・ダージュ国は、その歴史と同じくらい深い問題を抱え込んでいた。魔族との対立だ。広大な領土ゆえ、北方の辺境地域は人間と相容れない魔族と呼ばれる種族たちの領域と接し、王国の建国以来、争いの火種が絶えたことがなかった。
俺……クラウスは、そんな辺境の村の出身だ。まだ、子供だったころ、俺の村は攻め入ってきた魔族の一団によって焼き払われた。生き残ったのは俺一人。俺は、物陰に身をひそめ、身を震わせていた。その時だった。数名の騎士が駆け付けたのは。彼らの背後には、美しい金髪と透き通るような純白の翼を持った王国の守護天使アリエルの姿があった。騎士団と天使は、一瞬にして魔族の一団を蹴散らしていた。
全てを失った俺は、泣いた。そんな俺を、守護天使のアリエルはそっと抱きとめてくれた。彼女の笑顔は、俺の心を包み込み、癒してくれた。俺は、彼女の笑顔に報いたいと思うようになった。
俺は、魔族の討伐隊に志願した。ただ、アリエルの笑顔に報い、彼女が愛するこの国を守りたい一心で剣を振り続けた。幾年も、魔族との戦いを繰り返すうちに、俺の我流剣術は王都でも指折りの腕前になっていた。
王国最精鋭の退魔騎士団に編入された日、俺はアリエルに愛を告白した。王国の守護天使である彼女は、その神聖性ゆえに人と交わることを許されない。それでも、彼女は、俺の思いを受け入れ、二人で口づけを交わした。天使の加護を得た人間は、強大な力を得る。国王も、国教教団の聖職者たちも、人と天使が交わる禁忌は黙認し、むしろ、その力を魔族との戦いに生かすように、と告げた。俺は、天使の愛を受けた英雄としてまつられるようになった。俺は魔族との戦いの先頭に立ち、戦い続けた。幾人もの上級魔族を打ち倒し、ついに魔族を駆逐。王国は、平和を手に入れた……
事件が起こったのは、国王が国民に勝利宣言を布告した翌日のことだった。俺は、突然、近衛兵によって拘束され、王城の中庭に連行された。そこには、磔にされた俺の愛おしい人……アリエルの姿があった。
「守護天使アリエルは、人間と交わった故にその神聖性を失い堕落した。堕落した天使は、魔族と同等の存在。誠に遺憾ながら、我々はこれを処刑せねばならない」
国教教団の司祭長が、宣告した。次の瞬間、彼女の周りに控えていた近衛兵が一斉に槍を突き出す。無数の矛先がアリエルの全身を貫き、彼女の純白の衣と翼を血で赤く染めていく。
「――ッ!!!」
俺は、声にならない叫び声をあげて……目を覚ました。深い森の中、俺はマントにくるまって野宿をしていた。木々の葉には朝露が日の光で輝き、目の前には焚き火の跡がいまだにくすぶっている。また、いつも見る悪夢を見たらしい。
アリエルが処刑されてすぐ、俺は王都を追放された。いまにして思えば、天使の加護を受け、魔族を倒した英雄ともてはやされていた俺に、王は王権転覆の危機感を抱いていたのかもしてない。国教教団にしても、人と交わった天使を認めることは面子にかけて出来なかったのだろう。
俺は放浪者となり、辺境をさまよう生活を送るようになった。時折、村々で荒事の仕事を引き受け、路銀を稼ぐ。魔族は中枢を失い散り散りになったとはいえ、全ていなくなったわけではなく、山賊のような存在になり、略奪を働くことも少なくはない。それゆえ、魔族退治を請け負うだけでも、仕事に困ることはなかった。立ち寄った村で、この森の奥に住み、村人に悪さを働く魔族を退治してほしいと依頼されたのが二日ほど前の話だ。村長が言うには、村人をさらっていくという。
「追い払えばいいのか? それとも、首を取ってくればいい?」
そう尋ねた俺に対して、依頼主の村長はこう答えた。
「いえ、生け捕りにしていただきたいのです」
妙な話ではあった。だが、よそ者に頑なな辺境の住人のことだ。問いただしたとしても、腹のうちをそう簡単には見せてくれないだろう。そう思った俺は、その仕事を引き受けることにした。そうして、今、この深い森を進んでいる。早朝の肌寒さがほどけ、温かい陽光が木々の間から差し込んできた。俺は、野営の跡を始末し、腰に下げた愛用の片手剣の具合を確かめると再び歩きはじめた。
それから、道なき未開の森を歩き続けること半日。俺は石造りの城を見つけた。城というには小さく、砦というほうが近いかもしれない。城壁の周りは木々が切り開かれ、建物そのものもまだ朽ちてはいない。王国の手によって魔族が駆逐される前、彼らはよくこのような人の手の届かない土地に拠点を作っていた。これも、そのうちの一つだったのだろう。おそらくはこの城の主も、王国軍によって抹殺されたか、城を捨ててどこか遠い場所へと逃げていったかのどちらかだ。
まだ、何者かが城の中に潜んでいるのかもしれない。俺は自らの気配を消し、身を隠しながら慎重に城へ近づいた。と、開け放たれたままの城門の二つの人影が出てきた。様子をうかがうと、それは二人の少女だった。彼女たちは、メイドのような衣装を身につけ、その手には箒をもち城の前の石畳を掃き清めながら、時々談笑している。まるで、お屋敷奉公している侍女たちの穏やかな風景だった。だが、彼女たちの背からはコウモリのような黒い翼が生えている。魔族である証だ。
(淫魔族か……)
俺は、そう判断した。淫魔族は、魔族の中でも美しい容貌を持つ一族で、その容姿と人に化ける力を使い、人を誘惑してその精を吸うことで自らの生命力とする。淫魔族を含め魔族の生き残りの数は、俺が辺境を放浪した実感では多いとは言えない数だ。ということは、村人が言っていた魔族は彼女たちである可能性が高いし、そうでなかったとしても近くに住む他の魔族のことを彼女たちが知っていることだろう。手間をかけることもない。俺は、策を弄さず正面から行くことにした。
「あっ……」
ゆっくりと警戒を解かずに歩み寄る俺に、二人の淫魔もすぐ気が付いた。二人のうち背が高いほうの(とはいっても、俺よりも頭一つくらい背が低いが)淫魔がこちらのほうを振り向く。
「こんにちは。旅のお方ですか?」
彼女は品の良い微笑みを浮かべて、ぺこりとお辞儀をしてきた。あまりにも自然で素朴な笑顔だった。こちらを油断させるためにこのような態度をとることも考えられるが、それは魔族だと気付かれていない場合の話だ。お互いの正体がわかった場合、魔族と人間が出会えば戦いしか起こったことがないのだから、今こうする意味はない。背が低いほうの淫魔は、こちらのほうを上目づかいで睨んでいるようにも見えるが、それも敵意というよりは見慣れぬ人間に人見知りをしている表情と言ったほうがしっくりくる。
「……あぁ、そんなところだ。あんたらは、この城で暮らしているのか?」
剣を抜くのはやめ、この淫魔たちと会話をしながら少しだけ様子を見ることにした。
「はい。お城というほど、立派なものではないのですけれども……あっ、申し遅れました。私、ティアと申します。こちらは、妹のマリィ。ほら、マリィ、お客様に挨拶して?」
ティアと名乗る淫魔は楽しげに会話に興じ、挨拶を促されたマリィという名らしい淫魔はプイっと顔をそむける。饒舌な魔族は珍しくはないが、人にここまで敵意を見せない魔族は珍しいし、会話の中に全く淫気を感じさせない淫魔はもっと珍しい。
「あぁ、もう、マリィ! お客様に失礼しちゃ、ダメって言っているでしょう!」
「別に、気にすることはない。それよりも、一つ聞きたいんだが……」
「あ……はい、何でしょうか?」
「ここに暮らしているのは、あんたら、姉妹だけなのか?」
妹を注意していたティアは、こちらに向き直った。マリィは、姉の後ろ側に隠れながらこちらをうかがっている。
「いえ、私たちがお仕えしているご主人様がいらっしゃいます。私と、マリィと、ご主人様の三人で暮らしています」
その返答を聞いて、俺は少し考える。その“ご主人様”というのを確かめるのが、おそらく一番手っ取り早い。
「なあ……その“ご主人様”ってのに、会わせてもらってもいいか?」
「はい、かまいません。お客様は珍しいので、ご主人様も喜ばれると思います。ご案内いたしますね」
躊躇なく俺の申し出を受け入れるティア。俺は、城の中へと案内する淫魔の姉妹について歩を進めた。後ろから見ると、彼女たちの服は背中が大きく開いていて、丸みをおびた肩と背があらわになっている。それは、扇情的な装いというよりは、彼女たちの黒い翼を扱うための機能的なもののようだ。そのことを差し引いても、彼女たちの振る舞いはあまりに自然で、色気や妖しさといったものとは程遠い感じがした。
(ここまで、色気を感じさせない淫魔というのも珍しいな)
そんなことを考えていると俺を案内していたティアは、振り向いて尋ねた。
「そういえば、お客様……よろしければ、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
俺は、少し逡巡し、答えることにした。
「ああ……俺は、クラウスという者だ」
広間を抜け、階段を一番上まで登り切ると、ティアは目の前の大きなドアに手をかける。
「こちらが、ご主人様のお部屋になります。どうぞ……」
俺はうなずくと、彼女に促されるまま部屋へと踏み入れた。そこは、薄暗い部屋だった。まだ、日は高いというのに窓には厚いカーテンがかけられ、部屋の中央に置かれた丸テーブルの上の燭台にろうそくが灯されている。その傍らには、椅子に腰かけ、まどろむように佇んでいる女性の姿があった。腰まである長い髪は漆黒で、彼女自身もゆったりとした黒いドレスを身につけている。ティアとマリィとは違って、危うげな妖艶さと憂いを漂わせた女主人の姿だった。俺は、女主人の気配を探った。
(……)
女主人からは、わずかではあったが、強い力を持つ魔族特有の瘴気のような気配が感じられた。村人の言っていた魔族とはこの女主人のことだろうか。可能性は高そうだ。
「ご主人様、お客様をお連れしました。クラウス様とおっしゃるそうです」
背後から俺の緊張とは、裏腹に明るいティアの声が聞こえてくる。もとより、腹の探り合いは苦手だ。打ち倒してから、事情を聴くことにしよう。俺は、ティアの言葉を手で制すと腰の片手剣に手を当てながら、一歩前に踏み出した。
「ふもとの村人から、依頼されて来た。人里に悪さを働く魔族をどうにかして欲しいと言われてな」
背後にいる姉妹から動揺の気配が感じ取れた。正面にいる女主人は、気だるげにこちらを見つめ返すだけで、話を聞いているかもわからない。
「……私たち、人に迷惑をかけるようなことはやっていませんっ!!」
背中越しに、ティアの抗議の声が聞こえた。俺は構わず、歩を進める。
「何もしていないというなら、村人の前に行って弁明したらどうだ? それがいやだったら、俺の前から尻尾を巻いて逃げだすことだ……」
俺は、女主人のほうから目をそらさずにティアの抗議に答えた。女主人は、いまだに身動きする様子を見せずにいる。この女主人の実力はなかなかのものかもしれないが、かつて戦った上級魔族と比べれば、そうということはない。そう思った、その時……
バサリッ!!
女主人の背に、翼が開かれた。夜の闇のように深い黒で、その身を覆ってなお余りあるほどの大きな翼だった。とたんに、瘴気が先ほどの比とはならないほどの濃さとなる。俺が目を見開いた次の瞬間、女主人が視界から消えた。
「……ッ!!」
女主人は、わずかに宙に浮き、一瞬で俺の横まで移動していた。広げられた漆黒の翼からは、膨大な魔力の圧が伝わり、俺の身体をビリビリと突き刺す。
(……しまった! 油断した!!)
この力は、魔族のなかでも支配者階級のものでなければ持ち得ないほどのものだ。まだ年若い淫魔を二人だけ連れて、比較的人里に近い森の古城に上級魔族が佇んでいるなんて想像もつかなかった。俺は、愛用の片手剣を引き抜き、目の前の上級魔族を引き抜きざまに斬りつけようとする。だが、それよりも早く女主人の片翼が俺の体に叩きつけられる。
「ぐっ!!」
突風のごとき魔力の衝撃に、たたらを踏んでどうにか耐えるも、大きく体勢を崩す。俺が相手のほうをむき直ろうとしたとき、今度はもう片方の翼が叩きつけられた。
……ドン!!
体が崩れていた俺は、その衝撃に耐えられず吹き飛ばされ、部屋の石壁にしたたかに打ちつけられた。背中から全身に鈍い痛みが広がっていく。打ち所が悪かったら、全身の骨がバラバラになりそうな衝撃だった。俺は、女主人を睨みつけながらどうにか立ち上がろうとしたが、視界は霞み、歪み、ついには立ち上がれずに気を失ってしまった。
徐々に、まどろみから目覚めるにつれ、鈍い痛みがよみがえってくる。それでも、打ちつけられた時に比べれば幾分かマシになっていた。
「……!?」
俺は、服をすべて脱がされて寝台の上に仰向けで寝かされていた。俺の上には、女主人が同じく全裸で馬乗りになって俺の身体を組み伏せていた。彼女の豊満な身体……透き通るような青白い肌、たわわに実った果実のような豊か乳房が、ろうそくの灯で妖しく照らし出されている。寝台の脇では、その様子をティアとマリィがじっと見つめていた。
「うっ!!」
女主人の手が、俺の股間に延びる。その瞬間、鋭い快感が生じて俺はうめき声をあげる。俺の男としての部分は、すでに硬くそそり立っていた。女主人は、唇だけで笑うと腰を浮かせ、俺の男根を自らの秘所へと導き、呑み込んでいく。
「……!!」
女主人が腰を振り始める。彼女の中は、妖しく蠢き俺の男根にからみついてくる。人外の快楽に、俺が限界を迎えるまでそう時間はかからなかった。俺は、彼女の膣内に精を放ち、その魂までも吸い取られるかのような感覚に再び意識を失っていった。
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