Bitter Choco Liqueur
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ビターチョコリキュール
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「いずな堕とし」
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「方桐先輩! やめましょうよ……私だったら、別にいいですから!!」
「なに言っているのよ、友美ちゃん。あなたは、被害者なんでしょ?」
土曜午前の練習のため、ちらほらと武道場に集まり始めていた空手部員の男子たちが、何事か、とこちらを向く。大股で道場をまたぐ私、方桐いずなの二の腕を、空手部マネージャーを勤める友美ちゃんが掴み、制止しようとする。私は友美ちゃんを引きずるように歩を進める。仁王立ちとなり、腰に手を当て見下ろす私の視線の先には、空手部顧問・竹井祐司の姿がある。
ジャージ姿でパイプいすに腰を下ろす竹井先生は、いぶかしげに私を一瞥する。私を見ると、先生の視線は友美ちゃんに流れる。友美ちゃんがおびえて、私の背中に隠れる。
「どうした、方桐。何か用か?」
無精ひげの生えたあごを手でなでながら、竹井先生は言った。
「先生。重要なお話があります」
私は先生をにらみ付ける。私は息を吸うと、努めてゆっくりと言葉を並べる。
「マネージャーの佐脇友美ちゃんに、セクハラしましたね」
対する竹井先生は、髭の剃り残しが目立つ顎をさせる。わざとらしく考えるそぶりが白々しい。
「うーむ。心当たりはないな」
ふてぶてしい男性教諭が、にやりと笑う。
「だいたい、佐脇。本人が具体的に言ってくれないと、わからないじゃないか」
セクハラ顧問の矛先が、私の背後の友美ちゃんに向かう。この中年男は、教師でありながら女癖が悪いと評判だ。友美ちゃんのように気の弱い女子を狙って、手を出しているというウワサもある。
「そういうのも、セクハラになりますよ!」
私は、友美ちゃんをかばう。私の大声に反応して、男子部員たちの注目が集まる。竹井先生はため息をつくと、パイプいすから立ち上がった。この男の身長は私よりも頭一つ高い。
「方桐。おまえ、いい加減にしろよ? 証拠もないのに、言いがかりもよいところじゃないか」
先生は、低い声を響かせる。私の背で、友美ちゃんが萎縮する。こういう男は、ここで退いてはだめだ。調子に乗らせることになる。だいたい、セクハラされたことを男子の前で言え、などとさらなるセクハラ発言しておきながら、言いがかりとはあきれ果てる。
「それでは、先生。賭け試合をしませんか?」
「あぁ?」
私の申し出が予想外だったらしく、先生は首をかしげる。
「部活動の前に、私と先生で練習試合をしましょう。私が負けたら金輪際、先生に生意気なことは言いません。その代わり、先生が負けたら、セクハラを認めて、友美ちゃんには二度と手を出さないと約束してください」
ようやく私の言いたいことを理解したらしい先生は、再び口元に下卑た笑いを浮かべる。
「女子相手だからって、手加減はしないぞ?」
「はい。ぜひ、本気を出してください」
私と先生は、女子と男子、それぞれの更衣室に向かった。
十分後、私と先生は練習場の真ん中で向かい合う。審判は、男子の部長が買って出た。周囲は空手部の男子部員が取り囲み、物珍しそうな視線を向けてくる。私と友美ちゃんのほかに女子はいない。うちの学校には男子空手部しかなく、私は諸事情あって男子の練習に混ぜてもらっているのだ。
「なあなあ、おまえはどっちが勝つと思う?」
「方桐のヤツは女とは思えないほど強いけれど、さすがに先生相手には無理だろ」
男子のひそひそ話が聞こえてくる。竹井先生は余裕を感じさせる表情で、私のことを見下ろしている。私と先生は、形式的にお辞儀をする。
「始めっ!」
部長のかけ声とともに、私と先生はお互いに構えをとる。先に先生が動いた。がっしりとした体格に似合わない素早い身のこなしで間合いを詰められる。気合いのかけ声とともに、正拳が打ち込まれる。切れのよい一撃が、私の右腕にぶつかる。鈍い痛みが広がった。男子部員の前で空手の有段者として吹聴していたのはふっかけだと思っていたが、どうやら本当だったらしい。
続けざまに、先生の拳が叩きつけられる。私は、浴びせられる連打をぎりぎりで受け止め、いなしている……ように見せかけた。先生をじっくり観察すると、動きにやや無駄があり、かつ単調だ。表情に余裕を浮かべているが、呼吸の乱れが早くも現れている。部活動監督の際も、自分の身体を動かすより、部員を怒鳴る方に熱心だったから仕方ないだろう。
「うおぉぉ! 先生、いい攻めっすよ!!」
「この調子でガンガン行きましょう! ガンガン!!」
男子部員たちは、先生の猛攻に盛り上がり、歓声を上げる。どうやら、彼らは先生の味方らしい。
(私、嫌われているなぁ)
ぼんやりと考えながら、先生の放った蹴りを跳び退いてかわす。仕方がない。私が男子に混じって組み手稽古をするときには、いつも一方的に殴り飛ばしてやっているのだ。彼らにうっぷんをため込ませていても、不思議ではない。
「……方桐先輩! がんばってください!!」
男子の粗雑な歓声に混じって、鈴の音のような声音が響く。友美ちゃんだ。彼女が私の名を口にし、男子部員が彼女に奇異の視線を向ける。その様子が、先生の背後に見える。
(ここは可愛い後輩に、格好付けちゃおうかな)
右の拳が打ち込まれる。私は、左手で払いのける。カウンター気味に、右の拳を突き出し、踏み込む。
私の右拳は、先生の胸板手前で制止させてやった。いわゆる、寸止めだ。先生が息を呑むのが、手に取るようにわかる。私は、構えを解く。完全な自然体で、相手と相対した。ざわついていた男子部員が、水を打ったように静かになる。
竹井先生は悪態を突くように、小さく息を吐く。怒濤の勢いで拳を叩きつけてくる。私はその全てを払い抜け、二、三発、殴り返してやる。連撃が途絶え、相手は後退した。本来ならば、ここらで審判の制止が入ってもよいものだ。部長は突然の攻守交代に唖然となっているのか、試合への介入をしない。その隙をついて、相手の右脚が円弧を描き私に迫る。回し蹴りだ。私の頭を狙っている。
私は、右脚で蹴り上げる。私の足先がまっすぐ天井へ伸びる。蹴り飛ばしたのは、相手のかかと。弾かれ、軌道のそれた回し蹴りが、私の頭上で宙を切る。
バランスを崩した先生が、尻から倒れこむ。私は反射的に間接を極めに行きそうになる。一応、空手であることを思い出した。踏みとどまり、相手のことを見下ろした。
「竹井先生。まだ、続けますか?」
先生は、無言だった。
「それでは、お先しまーす! さ、友美ちゃん。行こう行こう」
「は、はい……」
その後、お通夜のような雰囲気の練習を終えて、私は友美ちゃんと連れ立って練習場を後にする。顧問の恨めしげな視線を感じたが、にらみ返してやると、すぐに目をそらした。
「方桐先輩……私のために、ありがとうございます」
練習場の入り口をくぐったところで、友美ちゃんが頭を下げる。
「良いって。気にしないでよ。ま、これで、あのセクハラ教師もおとなしくなるでしょ」
「はい! でも、方桐先輩って本当に強いんですね! あの竹井先生を、あんなに簡単に……!!」
目をきらきらと輝かせて私を見つめる友美ちゃんがまぶしい。私は、「いやいや」と手を振りながら、愛想笑いで返す。
私たちは、校庭脇へと移動した。穏やかな日差しが私たちを包み込む。清涼な風が頬をなでる。グラウンドでは、午前中の練習を終えた野球部が用具を片づけ、午後からの活動に備えるサッカー部がウォーミングアップをこなしている。
私と友美ちゃんは、二人でお昼を食べることにした。適当なベンチに腰を下ろす。友美ちゃんはコンビニのサンドイッチを、私は自分で用意したお弁当を、各々のカバンから取り出す。
私は、何気なく友美ちゃんの横顔を見る。目尻の垂れ多瞳は優しげで、彼女の童顔の愛らしさの中心となっている。茶髪のセミロングヘアが、そよ風に吹かれてなびく。友美ちゃんの身長は綿白井も低くて小柄だが、胸元の膨らみは女性らしい曲線を豊かに自己主張している。思わず、自分の洗濯板と比べてしまい、勝手にブルーな気分になった。
「ん。先輩、私の顔に何か付いています?」
「あ、ううん。なんでもないわ!」
私は慌ててごまかした。
「それにしても……方桐先輩って、強くて、カッコよくて、本当にすごいなぁ」
「よしてよ! そんなにすごくないって……それに、中途半端に腕っ節が立つものだから、男子からはオトコオンナって陰口たたかれているんだよ?」
私は、こそばゆいものを感じながら、弁当箱のふたを開けた。ご飯とその上に乗った梅干し、ウインナーソーセージに卵焼き。根菜の煮物と、おひたしは、今朝の食卓から失敬してきた。
「先輩。もしかして、そのお弁当も先輩が作ったんですか!?」
友美ちゃんが身を乗り出してくる。
「え? あ、うん。そうだけど……」
私が答えると、彼女はただでさえ丸い瞳をぱっちりと見開く。
「すごい! すごいすごい!! お料理まで、できちゃうなんて……!!」
はしゃぐ友美ちゃんを見て、私は意外に思う。格闘技も、家事も、私にとっては当たり前のことだった。パパもママも、私が家事の手伝いや格闘技の稽古をすることは当然のことと見ていた。今の学校で空手部に混じって練習するようになってからも、嫉妬の眼差しを受けることはあっても賞賛されることは少ない。
「あー、うらやましいなー 先輩みたいな人、本当に憧れちゃう。私、料理も運動もさっぱりだから……」
友美ちゃんが、サンドイッチ片手に背伸びをする。
「ねえ、友美ちゃん」
私は彼女に尋ねる。
「もしよかったら、今度、友美ちゃんの分もお弁当作ってきてあげようか?」
「本当ですか!? わー、ありがとうございます!!」
彼女は目を輝かせて、何度もうなづいた。
学校から徒歩三十分ほどの立地に、平屋建ての民家がある。敷地は他の民家、二、三件分と広い。木造立ての家屋は、柱が黒く染まり、年季を伺わせる。庭の植木も、かつては意匠にこだわった日本庭園だったのだろう。年に一度か二度、庭師さんがは入り、かろうじて現状を維持しているが、熱心に世話をする人がいない以上、荒れ果てるのは時間の問題でもある。この、時代に忘れられたような建造物の特筆すべき点は、母屋に並んでもう一つ建物が鎮座していることだ。敷地の外から見ると、大きめの離れにも見える。その正体は、れっきとした道場だ。
「ただいまー」
私は母屋の引き戸を、がらがらと開けた。返事もなければ、人気もない。家主は、いつものように出かけているのだろう。私は靴を脱ぐと、長くまっすぐの廊下を突っ切っていく。途中、脱衣所に道着を投げ込み、台所に弁当箱を置いた。そのまま自室へ向かう。
「はぁ」
私は軽くため息を付く。自分の部屋を見渡した。カーペットを敷いた上に机といす、ベッドを設置して、勉強部屋、兼、寝室の体裁を整えてある。もっとも、カーペットの下は畳敷き。さすがに壁紙まで張るわけにもいかなかったため、純和風の木目の柱と、私が持ち込んだスティール製の本棚との違和感は凄まじい。部屋と廊下を隔てているのも、ドアではなくふすまなのだ。
せめてもの抵抗と、部屋の整理整頓はこまめに行っているが、そのせいで室内のちぐはぐさが目立っている可能性も否定できない。年頃の女の子らしく華やかな内装にも憧れるが、私には友美ちゃんのようなセンスはなく、どこから手をつけていいのか分からない。だいたい、元が新しいものを拒絶すかのような和風邸宅の一室なのだから、そもそも無理なことかもしれない。
「はぁーあ」
私は、日課のようにため息を付く。ついでに制服から着替えて、本当の日課をこなさねばならない。私は制服を脱ぐ……前に、部屋の真ん中に立つ。目を閉じる。呼吸を整える。神経を自分の周囲に張り巡らせる。
視線を感じた。複数の、三個ほどだろうか。人間の視線ではない。もっと、無機質だ。
私は目を開く。視線を感じたポイントのチェックを開始する。ゴミ箱の中、本棚の本と本との隙間、カーテンの影。案の定だった。超小型のカメラが各場所に設置されていた。私は、カメラを取り外す。白いビニール袋に詰めて、厳重に口を結ぶと、ゴミ箱に放り込む。
「はあぁー」
あらためてため息を付いた。ようやく安心して、私は制服から家着に着替た。
まずは、風呂掃除から始める。手早く片づけ、お湯を沸かす。続いて、各部屋の掃除だ。もっとも、暮らしている人数に比べて、この家の部屋数は多い。日常的に使っている居間と、私の部屋と、あとはもう一人の同居人の寝室以外は軽い掃き掃除で勘弁してもらう。掃除がひと段落したら、戸棚にしまって置いたお饅頭を一個失敬した。粒あんをもぐもぐと噛みしめながら、次の仕事の算段を考える。今夜の献立についてだ。昨日、下校路に買った青魚でも焼いて、肉じゃがでも作ろうか。私は口元に付いたあんこを拭いながら、エプロンに手を伸ばす。
炊飯器が湯気を立て、鍋の肉じゃががコトコトと音を立てる。小鍋の味噌汁も、グリルの中の焼き魚も準備オーケーだ。腰に手を当てて、自分の仕事振りを眺める。学業をこなしながら、これだけの家事をこなすのは、自惚れているかもしれないが、なかなかのものではないか。
(こう見えても、私、結構家庭的だと思うんだけどな)
男よりも男らしい、とか、女らしさがかけらもない、とか、そんな評価を学校で受けるのが、私の不満だった。自分でも理解できてしまうところが問題だが。
私は居間に視線を移す。先ほどまで無人だった場所に、小柄な人影がいた。全く気配を感じなかった。半分以上はげ上がった頭をして、甚平を着た老人が座布団の上でくつろぎ、一升瓶からグラスに注いだ日本酒をなめている。頭から湯気が立ち、首にタオルをかけていることから、風呂上がりであろうことが分かった。
「おじいちゃん。帰ってきたのなら、一言くらい声をかけてくれたらどうなの!?」
私は、甚平姿の老人……私の祖父、方桐玄一に声をかける。私は、この人が甚平以外の格好をしているところを見たことがない。
「おう、いずな。よい湯じゃったぞ。しかし美味そうな匂いじゃな」
祖父は、にやにや笑いながら立ち上がる。酔ったかのような千鳥足の祖父が台所ヘ歩み寄るのに対し、私は身構えた。祖父が私の横をすり抜ける瞬間。素早く跳び退く。
「ん〜 惜しい」
祖父が、宙を切った右手を掲げる。顔には下品な笑みが浮かぶ。祖父の右手は、私のお尻をかすめようとしたのだ。
「この……スケベジジイ!!」
私は、反射的に祖父へと蹴りを放つ。祖父は年を感じさせない身軽な動きで、私の一撃をかわす。食器棚に挟まれて、私と祖父は向かい合う。
「はぁ……疲れた。先に、お風呂入る。お夕飯は勝手に食べてて!」
「おう。そうしろそうしろ」
祖父は、調子に乗った子供のようにはやし立てる。私は祖父に背を向け、浴室に向かう。
脱衣所と廊下を隔てる引き戸を閉じる。私は自室でそうしたように、目を閉じて意識を研ぎ澄ます。感じる視線は一つだけ。廊下側からだ。私は洗面台の横に転がっていたバケツを手に取る。中に水を満たす。引き戸を開くと同時に、バケツの中身を浴びせかける。
「うわっぷ!?」
今度は命中した。忍者のごとく気配を消して、引き戸の向こう側にいた祖父がバケツの水でびしょ濡れになる。
「いい加減にしろ! スケベジジイ!!」
私は、窓ガラスが震えるほどの声量で怒鳴りつける。案の定、祖父が私の入浴をのぞき見ようとしていたのだ。
「別にかまわんじゃろう? 減るもんじゃ、あるまいし……」
「うるさい! 廊下は拭いておきなさい!!」
私は、ぴしゃっと音をたて引き戸を閉める。素早く服と下着を脱ぎ捨てて、浴室へと滑り込む。気配も探る。祖父は観念したのか、しつこく追ってきている様子はない。
「はあ……」
私は、本日三度目のため息を付く。私は身体を軽く流す。気疲れを落とすためにも、とっととお湯に浸かろう。湯船のふたを開けると、独特の香りが広がった。深緑色に染まった湯から、ハーブのような、青臭みの強い匂いが湧き立っている。祖父が入浴剤でも勝手に入れたのだろうか。良い香りで、身体が芯から温まりそうだ。あのセクハラジジイが仕入れたものだということは、気に食わないが。私は、湯船の中に片足を入れる。
「ん……っ」
心なしか、お湯にいつもよりもとろみがある気がする。皮膚に絡みつく薬湯が、より深く身を温めてくれる。私は思いきって腰を沈め、肩まで深緑の湯に浸かる。
「ん、ふぅ……」
身体の力が抜ける。強ばった筋肉がほぐされていくようだ。なるほど。この入浴剤は良いかもしれない。後で祖父からなんて名前の入浴剤か、聞いておこう。鼻孔一杯に、湯の香りを吸う。骨の髄まで温もりが染み渡る。日頃の気疲れを落とすべく、私はしばし湯船の中に身を泳がせた。
うっかり長湯し過ぎたらしい。脳天まで火照ってしまってふらふらする。ドライヤーで冷風を頭に吹きかけるも、火照りが収まらない。全身が熱く、思考にぼんやりと霞がかかったようだ。湯あたりというヤツだろうか。自宅の風呂で湯あたりなんて、情けない。
体温が異常に上昇している。寝間着を着るのも煩わしい。そうも言ってられず、パジャマのボタンをかける。居間に行くと、とっくに夕食を済ませた祖父が、まだダラダラと酒を飲んでいた。私は、ぼーっとする頭で、祖父を適当にいなし、追い払う。食欲もなかったので、夕食もいつもの半分にとどめる。残したおかずは朝食べよう。
食後の家事を片づける。食後の食器洗いの時、手に当たる水道水の冷たさが心地よかった。火の元の確認をすると、頼りない足取りで私は自室へと向かう。
(疲れているのかな……?)
ふすまを閉じながら、自問する。いくら時間がたっても、身体の火照りは治まらない。全身の力も抜けている。足や手先を動かすのも、煩わしいくらいだ。風邪でも引いたのかもしれない。幸い明日は日曜日だ。一日ゆっくり休もう。それでも治らなかったら、月曜日に病院へ行こう。
電気を消して、ふとんに潜り込む。身体が、鉄のように重い。これだけ気怠いならば、すぐに眠りに落ちるだろう。私は瞼を閉じた。
音が耳に響く。自分の鼓動だ。普段は気にもとめない自分自身の胸から響く脈動が、どういう訳か耳につく。何度寝返りを打っても落ち着かない。ぼんやりと目を開き、闇の中に浮かぶ天井を見つめる。なんとはなしに、身体をなでる。
「ひっ……!?」
未知の感覚が、ぞわぞわと背筋を走る。甘く、それでいておぞましさを覚える。二度と味わいたくないような、それいていつまでも耽溺したいような奇妙な感触。怖いもの見たさで、もう一度、身体をなでる。
「ひぅ……んっ!!」
甘味な電流が再び走る。私の口元から、甲高いあえぎがこぼれ落ちる。
「なに、よ……これっ!?」
半ば無意識だったと思う。もしかしたら、確信犯だったのかもしれない。右手の指先が、股間へと延びる。寝間着の上から女性としてのデリケートな部分をまさぐる。甘い感触が、より鮮明となって体に響く。
「そんな、なんで、こんなこと……ぅん!!」
着衣の上からでは、まだもどかしい。私の指が、下着の中へ潜り込む。熱く粘つく液体が、私の指に絡みつく。
「ひぁああっ!!」
私は、恥じらう余裕もなく声を上げた。私は、ようやく自分が何をしようとしているのか理解する。いままでに自慰の経験は、ない。自分は、性感が淡泊な人間なのだとずっと思っていた。今この瞬間の状態が、自分自身でも信じられない。自慰行為なんて、どことなく汚らわしい行為だと考えていた。
(……ストレスがたまっているのかな?)
私はどこかぼんやりと、他人事のように考える。一瞬だけだった。指の腹が秘唇のクレヴァスをなぞった瞬間、思考はバラバラに吹き飛ばされる。
「んんっ! はぅうう!!」
私は下唇をかみしめるので精一杯だ。理性よりも本能に従った指先が、しつこく快楽の源泉をなで続ける。蜜が私の秘所からあふれだし、ショーツと指を汚していく。ただでさえ火照っていた肉体の体温が高まっていく。皮膚に、額に、汗の粒が浮かぶ。
(……熱い……)
私は乱暴にふとんを蹴り上げ、寝床から追い払う。それでも、まだ熱い。利き腕とは逆の左手が、もどかしくパジャマのボタンを外していく。ズボンもひざの辺りまで脱がしてしまう。私は脱げかけの下着のみを身につけた半裸の姿で寝台に身を横たえる。暗闇の中に、自分の肌が白く浮かぶ。薄く膨らんだ乳房の上で、さくらんぼのように赤い乳首が切なげに自己主張している。震える左手が、乳首に伸びる。私は、親指と人差し指でそっとつまむ。
「ひぁうっ!」
さくらんぼをつまむだけで、甘い電流が身を貫く。指先で転がし、ときおり力を込めるだけで、電流のスイッチをオンオフするように快楽のパルスが火花を散らす。聞き手は相変わらず股間をまさぐり続けていたが、こちらも官能のスイッチを探し当てる。だらしなくよだれを垂らし続ける淫唇の真上、包皮の中からわずかに顔をのぞかせていた淫核が指先に触れる。途端に、乳首の数倍の電圧が神経に励起する。
「はぁっ! あぁぁ!! あ……っ!!」
哀れな肉芽が右手の指に捕らえられる。二つの快感スイッチを交互に刺激するたびに、私の身体はビクンと跳ね上がる。寝台の上で息も絶え絶えになりながら、背筋を弓なりに反らせながらも、淫らな戯れをやめることができない。右手の人差し指が、充血した淫核をはじく。わずかな痛みと、圧倒的な快感が湧き起こる。
「……! ……っ!!」
絶叫にも似た、もはや声にならない喘ぎを叫ぶ。身体がコツを覚えてしまったのか、両手の動きがこなれてきた。肉体の内の熱量が増して行くのが、分かる。やがて、それは限界を超えた。
「は、ぁう……っ!!!」
私は、一瞬で肺の中の空気を全部吐き出す。同時に、下腹部を中心として全身がけいれんする。股間から熱い粘液が、二、三度噴出した。右手が淫蜜まみれに汚れていく。この様子では、シーツも酷いことになっているだろう。後始末をしなければならない。あぁ、でも……ダメだ。今は身体が重い。稽古の後よりも、キツイくらいだ。もしかして、これがオルガズムというものなのだろうか。ぼんやりと考えながら、私の意識は気だるさと夜闇の中に溶け込んでいった。
第二話へ
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MC (洗脳・催眠)
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